44.
顔を上げると既に見慣れない姿がいくつもそこにあった。動揺する塔の見回り兵とニラードに挟まれるようにその群はそこに存在し、彼らを率いているのはジョートという名前の少年だった。少年は振り返るとこう言った。
「思ったより早いお目覚めだな。予定ではもうちょっと長く寝ていてもらうつもりだったんだけど」
ニラードは状況を把握しようとした。敵の数があまりにも多すぎた。この塔に幽閉されていた囚人の数は168人。先のように塔に残ることを選んだ囚人たちを抜いたにしても、多く見積もって160は相手にしなければならなくなる。だが、一番の問題は別にあった。
「あなたたち!そんなわけ分からない男に着いて行ったりなんかしないでしょうね!」
「ふざけるな!このチャンスを逃したらまたあの狭い塔に戻らなきゃなんねえんだぞ!」
囚人一人が返事をする。
「それはあなたがそうなって当然のことをしたからじゃない!更に罪を重くするの!?」
「知ったことか!勝手に閉じ込めたのはお前らだ!俺たちはこうやって自由に外に出て生きる権利がある!例え悪いことをしても、それ以上の良いことをしてみせるさ!」
「良い事?その前に悪いことを先にやってもらうことになってんだ。悪いな」
ジョートはその囚人の肩に手を置いた。
「ここら一帯で好きなように暴れてもらう。自由になるのはそこからだ」
「今ならまだ間に合うわ!そんなことしようとしないで!皆も・・!」
彼女の忠告は無駄に終わったようだった。囚人は体の向きを変えると、一目散に見回り兵に突進し、そこで戦闘が始まった。
「余計な戦いなんてしている場合じゃないのに・・・!」
他の囚人たちも動き始めた。ゆっくりと一団が離れていく。彼ら全てを相手に、兵士たちは10秒ももたないだろう。
「聞きなさい。ここであなたたちがどんなことをしようと、今は私は相手にしない。そこの少年を相手にしないといけないから。その代わり、いい?騒動が終わったら私たち白魔法使いをはじめとして国中の兵士があなたを捕まえる。その時は一切の法的な保護を解除されるわ。無事に塔に戻れるなんて考えないことね」
その言葉に足を止める者もいたが、それでも一団の流れは進んでしまっている。逆らえないまま足を進めざるを得ない。そもそもここで足を最初に止めているようではまだ弱く、当初の段階で塔に残る選択をしていなければ行きつく先はそれも同じであった。
「あんたたちが追いかけてくるって?怖いねえ。またやりあわなきゃならないんだ」
さっと跳びあがる影。一団を離れて彼女の前に現われたその男を見てニラードは先に予感した最悪の事態を把握した。
「地下の扉も開けたのね・・!」
彼女の前に立っているのは、地下の4層に閉じ込められていた囚人ロナスであった。塔の地下には6人の囚人が閉じ込められている。層が深くなるほど要注意人物となっていき、6層ともなれば、この国の世代の中で最も凶悪な魔法使いが幽閉されているはずだった。ロナスがここにいる以上は他の地下の囚人たちも解放されているはずで、今はその姿は見つけられないにしても、次の災厄が起こるのは時間の問題だろう。このロナスだって、ニラードが白魔法使いになる前からこの塔にいたと聞いているが、捕獲する際には白魔法使い2人がかりだったという話を聞いている。
(かなりやばい)
心の中ではそう思ったが、決して口に出してはいけなかった。毅然とした態度でなければ直ちに付け込まれてしまうだろう。
敵の数。多くて160。それに地下の6人。加えて黒魔法使い。
見方。戦闘中の見回り兵2人と白魔法使い1人。応援がなければ惨めな結末を迎えることとなるだろう。
「ほら、遊んでくれるんだろう?」ロナスが詰め寄ってくる。
「どうした?」連絡に一番初めに応えたのはヲサイヤだった。違う!彼では間に合わない!城の中にいる人たちじゃないと距離がありすぎる!
ロナスの攻撃を避けつつ連絡を試みているが、両方同時にはかなり厳しい。ロナスの強さが未確定である以上は油断できない。
「逃げてばっかかよ、ツマンネ」ロナスは自分の息を握りしめ、離した。そこには丸い頭を支えるように、無数の固い脚が支えているような怪物が出現していた。
「お前がやれよ」
命令に従うようにその節足動物は襲い掛かって来た。思ったよりも早い。気づいたときには目の前に迫っている。
「もうっホントに!!」
ニラードが構えると上空から光の束が降り注ぎ、その動物の脚を焼いていった。
「私じゃないわよ?」彼女が見上げると、ふわりとその魔女は地上に降り立った。
「知ってた?魔女って、山賊や海賊から『空賊』って呼ばれてるの。空から登場して、びっくりしている間にまた飛び立っちゃうんだから」
それは『北の魔女』からの応援で味方についてくれた魔女、サリアであった。




