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16.とある住民の体験


ファイナゴ国アサゴ。この島の西には、ルーハイと呼ばれる土地がある。「ルーの家」という意味をもつこの地では、虚無を司る神「ルー」が祭られている。マルナルはこの村の住民。西のはずれに位置している為国との交流はそれほど深くも頻繁でもあるわけではないが、一応は王家によって守られているということを、マルナルは知っていた。たまにやってくる憲兵と話をすることもあるし、王都の方までものを売りに行ったりもする。それとそう、白魔法使いがイカゴの方まで遠征をするとき、この地を出発点にすることがある。その際には村一体となってもてなしをし、彼らから感謝される。

それ以外には特に大きなイベントもなく、のんびりとした毎日を送るのが住民の日々だ。彼らは狩猟を主に行い、マルナルは狩りの指導を行う地位にあった。日々子供たちに指導しては、次の世代の担い手を生み出していく。狩猟場は湖だったり森だったり山場だったり、それぞれ担当が決められていて一人が場所に狩りに出るということはあまりない。閉鎖的な村ではあるが、更にその生活範囲を狭めることによって自身の領分をわきまえさせるような教育、伝統があった。当然王国についての情報にも興味をもたせないような「操作」がなされており、今の生活と対比しては「退屈な仕事」「自由のない人生」とマルナル自身も親から聞かされてきた。今日も一日を終え、村の中心から自宅への帰途に着く。道すがら、「山のラグ」の子供たちと遭遇する。彼らは今日大人たちと山へ遠征に行き、山での狩りの仕方を教わってきたはずであった。ここでいう「ラグ」とはチームのようなものである。「山のラグ」は主に山に生息するシカなんかを狩っている。このあたりの獲物で一番のものは「ニシエルグ」といい、これはヘラジカのようなものだ。

彼らは今日の成果を自慢しながら各々の家へと戻っていく。マルナルは、自身の教え子たちがどのように成長していくのかを見るのが楽しみだった。何不自由のない毎日。そのまま自宅へと辿り着き、まだ夕も少し経った頃であったが充実感と共に眠りに着いた。

――どれほどの時間が経っただろうか。鈍いガヤガヤとする音で彼はゆっくりと目を覚ました。近づいてくる小さい子の足音そして息遣いを感じる。

「マルナルさん、マルナルさん!」

この声を彼は知っていた。「湖のラグ」のニールだ。

「どうした」

「な、何か分からないんですけど、怪物が出たんです!海の方に!さっき報告があって、でもこっちに近づいてるみたいで!」

かなり混乱しているようだった。海の方から?それがどうして、陸地に上がってくる?怪物?ええい。子供に分かるわけもない。

「大人たちはどうした。誰かいるだろう」

「大人たちはみんな闘っててそれどころじゃないんです!数が・・・20くらいも!」

頭がはっきりしてくるにつれて、どうやら穏やかな状況でないことが分かってきた。ニールの言葉に応える前に、マルナルは自宅を出発した。


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