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81話 物知りな医者伯爵の王子に話を伺ってみました

 王妃教育の特別授業が終わったあと、私は上の妹を連れて、将来の義理の弟の部屋にお邪魔しました。


 去年の秋、我が家が男爵から伯爵に格上げになったときに、上の妹はお見合いをしました。

 お見合い相手は、医者伯爵の子息殿です。妹は、医者になる夢を持っていたので、王太子のレオナール王子が仲人をしてくれたんですよ。


 ですが、妹はお見合い直後に、家族と一緒に領地にあわただしく帰りましてね。ほんの二週間前に王宮に来るまで、ゆっくり婚約者と会えなかったんですよ。

 春先に医者伯爵家が北地方へ視察に来たときも、うちの上の弟が二人の邪魔をしたようですからね。

 今も時間を惜しむように、二人の世界にひたり、会話を続けています。


「本当なら、姫君には自分の婚約者として、王族の花嫁になる教育をもう受けてもらってる頃なんだけどね。

半年以上会えないなんて、思わなかったよ。姫君に恋い焦がれて、雪を溶かせないかと思ってしまったんだ」

「『雪の恋歌』の春の王子様の台詞ですか?」

「……そうだね、こんなキザな台詞、自分には似合わないと思ってたけど。姫君のためなら、いくらでも言ってあげる」


 そう言いながら、医者伯爵の子息殿はうちの妹の額に口づけしました。

 婚約者の行動を理解した妹は、真っ赤になって、うつ向きましたよ。


「ふふ……リンゴみたいになる姫君って、本当に可愛い♪」


 ちょっと! 楽しそうに微笑みを浮かべる、そこの王族の男性?

 姉である私の存在を、すっかり忘れて居ませんか?

 そろそろ、思い出して欲しいです。存在感のある声で、話しかけましたよ。


「医者伯爵の子息殿。妹に何をしているのですか?」

「え? ……あ、姉君! いや、単に挨拶を……」

「王都の王公貴族には挨拶代わりでも、田舎育ちの私たちにとっては、夫婦の愛を確かめ会う行為です。

姉として、妹の気持ちに配慮して行動してくれるように、お願いしましたよね?」

「あ、うん。ごめんね、姫君と姉君。

ほら、ずっとずっと会えなかったから、とっても嬉しくて、ついやっちゃうんだ」


 やや落ち込みながら謝る、医者伯爵の子息殿。まるで、意気消沈した白鳥でした。


 まあ、義弟の嬉しくてたまらない気持ちは、わかりますけどね。


 私たちの故郷、北地方は、一年の半分が雪に閉ざされます。

 雪がほとんど降らない、王都暮らしの医者伯爵の子息殿は、北地方の雪深さを軽く見ていました。

 年末に、「新年なのに、婚約者に会いにこないなんて変だよ!」と、姉の私を問いただしたんです。

 雪の説明はしたんですけど、理解してもらえなくてね。

「迎えに行けるのなら、迎えに行ってみたらどうですか?」と、最後は投げやりな答えをしてしまいました。

 意気揚々と出かけて、生まれて初めての吹雪を体験した義弟は、命の危機を感じて、すぐに帰ってきましたけど。

 大人しく、安全に移動できる春まで待ちましたよ。


「……しかし、医者伯爵の子息殿も、王位継承権を持つ男性だけありますね。

レオ様やライ様と同じ行動をなさるんだと、実感しました」

「姉君! 移り気なレオや、色男のライと、自分を一緒にしないでよ! 自分は真面目な男なの!」

「え? どこが真面目なのですか? さらりと歌劇の台詞を口になさいましたよね?」

「姫君!?」

「都会で歌劇の台詞で女性を口説く男性は恋多き人だから、家や部屋に行くときは気を付けなさいと、お母さまは言っておりました。

私、今とても実感しておりますよ。ねっ、お姉さまもですよね?」

「はい、今さっき、実演してくれましたから。一昨日のレオ様を見ているようです」


 私の上司、王太子のレオナール王子はロマンチスト。

 レオ様のいとこのラインハルト王子は、恋の駆け引きを楽しみます。

 そのような方々を常に見ていた私は、素直に妹の意見に頷きました。


「……なんで、レオの話題を出すの?」

「あ、本来の目的を忘れるところでした。

えーと、レオ様とライ様が、東地方の侯爵令嬢、クレア嬢をめぐって三角関係になったのは、ご存知ですか?

昨日、私の部屋で二人が対立宣言したんです」

「あー、なるほどね。だから、二人が同時にクレアをお茶会に誘ったのか。

……レオのやつ、何を考えてるんだよ……」

「はい? なんと申されました?」

「レオが劣勢なんじゃないかなって。

ほら、クレアに近づくたび、失敗している話ばかり聞かされてたから」

「そうなんです。王太子の秘書官としては、そこが一番心配なんですよね。

ですので、成人した大人の知恵を借りにきました」

「自分の知恵ねぇ……役に立つとは思えないけど」


 いやはや、妹たちの甘い恋人の世界に気圧されて、本来の目的を忘れるところでしたよ。

 また二人の世界に入り込まれる前に、用件を告げましょう。


「大人の恋愛って、なんですか? どんな内容ですか?」

「姉君、どこで聞いたの!? その言葉!」

「一昨日、レオ様の部屋で星空のお茶会をしたときです。

レオ様が私をからかったときに、悪ノリして、言っていました」

「レオのやつ! 悪ノリしすぎ!」

「お姉さま。大人の恋愛って、なんですか?」

「分かりません。なので、物知りの大人である、あなたの婚約者に聞きにきました。

もし、有効そうな内容なら、クレア嬢に使ってもらうようにレオ様へ進言しようと思っています」

「ダメ、ダメ、ダメ! 絶対ダメ! あんなものを、使ったらダメ!

絶対、進言したらダメだからね、姉君! わかった?」

「どうしてダメなのですか? 内容を教えたください」

「私も知りたいです。大人の恋愛なんて、素敵な響きですもの」

「教えない! 大人の恋愛は、大人のものなの!

姫君も、姉君も、成人してない子供でしょう? 子供が知ったらダメなの!」

「年齢制限があるのですか。ならば仕方ないですね、お姉さま」

「えー、レオ様だって、成人していないですよね。それなのに知っているのは、ズルいです!」

「姉君たちは、王都の挨拶の口づけすら、慣れてないでしょう? だから慣れてから、順番に覚えないとダメ。

歌劇だって、子供の見れないものがあるんだよ? 順番に解禁されるでしょう? それと同じだからね、分かった? 」

「なるほど、大人の恋愛には、覚える手順が存在するのですか!

王都には、覚える手順が密かに存在しているのですね?」

「……うん、もうそれで良いよ。

それから『大人の恋愛』なんて、人前で口にしないこと。

自分の婚約者や義理の姉弟が、せっかちで、はしたない子供って思われたら困るから」

「まあ、医者伯爵様の品位を落としてしまいますの? 今後は口にしませんわ」

「そういうことでしたら、私も口をつぐみます」

「うん、絶対に口にしないでね」


 私が話している途中で、医者伯爵の子息殿は、顔色を変えました。

 椅子から立ち上がると、ものすごい剣幕で、荒ぶった口調になりましたよ。

 田舎育ちの私たちに、きちんと説明してくれましたけど。


 義弟は、ひとしきり怒鳴ったあと、椅子に崩れ落ち、うつ向いて両手で顔をおおいました。


「……バカなレオのせいで、純真無垢な雪の天使が汚されてく。

自分の婚約者が! 可愛い天使が! 

……許せない、許せない。あのバカ王子!」


 なにやら、レオ様への呪詛もどきを呟いておられるようですね。

 最後は、大きなため息をはきましたよ。


 両手を外すと、顔を上げて、私たちに視線を向けました。

 にっこりと王家の微笑みを浮かべます。


「姫君。せっかく来てくれたんだけど、今日は帰ってくれるかな?

自分は、今からレオに話をしに行くから。

将来の王妃筆頭候補との関係がどうなっているか、分家王族として、詳しく知っておきたいからね」


 医者伯爵の子息殿の言葉に、私と妹は顔を見合せました。視線で会話します。


『嘘ですよね、お姉さま』

『……嘘ですけど、行かせてあげなさい。

男性は、愛する者のために戦うと、お父様は言っていましたよ』

『ええ、お父さまは言っていましたものね』


 視線の会話を終わらせた私たちは、医者伯爵の子息殿に向き直ります。


「分かりました。また明日会えますもの、今日は引き上げますね」

「レオ様に、きちんとお話ししてくださいね。王太子の秘書官として、お願い申し上げます」

「うん、埋め合わせは、また今度するよ。二人ともおやすみ」


 私たちは優雅に一礼をして、医者伯爵の子息殿の部屋から退室しました。


 にこやかな笑みを浮かべた将来の義弟と上司の王太子が、その後どんな会話をしたのか興味はありますよ。

 けれども、余計な詮索しませんでした。

 翌日、会ったときに、「万事丸く収まったから」と笑う、将来の義弟の言葉を信じましたので。

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