176話 西地方の没落劇、その6 高潔な騎士の眼差しは、誰よりも強かったです
歴史に名を残す軍師の家系は、常識人の集まりと思っていました。
……が、王子様たちが楽しそうに、毒薬について語る姿を見るとドン引きしてしまいます。
狂喜乱舞する医学者、マッドサイエンティスト集団が、しっくりきますかね?
血塗られた春の五代目国王、残虐王の子孫だと、あらためて感じました。
この医者伯爵の次期当主に、私の上の妹オデットは嫁ぐ予定です。
将来の義理の弟は、私を助けるためなのか、爆弾発言をしました。
もう一つの分家王族、西の公爵家の後妻サビナ夫人が、私や王妃候補たちに毒を飲ませていたと。
会議室内に居る、全員の視線が、サビナ夫人に集まります。
「……ローエングリン様が、このような場で言い出すと言うことは、証拠が揃っていると言うことでしょうね?」
「うん。証拠があるよね、父上」
「先ほどローエングリンの言った、ニセジャスミンやヒメサゼンソウを育てていたのは、そこの子爵家。
および、あそこの席で、なに食わぬ顔をして座っている、子爵家だ」
先ほど診察をしたときのまま、王妃候補の世襲貴族の家の席近くで、陣取っていた医者伯爵の現当主は、気難しい顔つきで二つの世襲貴族を指差しました。
「あの者たちの西地方の館の庭先には、ニセジャスミンや、ヒメサゼンソウが植えられ、育てられておるよ。
春の分家王族、医者伯爵の名のもとに命ずる。そこの罪人を捕らえ、国王の御前に!」
「はっ!」
ロー様のお父君が命じたとたん、会議室内にいる医者伯爵を守る近衛兵のうち、五人が動きました。
あれよ、あれよと言う間に、真ん中の広場に引きずり出されます。
西の公爵当主ネロのほほが、一瞬ですが、ピクつきました。
この世襲子爵家の当主は、財務大臣所属の補佐官の一人。
春の経済を裏から支配しようと、西の公爵当主ネロが、国王派の財務大臣の元に送り込んだ、小飼の者だからです。
「誰の指示で、毒草を育てていたか、答えよ」
「医者伯爵様、おっしゃる意味が分かりません!
観賞用の美しき花を育てていたくらいで、罪人扱いされるなど、あんまりです!」
「観賞用だと? 侯爵家の先代夫人を排出した世襲貴族の家が、医者伯爵家が栽培を禁じていた毒を、知らぬわけなかろうに!」
シラをきろうとする、子爵家の当主。毒草を庭先で育てていたくらいで罪に問われるとは思わず、軽い気持ちで育てていたのでしょう。
おそらく、観賞用と言い張ればよいと商務大臣か、西の公爵当主に言い含められているのでしょうね。
「やれやれ。残虐王の思想を崇める者は、忌まわしき血筋が薄くても、野蛮な獣に成り下がるようですね?
仕方ないですから、低知能である野蛮な獣のあなたに、高貴なる人間である王宮医師長殿のお言葉を、分かりやすく通訳してあげますよ」
カツカツと、わざとかかとを鳴らしながら、子爵当主に近づきます。
私が動いたことで、ロー様のお父君は無言になりました。成り行きを見守るつもりのようですね。
「王宮医師長殿のお言葉をかみかだくと……。
『権力を得るために、春の王位継承権保持者である、西の辺境伯の孫殿と、そなたの娘を婚約させようと考えたのだな?
婚約するための最大の障害は、我が医者伯爵家が推薦した、武官の伯爵の娘だった。
文官の子爵と、武官の伯爵の娘では、伯爵の娘が辺境伯の婚約者に選ばれる可能性が高い。
ゆえに、婚約を確実にするため、伯爵の娘を亡き者にするべく、公爵の後妻になった親戚が考えた、毒による暗殺に手を貸したのだな?』と、お尋ねになられたのです」
えっ?と、言う顔つきになる、他の春の貴族たち。思考誘導を続けましょう。
「まあ、そこのお家のように子爵階級だと、王族の花嫁の座を狙うより、貴族の王位継承権保持者と結婚させるほうが、ずっと簡単ですよね。
親戚になる西の侯爵家と養子縁組させれば、身分差問題は解決。
はとこのサビナ夫人経由で、ネロ公爵閣下に後見人を頼めれば、医者伯爵の横やりも防げますから」
ふっ。疑惑をでっち上げるくらい、私には簡単です。
民衆心理を操って、罪の言い逃れができないように仕向けてあげますよ♪
「西の侯爵家の先代当主夫人の甥っ子であり、商務大臣のいとこ。その上、財務大臣の補佐官という、政治の中心に近い立場の貴族が、王位継承順保持者を知らぬはずありません。
そこに親の心境が加わって、大切な娘を嫁にやるなら、家を出される次男より、確実に跡継ぎになれる長男へと考えましょう。
こちらの王宮騎士団長殿のご長男は、五才のときに王太子の側近として選ばれております。
辺境伯当主の座も、王宮騎士団長の地位さえも保証された、優良物件の男性ですよ!」
私の説明を聞いていた、子爵や男爵階級の貴族たち……とりわけ未婚の娘を抱える、西地方の父親たちの目が、つり上がったように感じます。
罪人として、中央広場に引きずり出された子爵当主を、一斉に睨み付けました。
「さて、命を狙われた女騎士の伯爵令嬢に、お尋ねしたいことがあります。
お父君から、なんと言われて、王太子の婚約者候補に名乗りをあげたのですか?
王妃候補の最終試験に合格できた才女が、王妃候補を辞退し、将来の王宮騎士団長の花嫁に……」
「王妃の最終試験? なんのことだ?」
ご令嬢自身は、気付いていなかったようです。眉をひそめて、いぶかしげな顔つきになりまして。
「……どこから説明しましょうかね。
えーと、今年の春から、王太子の新たな側近として選ばれた四人を知っていますね?」
「ああ」
「あの四人のお家は、国王陛下の力試しに、ストレート合格した貴族です。
彼らは、雪の王弟ルートルド様の十一才のご子息にあわせて、十才以下の親戚や自分の娘をさしだそうとしました。
『雪の天使の姫の身代わりに、この娘を人柱の花嫁として、雪の国へ送ってください』と春の国王陛下に告げたとお聞きしています」
「……アンジェ姫の身代わりの件か……」
「はい。春の王家における、雪の天使とは、陸の塩の採掘権保持者のこと。
四つの家は、自分の祖先に、北の侯爵家や、湖の塩伯爵の血を受け継いでいる者が居ると知っているのです。
なおかつ、私が湖の塩伯爵のひ孫と知っているから、『雪の天使の姫』という単語が出ました。
家族や親戚の幼子を犠牲にしてでも、湖の塩伯爵のひ孫姫……春の国に残された、最後の全良王の直系子孫の娘を守ろうとした彼らは、春の貴族の鏡と呼べるでしょう!
……娘可愛さに、悪事に手を染めた、その子爵家とは大違いですよねぇ」
私の嫌悪感満載の視線につられ、西地方の貴族から、子爵家への罵詈雑言が飛び出します。
西地方の貴族たちは、まるっと無視して、東地方の貴族を私の味方に引き込む作戦を実行しました。 東地方の貴族は、家族総出の家が多いので。
「そして、もう一つ、力試しに合格した家があります。
この家は、陸の塩の採掘権とか、雪の王子の年齢とか、綺麗サッパリ無視して、結婚適齢期真っ只中である、自分の娘を推薦しました。
そう、春の将来の王妃の側近候補である、ご令嬢のお家ですね」
私の紹介の仕方に、女騎士の伯爵令嬢は、微妙な顔つきになります。
「あなたのお父君は、『我が娘ほど、軍事国家の花嫁に相応しい者は居ない!
雪の王家の血は持たないが、医者伯爵家から枝分かれした、春と戦の王家の血を受け継ぐ、由緒正しき血筋なり!
春の王家の血が濃い、軍神一族相手なら、花嫁として過不足あるまい』と、お家を売り込んだようですね。
あなた自身も、『春の王宮で、雪の王妃教育を受けている私なら、人柱の花嫁にふさわしく思う。
軍事国家へ嫁いでも、雪の王子妃として、また紅蓮将軍の娘としても、やっていけると思う』と、口を滑らせていたと、同席していた春の王太子レオナール様からお伺いしております」
「……私や父様は、昔から、腹芸が苦手なんだ。騎士には、文官のような腹の探りあいは、ほとんど必要ないから」
「その点に関しては、賛成いたします。あなたのお父君は野心家ですけど、政治の駆け引きは苦手なようですね?
『軍部での権力を得るために、娘を春の王妃候補にしよう。今度は軍事国家の雪の王子妃にしよう』と企んでいたのが、丸わかりですよ」
私の指摘に、多くの貴族は、失笑をもらしました。
「はい、そこの貴族の方々。笑える立場ですか?
春の国王陛下の力試しに失敗したのは、誰でしたっけ!?
対して、こちらの女騎士の伯爵令嬢のお家は、春の国王陛下の力試しに合格した家です。合格ですよ、合格!
あなた方は、不合格だった敗者のくせに、合格した勝者を笑えると思うのですか?
こちらの女騎士にバカにされ、あざ笑われる立場ですよね」
外交兵器「父譲りの眼力」を発動させながら、真顔でお説教してあげたら、失笑をもらした貴族たちは、意気消沈しました。
「不合格だった敗者のあなた方は、伯爵家を羨ましがり、『次回は合格してみせる!』と新たな闘志を燃やすのが先でしょう?
こんな年下の子供である私に、正論で論破され、お説教されるなんて、年上としてどう思いますか? 恥を知りなさい、恥を!」
私の視線に耐えられず、目を反らす大人、続出です。
軽く優越感に浸ったところで、激しくこき下ろされる。
この落差から生まれる羞恥心に、耐えられる剛胆な貴族は、少ないでしょう。
さあ、巻き返しの時間ですよ。私の親友である、女騎士の伯爵令嬢を、最高の花嫁候補にしてあげます♪
「よろしいですか? 今回の王妃候補には、最終試験が設定されていました。
東地方の誇りとも呼べる、将来の王妃筆頭候補のクレア侯爵令嬢、及び次点候補のテレジア辺境伯令嬢。この二人でさえ、不合格になりました。
ですが、こちらの女騎士の伯爵令嬢は、見事に王妃候補の最終試験にも、合格したのです!」
春の国王夫妻様に目配せすると、パチパチと了解の瞬きを返してくれました。
「国王である私に対して、家柄を売り込む過程で飛び出た『春の王家の血が濃い、軍神一族相手なら、過不足あるまい!』という台詞。
春と雪の歴史を勉強し、『雪の東の公爵家は、春の王家の血を受け継ぐ、雪の分家王族』だと、知っていなければ出ぬ言葉だな。
歩兵部隊の第一小隊副隊長に過ぎない男が持つ、膨大な知識量に感服したものだ」
「わたくしは、娘の言った『雪の王妃教育』『紅蓮将軍の娘』と言う言葉に対して、春の王妃の資質ありと、太鼓判を押しました。
これらは『春の王妃教育の責任者が、紅蓮将軍の姪になる、雪の王女』と知らなければ、絶対に出てこない言葉でしょうね」
王妃様は、扇子を閉じながら、王妃候補たちや元王妃候補だったご令嬢たちを、ゆっくりと見渡します
「王妃教育責任者である、アンジェリーク秘書官が、雪の国の王女と知り、隣国の王女相手にと相応しい態度が取れることが、春の王妃になるための最終試験でした。
アンジェリーナ姫の母方の祖母について調べなければ、雪の王族の情報は出てこないと思います。
母方の血筋を無視する風習が、春の国の弱点。この弱点を克服できた者が、王妃になれるのは当然です!」
息子そっくりの氷の視線で、王妃候補たちや元王妃候補を射抜く、王妃様。
「現在、王妃候補として残って居る者たち。昨日、あなたたちは、王立学園で、どんな発言をしたか覚えていますよね?
わたくしは、レオナール、ラインハルト、ローエングリンの春の王子三人から報告を受けましたよ。
アンジェリーナ姫が、湖の塩伯爵のひ孫と言うことすら、知らなかったそうですね?
王妃を目指す者が、王位継承権保持者を知らない。ましてや、かの善良王の直系子孫を知らないとは、どう言うことですか!?」
氷の視線に凍えて、王妃候補たちはうつむきました。
命を狙われ、恐怖から震えていた、クレア侯爵令嬢ははとこの王子様にすがりつきます。
「……ライ様」
「昨日の湖の塩伯爵の件を報告すれば、クレアが王妃筆頭候補から転落するのは、分かっていました。
わかった上で、私は、両親やおじ上、おば上に報告しました。
クレア。将来の春の王妃は、あきらめてください。
私の花嫁に……将来の戦の王妃の母親になってください!」
さすが腹黒。ものすごい下心満載で、昨日の件を国王夫妻に、報告したようですね。
元恋人と結婚するために、自分の名声を投げ捨てて、色男王子の汚名をかぶっていましたもんね。
よりを戻せるならば、元恋人の名声も踏みにじると。
なんせ、ラインハルト様は、うちの妹を溺愛してくれるマッドサイエンティストの、はとこ王子。
幼なじみのマッドサイエンティストの影響を、強く受けていても、おかしくありません。
「ラインハルト。クレアは、将来の春の王妃です。
なんのために、わたくしが支援して、わざわざ東の倭の国へ留学させたと思っているのですか?」
「先代様は、弟の孫であるクレアを次期王妃と考えて、わたくしの後継者に推していますが、わたくしは認めません!」
先代王妃様が、孫に待ったをかけました。クレア嬢の将来が、激しく揺れ動きますね。
最凶の女性、先代王妃様に対して、キッパリ、はっきり言い切る、春の現王妃様。
「クレアのように、出来の悪い後継者を、春の国内から選ぶ?
それなら、春の国で生まれ育った、雪の女系王族のアンジェリーナ姫を、わたくしの後継者に選びます。
父方の祖父も、母方の祖父も、善良王の血を受け継ぐと世界中の王家が証明できる、この世で一番濃く善良王の血を受け継ぐ、最後の善良王の直系子孫の娘を、わたくしの後継者にします!」
「わたくしの意見に、逆らうつもりですか!?」
「今の春の王妃は、わたくしです。善良王を輩出した、南の侯爵家出身のわたくし。
先代様が、身内をひいきすると言うのなら、わたくしも身内をひいきします。
南の侯爵家出身である、善良王の妹の子孫と、世界中の王家が認めている、雪の東の公爵家のアンジェリーナ姫を!」
王族の席で火花を散らす、春の王妃経験者たち。
南地方の貴族は、現王妃様を。東地方の貴族は、先代王妃様の応援を始めました。
女の戦いは無視して、私は疑問を解消すべく、行動開始です。
「で、女騎士の伯爵令嬢。王妃候補の経緯は?」
「……アンジェ姫、あれを放置しておくのか?」
「単なる嫁姑ケンカでしょう?
孫の花嫁は、祖母が決めます。いいえ、息子の嫁は、母親が決めます!って、ケンカしてるだけで」
「……あれをそのように評価できる、アンジェ姫は、大物だと思う」
遠い視線になり、嫁姑ケンカを見つめる、女騎士の伯爵令嬢。
私は、早く答えが知りたいので、ご令嬢を現実に連れ戻しました。
「ご令嬢! 話は戻りますけど、経緯は? 経緯は!?」
「……去年の夏、西地方の商務大臣主催のお茶会で、『王太子の婚約内定が取り消されそう』と言うウワサを耳にしたのが、始まりだった。
『医者伯爵の姫様が決定されたようので、西の公爵様にも、この決定をくつがえすことはできないだろう。
新しく王妃候補を募るはずだから、我が家の本家、医者伯爵様に推薦してもらおう。
西地方の武官の世襲貴族から王太子妃を出せば、医者伯爵様の発言力が増して、没落した同胞たちを救う事ができるかもしれない!』と言うのが、父様の判断。
医者伯爵の推薦条件が、武術大会優勝とは、思わなかったけれど」
「なるほど。没落した、西地方の世襲貴族を救う。それが、あなたの原動力だったのですね!
そんな強い決意を持つあなたが、なぜ王妃候補を辞退し、側近候補に?
優秀なあなたなら、今でも王妃候補として残れたでしょうに。
王妃の最終試験に合格できるほど才能ある人材が、王妃候補を辞退したのは、春の国にとって、大きな損失だと思いますよ」
「それを、雪の天使の姫が言うのか? ラミーロとアンジェリークの間に生まれた、アンジェ姫が!?」
「ご令嬢は、西地方の貴族ですよね? ファム嬢を推す……」
「あれが、姫だと? 冗談は、よして欲しい。私は、ニセモノ姫に仕える気は無い!
私たち騎士が守る姫は、医者伯爵家の姫様のような、高貴なる存在だ。
民を心から思いやり、身分差にとらわれる事なく、博愛の精神を持つ者。
深い知識を持ち、公平な判断を下す者。悪に打ち勝ち、正義を貫く者!」
「……ちなみに私が、雪の王女と知った経緯は?」
「大陸最強の騎士、紅蓮将軍について調べる過程で、たどり着いた」
……そういや、ご令嬢のお父君って、四年前に赤毛のおじ様の捕虜になっていましたね。
『騎士は、こういうもの! 姫は、こういうもの!』って言う、おじ様の価値観が、骨の髄まで染み込みましょう。
女騎士のご令嬢は、立派な騎士に生まれ変わって帰国したお父君から、騎士道精神を学び直し、紅蓮将軍に興味を持ったものと推測されます。
私たちの会話を聞いていた、女騎士の婚約者は、幼なじみの親友から話しかけられたようです。
「……キミの婚約者、かっこいいね? あれこそ高潔な騎士の中の騎士だよ!」
「春の国王夫妻や、雪の王女に認められてるっすからね。
自分は、彼女に相応しい、頼れる男になって見せるっす!」
男同士の会話が聞こえたのか、女騎士の伯爵令嬢は、ちらっと年下の婚約者を見ます。王宮騎士団長の子息殿も、女騎士に顔を向けており……視線が合ったとたん、二人は急いで顔をそらします。
照れくさそうに、揃ってうつむき、床を見つめていました。
いやー、本当にお似合いの二人ですよ♪
そのとき、甲高い女性の声が、私の耳を貫いていきました。
「あなたは、王妃の自覚が足りないようですね!」
「先代様こそ、公私の区別がつけられていませんよ!」
……あらまあ。ちょっと目を離していた隙に、会議室は、王妃経験者を中心に、険悪な雰囲気になっていました。
女の戦いって、ヒートアップしやすいですからね。
はぁ……仕方ありません。仲裁しましょう。
トコトコ歩いて、先代王妃様の目の前に立ち、わざとバンっと机を叩いて、気を引きました。
「先代王妃様。そろそろ冷静さを取り戻してください!
そこの罪人のせいで、現在の春と雪の国は、戦争開幕寸前です。
戦争回避しないと、春の国の未来は閉ざされます。
春の国が存続できてこそ、将来の王妃を選べる話ができると思いますよ?」
外交用兵器「父譲りの眼力」を発動しながら、見上げてお説教しましたよ。
次は、王妃様の前に移動しました。再び、バンっと机を叩きます。
「王妃様。いくら私を後継者に欲しいとおっしゃっても、私の嫁ぎ先を決めるのは、雪の国と言うことをお忘れなく!
そこの罪人は、私の属する雪の東の公爵家を、雪花旅一座を侮辱しました。
雪の東の公爵家から、息子の花嫁を迎えるつもりなら、先にやるべきことがあるでしょう?」
先ほどと同じように、見上げて睨み付けます。
意表をついた私の行動に、会議室は、一瞬静かになりました。
「ふふっ。アンジェ姫らしい行動だな? 身分差にとらわれず、公平な判断をくだし、正義を貫く、高貴な姫らしい行動だ」
楽しげな女騎士の笑い声が、会議室に響きます。
私の親友は、春の貴族と王族の注目を集めてしまいました。
「あなたたちは、裏切り王子の引き起こした虐殺の犠牲者を、何人答えられる?
西地方の復興の名の元に、爵位を取り上げられ、没落させられた西地方の世襲貴族を、いくつ覚えている?
裏切り王子と同じ血を受け継ぐ、両親にまったく似ていない、西の公爵家の娘に頭を下げなければならない、没落した貴族の子孫の名前を全員挙げられる?
ここにいる、雪の天使のアンジェリーナ姫は、国王様がごあいさつに参られた、王宮の騎士集いのとき、先ほどの問いかけに全部、完璧に答えて見せた!」
伯爵令嬢は、敵を威嚇する近衛兵の眼差しで、ぐるりと会議室を見渡しました。
「私は王家に仕え、春の国のために命を捧げた騎士として、主張する。
レオナール国王の隣に立てる者は、アンジェリーナ王妃以外にあり得ない。
ラミーロとアンジェリークの間に生まれた、善良王の直系子孫にして、王女の中の王女以外に、誰もいないと!」
西地方の没落した貴族を救いたい!
その一心で、王妃の側近候補に名を貫ねている女騎士は、会議室の貴族の誰よりも、強い眼差しをしていました。