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175話 西地方の没落劇、その5  西の子爵家を揺さぶり、利用しましょう♪

 天才軍師ローエングリン王子の推理が冴え渡り、腐りきった国と、フリードリヒ親子の謎に迫ります。

 フリードリヒ親子を知る私にすれば、明後日の方向の推理ですけど。

 おもしろいのは、腐りきった国の正解を導き出していることです。


「……腐りきった国が、戦の国か。わずかな情報から導きだすなど、オデットの婿(むこ)殿は、まこと、天才だのう!」


 赤毛のおじ様は、私の妹オデットの婚約者に、感心しておりました。


「しかし、戦の国か……すぐに納得できるあたり、なんとも言えぬ。

あの国は、百五十年前に偉大なる大王によって天下統一されてから、小国の元王族が分家王族と名乗り、『次期国王選挙』と銘打った、イス取りゲームをしておるからな。

一族から次期国王を排出するためなら、優秀な王子の暗殺に、賄賂による貴族の囲い混みなど、何でもやろうぞ」


 苦虫をかみつぶした顔になる、大陸最強の騎士。


「まあ、城塞王族も、医者王族も、腐っていないのは、納得できるが。

城塞王族は、戦の現国王『英雄王フリードリヒ』を排出するまで。

医者王族は、次期国王の最有力候補『エドワード王子』が現れるまで、国王選挙を辞退して、ぼそぼそ生き延びてきた王族。

英雄王の年齢から考えて、もうすぐ行われるとウワサされておる、次期国王選挙は大荒れになろうぞ」


 では、おじ様に便乗して、会議室を支配しましょう。


「その大荒れの原因の一つは、どこぞの分家王族の庶子に過ぎない、名ばかりの王女のようですけど。

権力に目がくらんで、悪魔に魂を売り渡した、あの裏切り王子と同じ血を受け継ぐ、残虐王の直系子孫!」

「そうなんです、アンジェの言うとおりですよ!

悪魔に魂を売り渡したファムが、悪魔がこの世で自由に動ける肉体を提供しようとしています。

よりによって、その自由になった悪魔を、私の子供と結婚させるつもりでいるんですよ!」


 我にかえった、王弟の一人息子ラインハルト様。最悪な未来について、高濃度の毒を吐きながら、強い拒否反応を示します。

 ライ様の腹黒王子モードに慣れている私は、平然と話しかけましたけど。


「ファム嬢の子供と、ご自分の子供を結婚させるのが、嫌なだけですよね?

ライ様のはとこ王子と、私の親戚回りの王女の間に生まれた子供との結婚については、異論は無いんですよね?」

「……ええ、まあ。はとこの実の子供なら、私の子供と結婚させることに、異議を唱えるつもりはありません。

元々、医者王族は、春の国の医者伯爵と関係がある一族ですからね。

はとこが婚約者と結婚して、戦の次期国王夫婦になれば、濃い親戚関係を春の国と築け、塩の採掘権がらみの戦争が起こる可能性は、極めて低くなるでしょうからね」

「分かりました。国際社会と、春の国の未来を考えれば、ライ様の判断は、最善と言えましょう。

だったら、問題解決なんて簡単ですよ」


 ここで、無邪気な雪の天使の笑みを浮かべました。


「ファム嬢が、子供を産めないようにすれば、良いだけです」


 不意打ちに毒気を抜かれのか、ライ様は、一瞬ポカーンとなります。


「西の侯爵家は、サビナ夫人を王族の側室にするため、王族の正室たちが懐妊中に、特製の毒薬を飲ませていたようですからね」

「……子流しの毒ですか?」

「ええ。今でも、サビナ夫人がファム嬢を呼び戻して、春の王妃にするつもりでいるのか、子流しの毒を王妃候補たちに飲ませようとしますからね。防ぐの大変なんですよ」


 片眉を動かし、王妃候補たちに視線を走らす、ライ様。

 公衆の面前で愛していると豪語した、東地方のクレア侯爵令嬢を見つめ、心配そうに叫びました。


「クレア!」

「大丈夫だよ、ライ。王妃候補のクレア、テレジア、ビクトリアの三人と、レオの母方のはとこ、王妃の側近候補四人は、毒草茶の味を把握して、自分で判別つけれるようになり、飲まないようになったから。

他の王妃候補たちは、アンジェの忠告を無視して、ファムの母上が準備した毒草茶を嬉そうにのんでいたよ」


 焦っているライ様に向かって、ロー様はフォローを入れました。

 ホッとする王子様に変わり、西地方の子爵階級の王妃候補や、その家族は顔が青ざめていきます。

 王妃候補たちの家族は、本日行われる王家の公式行事に、特別枠で招待されていたので、この会議室にいるわけです。

 世襲貴族の子爵令嬢は、青ざめたまま、甲高い声で私に声をかけました。


「アンジェさん! 毒って、どういうことですの!?」

「……初めての王妃教育が終わったあと、お教えしたでしょう?

『あなたが好んで飲む、軽い苦味を感じるローマンカモミールは、王妃になるつもりがあるのでしたら、飲むのを止めなさい。王妃どころか、側室にもなれませんよ?

どうしても飲みたいのなら、同じようにリンゴの臭いのするジャーマンカモミールを選びなさい』って」

「雪の王女の忠告を、素直に聞いておけば良かったのにさ。

アンジェを『男爵家の成り上がり』ってバカにして、本当の血筋を調べなかった君たちが、愚かなんだよ。

情報ってのは、きちんと調べて、自分で真偽を見分けないと役に立たない。

そんな初歩的な事すらできないなら、王妃になれないよ。すぐに足元をすくわれ、暗殺されるからね」


 横から茶々をいれて、ヘラヘラ笑う、医者見習いの王子様。

 生き延びるために、出来の悪い王子を十八年も演じていたのは、だてではありませんね。


「……春の国では、昔からカモミールの薬草茶は、西の侯爵領地の特産品なので、西地方の貴族が好んで飲む傾向があるようですね?

西の公爵家主催で行われる、王宮の部屋を借りたお茶や夜会では、必ず準備される薬草茶だったと記憶しております。

文官の世襲貴族や新興貴族は、苦味が良いとして、よくローマンカモミールを好んで飲んでいますね」

「ええ。あの苦味を楽しめてこそ、大人と言うものですわ。それに、若返りの効果もありましてよ? いつまでも美しくいたい女性のたしなみですわね」

「あなたは、そうおっしゃいますが、西の公爵家と侯爵家の母親と娘世代の女性たちは、誰もお茶会や夜会の間、ローマンカモミールの薬草茶を口にしておりませんよ。

もちろん、東と南の世襲貴族とか、薬草の専門家の医者伯爵家とか、西地方の武官の世襲貴族たちもね」

「……え?」

「観察不足ですね。その程度、把握できなければ、魑魅魍魎(ちみもうりょう)跋扈(ばっこ)する王宮で、暮らしていけませんよ?

まあ、ローマンカモミールは、あなたの言うように、若返りの効果が期待され、子育てを終えた貴婦人には人気です。先代王妃様も、ご愛用されておりますからね」


 私の声で、先代王妃様に視線が集まります。最凶の王妃様は、優雅にお茶を飲むマネをしてくれました。


「けれども、現在の国際社会の常識では、『若い女性にローマンカモミールは禁忌。子流しの毒になる可能性がある』となっております。

世界に名だたる医者の家系『春の医者伯爵』と『戦の医者王族』の共同研究で行われた、三十年前の統計結果が根拠ですね」

「子流しの毒説は、聞いたことありますけど、あれは侯爵様をおとしめるための単なる陰謀ですわよ」

「……西地方の文官の貴族と新興貴族は、『医者伯爵の言いがかり。西の侯爵を嫌う、粛清姫(しゅくせいひめ)の陰謀だ』とか言って、信じない者が多いと言うのは、本当なんですね。

驚きました。由緒正しき医者たちの研究結果より、王家乗っ取りを企てた反逆者の言い訳を信じるなんて。

それがあなたの選んだ道と言うのなら、好きにしなさい」


 あきれた顔つきを作り、プイッと反らしました。私の反応を見て、最強の母が動きましたよ。


「春の王妃様、宝石姫様。ご愛用のカモミール茶は、なんですか?

女系王族である、雪の東の公爵家は、三十年前の研究結果を元に、ジャーマンカモミールを愛用するようになりました」

「もちろん、ジャーマンカモミールです。

これから息子が花嫁を貰うと言うのに、間違えてローマンカモミールを飲ませて、世継ぎを得れなくなっては、大変です!」

「……わたくしは、戦の王女ですから、春の国の方々から嫌われていた自覚はあります。

西の侯爵家の血縁だった王宮医師たちに『子宝に恵まれる秘薬』とだまされて、ローマンカモミールの混ざった飲み物を、ずっと長く飲まされておりましたから。

けれども、十八年前、医者伯爵のお姉様が主治医になって、医者伯爵の秘薬をいただけることになったのです。翌年、待望のラインハルトを授かることができたのですよ」

「分かりますよ、その気持ち。医者伯爵家の秘薬は、素晴らしい効能でした。

わたくしも、やっと子供を、それも国民が待ち望んでいた王子、レオナールを授かれたのです!」


 優雅に貴婦人の会話をする、母親たち。チラリと三人は、ロー様の母親を見ます。


「……医者伯爵家の秘薬は、門外不出ですので、材料は教えられません。

けれども、ローマンカモミールは、使っていません。ジャーマンカモミールが含まれていることは、認めましょう」


「……ああ、なんと言うこと」

「お母様!」


 澄まし顔の女医者の発言を聞いて、世襲貴族の子爵夫人が、とうとう気絶してしまいました。

 ロー様の父親である、王宮医師長は無言で立ち上がり、子爵夫人の方に近付きます。

 簡単な診察が終わるまで、会議室は静まり返っていました。


「……案ずるな。精神的疲労が、最高潮に達して倒れただけの

ようだ。数時間もすれば、目が覚めよう」

「良かった! 医者伯爵様、ありがとうございます!」

「お母様は、大丈夫なのですね!? ありがとうございます!」


 子爵当主とご令嬢は、診察してくれた王宮医師長に、頭を下げまくりました。

 ローエングリン様のお父君は、気難しい顔つきになり、ご令嬢をご覧になられます。


「ときに、娘よ。なぜ、最初の王妃教育が終わった後、医務室に来なかった?

アンジェリーク……いや、()()()()()()()()()が直接助言をしたのは、そなたに対してであろうに。

王妃候補に選ばれた西地方の貴族で、カモミールの理由を聞きに医務室までやってきたのは、新興伯爵家の養女ビクトリアだけであった。

はっきり言って、ビクトリア以外の西地方の王妃候補には、失望した。

そなたは、ネロが見込んだ、西地方の世襲貴族の王妃候補の中で、唯一最後まで残っていたと言うのに……このような結末を迎えるとはな」


 医者の王者の強い視線に射られ、子爵令嬢は顔を強ばらせました。

 言葉を紡ごうとしますが、うまく口が動かないようです。


「来月、レオナールとラインハルトは、西の子爵令嬢たちから、王妃候補の資格を剥奪する予定だと、私は耳にしている。

だが、誇り高き西地方の貴族の自覚があるなら、己が手で幕を引け。

それとも、最後まで、西の侯爵家の手のひらで道化として踊り、家名に深い傷をつけるか?」


 眉間に深いシワを刻みながら、王妃候補の辞退を迫る、分家王族医者伯爵家の長。

 青ざめているご令嬢は、だんだんとうつむきました。

 王宮医師長は、世襲貴族から視線を巡らし、新興貴族の子爵令嬢を軽く睨みます。


「むろん、これはそなたにも、言える事だ!

子爵や男爵階級の娘が、王族や王位継承権保持者の花嫁になるには、王家に連なる家と養子縁組したのち、輿入れするのが昔からの慣例。

先代国王の甥になる私と結婚するため、子爵出身の妻は南地方の侯爵家の養女となり、上流階級の立ち振舞いを身につけてから嫁に来た。

西の公爵家……と言うか、サビナが、本気で新興貴族の娘との養子縁組を考えているのなら、子流しの毒は本当だと教えようぞ。

王太子の子を身ごもれば、結婚は確実となるゆえな。

だが、子流しの毒をもられている時点で、商務大臣やサビナが賄賂を集めるためだけに、そなたや家族を利用した可能性が高いと言うことだな」


 あっ、新興貴族の子爵令嬢、泣きかけになっています。ロー様のお父君の気難しい顔つきって、威厳がありますからね。

 このまま王宮医師長に任せたら、泣いちゃいますよ。ちょっと横やりをいれて、助けてあげましょうか。 


「あなたも参加した、最初の王妃教育では、お好きなお茶を選ぶ方式だったのを覚えておられますか?

あれは、王妃候補たちの嗜好品をさぐり、体調管理に活かすためのロー様のお母君からの指示でした。

あなたは他の西地方の王妃候補たちより、三倍早いペースで二種類のカモミールの薬草茶を交互に飲んでいましたよね?

西地方の貴族のご令嬢たちは、皆さん、二種のカモミールを好むんでおられました。

さすがにローマンカモミールを飲み続けられたら困ると思い、あなたにも聞こえるように、あちらのご令嬢に忠告したんですよ」


 西地方の貴族の特徴の一つ、うるんだ緑の瞳が、私に向けられます。

 ……彼女は、平民の商人から貴族に成り上がった家柄ですが、祖先の中に、『医者伯爵家の血筋がいる』証拠ですね。すなわち、戦の国の医者王族の血を持っていると、言うことです。

 王妃候補として、最後まで残れたのも、一部は緑の瞳のおかげでしょう。


「と言うか、ご令嬢。西地方の貴族なのに、知らないのですか? それとも、下位貴族には、話が伝わっていないのですか?

ネロ公爵閣下の亡くなった正室殿は、行儀見習い中で公爵家の屋敷や出入りしていた、侯爵令嬢時代のサビナ夫人が差し入れていた、若返りの薬草茶を毎日飲まれていたんですよ?

正室殿は、懐妊のたびに、お子を流されておりました。とうとう、それを苦に服毒自殺し、命を断たれたそうです。

……ここまで言えば、私の言いたいことが、理解できますか?」


 わざと語尾を濁してやりました。私を見ている人々が、意味深に感じるように、サビナ夫人をみやります。

 青ざめているご令嬢は、サビナ夫人を見たあと、私に向かって、すがるような視線を向けます。


「公爵様のご正室様は……」

「はい。子流しの毒になりかねないローマンカモミールを、若返りの薬として、毎日、公爵閣下に内緒で飲まれていました。

最後のお子が流れたとき、主治医だった医者伯爵の先代当主殿は、見限ったようですね。

『なぜ、禁じていた子流しの毒を、また飲んだ? 子が流れるたびに、理由を説明したのに!

今回の懐妊が、母親となれる、最後のチャンスだった。今までの流産の回数と、母体の年齢から考えて、もう二度と子供は産めないであろう』って。

二度と子供が産めないのを苦に、ご正室殿は服毒自殺……と、見せかけて……実際は、サビナ夫人に毒をもられて、暗殺されたんです」

「……うそよ! 公爵夫人様が、そんなことするわけ無いわ!」

「公爵の若旦那様に内緒で、懐妊している若奥様にカモミールを届けていたのは、そこにいるサビナ夫人です。

行儀見習いで公爵家に訪問中、若奥様に何度もお願いして、小さなお茶会をもうけ、カモミールの薬草茶を一緒に飲んでおられました。

当時のサビナ夫人は子供だから、お茶よりおやつに夢中で、カモミールの薬草茶は、ほとんど若奥様が飲み干されておりましたけど。

わたくし、若い頃は、西の公爵家で侍女をしておりました。

その後、医者伯爵家に見初められて、公爵家の先代夫妻と養子縁組させていただき、輿入れするまで、ずっと西の公爵家で過ごしていたので、間違いありません!」


 女性の声が、私を援護してくれました。医者伯爵家の孫王子の花嫁です。


「ローマンカモミールが、子流しの毒になる可能性があると、医者伯爵家に嫁ぐまで知りませんでした。

知っていれば、若奥様をお助けできたのに! 私が男爵の出身で無知だったばかりに、若奥様が……若奥様が!」

「……君のせいじゃない。君も、行儀見習いをかねて、西の公爵の侍女になったのだろう? その後、僕が見初めたから、西の公爵の先代夫妻と養子縁組し、淑女教育を受けた。

戦の国で発表された、父上たちの共同研究結果を知らなかったのは、無理もない。

今後、同じような被害者が出ないように、君は頑張って知識を広めてくれたから、西の武官や、他の地方の世襲貴族の被害は防げるようになった。

誇っていいんだよ。正室様だって、君の行いを、天国で褒め称えてくれているよ」


 途中で泣き崩れる、奥方様。ロー様のいとこ王子は、優しく抱き止め、よしよしと慰めていました。


「ここに証人がおりましたね。どのように受け止めるかは、あなた次第ですけど」


 子爵令嬢との話は、そこそこにして、その隣にいる顔色の悪いご両親に視線を向けます。


「ご両親が大切な一人娘を幸せにすべく、商務大臣にすりより、賄賂を送って、王妃候補の資格を勝ち取った代償が大きすぎましたね?

いくら王太子に見初められて婚約、結婚と進んでも……子供が産めない身体になったのでは、意味がありません。早いうちに離縁して、お家に帰されましょう。

帰されたのち、再婚して婿養子を迎えても、一人娘に子供が産まれなければ、お家断絶ですね」


 気の毒そうな顔つきを作り、起こりうる未来を、丁寧に語ってあげます。

 そこへ、トドメの一撃を放ったのは、妹の婚約者でした。


「あっ! ついでだから、子流しの毒以外に、王妃候補たちが飲まされていた毒、教えてあげようか?

呼吸困難になる『ニセジャスミン』や、口のしびれや腹痛を引き起こす『ヒメサゼンソウ』だよ。

心当たりあるでしょう? 王妃教育のマナー授業で、食事を摂ったあと、何度も医務室に来たことあるよね?

おそらく、君たちと同席していた、二人の命を狙ったものだよ。

下位貴族の君たちは、単なる巻き添え。毒殺を企てた殺人鬼の眼中に無いかったみたい。死んでも死ななくても、どっちでも良かったから。

簡単に言えば、道端の石ころのような存在かな?」


 あまりの言われ方に、新興貴族の子爵令嬢は、両手で顔をおおい、ポロポロと泣き始めました。何度も首を左右にふりながら)。

 新興の子爵一家は、この世の終わりの顔に。


 ……どう考えても、ご令嬢を泣かしたのは、私じゃありませんよ!?


「現在の春の王宮で、一番春の王妃に近いのは、アンジェリーク王女殿下。二番目は、東のクレア侯爵令嬢。

国外追放されたファムが、春の国の王妃に返り咲くには、一番の障害になる二人だからね。

でも、夫の公爵様に内緒で、雪の王女や東の侯爵令嬢を排除しようとしたのは、不味かったと思うよ?  ()()()()()()()


 冷酷な軍師様は、ヘラヘラと笑いながら、サビナ夫人に声をかけました。

 将来の義弟は、私を助けるため、トンでもない爆弾発言を。


「クレア!」


 命を狙われたと、初めて知ったのか、クレア侯爵令嬢の体が震えはじめました。

 ライ様は急いで席をたち、クレア侯爵令嬢の側へ。姫を守る騎士さながらの動きでしたね。


「いやー、あのときの王妃候補たちの症状、とても勉強になったよ♪

実際に毒を飲んだ人間なんて、なかなか診察できなくて、大抵、死んじゃうからさ」

「ローエングリン。良い研究対象を得られたのが、嬉しいのだろうが、伝え方に問題がある」

「そう? えーと、毒薬の蓄積の影響を、追跡調査できたから、良い研究ができたよ。今まで生き延びてくれて、ありがとう!

王妃候補を辞退すれば、毒殺の危険は去ると思うから、安心してね!

よし。これで、良いかな父上?」

「……まあ、それで良かろう。貴重なサンプルだったとはいえ、これ以上、毒薬の研究対象にしていたのでは、本当に命を失う危険があるからな」

「おじ上! その研究結果を、ぜひ見せてください! ロー、君の研究結果も」

「うん。後で見せるけど、東地方へ視察に行くおじ上一家は、ダメだよ。研究に夢中になったら、視察にいけなくなるから」

「くっ……仕方あるまい! 『春の東地方の特産品である紅花も、薬としてして摂取し過ぎると、子流しの毒になる可能性がある』と、戦の医者王族から情報提供をうけた。

ゆえに、現地の実態調査に精を出すとしよう」

「父上、それは名案です! ちょうど、この会議室内にも、東地方の貴族がおりますからね。

紅花を愛用しているかどうか、おじ上たちに統計をとってもらいましょう」

「わぁ、おもしろそうだね! オデット聞こえた? 紅花の乾燥薬草や、薬草茶も、子流しの毒の可能性が出てきたよ!

将来、自分(ぼく)たちの子供に被害が出ないように、一緒に調べようね♪」


 楽しげに盛り上がる、軍師……いえ、マッドサイエンティストの家系の王子様たち。

 笑顔で交わされる狂喜じみた会話内容に、思わず、私も、妹も、ドン引きしました。


「コホン……医者伯爵家も、一応、残虐王の血を受け継いでおるからな?

甥っ子たちは、姉上の持つ善良王の直系の血で、かなり薄まっておるが。

わずかに残された残虐王の気質が、毒薬への興味だ。最終的に人の命を救う方面に向けられておるのが、幸いと言うべきか。

オデット王女には、姉上のように、医者伯爵の手綱を握って欲しい。頼んだぞ、善良王の直系子孫の娘よ!」

「……はい。春の国の平和な未来のために、頑張りますわ」


 見たことのない婚約者の姿に怯える、オデット。気づかうように、先代国王陛下がボソボソと話しかけます。

 溺愛してくれる、マッドサイエンティストから逃げられないと悟り、未来への覚悟を決めたのか、ボソボソと妹も返事をしておりました。


注意!

小説は、フィクションです。

カモミールの説明については、鵜呑みにしないでください!

ローマンカモミールとジャーマンカモミールについては、インターネットをさ迷って見つけた、民間の説を小説内容に会うようにアレンジして、書いてあります。



……ちなみに、厚生労働省の「食物と薬の相互作用」の所では


・カモミール

エストロゲン作用をもち経口避妊薬の効果を減弱することが報告されています。また薬物代謝酵素(CYP1A2,CYP3A4)の抑制により、これらの酵素で代謝される薬物の薬効増強が確認されています。


と、書かれていました。


ニセジャスミンや、ヒメサゼンソウを、間違って摂取したときの症状も、厚生労働省のサイトを参考にアレンジして、小説に採用しています。



それから、悪の組織の博士(ローエングリン王子)のモチーフは、「マッドサイエンティスト」


ならば……血縁者である父親も、親戚も、マッドサイエンティスト!


なんだ、かんだ言っても、医者伯爵家の祖先の一人は、西の公爵当主ネロと同じ、あの残虐王なので。


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