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165話 侯爵家の断罪、その1 善良王の再来と、残虐王の再来です

 私の父方の祖父は、世界的に有名な騎士です。

 義勇軍総大将として昔の戦争で活躍し、王家に連なる高貴な姫を花嫁にもらいました。


「……北の名君の情報網か……」


 私と軍師の王子ローエングリン様の会話を聞いていた、春の王太子レオナール様は腕組みして、考え込む顔つきになります。

 理想の未来を実現するために、策を張り巡らす腹黒王太子が何を考えているかは、私でも読み取れません。


 将来、西方の国々から、戦争を吹っ掛けられる可能性に、やっと気付いた春の国の貴族たち。

 考え込む王太子の様子を伺っていましたが、しびれを切らしたのか、あちこちからヒソヒソ話が聞こえ始めます。



「戦と森の国が戦争を仕掛けてくるなど、本当にあり得るのか?」

「可能性としては、限りなく低いと思うが……」



「戦争が起こる原因を突き詰めれば、西の侯爵が雪の王族を侮辱したからだろう?」

「君は、雪花旅一座が雪の王族と、知っていたか?」

「いや、知らなかった」

「わしも知らなかった。身分を隠していた方に、問題があると思う!」



 好き勝手いい始める貴族たち。西地方の貴族は、自分たちに都合の良い解釈を始めます。


 うるさいですね。そもそも、私たちは、隠された王族なんです!

 西の侯爵が、おバカな事をやらかしてくれたから、隠せなくなっただけで。それぐらい思い至って欲しいです。


 王族みたいに、高度な教育を受けていない貴族の大人って、本当に頭が悪いんですね。

 おかわいそうに。憐れみの視線を向けてあげました。


 貴族たちのヒソヒソ話は大きくなり、雑談を経て、西の侯爵家の処遇についての意見交換になります。

 西の公爵派の世襲貴族は、正式な謝罪をさせたあと、王都を離れて、領地へ隠居させる案を出しました。

 国王派の東と南地方の世襲は、お家を取り潰しにする案で対抗します。

 平行線をたどる相談は、そのうち相談とも呼べない、悪口の応酬になりました。


「おい、アンジェ」

「はい? なんでしょうか、レオ様」


 罵詈雑言に混ざって、王太子の声が響きます。声をかけられた私は、レオ様に視線を向けました。


「北の名君が『命懸けの決闘』を申し込んだ相手は、もしかして、西の公爵家の裏切り王子か?」


 ……はい? 長時間考え込んだあげく、やっと質問した内容がそれ!?

 なに考えてるの? 会議に全然関係無い話題、持ち出さないで!

 思わず、ジト目になって、レオ様を見つめてしまいました。


「ふむ。その嫌悪感むき出しの視線を見るに、真実のようだな。

父上を含む大人たちが、王太子の僕に、何も知らせなかったはずだ」

「……なぜ、そのように、お考えになられたのでしょう?」

「さっき、ローの父上が言った 国力の落ちた春の国が、力を盛り返すには、王家の血筋の強化が必要だったと。

そして、春の国で唯一の未婚の王女は、残虐王の直系子孫のファムしか居ない。

濃い残虐王の血を抑えるには、濃い善良王の血が必要だ。

春の王族の中で、善良王の血が一番濃い未婚の王子は、王太子の僕。

善良王の直系子孫の父上と、善良王を輩出した南の侯爵家出身の母上を持つからな」


 春の国の王太子は、いとこ王子とはとこ王子へ視線を向けます。


「いとこのライは半分、戦の王家の血筋。善良王の血は、半分だけ。

はとこのローの医者伯爵家は、祖先が戦の王族だから、元々春の王家の血筋が薄い上、残虐王の子孫だ。

ローの持つ善良王の血は、おばあ様から受け継いでいるから、四分の一だけ。

医者伯爵家のひ孫王子たちは、僕らより少し年上で、ファムと年齢が釣り合わんことも無いが……善良王の直系の血は、ひいおばあ様から受け継ぐから、八分の一。

消去法でいくと、ファムを嫁にできる王子は、僕だけになる」

「レオ様とファム嬢の婚約に、北の名君が関係しているとは思えませんけど?」


 ……話が飛躍しすぎて、どこから突っ込めば良いか、分かりません。

 ジト目を和らげ、無表情で、頭の中を読みきれない親友を眺めました。


「お前、昨夜『北の名君の決闘は、ある人々の名誉を傷付けるから、詳細は言えない』って、言ったよな? 詳しい話をするのを、ローの父上は許可しなかったし。

北地方へ復興支援に行った騎士たちは知っていて、王宮騎士団長が箝口令(かんこうれい)をしいて、僕の耳に入らないようにした。

ローの父上は、元西地方の貴族だ。そして、王宮騎士団長も、西地方の貴族。

そこから考えると、『西地方の世襲貴族の名誉を傷付けることになるから、北の名君の決闘は隠された』と、僕は推理した」


 ……本当に頭の中を読みきれない、万能の頭脳ですね。

 小さな真実のかけらをかき集めて、きちんと正解へたどり着くなんて。


「……愛する姫を賭けた、騎士の決闘なんて、騎士道物語の王道ですよね?

『西国へさらわれた姫を助け出した騎士が、姫に恋心を抱き、姫を手に入れるために、姫の婚約者の王子に決闘を申し込む。

そして、決闘を経て、王子は騎士を認め、姫を託し、二人を祝福した』

普通なら、騎士道物語の最後をしめくくるのに、ふさわしい美談として、国民へ広められる内容です。

ですが、当時の春の国王は、隠すことを選びました」


 レオ様のいとこ、ラインハルト様も会話に加わりました。

 感情の読めない、王家の微笑みを浮かべています。


「現在でも、王弟の息子の私と、国王の息子のレオが、知らないのです。

春の王家の強い意志が働き、北の名君の決闘は隠されたと見るべきでしょう」

「おい、ロー。医者伯爵家のお前なら、事情を知ってるよな?

春の国で、軍部の頭脳として働いてきた、軍師の家系のおまえなら!」

「うっ……父上、どうしようか?」


 はとこ王子たちに聞かれた、うちの妹の婚約者。将来の義弟は、困った顔をしたあと、父親の方に視線を走らせます。

 気難しい表情をした医者伯爵家の当主は、隣に居た両親に確認しました。

 その後、弟たちにも視線を向け、軽く話し合ったようです。

 眉間にシワを深く刻みながら、口を開きました。


「真実を明かせば、我が家を含めた西地方の貴族は、大きな痛手を負うことになる。

だが、春の国の安寧と平和を得るためには、真実の公表は免れない。

二代前の春の国王は、春の王家の血筋存続を重視して、事実を隠した。

我が息子、ローエングリン。そなたは、どう判断する?」

「……王位継承権保持者としての試練が終わったと思ったら、次は、医者伯爵家の次期当主としての試練を課せられるわけね」


 ダンディな声は、息子へ、試練を課しました。

 分家王族の次期当主としてふさわしい態度をとれるか、医者伯爵家の大人たちは見極めるつもりのようです。

 軽く肩をすくめながら、ロー様は、なにかぼやきました。


「父上、僕は真実の公表を選びます。当時の情勢を考えれば、ひいおじい様の決断は間違っていない。

けれども、時代はうつろうのです。現在の情勢に合った判断を、王家のは求められますからね」


 ロー様の言葉に、お父君は無言で頷きました。顎で、続きの発言を促します。


「レオ、ライ。北の名君の本名を知っている?」

「確か、『レオナルド』だよな、ライ?」

「ええ、三代目国王と同じ『レオナルド』でしたね」

「雪の国の古き言葉で、レオナルド。それを、春の国の発音に直すと『レオナール』になるんだよ」

「なに!?」

「義勇軍を率いて戦場に現れた若者を、当時の春の国王や、医者伯爵の軍師はこう呼んだ。

『春の国の救世主、善良王レオナールの再来と』」


 王子たちの会話に、耳を傾けていた一部の貴族たちは、「おおっ!」と声を出し、力強く頷きます。

 この瞬間、北の名君への好感度は、急上昇したことでしょう。

 私が頭の中を読みきれない王太子の意味不明な発言を利用して、こんなことがスラスラ言えるなんて……軍師って、本当怖い!


「北の名君は、子供の頃、塩伯爵に弟子入りしたから、湖の塩伯爵の子供たちと仲が良かったみたいなんだ。

北の名君夫妻って、いわゆる幼なじみって、ヤツかな? 成長するうちに、許されざる恋と知りながらも、塩伯爵の姫に心を寄せてしまったんだろうね」

「幼なじみ! 幼なじみか! たまにあるよな、幼なじみが障害を乗り越えて、結婚する恋愛歌劇!」

「……えっと、レオ?」

「幼い頃の初恋を貫き、結ばれるなんて、素晴らしい純愛じゃないか!

それに危機にさらされた姫を、駆けつけた騎士が颯爽と助け、二人が結ばれるなんて、王道だしな。

うむ、北の名君と湖の塩伯爵の姫は、まさに現代の騎士道物語!」


 変なところに食い付く、ロマンチストの王子様。

 ドン引きする、はとこ王子を無視して、妄想の世界に飛び込んだようです。

 勝手に感心して、勝手に自己完結しました。


「ロー、レオは無視しましょう。昔から、善良王が絡むと、レオは熱血暴走しますからね」


「……そうだね、ライ。

えっと、戦争終結して、凱旋帰国した北の名君は、春の王宮で湖の塩伯爵の姫の扱いを見て、目を疑ったみたいだよ。だから、決闘を……」

「目を疑った? どうしてだ?」

「西国に囚われていた湖の塩伯爵の姫は、戦争の終結前に保護されて、春の王宮に戻ってきたんだけど……あらぬ醜聞が付きまとった。貞淑な淑女として致命的な、醜聞がね」


 軍師の王子様の話をさえぎる、暴走中の王太子。

 いぶかしげな親友に、現実主義を代表して、私が分かりやすく、説明してあげました。


「レオ様。おばあ様の話では、西国に囚われていたときは、医者王族が面倒みてくれていたから、王女並の対応受けていたそうです。

塩の採掘権を持つ、戦の王子を産んでもらわないと困るので、大事にされたと。

逆に、春の王宮に戻されてから、婚約者の王子に罪人みたいな扱いされたそうですよ。

世襲貴族の一部も、王子に追随して、おばあ様を追い詰めたみたいで」

「はあ? 被害者の姫をいたわらず、責め立てる?

アホか! 男が、女を守らんで、どうする! ましてや、婚約者の男が!

もしも、目の前に居たら、僕が全力で打ちのめして、二度と日の目を見れないようにしてやったぞ!」


 ロマンチストのレオ様は、怒り心頭でした。

 物語に出てくる白馬の王子様の言動を、さらりとやってのける男性ですからね。


「北の名君も、レオみたいに、激怒したみたいだね。男の風上に置けない!って。

心から愛する姫が名誉を傷付けられることなく、婚約解消できるように、王子の不貞疑惑を調べたみたい。

さっきも言ったように、北の名君の最大の特徴は、雪の国王に匹敵すると言われる、情報収集力だからね。

そして、恐るべき真実を突き止めた。にわかには、信じ固い事実を」


 軍師の王子様は、意味ありげに言葉を切りました。

 耳を傾けていた一部の貴族は、喉を鳴らしながら、唾を飲み込みます。


「戦の王家が戦争を仕掛けてくるように、西国の狂える王の娘に近づいて、春の国の王家の古き言い伝えを中途半端に教えた。『白き大地の白き宝を制する者は、国を制する』と。

裏切り王子のもくろみ通り、狂える王の娘が父親に『春の国の白き宝が欲しい』と言い出して、戦の軍隊が春の国へ差し向けられた。

腹心とも言うべき西の侯爵を使い、戦の軍隊を手引きして、西の公爵領地に招き入れる。

そして、北地方に住む婚約者を、西地方の公爵領地に招待するように見せかけ、招き入れていた戦の兵士に引き渡した」


 なんの感情も込めずに、淡々と話す、軍師の王子様。

 顔の表情が、お人形のように動かないので、異様な気迫が感じられます。

 話に耳を傾けていた貴族は、怖いもの聞き出さが勝り、顔を背けることができません。


「邪魔な姫の引き渡しが済んだあとは、戦の兵士に、西の公爵家の分家や、自分の異母兄弟にあたる、西地方の王位継承権を持つ王族たちを皆殺しにさせた。

自分も襲わさせたが、それは弟をかばって、傷ついたという自分にとって、都合の良い名誉を作り上げ、疑いの目を反らすため。

戦の兵士は、春の王都に差し向けて、春と戦の全面戦争に突入させる。

戦争の混乱にまぎれて、当時の国王と王太子を殺害し、一人残された春の王女を娶って、自分が春の国王になるために」


 ようやく、軍師の王子様は、話し終えました。

 あまりにも壮大な、国家転覆計画を聞いて、貴族たちは放心しているようですね。

 

「ロー様、続きが抜けていますよ?

国王になったあとは、用済みになった春の王女を殺し、西の公爵家を唯一の春の王族にする。

丸め込んだ戦の王女を呼び寄せ人質にとり、湖の塩の採掘場を、戦の国には渡さない。

山の塩の採掘場を、雪の国に譲る代わりに、倭の国を攻めてもらい、倭の国土半分を春の領土として、手に入れる。

これらの国家転覆計画は、北の名君が『狂える王の娘』の居場所を特定。戦の現国王陛下が捕縛して春の国へ連行し、春の国の王族と貴族の前で白状させて、ようやく人々の知るところになりましたね」


 無表情になって、将来の義弟を補足します。

 春の王子であるレオ様とライ様は、氷点下の空気をまとっておられました。


「彼は『悲劇を乗り越えた国王として有名になり、世界中の歴史に名を刻みたがった』と、処刑のときに笑った逸話を持っていますけど。

自身の望みと反対に、『残虐王の再来、冷酷非道な裏切り王子』として、歴史に名を刻んでいますね」


 では、ロー様をお助けすべく、大嫌いな西の公爵と侯爵の血筋の価値を、地面にめり込ましてやりましょう。


「そうそう、雪の国王陛下の情報では、最近、久々に世界中の国々で、裏切り王子が脚光を浴びているようですよ。

春の国の西の公爵家に生まれた、恥さらしの王女ファム嬢の名前と一緒に。

お二人は『春の国の西地方の王族や貴族に流れる、忌まわしき残虐王の血が最大限濃縮された、破滅を呼ぶ悪魔』と、世界中から呼ばれているようですね」


 私の言葉を聞いていた一部の貴族は、顔を歪めました。

 嫌悪感を通り越し、憎悪と呼べる感情に到達しているようです。


「裏切り王子の父親は、西の公爵家の血筋で、いとこ同士の結婚に生まれた王子です。

母親は、西の公爵から、西の侯爵へ嫁入りして生まれた娘。

ああ、平民の妾を作って、現在の西の侯爵家の先代当主になる庶子を生ませたのは、この母親の弟でしたね?

もちろん、西の侯爵家は、分家王族の公爵家から枝分かれしたので、残虐王の濃い血筋を受け継ぎます。

父方も、母方も、祖父母すべてが残虐王の直系子孫か、それに準ずる、忌まわしき血筋なんですよ。裏切り王子はね」


 心から軽蔑していると分かる、表情を作りました。

 遠くで罵詈雑言を吐き、うちの母や妹と戦っている、西の公爵夫人に目をやります。


「善良王の子孫たちは、『残虐王の血が濃くなることによって発生する、血の淀み』を危惧して、裏切り王子の両親の結婚を阻止しようとしたそうですけど……。

信じられないような冤罪が、裏切り王子の祖父になる宰相……当時の西の公爵家当主によってかけられ、王族や貴族の区別無く、次々と処刑されたと聞きます。

最終的に生き残れた善良王の子孫は、雪の王家と親しい北地方の貴族たち。

そして、春の王族では、当時の国王と娘と息子、三人のみでした」


 今度は、先代国王陛下に目をやります。

 裏切り王子がめちゃくちゃにした春の国を、なんとか建て直した国王を。

 悲劇を乗り越えた、偉大なる春の王として、世界中に尊敬される国王を。


「ファム嬢の父親って、あの裏切り王子の甥っ子ですよ。裏切り王子と同じ両親を持つ、弟の子供。

後妻に入った、現在の公爵夫人は『祖母が平民の血を持つ』と言う触れ込みで、裏切り王子との血縁関係を、ものの見事に春の国民から隠したいですけど……。

突き詰めれば、裏切り王子を産んだ、母親の弟が祖父になります。

分かりますか? 現在の世の中で、残虐王の血を一番濃く受け継ぐのが、西の公爵家の一人娘ファム嬢なんですよ!」


 「残虐王」や「裏切り王子」と連発してあげたので、私たちの言葉に耳を傾けていた一部の貴族は、目付きが変化しました。

 化け物を見る眼差しを、西の公爵当主や公爵夫人に向けます。


「春の貴族の方々に問いましょう。

私の話を聞いて、残虐王の直系子孫のファム嬢を、西国から呼び戻したいですか?

改めて、善良王の直系子孫のレオナール様と婚約してもらい、将来の春の王妃として、迎えたいですか?」


 話を聞いていた貴族全員、プルプルと顔を横に降りました。

 嫌悪感丸出しで、激しく拒絶する表情です。


「それが、普通の態度です。春の貴族なら、残虐王の濃い血筋を拒絶します。

春の王家が、『ファム嬢は残虐王の直系子孫の中で、一番血が濃い』事実を隠したのは、『春の国で唯一の未婚の王女』だったから。

数十年ぶりに生まれた王族の娘ゆえに、『両親に全く似ていないが、森の王家の先祖返りの王女』として、春の王族と貴族は認めるしかなかったのです」


 ここで医者伯爵家の方々を見ると……怖い!

 全員、無表情ですよ、無表情。

 医者伯爵家も、残虐王の血を受け継いでいるので、複雑な心境で、私の話を聞いているでしょうね。


「さて、原点に戻りましょう。北の名君が決闘した事実を、王家が隠したことについて。

北の名君は、男爵家の跡取り息子。春の貴族の一人です。湖の塩伯爵の姫を……数少ない善良王の直系子孫の娘を、残虐王の血を濃く受け継ぐ「裏切り王子」に渡したく無かった。

残虐王の血を拒絶する、春の貴族として、ごく当たり前の反応を示したんです。

そこで、医者伯爵家に協力を求め、国家転覆を暴く手伝いをお願いしました。

『狂える王の娘』が、春の国に届くまでは、国家転覆の証拠を、春の国民の前で、裏切り王子に突きつけられませんからね。

だから、もう一つの策を、湖の塩伯爵家に持ち込んだのです。

残虐王の再来である裏切り王子を、『湖の塩伯爵の姫を賭けた決闘の場に引きずりだし、自分の命とひきかえにしてでも、確実に殺す!』とね」


 私が視線を投げ掛けると、レオナール様は父親そっくりの仏頂面。ラインハルト様は、無表情になっておられました。

 軍師の王子様は、「将来の姉上、美味しいところ、持っていかないで!」と、少し抗議のこもった視線を寄越します。

 

「これが、レオ様とライ様に、北の名君の決闘の事実を隠していた、理由にも繋がるのでしょう。

春の王家の血を濃くするには、春の王子と王女の結婚が最適です。そして、春の王族の未婚の娘は、たった一人だけ。

善良王の直系子孫の王子が、残虐王の直系子孫の王女を拒絶しないようにしなければ、王家の血を濃くできない。

ならば、結婚して二人の子供がうまれるまでは、残虐王の血を嫌悪させる情報を隠し通そう。

……と、春の王族の方々は、苦渋の決断をしたのでしょうね」


 いつの間にか、私に注目する貴族が増えていました。さっきの倍ですかね?


 ふむ、彼らは私の味方として、利用できそうですね。

 残虐王の濃い血筋を持つ西の侯爵家を、貴族から平民に落とす際に、後押ししてくれるでしょう。




悪の組織の女幹部(アンジェリーク秘書官)は、ときどき無茶苦茶な作戦を展開する。

それでも、ある程度の成功をおさめられるのは、「他人が聞いていて筋が通っていると」思わせる、巧みな話術を持つから。

一度、話し始めれば独壇場に突入し、他人が口を挟む暇を与えず、圧倒的な情報量で、聞いている人々を思考停止させてしまうのである。

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