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157話 お説教なんて、もうたくさんです!

「今日の私の衣装は、春の王家の方々が準備してくださいました♪」


 赤毛のおじ様への返答に迷ったので、いつもの調子で答えました。

 人前では滅多に見せない、 嬉しさ全快の笑顔、愛する家族へ向ける心からの笑顔を浮かべて。


 雪の王宮でのおじ様は、最先端流行を作り出す「国一番のオシャレな王子様」と評判です。

 私のワンピースの刺繍とか、レース編みボレロの模様とか、話題にしてくれるはず。そうなれば、口達者な私の出番ですよ! 


「……アンジェリーナ。贈り物に対して、心から喜んでいるのは、伝わってきた。

だが、一言で簡潔に済ませようとするのは、お主の悪い癖だと、さっき注意したばかりであろう?」


 あれ? 服を誉めてくれないの?

 思わずキョトンとなって見つめていると、なぜか、おじ様はしかめっ面になります。


「良いか? 春の王族方に準備してもらったのならば、わしは『おじ』として個人的に礼を申すべきか、『雪の国の代表』として礼を申すべきか、判断をせねばならぬ。

わしが雪の王族である以上、春の国への礼の仕方で、春と雪の国家関係が大きく動く可能性がある」


 えー! この流れ、おかしくありません?

 再び、おじ様のお説教スタートです。


「常日頃から言い聞かせておるが、王族の一言は重い!

たった一言が、国の未来を左右し、国を繁栄にも、破滅にも導くのだ。

王族と言うのは、国の代表であり、民の導き手となる義務を背負っておる。

わしも、お主も、隠してあった雪の王族の身分を明かした以上、今は雪の国の代表として、ここに存在していることになる。

国の代表の自覚があるならば、軽はずみな言動を控え、王族らしい発言をせぬか!」


 ……うー、お説教いつまで続くんでしょう?

 私、何にも悪いことしてないのに、おかしいですよ!


「聞いておるのか!? 特にお主は王女ゆえ、将来、他国の王族へ嫁ぐ可能性もあるのだ!

お主の母のように雪の王族でありながら、春の国に嫁ぐと言うことは、自国と嫁ぎ先、二つの国の運命を背負うことに……」

「お言葉ですが、私は雪の王女でありながら、春の貴族の家に生まれたために、春と雪、二つの国の運命を背負うことになりました!

おじ様に指摘されなくても、生まれつき、そのような環境に身を置いているので、今までの人生経験上、理解はしているつもりです!」


 軽くむくれた表情を作り、おじ様の言葉をさえぎって、言い返しました。

 理解しているからこそ、今、この場に居るんですからね!


「本当に理解しておるのか? お主の人生経験とやら、語ってみよ」

「例えば、去年の春、春の将来の王妃になる予定の女性に会うために、わざわざ春の王宮まで赴きました。

これは、私が春の国で生まれ育ったため実現可能となった、春と雪の国の友好関係を強くするための、雪の王女としての公務。

同時に、 春の王位継承権保持者としての公務でもありました」

「ふむ。お主の公務について、もう少し詳しく説明できるか?

どの程度理解できておるか、わしが採点してやろう」


 あっ、墓穴掘ったっぽい……。


 おじ様の雪の王族スイッチが入ってしまいましたよ。お説教長時間コースですかね……とほほ。


 こうなったら、見守っている春の貴族に、私の雪の王族としての「格」を見せつけた後で、衣装アピールをしましょう。

 私は、春の王族から衣装を贈られるのに相応しい存在と、認識し直してもらうためにも。

 おバカな西の侯爵家のせいで、ずっと隠してあった雪の王女の身分を、バラす事態になりましたからね。

 使えるものは、おじ様だろうと、非常事態だろうと、使ってやりますよ。ヤケです、ヤケ。


「当時、将来の雪の王妃になる、『雪の国で最も価値のある王女』と、世界中の王家に認識されていた私が、春の王宮に滞在することに大きな意義がありました。

なにせ、『春の王太子と王女の正式婚約の儀式の場』に、春の王位継承権を持つ見届け人として、招待されたのですから。

春と雪の将来の王妃の顔合わせは、春と雪の国家関係が修復され、軍事同盟が強固になったと、国際社会にアピールする良き機会でしたね。

そして、善良王の直系子孫の私と、残虐王の直系子孫の春の王女が友好関係を築くことは、春の国内へ向けて、新しい時代の到来を告げることにもなったでしょう」

「その通りだ。子供なのに、よく理解できておるではないか。偉いぞ!」


 おじ様は器用に右手だけで私を抱っこして、左手で頭を撫でてくれました。

 ……どうも、おじ様の中で、私は下の弟妹と同じように扱われているようです。


「兄者は……雪の国王陛下は、去年の春、アンジェリーナが勝手に春の王宮へ赴いたことについて、咎めることは無かったな。

春の王太子殿下にお会いしてくると、雪の国へ手紙を寄越したし、春の王太子殿下の婚約が近いと情報を得ていたゆえ。

まさか、王太子殿下の婚約が延期の上、破局となろうとは、兄者ですら予測しておらんかったぞ。

アンジェリーナが王妃教育責任者として、一年以上、春の王宮に滞在する羽目になることもな」

「……言っておきますけど、王妃教育責任者は、春の国王陛下が頭を下げて頼んでこられたから、引き受けたんですよ?

『湖の塩伯爵家の帝王学を、王族の責務を理解していない春の王女に授けて欲しい』と。私だって、想定外の事態でしたからね。

おじ様が先ほど言ったような、雪の国王陛下と春の国王陛下の国際社会へのアピールを台無しにしたのは、春の王女こと、西の公爵家の一人娘です。

彼女は、私と初めて会った瞬間に、『高貴なる王家の血を持つわたくしが、平民の農家の子孫に過ぎない、下等な血筋に面会してあげることを光栄に思いなさい』といい放つ女性でしたからね」

「……アンジェリーナ。兄者も言っておったが、お主の聞き間違えではないのか?

一国の王女、それも、将来の王妃になるように教育された娘が、そのような発言をするなど、国際社会の常識では考えられぬぞ?」

「本当の話ですよね、レオナール王太子殿下」

「……非情に恥ずべきことなのですが、事実です。

我が国の王女ファムは、アンジェリーク王女殿下に対して、大変無礼なことを申し上げました。

この件については、春の国の最高責任者として、僕の父である春の国王が謝罪することで、アンジェリーク王女殿下の許しを得て、解決しています。

先ほど紅蓮将軍が口にしたように、王族の一言は重い!

ファムが、初対面のアンジェリーク王女殿下へ放った無礼な一言は、軍事国家の雪の国を怒らせ、我が春の国を滅びに導きかけました。

王族として、初歩の初歩すら理解できていない、うつけ者を、我が国の王妃にはできません! 婚約延期は当然です!」


 春の国の王太子、レオナール様へ突然話をふって巻き込むと、性別を超えた親友は、即座に答えてくれました。

 腹黒王太子は、ここぞとばかりに、政敵である西の公爵家のおバカな王女を強調します。


 レオ様の後ろにいた貴族は、春の国王が私に謝罪したと聞いて、驚きの表情を浮かべます。

 そして、私の方を見て、視線が合うと慌てて反らしました。


 ……うん。「軍事国家の王女」と、改めて意識してくれてますね。そのまま、雪の国への畏怖を高めてください。

 後で、雪の国を怒らせた、おバカな西の侯爵家への敵意が強くなりますからね♪


「我が国は、恥の上塗りになるのを承知で、アンジェリーク王女殿下に打診し、王妃教育責任者と言う形で、ファムの教師役になっていただいたのです。

雪の王妃になれると言うことは、世界最高の王妃教育を受けている証ですからね。

そして、アンジェリーク王女殿下は、我が国の王家に連なる「湖の塩伯爵家のひ孫』に当たるため、我が国の帝王学も、祖母より受けておられます。

春の国の帝王学と、世界最高の王妃教育を教えられる適任者は、アンジェリーク王女殿下をおいて他に居ませんでした」

「……レオナール王太子殿下。改めて聞くが、そのような存在が、本当に春の王女なのか? もしかして、影武者では無いのか?

雪の王女の来訪に萎縮した公爵王女殿下が影武者を用意し、緊張した影武者が、アンジェリーナを前に思わず失態を犯してしまった。

だから、失態の責任を問われ、公爵王女殿下の身代わりに、戦の国へ送られてしまったのであろう?

今からでも遅くない、春の国内で隠れ暮らしておられる、本物の公爵王女殿下を、この場に連れて参られよ。アンジェリーナとの顔合わせをさせれば良い。

雪の王族であるわしが責任を持って、春と雪の将来の王妃たちの感動の対面を、親戚となる世界中の王家へ伝達するゆえ!」


 おじ様は、お節介を発揮しました。

 影武者説を口にして、西の公爵家の味方になる姿勢を、春の貴族たちに見せます。


 単なる演技ですよ。

 おじ様も、私に協力して、西の公爵家の権力を傾けようとしていますからね。

 四年前に暗殺された、春の国の親戚たちの仇討ちをするために!


「……紅蓮将軍。雪の国王の右腕と呼ばれし、あなたからの申し出は、非情に嬉しく思います。

けれども、去年の春、アンジェリーク王女殿下へ暴言をはいた者も、今現在、西の戦の国へ留学している者も、同一人物です。正真正銘の春の王女と断言できます。

もしも、影武者とすれば、王女が春の国の王位継承権を捨ててまで、春の国内で隠れ暮らす理由は、何だと言うのですか?

唯一の跡取りである娘が、王位継承権を失ったことにより、西の公爵家のお家断絶は確定しています。

分家王族がお家断絶してまで、一人娘を表舞台から隠さなければならない理由なんて、あるはずありません。

むしろ、あると言うのならば、僕が知りたいですね」

「……そうか? レオナール王太子殿下が断言されると言うのならば、雪の王族であるわしには、出番が無いが……」

「戦の国へ留学しているのは、間違いなく、春の王女です。

現在の春の国には、医者伯爵家にしか王女は居ません!」

「ふむ、春の王家の事情は分かった。

となると……公爵王女殿下の代わりに、新たな王妃候補になった者たちは春の貴族と聞いておるゆえ、苦労しておられるのだな?

だから、アンジェリーナが未だに春の王宮に留まり、貴族たちを王族の一員に変えるべく、春の王家の帝王学を教えておると。

そして、アンジェリーナへの贈り物は、教師役のお礼か? 春と雪の王族の付き合いを抜きにした、親戚同士の軽いやり取りと言うことだな?」

「はい。察していだけると、我が国としても助かります。

アンジェリーク王女殿下の祖父である雪花旅一座の座長と、僕の祖父である春の先代国王は、北の侯爵の血筋を介した、はとこ同士ですからね。

親戚ゆえ、アンジェリーク王女殿下は、僕たち春の王家の無理難題に快く応えてくださった。

雪の王女ではなく、春の貴族の立場で、春の王宮に滞在してくださっているのです」


 あること無いこと、ペラペラとしゃべる、春の王太子。レオ様の味方であるおじ様も、細かいことは突っ込みません。

 世界中が恐れる、軍事国家の王子様相手に、一歩も引かず会話を続けます。


 さりげなく周囲を見渡すと、堂々とした将来の春の国王の姿に、一部の春の貴族は感激していました。

 同世代の春の王子たちの中で、レオ様は、抜きん出たカリスマを持ちます。

 国王の一人息子として、幼い頃より国を背負う意識が強かったせいかもしれませんね。

 今は王太子としてのカリスマを、大いに発揮されておられました。


 春の貴族たちに混ざって、レオ様のいとこ、ラインハルト王子の姿が見えました。困ったような王家の微笑みを浮かべています。

 ライ様の隣で、雪の王子である私の弟ミケランジェロは、感情の読めない、雪の天使の微笑みを浮かべていました。

 同じく、雪の王子である、はとこのジャック。弟分のはとこの顔には、「姉貴、面倒なことに巻き込まれてるじゃん!」と、書いてありますね。


 そんな三人の王子様の近くでは、現在の春の国で「将来の王妃候補」と認識されている、貴族のご令嬢たちが顔色を失っておりました。

 どうやら、私とおじ様の会話を聞いて、ようやく、私の正体を思い知ったようです。


 ……あーあ。春の王妃様と計画した、将来の王妃試験は、一部失敗しましたね。

 私の雪の王女の身分に、最初にたどり着けた者が、将来の春の王妃、最有力候補になるはずだったのに。皆さん、不合格です。

 ご令嬢たちと視線を合わせることなく、おじ様に視線を戻しました。


「さて、アンジェリーナよ。先ほどの話に戻るが……」


 えっ? おじ様のお説教、まだ終わってなかったの!?

 目を真ん丸にして、レオ様からおじ様に視線を戻しました。


 ちっ! レオ様を巻き込んで話を反らしたのに、ごまかされてくれませんか。

 さすが、「大陸の覇者の右腕」と言ったところでしょうかね。


「先ほどのように詳しく説明できるのに、なぜ、服装の説明が一言になるのだ!?

重要なことが、スッポリ抜け落ちておるぞ!」

「『男性は話が長くなると、話を聞くふりをして、聞き流す生き物だから、短く結論だけ先に告げなさい。長い説明は、相手が興味を持ってから行いなさい』と教わりました」

「……誰にだ?」

「おばあ様とか、お母様とか、春の王妃様や先代王妃様、王弟妃様とか、医者伯爵家の王女様とか。

あとは、王家主催のお茶会で出会った、貴族の奥方の皆さんとか、王家御用達のお店の女将(おかみ)さんたちとか。

全員、口を揃えて、同じ事を言いましたよ?」

「……その結論は、アンジェリーナの思い込みを、凝縮したものに見えるな。

物事を女性の側面だけから見るのではなく、多方面から観察して結論を……」

「男性は、自分にとって都合の悪いことを聞くと、すぐに話題を反らして、会話から逃げ出すらしいですね?

ちょうど、今のおじ様みたいに!」


 これ以上のお説教なんて、ごめんですよ!

 語尾を強めながら、外交用の兵器「父譲りの眼力」を発動させました。


 なにやら、周囲で息をのむ気配がしますが、かまってられません。

 さっさと、おじ様に衣装のアピールして、この場から逃げ出したいです。


「医者伯爵家の方々の見解では、『男性は、自分の都合の悪いことについて正面から向き合うと、言葉を投げ掛けた相手を敵と認識して攻撃を仕掛けてしまい傷つけてしまう。お互いが、後で後悔するのを避けるために、防衛反応の心理が働き、会話から逃げるのかもしれない』とのことでした。

たった今、おじ様が私との会話を反らそうとしたのは、口達者な私を傷つけたくないと思ってのことだと理解していますので、ご安心ください♪」


 にっこり雪の天使の微笑みを浮かべると、おじ様は苦虫を噛み潰した顔つきになりました。


「……良くも、悪くも、お主は子供よな。

他人の意見を丸のみにせず、自分の意見を持つことも、大切なことだ」

「つまり、おじ様は、私の本音をお聞きしたいのですね?

『春の王族の方々にいただいた服と言えば、「雪の紳士のオシャレの見本」と呼ばれている、自慢のおじ様は、すぐに衣装に視線を向けて、色々な部分を誉めてくださると思っていました。

誉めてくれるたびに、素敵な衣装のことを一つ一つ自慢しようと、アレコレ説明文を考えていたんです。

で、す、が! おじ様は、王族の責務を持ち出して、お説教に突入。

春の王太子殿下がコーディネートしてくれて、大好きなおじ様にお見せしようと、ウキウキしていた私の気分は、地獄へ急行直下しました。

中年世代のおじ様は、思春期の乙女心を理解できない唐変木だと判明したので、詳しく説明するのを諦めたんです!』

以上が、私の本音ですよ!」


 外交用の兵器を発動させたまま、おじ様と視線を合わせて、ピシャリと言ってやりました。

 そして、お母様直伝の怒っていると分かる、冷たく美しい雪の天使の微笑みを浮かべます。


 期待が裏切られ、ガッカリした私の気持ち、ご理解してもらえました?


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