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155話 ウワサの攻防戦です


 雪の国の権力争いの話をしました。

 先代国王の正室になった王女は、 王宮医師になった父親が、元々居た正室や側室、その子供たちを、毒薬で暗殺して、王妃の座を射止めました。


 そのオマケとして側室として滑り込み、現国王を生んだ国母が居ます。

 婚約者だった私の母方の祖父を捨てて、国王の元へ。運良く双子の王子を生んだ女性です。

 そして、当て付けのように、私の祖母を乳母に任命して、育児を雪花旅一座に押し付けます。

 

 まあ、雪の国を離れて暮らす雪花旅一座で育てられたから、双子の王子は兄や姉のように暗殺されずに生き残り、現在の国王と王弟になれたわけですけど。

 ちなみに双子の王子は、国母を他人扱いして、私の祖父母を実の親のごとく大事にしています。


 ……国母殿は、若い頃のツケが、今ごろ帰って来たんでしょうね。


 さて、春の国の権力争いの話に戻りましょう。

 春の国の王太子、レオナール様に話しかけるふりをして、室内の人々全員に話しかけました。


「現在の西の公爵夫人にとって、西の公爵家への輿入れは、完全に予想外のことだったでしょうね。

死んでほしい邪魔、王妃様や王弟妃様は生き残り、利用するつもりだった前公爵夫人は、居なくなってしまったんですから。

前公爵夫人に気に入られるように愛想よく振舞い、国王陛下に気に入られるように色仕掛けの練習していたのが、仇になって、公爵閣下に見初められてしまいましたもんね」

「……実家の西の侯爵家は、分家王族の王子で手を打ったと言うことか。

父上やおじ上より、先に子供が生まれれば、王太子確定となる。

だから、母上に毒を飲ませて、僕の兄上と姉上を!」


 拳を握りしめ、悲痛な表情になるレオ様。

 絞り出された声は、地の底から響くと思うほど、どす黒いものでした。


「……おじ様。一つ疑問が残ります。春の国には、医者伯爵家があるのに、そう簡単に毒を飲ませられるものですかね?」

「アンジェリーナ。王太子殿下が生まれる以前、王妃殿下や宝石姫が懐妊されたときの主治医は、医者伯爵の出身であったか?」

「……聞いてみないと、分かりません」

「雪の国の先代王妃の父親と、同じカラクリだ。西の侯爵家の息のかかった医者を、王宮へ送り込んだのであろう。

わしの仮説を裏付けるように、王妃殿下や宝石姫が出産されたときの主治医は、分家王族に格上げされた医者伯爵家の当主夫人……王子妃となった女医者殿だったと記憶しておるよ。

十年近く、子を授かれなかった国王陛下に、お世継ぎをもたらした凄腕の医者だ。『春の国に医者伯爵あり』と、世界中の称賛を浴びた。

医学の世界で頂点に立つことができた女医者が、西の侯爵家の派遣した手先を退けて、ようやく春の国王陛下はお世継ぎを授かれたのであろう」

 

 春の王妃様が、本当に毒薬を飲ませられていたのか、まだ現時点では分かりません。

 けれども、大臣たちの脳裏には「西の侯爵の盛った毒薬に対処したのは、医者伯爵の女医者」と刷り込まれたはず。

 レオ様の頭は「医者伯爵家に、僕の命は助けられた」と刻まれたかと。


 それに加えて、医者伯爵家の現当主夫人は、南地方の子爵家出身の貴族令嬢です。

 つまり、南地方の侯爵令嬢だった王妃様を支持する、王家に忠実な国王派の貴族。

 春の国の貴族なら、ここも考慮することでしょう。

 西の侯爵への不信は最高潮になり、医者伯爵家への信頼は絶大なものに代わるはず。


 おじ様の誘導が、ここまで狙ったかどうかは、知りませんけど……効果的なのは、間違いありませんね。


「おじ様、あの疑惑も言ったらどうですか? 私は、雪の国王陛下の意見に半信半疑ですけど」

「……先祖返りのわしが言うのか? 両親や兄妹に全然似ていない、わしが?」

「……おじ様の外見では、仕方ありませんね。私が代弁して差し上げますよ」


 もう一つの疑惑を植え付けるように催促すると、おじ様は渋りました。

 私は雪の天使の微笑みを浮かべて、春の王女であるファム嬢を、春の王族から蹴落とす準備に入ります。


「レオ様。四年前の和睦会議のあと、雪の国王陛下は、春の王宮へ来られましたよね?

そして、春の国のすべての王族と顔合わせをしています。帰国するときに、北地方へよって、湖の塩伯爵出身の私の祖母を見て、とある感想をもらしたんですよ」

「……感想とは?」

「『春の本家王族たちは、湖の塩伯爵の姫にそっくりだな。春の国の古き王族の外見を持っている。

医者伯爵たちは、春の古き王族の特徴に加えて、戦の王家の特徴も、未だに受け継ぐか。

ただ、西の公爵は、王家の血筋が途絶えたようだが』とね」

「はあ?」


 私が話始めると、拳を握ったままのレオ様は、仏頂面になりました。


「アンジェ、言っている意味が分かっているのか!?」

「んー、私は雪の国王陛下の発言に、半信半疑ですかね。

金髪碧眼の両親から生まれた、赤毛と赤い瞳のおじ様がいますから。

それでも、現在の雪の国王陛下が疑惑を持つぐらいには、国際社会では問題視されているんでしょうね。ファム嬢の外見って」


 私が指摘すると、レオ様は腕組みをして、考え込む表情になります。

 そして段々と、苦々しげな顔つきになりました。


「春の王族の古き特徴って、光の加減で赤みのかかった金に見える、琥珀のような色なんですよ。

善良王の直系子孫である、私の父方の祖母は、琥珀の髪と瞳の持ち主です。

また、春の王太子であられられるレオ様も、本家王族の国王陛下と、古き王家の血筋を持つ、南の侯爵家出身の王妃様のお子様なので、琥珀に輝く金髪をお持ちです」


 室内の人々が、一斉にレオ様に注目します。私の説明を聞きながら、ウンウンと頷いていました。

 よし、掴みはオッケー! 畳み掛けましょう。


「けれども、ファム嬢は茶色の髪ですよね?

瞳の色は、赤みの強い琥珀と言えなくもないですけど……茶色の方がしっくりきます。

祖先に茶色の人物が居るのなら、おじ様みたいに『遠い祖先の特徴が出た、先祖返り』と主張できますけどね」

「僕と同じ祖先を持つ紅蓮将軍は、南の海の王家の特徴が出ているのだ。ファムも先祖返りだと、医者伯爵家は判断している。

それに、茶色の髪と瞳は、西方の森の国の王家の特徴だぞ?

五百年に及ぶ、我が王家の歴史の中では、森の王家の血筋を持つ他国の王女を、嫁に迎えたこともある。

身近な例では、ライの母方のおばあ様が森の王女だ。よって、将来生まれるライの子供は、茶色の髪や瞳を持つ可能性があると、医者伯爵家が言っていた」


 赤毛のおじ様を見返しながら、レオ様は説明を重ねます。

 春の王太子として、西の公爵家の血筋を否定することはできません。守る方向へ、動きました。


 ライとは、レオ様のいとこ王子で、王弟の一人息子ラインハルト王子のことです。

 西の戦の国から嫁いでこられた宝石姫を、母親に持ちます。

 現在の戦の王妃であり、宝石姫の母親が、森の国の王女なのですよ。


「……森の王家の特徴の茶色ならば、何も問題は無いが……。

わしは専門家でないし、わし自身が先祖帰りの代表格だからな。

医者伯爵殿が言うておるのなら、帰国後、兄者にそのように説明しておこう」


 歯切れ悪く、おじ様は言葉を紡ぎます。

 ちっ、予測通り、おじ様は戦線離脱しましたか! 話題が、話題ですもんね。


 雪の国の王家の特徴は、私のように金髪と青空色の瞳です。

 ですが、おじ様は金髪碧眼の雪の王子と王女を両親に持つのに、赤毛と赤い瞳に生まれました。

 雪花旅一座が、海の王家の古き血筋を持つので、先祖返りとして誕生したのです。


 赤毛のおじ様に期待はしていないので、会話の中心に居ても、居なくても、問題無いですけど。

 では、攻め方を変えましょうか。


「レオ様。春の国の貴族に、茶色の髪や瞳の人物はおりますか?」

「いるぞ。アンジェだって、何人も知っているだろうが」

「……質問の仕方が悪かったですね。歴史の長い世襲貴族に、茶色の人物は、おられますか?」


 私の指摘に、レオ様は眉を寄せました。

 腕組みしたまま天井を見上げると、貴族の顔を思い浮かべているのか、沈黙します。


「うーむ。すぐには、心当たりが浮かばんな……父上やおじい様ならば、知っていると思うが」

「私も、心当たりがありません。言い換えると、私やレオ様の世代では、茶色の人物が居ないと言うことですね。

歴史の長い世襲貴族は、春の王家から古き時代に枝分かれした、分家ばかりです。

王家の血筋に近い、古くて歴史のある家ほど、レオ様の色合いに近い髪になるはずです。

高位貴族には、王家から王女が輿入れしますので、王家の血筋が濃くなり、琥珀の金髪を受け継ぐ可能性が高いのですよ。

だから、南の侯爵家出身の王妃様も、レオ様のはとこになる東の侯爵家のクレア嬢も、琥珀の金髪ですよね?」

「そうだな」

「では、高位貴族である、西の侯爵家に視線を向けましょう。全員、琥珀の金髪ですよね?

西の侯爵家の血筋を受け継ぐ者の中で、茶色の髪は、春の王女であるファム嬢だけ。

この事実を前にすれば、ファム嬢が先祖帰りと考えるより、春の王家の血筋が薄いと考える方が、しっくりきません?」

「おい、アンジェ!」


 ようやく私の目的を察したのか、レオ様が氷の視線を向けてきました。


「言っときますけど、私ではなく、雪の国王陛下のお考えです!

私には、先祖返りのおじ様が居るので、ファム嬢の先祖返り説も、変だと思いません。

ただ……雪の国王陛下は、雪花旅一座で育てられ、成人するまで世界を周り、各国の王族と交流をしておられましたからね。

世界中の王族を知る、雪の国王陛下からすれば、春の国の王女であるファム嬢の存在は、異質に見えると言うことでしょう」

「紅蓮将軍だって、同じように受け止められるだろうが!」

「根本的な立場が違います。おじ様が生まれた場所は、春の王宮です。

医者伯爵家に嫁がれた王女殿下が、出産の場に立ち会って、おじ様を産湯につけてくださいました。

そして、産湯の最中に、医者伯爵家の方々が揃って様子を見にきて、赤子の髪を見た医師全員が、すぐに『海の王家の先祖返り』と判断しています。

『春の国の医者伯爵家公認』と言う、大きな後ろ楯を持った状態で、うまれておりますからね」

「ファムだって、医者伯爵家の医師たちが、『森の王家の先祖返り』と判断している!」

「……ファム嬢の場合は、西の公爵家の屋敷で生まれましたよね?

医者伯爵の親戚の産婆ではなく、公爵家の雇った産婆に取り上げられたと、お聞きしています。

しかも、医者伯爵家の方々と面会して、『森の王家の先祖返り』と結論付けられるまで、半年かかっておりますしね。

『生まれた直後に先祖返りと判断された王子』と、『半年後に先祖返と判断された王女』では、国際社会における情報の信頼度が違うと、雪の国王陛下は、おっしゃっておられましたよ」


 ここで、仏頂面のレオ様の目を、じいっと見つめます。

 邪魔してもムダですよ? 私の目的は、達成させてもらいますからね!


「……それでは、原点に戻って、一つ一つ確認しましょうか。

よろしいですか? 春の三代目国王の娘を母親に持つ、善良王の妹は、海の王家へ嫁ぎ、王女を生みました。

更にその娘になる、海の王女が春の国へ嫁ぎ、八代目王妃になりました。

そして、この八代目王妃の娘が、『駆け落ち姫』として有名な、雪花旅一座に嫁いできた春の王女です。

この時点で、雪花旅一座の座長の血筋は、春と雪と海の王家の血筋を持つことになりました」


 何をいまさら確認しておるのだ?と、レオ様の顔は語っています。

 レオ様ではなく、春の大臣や書記官たちの心をつかむために、話しているのですよ。


「で、駆け落ち姫の子孫である、春の十四代目国王の妹が、雪の国王に嫁ぎ、雪の王妃になりました。

雪の王妃の生んだ王女は、東地方に領地をいただき、東の公爵家の始祖に。

以降、東の公爵家は女当主を立てて、世界でも珍しい女系王族として、現在でも血筋を繋いでいます。

王女の生んだ子供は、王家の血筋を持つ法則を利用するために。

よって、東の公爵家の娘の子供として生まれたおじ様は、海の王家出身の八代目王妃の子孫と証明できるます。

そして、おじ様の赤い髪や瞳は、古き海の王家の血筋の為という、医者伯爵家の説明に裏付けが取れるわけです」


 私の説明に、ウンウンと頷いている、レオ様の後ろで控える使用人と侍女たち。

 書記官も、私の回りくどい説明を、非公式記録に書き残してくれています。


「この法則は、私にも適応されますね。

私は湖の塩伯爵のひ孫になるのに、春の王家の特徴は、一つも持っていません。

雪の王家の特徴、太陽の光のごとき金髪と、青空色の瞳を持っています。

けれども、先ほどのように『母親が春の八代目王妃の子孫』と証明されるので、私も春の王家の血を持つと豪語できるのです。

長い説明になりましたが、ここまで理解できますか?」


 レオ様の隣にいる春の大臣たちへ、視線を寄越しました。

 二人とも理解できると、軽く頷いてくれます。


「それでは、本命のファム嬢に、目を向けましょうか。

西の公爵家に生まれる髪の色として可能性が高いのは、言うまでも無く、琥珀色の金の髪です。

現当主殿は、まさに春の王家の血筋と呼べる、琥珀の髪と瞳の持ち主ですね」


 はい、外務大臣の目付きが据わってきました♪

 私の誘導に釣られて、ファム嬢の父親は琥珀の金髪と、頭に刷り込まれたようですね。


「公爵夫人の髪は色合いが薄く、白銀に近い気がします。こちらは、医者伯爵の血筋の影響を受けているのでしょう。

医者伯爵家は、四百年前に戦の王家から春の国へ移住して、戦の王家の色である、白銀の髪と緑の瞳を西地方の貴族にもたらしましたからね。

公爵夫人の父親は琥珀の瞳で、母親が緑の瞳の持ち主。生まれた娘は二つが混ざったのか、黄緑の瞳ですね」


 内務大臣の眉間に、深いシワが寄りました。

 ファム嬢の父親の瞳は琥珀色、母親は黄緑色。

 ならば、一人娘は琥珀か、黄緑の瞳に生まれるはずでは?と、思っていることでしょう♪


「西の公爵家に、現れる別の色となると、雪と海の王家の血筋の可能性が高くなります。

長い歴史のうちに、雪と海の王家の血筋を持つ本家王族と、血のやり取りをしているはずなので。

雪の王家の特徴は、私のような輝く金髪と青空色の瞳。

そして、海の古き王家の特徴は、おじ様のような鮮やかな赤毛と紅の瞳です」

「海の王家の色は、赤毛と青い瞳と思っておる者が多いが、古来は赤毛と赤い瞳だった。

海の国から嫁いできた、春の国の八代目王妃の肖像画は、全部、わしと同じ赤毛と赤い瞳に描かれておるよ」

「あっ、海の国は、わざわざ雪の王家と血のやり取りをして、青い瞳の子供を得るようになったんですよね?」

「うむ。血の淀みを減らすため、遠方の雪の王家の血筋を受け入れるうちに、ちらほら青い瞳の子供が現れ始めたらしい。

珍しい青い瞳は海の色と見なされ、海神の守護を得ていると、南方の民は受け取ったようだ。

そして、海の国を治める国王は、青い瞳の持ち主が望ましいと言う『海色信仰』が生まれた。……と、義理の姉が言っておったよ。

海の王家から嫁いできた、海の王女。現在の雪花旅一座の若座長夫人がな」


 おじ様、ナイスフォロー!


 海の王女が血の淀みうんぬん、青い瞳を崇める海色信仰うんぬんと言ったのならば、信憑性が増します。

 そして、春の八代目王妃の肖像画も、赤毛が特徴です。おじ様が先祖返りと判断された根拠ですからね。


「ファム嬢の髪や瞳を海の古き王家の色と見るのは、無理があると思いますね。

おじ様と見比べると、おじ様が太陽の色で、ファム嬢は大地の色と呼べるくらい、色合いに差がありますので」


 口達者な私に対抗するべく、レオ様は、仏頂面で低い声を出しました。

 重厚な、王者の風格を漂わせる声音でした。


「……アンジェと紅蓮将軍の説明を聞いていると、西の公爵家に、茶色の髪が出る可能性が、低いと言いたいのは分かる。

だが、我が国の遠い祖先に、森の王家の血筋がいて、先祖返りのファムが生まれた可能性の方が、王太子の僕にはしっくりくるな。

今、森の国の王家には、春の王家の特徴、琥珀の髪を持つ赤子が誕生していると聞く。

我が国と森の国には、ここ百年ほど婚姻関係は無かったのにだ」

「雪の国王陛下も、森の王家の血筋の先祖返りの可能性は、考えていると思いますよ」


 皆さんの前で、ファム嬢が西の公爵当主の子供ではない疑惑を、ちらつかせてやりたいんですけど。

 私の疑惑を、将来の国王としてねじ曲げたい、春の王太子が邪魔してくれます。

 春の王家の血筋の価値が、根底から揺らぐので、レオ様が邪魔するのは当たり前ですよね。

 邪魔されないように、回り道をして、目標を目指しましょう。


「……去年の夏の初め頃でしたかね?

春の王族として、あまりにもファム嬢の色合いが異質なので、疑問に思って、ファム嬢に『茶色の髪はオシャレで染めているのですか?』と、直接聞いたら『地毛』と言われました」

「……おい、お子様。聞いてもいいことと、悪いことがあるぞ! ファムだって、染めてるかと聞かれたら、いい気はしないと思う」

「知的好奇心を満たしたかっただけです!

先祖返りの赤毛のおじ様を見ていたから、ファム嬢も先祖返りの赤毛で、ごまかすために染めてるのかと思ったから」


 好奇心を強調したら、レオ様が、あきれた眼差しを寄越してきました。

 ……いや、大臣や使用人や侍女たちまで、おてんば娘を生暖かく見守る視線にならないで!


「好奇心は猫を殺すと言いますが……よく身に染みましたよ。

染めたのか聞いた翌日、ファム嬢に、王立学園の階段から突き落とされましたからね。

雪の王女である私を、春の王女が階段から突き落としたんです。打ち所が悪ければ死んでいたと、医者伯爵家の当主殿に言われましたよ。

さすがに、『勘ぐるな』というファム嬢からの警告と受けとりました。以降は、口にしていません」


 「階段から突き落とされた」の部分で、使用人たちが、目を見開きました。

 彼らの頭の中では、「私が真実に気付いたから、口封じに殺されかけたのでは?」と、不信感が生まれたようです。


 ……ファム嬢の髪や瞳の色に関しては、『母方の祖先に平民が居る。平民の祖先の中に、茶色の人物が居たのだろう』と言うことで、簡単に片付けられるんですよ。

 春の平民の中には、茶色の髪がおり、レオ様や私の知る平民から貴族になった新興貴族には、普通に見られる色ですからね。


 しかし、ここに居るのは、王族と貴族のみ。それに加えて、春の国は、母方の血筋を無視するお国柄。

 西の公爵夫人は、公爵当主の血を持たない子供を生んだのではないかと、春の国の人々は思い始めたようですね。

 そして、非公式会談の記録を見た人々も、同じ疑問を抱くかと。


 ふっ、疑惑をバラまきたい私と、疑惑を広めたくないレオ様の戦いは、私の勝ちです!


「……アンジェリーナ、見事だな。お主が『北の名君の孫娘』だと、改めて実感したぞ」


 私にだけ聞こえるように呟く、おじ様。

 軍人のおじ様にしたら、敵に回したくない相手の一人が、私の父方のおじい様です。

 おじい様は、ウワサを操り、戦わずして勝つ知将でした。


 私はおじい様の血を受け継ぎ、民衆心理掌握するための、王家の帝王学を受けています。

 春の国中に、公爵夫人の不貞疑惑のウワサの種をまくくらい、造作もないことですよ♪


 不貞疑惑のウワサの広がりを止めたかった、春の王太子。

 私に負けたレオ様は、氷の眼差しで、睨み付けておられました。

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