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143話 恋愛は、苦手分野なんですよ!

 王妃候補に選ばれる条件は、色々ありますが……王族の勘違いで選ばれる事って、あるのですね。


 不幸な偶然の産物を知った、春の国の王太子、レオナール王子は、不本意な結婚を計画されました。

 それを止めるのが、私の役目のはずですが……なにぶん、結婚などは大変、不得意な分野なので、手立てが見つかりません。

 無難な言葉しか、口にできませんでした。


「レオ様。東の男爵令嬢って、確か……来月、王妃候補の資格を剥奪するつもりではありませんでしたか?」

「うむ。そのつもりだったが……さっき、おばあ様が推薦した理由を知ったから、作戦を変えることにした。

僕は、アホなファムを、正室にしようと決意していたくらいだぞ? お飾りの側室が増えるくらい、どうってことない。

そして、側室だからと、ぜいたくさせるつもりもない。国庫の予算は、僕が握る。

お飾りの嫁が、浮気してくれても構わん。むしろ、好都合だ。

不貞を理由に、堂々と離縁でき、アホな男爵一家に恥をかかせられるし、新たな嫁ぎ先を僕が準備する必要も無いからな。

そして、王太子の嫁に手を出す男も、王家に必要無いヤツだと判別がついて、ちょうど良い」


 悪どい笑みを浮かべる、王太子。さすが腹黒な王族ですよ。

 自分に悪評が付くことを承知で、相手にそれ以上の屈辱を味わわせる作戦ですか。


 王太子の秘書官としては、賛成できない作戦ですけど。

 困った顔を浮かべて周囲を見渡すと、王妃様と王弟妃様付きの侍女たちは、全員が軽く頷いてくれました。

 有能な彼女たちは、王太子の評判を傷付けず、男爵家を蹴落とす方向へ、王妃様たちをたきつけてくれると思います。


「まあ、その辺りは、私の苦手分野なので、レオ様のご自由に。

東の男爵令嬢が、結婚前に誰かに口説かれでもして、王妃候補を辞退すれば、レオ様の花嫁になることもないでしょうけど」

「うーむ。さすがに、今すぐは、あの女に釣り合う男は思い付かん。

……あっ、おい、アンジェ。もしも口説かれても、東国へ嫁に行く気はないよな?」

「東国? 陸の塩の採掘権を渡すつもりは、ありませんよ。突然、どうしたんですか?」

「……母上の言い付けだ。東地方の視察の間、お前を付きっきりで守るから安心しろ」


 腕組みして、仏頂面のまま、遠い視線になる、王太子。

 レオ様って、父親より、母親を怒らせる方を怖がっておりますからね。

 この様子では、なにやら母親にやり込められたのでしょう。



*****



 レオ様が言葉を濁してしまったので、後で王太子を守っている近衛兵たちから、親子の会話を聞きました。

 いとこ王子、はとこ王子との口喧嘩のあと別室に行き、王妃様に怒られたようですね。


 王家の機密をもらさないはずの近衛兵たちが、簡単に情報を教えてくれるのは、私の特権と申しましょうか。

 「王太子の秘書官」という肩書きを持つので、王太子に関わることなら、教えてもらえるのです。

 

 ……夢見がちな王太子に、地面に足を付かせるのが、口やかましい現実主義の秘書官の役目と、皆さんに思われている部分は、あえて無視しておきましょう。


 また、国王陛下たち本家王族を守る近衛兵は、国王派の騎士です。

 東や南地方の武官の世襲貴族となるので、同じく国王派で武官の世襲貴族である私と仲が良いのも、簡単に教えてくれる理由なんでしょうね。


「レオナール。四年前、王家の腕輪を贈ったとき、プロポーズしたと、先ほどアンジェリーク姫から聞きましたよ?」

「母上、邪推しないでください。今の僕にとって、アンジェは、王家の血筋を持つ、大切な妹に過ぎません!

王太子である僕が、愛を捧げるべき相手は、将来の王妃筆頭候補のクレアです。

おばあ様をはじめとする王族や、国民たちの期待を背負った、侯爵令嬢。

国民に混乱をもたらすような言動を、王妃である母上がしないでいただきたい!」

「去年の夏、『アンジェリーク姫を王妃候補にしては?』と、わたくしや陛下が尋ねたとき、『花嫁にできない』と突っ張ねた詳しい理由を、聞いていませんでしたね?」

「……あのような形で、僕の王太子の資質を試すなんて、父上も、母上も、イタズラ好きですよね。

雪の王妃になる予定の者を、春の王妃にすれば、雪の国が取り返そうとして、戦争を仕掛けてきます。それくらい、王族ならば見抜けますよ」


 私にプロポーズしたと認めたくない王太子と、認めさせたい母親の攻防戦。

 お古の腕輪をもらっただけなのに、王妃様は大袈裟ですよ。


「……まあ、ファムは王女の癖に、外交の才能が無いから、試されているのが、見抜けなかったようですけど。

僕とアンジェがお茶会する姿を見て、『恋人同士』だなんて、アホな妄想をしたあげく、母上たちに告げ口したのが、僕が試される発端になったんでしょうね。

アンジェは、僕の妹のようなものなのに……」

「レオナール。本当に妹ですか? 口説くなら、早く口説いて、実力行使して、花嫁にしてしまいなさい。

王太子の権力を使えば、既成事実を作るのは、簡単ですよね?」

「……母上。昨日、純真無垢なお子様のアンジェに、『大人の恋愛の知識を植え付けてしまったこと』を、まだ怒っていますね?」

「当たり前です! わたくしの可愛い娘に、なんと言うことを、教えるのですか!?

この一年間、どれほど大事に、大事に育ててきたか……それを、それを!

『二人っきりで、刺激的な夜を過ごす』なんて、言葉の意味を知りたがっただけだから、良かったものの。

それ以上を望めば、どうやって、責任を取るつもりだったのですか!」

「大袈裟な……ちょっと口が滑っただけですよ? アンジェが、あそこまで無知な、お子様と思わなかったから。

当時の僕は、『恋の駆け引きを楽しむ、王都の貴族の娘たちと同列に考えていた』のは、認めますけど。

今後は、アンジェたちが『純真無垢な箱入り娘』と意識して、言葉使いに気を付けますよ。僕は反省していますからね。

もう、この話題は、終わりにしましょう。僕は着替えて、アンジェの様子を見てきます」


 怒れる母親から逃れたい一心で、レオ様はこのような言い方をしたんだと思います。

 結果的に、火に油をそそいでしまったようですけどね。


「……レオナール。本当に反省しているのですか?

もしも、アンジェリーク姫が『刺激的な夜を実演して見せて欲しい』と言ったら、どうなっていたか考えましたか?

そう言えば、先日、寝間着姿のアンジェリーク姫を私室に連れ込んで、『大人の恋愛を教えようか?』と、言ったそうですね。

あの場で大人の恋愛を知りたがれば、レオナールが手取り足取り、教えるつもりだったのですか?」

「あれは、美しい星空を見ながら、寝る前のお茶会をしたかっただけで、他意はありません!

それに軽いあいさつをしただけで驚く、お子様のアンジェが物珍しくて、ちょっとからかっただけですよ」

「……からかった? 何も知らない、純真無垢な雪の天使を、からかった!?

そうですか。顔に口づけされるだけで、真っ赤になって腰を抜かすような箱入り娘の反応は、さぞや見ていて面白かったでしょうね?

茫然自失した娘なれば、簡単に、レオナールの思い通りにできたでしょうからね」

「母上! すみません、心から謝罪します! お願いだから、蒸し返さないでください!

周囲の者たちの冷たい視線が、心に突き刺さりますので、なにとぞ許しを!」


 このとき、王妃様やレオ様を守る近衛兵たちは、王妃様の味方をして、白い目で王太子を見つめていたとか。


「許して欲しければ、東地方へ視察に行く間、全力でアンジェリーク姫を守りなさい!

あれほど濃い、春の王家の血を受け継ぐ娘は、この春の国では、しばらく望めませんからね。

レオナール。王太子ならば、わたくしの言っている理由が分かりますね?」

「……はい。アンジェを付きっきりで見張り、害虫退治に努めます」


 王妃様は、私が東国から来る王子や、東地方の騎士団の騎士に見初められることを、恐れているようですね。

 王太子のレオ様に守れと命じる辺り、よっぽど、切羽つまっているのでしょう。


 ……と、私が感想を言ったところ、レオ様の騎士たちが代わる代わる私の肩を叩いて、無言で生暖かい眼差しを向けられてしまいました。



*****



「付きっきりで守る? 王妃様は、私の誘拐を恐れているんでしょうかね?

王太子なんて、春の国で一、二位を争うくらい、厳重に守られるべき立場です。

そのレオ様と行動を共にすれば、誘拐は防げると思いますけど」

「……お前、本当にお子様だな。母上は、違う心配もしている」

「違う心配?」


 どんな心配なのでしょうか? 小首を傾げてしまいした。

 腕組みしたレオ様はため息をつき、仏頂面で目を閉じました。私の疑問に答えてくれません。

 一分くらい沈黙したのち、目を開けると、話題転換を図りましたよ。


「……おい、大人の恋愛を、少し教えてやろうか?」

「大人の恋愛? ぜひ、教えてください!」


 もう、レオ様ったら、私の気持ちがよく分かってくれますね♪

 大人の恋愛なんて、誰も教えてくれないから、気になって仕方ないんですよ!


「……ここまで簡単に食い付くのか。母上の懸念は、現実になりそうだ」


 あきれたような口調で、独り言を言う王太子。部屋中に響きますけど。

 おもむろに立ち上がり、私の近くに来ました。


「おい。嫌だったら、抵抗しろよ?」

「抵抗?」


 変な忠告をしたあと、レオ様は右手を伸ばして、私のうなじに触れました。

 キョトンとしていたら、すっと下に向けて手を動かします。


「ひゃう!」


 レオ様の行動とうなじの感触にびっくりして、変な声が出ました。

 その隙にレオ様は、私の左耳にささやきます。


「大人の恋愛は、こうやって服をずらしたりするんだぞ」

「ずらす?」

「そうだ。それから、首や肩に口づけを落とす」

「ふえっ!?」


 レオ様の言葉を理解する前に、首に何やら感触が。

 パニックになり、何をされているのか、全然分かりません。


「おい、アンジェ。どうだ? 首から肩にかけて、軽く口づけ……やっぱりオーバーヒートしたか」

「……王子」

「怒らんでくれ。見下す視線も止めてくれ。乳母だったそなたに、そんな視線をされると、立ち直れん。

僕だって、仕方なくやったんだ! 母上が、『他人に大人の恋愛の実演をねだったら、どうするつもりだ』と、懸念していたから。

念のため、知りたがるか試したんだが……僕の予想通り、最悪の反応を示したぞ。

これじゃあ、隙がありすぎて、簡単に男に食われる!

まあ、オーバーヒートから復帰したら、さっきの事を思い出して恥ずかしがり、以降は実演をねだらんと思うが」

「……荒療治(あらりょうじ)しましたね」

「東国にコイツの隙を突かれて、既成事実でも作られたら、たまらんからな」


 周囲で誰かが会話をしている気がしますが、何も考えられません。

 だって、レオ様が、レオ様が……キャー!




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