138話 白バラの意味を、ご存知ですか?
「医者伯爵よ。水面下で暗躍した経緯を、語れるな?」
厳かに、それでも怒りを込めて、春の国王陛下は発言します。
生まれついての王者の視線が、年上のいとこを射抜きました。
眉間にシワを寄せながら、分家王族の医者伯爵家の当主殿は答えます。
「……四年前の北国の内乱の余波で、国力が落ちた春の国が生き残るためには、王家の血筋強化と、周辺国家関係の強化が最優先であった。
西の公爵家にしか、春の王女が存在しない以上、将来の王妃はファムしかおらぬと思った。
我が国を占領していた、雪の国の軍隊を引き上げさせる条件として、善良王の直系子孫の娘を……アンジェリーク秘書官を雪の国へ渡すことが決まったゆえ、どうしても、妹のオデットは、春の王族に引き込まねばならぬと思った。
陸の塩の採掘権を、完全に雪の国へ奪われてしまわぬためにもな。
だが、未婚の王子であるラインハルトの花嫁は、先ほどアンジェリーク秘書官が語ったように、西の侯爵の娘が最適。
ゆえに消去法で、オデットをめとれる未婚の王子は、我が息子、ローエングリンしか残らぬ。
……もうこれ以上の言葉は、必要なかろう? 我がいとこにして、先見の明がある、偉大な春の国王よ」
「うむ。そなたは、自身の息子たちを犠牲にして、春の国のために尽くしてくれたのは、知っておる。
次男は、王子になった身分を利用して、雪の国との軍事同盟を強固にするため、雪の王女を母親に持つ、北の侯爵の娘と婚約させた。
三男の方は、春の国の王妃を、西の公爵家の一人娘にするために、泥をかぶらせた。
最初の見合い相手は、西の公爵家の一人娘ファム。二番目の見合い相手は、西の侯爵令嬢。
どちらとも婚約を断り、ローエングリンは『政治の駆け引きに疎い王子』の汚名を背負ったな。
『高貴なる王女に、役立たずな分家王族の王子はもったいない。本家王族の王子の花嫁が最適』と、貴族たちに思わせるために。
そなたの思惑通り、ファムには、レオナールの花嫁になる道が開けたよ」
ここまで言い合い、いとこたちは沈黙します。
国王陛下は、不意に医者伯爵の次期当主ローエングリン王子へ、王者の視線を向けました。
「……ローエングリンは、まごうことなき、そなたの息子よな。父親の期待通りの選択を、自分の意思で行っていた。
まさか、父親であるそなたにも内緒で、我が息子のレオナールに、湖の塩伯爵の姫を紹介してくれるよう頼んでおったとは。
オデットをめとる上で、一番の障害は男爵の階級。けれども、王太子の紹介となれば、この上ない後ろ楯を持つことになる。
男爵の娘ゆえ、正室にはできなくても、側室にはなれようぞ。唯一の花嫁とすれば、雪の国の王家も納得しようしな。
そして、善良王の直系子孫の娘にして、平民の祖先を持つゆえ、世襲貴族も、新興貴族も、春の国民すべてを納得させることができる。
成人前の子供が、ここまで考えて水面下で行動するなど、並大抵の才能では無いな」
ベタ誉めの国王陛下に、ロー様は無言で、王子として最上級の敬意を示す礼を取りました。
……本当に頼んでいたんですかね?
うちの妹との見合いは、ライ様が妹が医者になりたがっていると言い出して、思案したレオ様が思い付きで決定したように見えたのですが。
うーん。でも、腹黒の王子様たちですし、ロー様に至っては、軍師の家系です。
王家の血筋と塩の採掘権を持つ私たちを、春の王族に引き込むのは、三人で計画していたはず。
そうなると……四年前にロー様に頼まれていたことを、月日が経つうちにレオ様たちがすっかり忘れていて、オデットに再会してから、やっと思い出した可能性が高いですね。
汚名を払拭するためにも、私たちとのお見合いの機会をずっと待っていたはずなのに、はとこの王太子に振り回されて、三年間も待たされた、将来の義弟に同情がわきました。
医者伯爵家の当主がこわくて、イスの後ろに隠れている演技中でしたので、顔だけ出しながら声をかけました。
「ロー様って、レオ様たちのせいで遠回りして、苦労されていますよね。
オデットを紹介して欲しかったのなら、姉である私へ直接言ってくだされば良かったのに。
雪の国の王族である、おじ様を後ろ楯にして、確実に結婚にこじつけて差し上げましたよ」
「……いや、その……去年、レオが王宮に呼び寄せたのは、姉君だよね?
アンジェの持つ、天性の外交の才能を目の当たりにすれば、雪の国に絶対に渡せないって言う、王太子の判断は正しいって、誰だって思うよ!
あの状況から考えると、オデットじゃなくて、アンジェを春の王族にするつもりだって……医者伯爵は受け取ったよ!?」
「まあね。アンジェは、私の側室にすると、王妃であるおば上が息巻いていましたけど……。
私たち王弟一家は、おば上の意見は建前で、本当はおば上の後継者にするつもりだと受けとりましたよ。ねぇ、母上?」
「……そうですね。同時に、『雪の国へこの子を渡せば、春の国や、私の故郷の戦の国は、雪の属国にされる』とも言いましたけど。
天から授かった外交の才能は、百年に一人の逸材だと思います。この才能が雪の国へ渡れば、軍事国家の武力を使わずとも、外交合戦で全ての国が負けてしまい、表面上は独立を保ちながらも、実質的には雪の国の支配を受ける、属国状態にされたでしょうからね。
百年に一人の逸材を、春の王宮に留め置いたレオナールは、春の王太子として、最善策をとったと言えましょう」
……待って。なんで、私の話になるのですか!?
オデットのお見合いについての考察だったでしょう?
心からの困惑顔を浮かべて、頼りになる親友を見ます。会話を止めてと、視線を送りました。
視線を受け止めた春の国の王太子、レオナール王子は口を開いてくれます。
「おば上。アンジェを僕の嫁にするのは、僕自身が断ったのをお忘れですか?
第一、こんなお子様体型で、感情を逆撫ですることを言う、口達者な妹を、嫁として見られるわけないでしょう!」
「ちょっと、どういう意味ですか!?」
「本当のことだろうが! もしも、お前が母親みたいに、絶世の美女で、素晴らしい体型の持ち主なら、僕は男として全力で口説いただろう。
だがな、四年前に初めて会った頃と、何一つ変わらん寸胴のお子様体型に、男心が動くか!
おまけに、口を開けば、『王太子はこうあるべき』とお説教しまくって、正論だからこっちは言い返せず、腹立つし。
ちょっと目を離せば、大人をへこませることを平気で言う問題児だから、僕が尻拭いするはめになるし。
最悪なのは、美少女の箱入り娘で毒牙にかかりやすいのに、無自覚に愛嬌振り撒くもんだから、嫁探ししている貴族の男が、僕に仲人頼んでくることだな。
お前を守るために、害虫退治するはめになる。余計な仕事を増しやがって!」
途中から、よく分からないことを口にする、王子様。ジト目になって、隠れていたイスから移動しました。
トコトコとレオ様に近づき、無言で足を踏んでやりましたよ。踵の部分でね。
「痛っ! 何をする!」
親友の抗議に応えて、片足立ちして、全体重をかけてやります。
「アンジェ! ストップ、ストップ!」
「レオの足の骨が折れたら、東地方の視察に行けなくなるから、止めて!」
レオ様のいとこ王子と、はとこ王子が動きます。二人がかりで私を持ち上げ、王太子から引き離しました。
「何をする、このおてんば! 重いだろうが!」
「今のは、レオが悪いですよ。寸胴体型とか、問題児とか、女の子に言う言葉じゃないですって」
「うん、レオが悪い。普段なら、口攻撃でやり返すアンジェが、実力行使に出たぐらいだから、よっぽど腹立ったんだと思うよ」
さすが王子様たちです。無礼な王太子に向かって、お説教してくれました。
王太子は、仏頂面で私を見下ろします。近くにいた両親やおじ夫婦から、無言の圧力を感じたのか、嫌々ながら謝りましたけど。
「ちっ……言い過ぎて、悪かった」
ジト目になりながら、無言でゆっくり頷いて、「しかたないから、許してやろう」と態度で表しましました。
「お前が、そういうお子様な態度を取るから、嫁として見れんのだ。どうみても、手のかかる妹だぞ!
もう少し成長して、淑女の態度を取れるようになれば、僕の理想に近づくのに」
ものすごく不機嫌そうに、言い放つ王太子。ふっ、私の勝利です!
レオ様が、この態度に屈辱感を味わうのを、承知の上でやりました。ざまあみろ♪
「レオ様。さっきみたいなこと、王妃候補たちに言わないでくださいね。
女心のわからない唐変木なんて、嫌われますよ?」
「……分かっている。お前は、気心しれる仲だから、つい気が緩んで、本音が出ただけだ。
ちょっとした、兄妹のじゃれあいなんて、いつものことだろうが。
それから、王妃候補のやつらには、きちんと気をつけて発言しているぞ。
ちょっと気配りが足らんだけで、機嫌を損ねて顔をそらすような、ヒステリー魔予備軍が多いからな。
余計な苦労をして、精神力を削り取られるくらいなら、おだてて、いい気にさせておいた方が、扱うのが楽だ」
王太子の本音がダダ漏れでした。こんな大勢の前で、言わないでよ!
さすがに、フォローしにくいです。王太子の秘書官なので、一応、頑張ってみますけど。
「……ヒステリー魔予備軍?」
「本人たちの名誉のために、ここでは言えん。場合によっては、不本意でも、あいつらを、僕の嫁の一人にしなければならんからな。
だが、王宮勤めで、王妃教育にくる女たちを見ている者は、皆、察するはずだ。
王家に近い、高貴な血筋ほど、感情抑制の教育を受け、微笑みの仮面を被れるはずだからな」
そこまで言って、レオ様は私を見下ろします。
「まあ……アンジェは、仕方ない。微笑みの仮面なんて、絶対に無理だ。
元々、雪花旅一座の座長夫人になるため、大げさに感情を表すように、育てられてしまったんだから。
けれども、王家の血筋に必須である、感情抑制の教育は、しっかりされている。
年齢の割に沈着冷静で、大人びたことを言えるのが、その証拠。ヒステリー魔予備軍みたいに、感情を高ぶらせたりしない。
これは、湖の塩伯爵家出身のおばあ様が、きっちり帝王学を習得させた結果であろうな」
白い造花をいじりながら、レオ様は私を引き合いに出します。
おバカな王妃候補を排除したいので、王妃候補たちより幼く見える私を、利用したんですよ。
とりあえず、私は一つ心配ごとが出来たので、レオ様に質問しました。
「レオ様、私を王妃候補にしたりしないでしょうね?」
「うん? ああ、心配するな。お前は王妃の側近候補として父上が……国王が推薦しているから、王妃に担ぎ上げられることは無いだろう。
いくら善良王の直系子孫だろうと、王妃候補でなければ、僕の嫁にはなれん。
そして、今回の僕の嫁候補に推すには、王族か王位継承権を持つ、大人の推薦が必要だと聞いている。
だが、大人たちは、二度目の王妃候補選出のとき、全員が単独か連名で、権限を使ってしまったからな。
お前を改めて王妃候補に再推薦できる大人は、もう残って居ないんだ」
「……と言うことは、レオ様とクレア嬢の仲を裂く可能性は無いと♪
お二人は、はとこにして幼なじみと言う、深い絆がありますからね。元から、私の出る幕は、全然ありせんけど」
安堵の表情を浮かべ、レオ様を見上げました。
王太子は、王家の微笑みを浮かべて、私を見下ろされております。
青い瞳が、いくぶん揺らぎ気味でしたけど。
「レオ様。貴族や国民たちが、将来の王妃筆頭候補と期待しているクレア嬢を、きちんと口説きおとしてくださいよ?
いくら子供の頃に、ライ様と結婚する約束をされていたとしても、しょせんは子供の口約束ですからね。
王族ならば、個人的感情よりも、国のことを最優先に考えて、花嫁を選ぶものです。レオ様に軍配が……」
「アンジェ! なんで約束を知ってるんですか!?
知っていた上で、レオを推して、私からクレアを奪うつもりですか!」
「はい。クレア嬢は、ライ様の初恋相手とお見受けしますね」
私が話している途中で、レオ様の恋敵、王弟の一人息子のラインハルト王子が叫びました。
「ライの初恋相手!?」
「そうですよ。お互いが初恋同士で、当時は両思いだったんじゃないですかね?
そんな二人がケンカ別れして、クレア嬢が東国へ留学された原因は、西の侯爵令嬢かと。
医者伯爵家が、春の国の未来のために、西国との関係を重視して、西の侯爵令嬢を、ライ様の花嫁にしようと暗躍していたから。
分家王族の医者伯爵家の大人たちが揃って、ライ様の花嫁にするのを国王陛下に打診して、婚約発表目前だったと思われます。
国王のいとこになる王子たちが推薦したら、いくら先代王妃の親戚とはいえ、貴族である東の侯爵家は、太刀打ちできませんよね」
次に絶叫したのは、分家王族の医者伯爵家の次期当主、ローエングリン王子でした。
ぼうぜんとしている王子様たちに、推理したことを説明してあげます。
「ライ様の婚約内定の情報を聞いたクレア嬢は、ライ様に話し合いを求めたと思われます。
ライ様は、王子の立場を強調して、どうにもならないことを説明。二人は、ケンカ別れすることに。
傷心のクレア嬢に、ライ様を忘れさせるため、お父君が東国へ留学させたのだと思います。
ライ様の婚約発表が白紙になったのは、北国が内乱を起こしたあげく、春の国へ進軍してきたからでしょうね。
そして、クレア嬢が三年ぶりに春の国へ呼び戻された理由は、浮気するファム嬢が王妃に相応しくないと、先代王妃様が判断したからかと。
西の侯爵家のご令嬢は無能ですし、南の侯爵は現王妃を輩出しているので、続けて王妃にさせることは不可能です。
そうなりますと、必然的に東の侯爵令嬢が、将来の王妃になるしかないんですよ」
周囲を見渡すと、ライ様とロー様は、言葉を失っておりました。
ライ様にしたら、なんで初恋相手を知ってるのかという、心境。
ロー様にしたら、医者伯爵家の暗躍のせいで、はとこを悲恋にさせてしまったショックを受けているかと。
「クレア嬢を、現在の王妃様は、まだ後継者とお認めになられていませんが、先代王妃様は後継者とお考え中のはず。
まあ、私が湖の塩伯爵のひ孫と知らないとか、北地方が塩の産地だと知らないとか、将来の王妃として致命的な知識の欠如を抱えていますが……。
東国へ留学されていたことを考えると、語学勉強に手一杯で、春の国の歴史勉強が後回しになったことが、想像できます。
数年後に、王妃教育をすべて終える頃には、王家の歴史も、しきたりもすべて覚え、素晴らしき王太子妃になられることでしょう。
足りない部分は、善良王の直系子孫として生まれ、王位継承権保持者に必須の帝王学をすべて終えており、将来の雪の王妃になるはずだった私が、きっちり補佐しますので、ご安心ください!」
「……お前、外見通り、本当にお子様だよな」
「失礼な! そんなに不信感満載の目で見なくても、良いでしょう!?
確かに子供ではありますが、春の国で、最年少の現役領主なので、最低限の国内政治は理解していますよ!
また、北地方の辺境伯として、雪の国の国王陛下と難民問題をやり取りしてきた、外交経験も持ち合わせます!
これらを用いて、全力で将来の春の王妃を補佐するんですよ?
決して、春の国に恥はかかせないと、約束します!」
「……お子様は、無自覚に、残酷な発言をすると聞くが……今のお前を見ていて、おもいっきり実感できたぞ。
確かに残酷だ、残酷すぎる! しかも、真実をついた正論ばかりだから、訂正してやる余地が無い」
「えっ? えっ? どこかに、問題発言がありましたか?
レオ様が私の本音を求めているようなので、思いきって申し上げたのですが」
「……お前が本音を語ってくれたのは、理解している。
王妃教育を共に受けている親友のクレアを、心から案じてくれているのも、今の発言から読み取れる。
でもな、でもな! お前の精神年齢は、外見通りのお子様だと、心底思い知ったぞ!」
レオ様は仏頂面になって、私を見下ろしました。周囲の大人たちも、残念な子を見る目付きで、私に注目しています。
王太子は、私とのやり取りに疲れたのか、大きなため息を。そして、わざとらしく、話題転換をはかります。
「はあ……とりあえず、将来の成長に期待しておくとしよう。ほれ、これを式典のときに……」
「ああ、式典に参加される、クレア嬢に渡すんですか? 綺麗に包装して、花束を準備しておきます。
さすが、ロマンチストのレオ様ですね。白バラの花言葉には、『私はあなたにふさわしい』がありますからね」
「えっ?」
「また、歌劇『雪の恋歌』の小道具の一つであり、春の王子が雪の天使に再会した時や、プロポーズする時、結婚式の時など、主要場面で造花を使いますよ。
確か……第二幕の再会の場面は、九本でして『いつもあなたを想っています』『いつも一緒にいてください』の意味をこめながら花束を渡し、行動と気持ちで『好き』だと告白しているんです。
最終幕のプロポーズの場面は、百八本で、『結婚してください』。
結婚式の場面は、九十九本で、『永遠の愛』の意味を持ちますね。
北地方が、婚約や結婚式で白い衣装を着るのは、この白バラが転じたものと、言われております。冬には花が咲かないので、衣装で代用したのが始まりだとか。
……しかし、役者でも、本数の意味まで詳しく知っている人は、少ないのに。さすが、『歌劇の王者、戯曲王』の子孫と言うべきですかね?
レオ様の白バラの造化も、ちょうど九本あるから、『告白』にぴったりですよ♪」
雪の天使の微笑みを浮かべて、レオ様の差し出した九本の造花を、さっさと預かります。
包装するため持っていこうとしたら、レオ様は血相を変えて怒鳴りました。どうしたのでしょうか?
「おい、アンジェ! その花は、お前の弟のラファエロが、僕に作ってくれたんだ!
それを、わざわざ分けてやるんだぞ! 他のヤツに渡すな!」
「ラファエロが?」
「うむ。ちょっと前に兄弟ごっこしていたら、お前たちの家の話題になってな。
昔は、家の前に白いバラが咲いていたが、暴動が起こりそうになったときに、踏み荒らされて枯れてしまったと話してくれた。
僕が咲き誇るところを見たかったと、何気なく言ったら、数日後、造花の花束をくれてな。
こんな感じだったと、無邪気に渡してくれたから、僕の部屋に飾っていたんだ」
自由になった両手で、お決まりの腕組みポーズをする、王太子。
仏頂面で、不機嫌な声を出しながら、白バラの造花を手にいれた経緯を話してくれます。
「なんで、私に?」
「お前、今日の式典に、雪の国の使者が参加するから、白い服着るって言ってたよな。
そのくせ、お前は着飾らんから、シンプルで装飾品が少ない。今日だって、首飾りも、耳飾りもしないつもりだろう?
せめて、髪に花くらい飾れ。造花なら扱いやすそうで、ちょうど良いと思って、僕の部屋から持ってきたんだ。……本数に深い意味は無いぞ」
「なるほど、おおざっぱに、半分くらい持ってきたんですね?
ラファエロの作品なら、お母様や妹たちとお揃いにしても、良さそうですね。喜ぶと思います♪」
私とレオ様の会話を聞いていた、独身王子たちは、こそこそと話します。
「いやはや、『雪の恋歌』の白バラに、そんな意味が込められていたなんて、知りませんでしたよ。本数によって、意味が変わるなんてね」
「うん。自分も、初めて知った。さすが、雪花旅一座の座長の孫娘だね」
お二人の会話が聞こえたので、将来の義弟へ話しかけました。
「では、オデットに造花を渡す役目は、ロー様にお願いしても良いですか?」
「あれ、良いの? 姉君が渡さなくても」
「はい、ロー様にお願いします。一本だけ渡してくださいね。『雪の恋歌』の第一幕では、春の王子が雪の天使と遊ぶ場面があって、その中で髪に一輪の白バラを飾ってあげるので」
「一本にも、意味があるわけ?」
「えっと……一本だと、『一目惚れ』『あなたしかいない』になりますね。
雪花旅一座では、一目惚れの意味で、歌劇に取り入れていますよ」
「分かったよ! オデットに贈れるのは、自分だけだね♪」
造花をお預けしたら、ロー様は大喜びで引き受けてくれます。
このとき、仏頂面のレオ様と無表情のライ様が、無言で見つめあい、意味深な視線を交わしておられましたね。
やっと、悪の組織のボス(王太子レオナール)が抱えていた、花々に言及することができました。
色々調べたところ、花言葉や本数の意味には、諸説あるようですけど……今回は、小説内容に合っているものを選んでいます。
ちなみに、女幹部(アンジェリーク秘書官)は、大きな勘違いをしていますが、博士(ローエングリン王子)の婚約の経緯は、博士が主役の小説をご覧いただければ、納得できると思います。
ボスと参謀(ラインハルト王子)が暗躍した結果、大人たちを騙して、博士の汚名返上に成功しました。