137話 上には、上が居るんですよ
「……アンジェリーク秘書官は、頭が良いのだから、もう少し空気を読めないものか?」
「あなた。子供は鋭い視点を持つと、忘れたのですか?
ラインハルトも小さな頃は、物事の本質を突いたことを言って、大人を驚かせるのは、日常茶飯事でした。
そして、納得するまで、ずっと質問し続けましたよ」
先ほどの私の質問を聞いて、王弟殿下は困惑した声をあげます。
奥方様は、口元に手を当てて、コロコロと笑いながら、答えました。
夫婦の会話に、ため息をつきながら、医者伯爵の当主殿が加わりましたよ。
「……まったくだ。一番答えにくかったのは、昨夜のアンジェリーク秘書官の質問だが」
「ああ、『てごめ』『きせいじじつ』『じょうじ』の意味を、公衆の面前で聞かれた時は、さしもの君も絶句したんだっけ?」
「……うつけ者たちが、口を滑らせた結果だ。こやつらは、思春期の健全な男ゆえ、今まで気に止めておらぬかったが……。
今の王宮には、昔のように、年頃の娘が居ると意識して、発言に気を付ける方が良いと思う」
気難しい顔つきで、当主殿は私を見ながら愚痴りました。
……えー、私悪くないですよね? ほら、知識を求めるのは、子供の仕事なんですから。
眉をひそめた王弟殿下が、年上のいとこに尋ねます。
「年頃の娘って……今までファムが居たけど? でも、あんな質問をするのを、聞いたことないな」
「常識外れの母親が、娘に良からぬ回答をしておったのだろうよ。
その証拠に、男に媚びる方法を教え込み、浮気癖を身に付けさせたであろうが!
どこの国に、公衆の面前で火遊びをしまくり、将来の王妃の資格と王位継承権を手放すような、恥さらしの王女がおるか!」
「あー、西の公爵夫妻の結婚に、医者伯爵家を含む、西地方の世襲貴族は、最後まで反対してたっけ。
王家の血が薄く、教養のない娘を、王子妃にするのは、反対だって。
最近の公爵夫人は、教養の無さを、各方向から突き上げられているらしいね?
西の公爵当主も、かばうのが大変だって、執務室で嘆いていたよ」
「当たり前だ。ファムは、我が国で数十年ぶりに授かった王女。
どれほど、西地方の世襲貴族が、いや、春の国民すべてが、将来の王妃になると期待をかけていたか!
それを台無しにしたのが、若い頃に男遊びで名を馳せていた、あの母親!
だいたい生まれついての王女ならば、そなたの妻のように、貞操観念がしっかりしており、何も知らない清楚な淑女であるはず。そうであろう!?」
当主殿は答え……吠えました。怒りの形相ですよ。
宰相の王弟殿下は、暴れ馬をなだめる仕草をしました。
「どうどう、どうどう。静まれ、静まれ。
ファムが将来の王妃になるのを見越して、兄上が差し向けた家庭教師を、公爵夫人がことごとく追い返して、淑女教育の主導権を握ったから、仕方ないさ。
『娘の教育は、母親の私がやる。これ以上干渉するなら、娘を連れて他国へ亡命する』って、国王をおどすくらい、常識はずれの王子妃だったから。
かろうじて、妻がファムに会うたびに西国の言葉で話しかける方法をとって、子供の頃から、西国の言葉だけは覚えさせることには、成功したけどね」
大きく頭を左右にふりながら、王弟殿下は思い出を語ります。
「まあ、ファムは横に置いといて、今後、発言には気を付けることにする。
確かに、昔の妻はアンジェリーク秘書官と同じことを、皆の前で不思議そうに聞いてきて、両親や兄上たちが答えられずに困り果てていた記憶がある。
私とて、デリケートな質問が多過ぎて、『大人になってから教える』と答えていた。
きちんと結婚してから、ケジメとして、全部の疑問に答えてやったよ」
「あなた!」
何やら大人の会話を交わす、王弟夫妻。
政略結婚のために、十二才で春の国へ寄越された、西国の王女は、真っ赤なお顔になりました。
急いで扇子を広げ、リンゴのような頬を、お隠しになられます。
「ああ、やっぱり可愛い。『私の姫』は、いくつになっても、可憐で清楚な姫のままだね♪」
そのまま髪をなでて、イチャイチャ始める、王弟殿下。
恥ずかしがる奥方を、徹底的に猫可愛がりしております。
「……ラインハルトに、年齢の離れた弟か妹ができるやも知れぬな。
ただし、奥方の年齢から考えれば、出産時に母子共に命の保証はできぬ。
末の息子、ローエングリンを授かったとき、我が妻は死にかけた。
『子供だけは助けて』が、最後の遺言になるかと、医者伯爵家の全員が覚悟したものだ。
分別ある大人なら、そこまで考えて行動するのだな!」
気難しい顔付きで、年下のいとこに警告する、王宮医師長殿。
三男坊のローエングリン様は、次男のお兄様と少し年齢が離れて、生まれました。
医者伯爵家へ輿入れした王女にとって、最後の孫になる人ですからね。
「……子供が見ておるぞ。もう少し、時間と場所を考えてくれ。
そなたたちの仲の良さを咎めるわけではないが、アンジェリーク秘書官が真似をして、ファムのようになっては困る!」
「王都って、破廉恥な文化が発達していますもんね。
さすがに、前回の王太子の婚約者候補たちのマネはしないので、ご安心を」
国王陛下は、弟をしかります。春の王族たちの緊張感の無い会話を聞いていた、室内の人々は、戦々恐々として私を見ました。
まだ子供の私が、変な悪影響を受けないかと、心配してくれているようですね。
皆さんの心配をやわらげる発言をしておきました。
「……北地方って、古風だからな。アンジェに、生まれる前から結婚相手になる、許嫁が決められていたりとか。
恋の駆け引きを、何にも知らない、箱入り娘が当たり前だとか。王都の貴族の女では、考えられんぞ!」
「……貞操観念が、しっかりしてるのは、同意しますよ。
顔へ口づけを落とすのは、夫婦の愛情表情。婚約者でもない他人に、平気で顔へ口づけするなんて、堂々と浮気してると宣言してるのも同じだなんてね」
私がキッパリ、ハッキリ宣言すると、現在の春の国で一番モテる男、王太子のレオナール王子が困惑した声をだします。
王都有数の色男、ラインハルト王子は肩をすくめました。
「あー、北地方には、今でも王家の良き伝統が息づいてるって、兄上は言っていたかな?
善良王の次男が再興した、湖の塩伯爵家。それと、四代目国王の次男が興した、北の侯爵家があるからだろうってね。
それに対して、同じように王家の血を引くはずなのに、西地方の世襲貴族たちときたら……。
北地方みたいに、王家の良き伝統を、きちんと継承して欲しかったよ!」
「おい、ロー。西地方の貴族だった、医者伯爵家のお前が、そこまで言って良いのか?」
「だってさ……聞いてよ、レオ!
残虐王の庶子として生まれた女の子は、革命後に善良王の庇護のもと、王女としての教育を受けたんだよ?
極悪非道な実の父親の所業を恥じて、償いをするため、生涯をかけて、民のために働いたんだ。
現代でも通用する、飲み水用の上水設備とか、汚物を流すための下水構造とか考案したのは、この王女だよ。
だから、晩年は行いを称えられ、公爵の地位と領地を賜り、正式な王族の戸籍に名前を連ねることができたのに……」
残虐王の唯一の子供である、平民の妾の娘は、両親のどちらにも似なかった。養父の善良王に似ていたと有名です。
顔形ではなく、性格や思考回路がね。
「春の国の英雄、善良王の養女だから」と言えば、春の国の人々は納得するのですけど。
「あー、この王女の娘の嫁ぎ先が、医学に秀でる、西国の分家王族だったな。
『発達した医学を春の国に広め、民を病から救いたい』と言う、善良王の願いに応えて、西国の王家は、嫁いだ王女の息子一家を春の国へ寄越してくれた」
「そう、その嫁いだ王女の次男一家が、医者伯爵家の祖先だよ! ちなみに王女の息子の子孫が、西の公爵家ね。
西地方の世襲貴族は、あの高潔な王女の血を引くはずなのに……今となっては、この体たらく。
低知能な残虐王みたいなことを、平気でできる者が多いんだ。
彼らが犯した失敗の尻拭いをするのは、春の分家王族である、我が家と西の公爵だよ!?
世襲貴族である以上、春の王家の血を持つって、いい加減自覚して欲しいね。
どれだけ、王家の血筋をおとしめて、恥をかかせるつもりなんだか!」
ぶちぶちと文句をこぼす、分家王族の医者伯爵家の次期当主。
室内に居た、西地方の世襲貴族は、そっと視線をそらしていました。
本人に心当たりがあるのか、愚痴る王子様がいたたまれなくなったのか、知りませんけどね。
西地方の世襲貴族のうち、文官は西の公爵から。武官は医者伯爵から、枝分かれした家が多いのです。
両者の共通の祖先の中で、世界的に一番有名なのが、極悪非道な残虐王。
なので、西地方の世襲貴族の中には、「残虐王が善良王に負けなければ、子孫の自分達が、こんな風に下の地位にいること無かった!」と考える、過激派思考者が、少なからず出てくるのです。
その結果、善良王の子孫である北地方の貴族に、逆恨みの視線を向け、北地方の貴族も、「これだから残虐王の子孫は……」と侮辱の視線を返しました。
歴代の西地方と北地方の貴族が、仲の悪かった理由だそうです。
私から言わせると、地位が下なのは、本人が努力しない負け犬だからですよ。
きちんと努力を重ねて、実力をつければ、地位を向上させることは可能です。
努力家の代表格なのが、医者伯爵家。先代当主が、跡取り息子時代に、雪花旅一座の秘密にたどり着きました。
その結果、戦争中に王女が輿入れして、王家の血筋を預けられるほど、当時の国王からの信頼を得たのです。
さらに子孫の代で、貴族の三番目の地位の伯爵から、王族に格上げと、大躍進を果たしましたからね。
努力しない代表格が、現在の西の公爵家。
勉強嫌いの花嫁を迎えて、とても王子妃とは呼べない、国の恥になる王族を誕生させました。
更に、おバカの母親の悪影響を受けた一人娘も、おバカの思考回路を身につけ、頭がお花畑に育ちます。
血筋的には、将来の春の王妃に相応しかったのに、知識と性格が最低だったので、堂々と浮気したあげく、王太子の婚約者候補を剥奪されることに。
とうとう、春の王位継承権を放棄して、無期限の留学と言う形で、良識ある貴族から見ると「国外追放」と受け取れる処遇を迎えました。
まあ、実際は軍事国家の圧力をかけて、春の国から追い出したんですけどね♪
「低知能な残虐王のような貴族、西の侯爵がやらかしたせいで、医者伯爵家と西の公爵家は、また尻拭いだよ。尻拭い!
しかも、今度は、雪の王家を激怒させて、春の国は滅亡寸前という、最悪の状況の尻拭い!
常日頃から『春の王族、西の公爵家の親戚』とか、『妹が王子妃、姪っ子が春の国で唯一の王女』とか自慢するなら、それに見合った言動して欲しいよ!」
ロー様は、ここぞとばかりに、愚痴と本音を垂れ流しました。
さりげなく西の公爵家を持ち上げながら、侯爵の血筋をおとしめる発言をしています。
さすが、歴史に名を残す、軍師の家系。利用できる状況は、見逃しません。
とにかく、王族の西の公爵家が手助けできないようにして、侯爵家を排除するように、貴族たちの気持ちを傾けようとしていますね。
「おい、ロー、落ち着け! 中立の王族である、医者伯爵家が、こんなに大勢の前で、特定の貴族を攻撃するのはマズイ!
西地方の世襲貴族が敵に回れば、さすがに医者伯爵家でも、潰されるぞ!」
「西地方の世襲貴族を敵に回したのは、西の侯爵だよ! あんなの恥さらしの見本じゃないか!
あれが西地方の高位貴族に居座るせいで、ご先祖様たちが積み上げてくれた西地方の世襲貴族の誇りも、品位も、転がるように地に落ちた。
おまけに、平民の妾の血を持つ貴族って、春の国中に知られてるから、巻き込まれる形で、平民から貴族になった新興貴族たちまでさげずまれ、言われなき悪評を受けてるんだよ!?
どれだけ、我が家を含む、西地方の貴族全体に迷惑をかけて、総元締めの西の公爵家に恥をかかせているか!」
王太子が仏頂面で忠告しても、興奮している王子様は止まりません。
東と南地方の世襲貴族たちは、目を丸くして、珍獣を見る目付きになっていました。
「物静かで大人しい王子」と知られていただけに、これだけ激昂するなんて、誰も思って居なかったことでしょう。
そして、西地方の世襲貴族は、あちこちで、「そうだ、その通り!」とロー様の意見を肯定しています。
正確には、王家の血筋を誇る、選民意識の塊たちですね。
西の侯爵当主は、平民の妾を祖母に持つため、格下に見て、影であざ笑っている人々です。
「ローエングリン! 止めよ! 我が医者伯爵家は、中立の王族なのだ!
我が妻で、そなたの母親は、南地方の貴族出身。西地方だけをひいきして、発言してはならぬ。
春の国のすべての地方へ、均等に視線を向けなくては、ならぬ!
我らは、貴族から王族になった一族。ゆえに貴族たちの気持ちが、一番理解できる王族。同時に、王族の気持ちも理解できる、数少ない王族。
だからこそ、中立で居なくてはならぬ。次期当主たるそなたが、考え無しに、発言するでない!」
興奮していた王子様を止めたのは、父親のカミナリとゲンコツでした。
ですが、さすが軍師の家系の当主殿。
息子を珍獣のような目付きで見ていた南地方の貴族を、さりげなく取り込みにかかります。
そして、貴族から王族になったことを強調して、東地方の貴族たちの気もひきます。
……本当に、敵に回したくない一族ですよ。
彼らは追い詰められた絶望的な状況からでも、一度参戦すれば、戦局をひっくり返して、自分達の完全勝利へ導くことができる、頭脳労働者たちですからね。
「……医者伯爵家って、本当に苦労しているんですね。西の侯爵の血筋を後押しするために、水面下で頑張っていたのに。
レオ様とファム嬢の婚約内定まで持ち込んだり、ライ様の花嫁に、西の侯爵令嬢を宛がおうとしたり。
当の西の侯爵自体が、医者伯爵の準備したお膳立てを、全部めちゃめちゃにしているから、世話ないですよね。今回の騒ぎも、自業自得ですよ」
私が独り言をもらすと、室内の人々が、一斉に私を見ました。
あれ? 変なことを言いましたか? 思わず、小首を傾げてしまいました。
「……アンジェリーク秘書官。なぜ、そのような考えに至った?」
国王陛下が目を丸くして、意外そうに問いかけてきました。
「えっと……お二人とも、王女と高位貴族の令嬢という立場なので、血筋と立ち振舞いは、地位にふさわしい物を身につけておられます。
春の王女が、そのまま王妃に。王妃のいとこが、王弟の一人息子の花嫁になるのは、ごく自然なことでしょう?
特に王弟妃様は西国の王女なので、次代に当たる王子の花嫁を、春の国内から貰うのは、王家の歴史を振り替えれば、当たり前の選択なのです」
「……簡潔にまとめず、もう少し詳しく申せ。そなたならば、理論立てて説明できようぞ」
「えーと……二代前の王妃は、北地方から。先代王妃は東地方から。現王妃は、南地方から選ばれました。
ですので、西地方から王妃を輩出する順番が来ていましたよね?
将来的には、西地方の貴族に政治の覇権が移りますので、政権をまとめ上げるために、中心になる貴族も必要でした。
また、将来の宰相になる、ラインハルト様に娘が生まれれば、西の戦の国の王妃になる未来が確定しており、春と戦の国の国家の結び付きが強くなりますよね?
西国の王家と春の王家の結びつきを強くするためにも、政権の旗印にするためにも、将来の宰相の花嫁には、西地方の貴族令嬢が必須となります。
そうなりますと、西地方の中でも、分家王族の西の公爵家に花嫁を出した実績があり、将来の王妃と血の繋がりを持つ、西の侯爵令嬢以上に最適な存在は居ません。
ここまで見通しが立っているのならば、西地方の元貴族である医者伯爵家が、表面上は中立でも、水面下で西の公爵家に協力するのは予想できます」
あれ? ……ちょっと、言い過ぎましたかね? 室内の雰囲気が、硬直しておりますよ。
国王陛下が、仏頂面になりました。王妃様と王太子は、揃って氷の眼差しで私を射ぬきます。
王弟一家も無表情になり、探るような視線を送ってきました。
軍師の家系の王子様は、感情の読めない、王家の微笑みを浮かべて、私の発言内容の追及を逃れようとしているようですね。
眉間にシワを寄せながら、医者伯爵家の当主殿が、厳しい口調で問いかけてきました。
「なぜ、子供が、そのようなことを思い至れる?」
「……父方のおばあ様の受け売りですけど……」
子供の外見を活かして、厳しい口調に怯えていると見えるように、泣きだしそうな表情を作り、当主殿を見ました。
消え入りそうな声で、とっさに言い訳をします。
「子供相手に、本気で怒るでない!」
予想通り、国王陛下が注意してくれました。
その隙に、式典のときに国王夫妻が座るイスの後ろへ、隠れました。
ちょこんと顔だけ出して、怯える演技をしなかがら、軍師の当主殿を観察します。
「アンジェリーク秘書官、そなたの祖母は、なんと言っておった?
春の国王として、私も興味があるぞ。きちんと話してくれまいか? うん?」
小さな子供をなだめるように、国王陛下は仏頂面を止めて、優しそうな王家の微笑みを浮かべてられます。
……種明かしをした方が、良さそうですね。おばあ様から助言を受けていたって。
「えっと……四年前、国王陛下のお供で、雪の国との和睦会議に参加する私に向かって、おばあ様はこう言っておりました。
『アンジェリークは、雪の王族の花嫁に望まれて、オデットは春の王族に差し出すことになるだろう。
それも、湖の塩伯爵の血筋から、花嫁を貰うと宣言されている、医者伯爵の次期当主の花嫁に』とね」
泣きそうな顔は変えず、チラチラと医者伯爵当主殿を見ながら、こわごわと発言しましたよ。
「去年、私が王宮に来る前に言われたことを、簡単にまとめると……。
『陸の塩の採掘権は、雪の国には渡せない。だから、アンジェリークかオデットが、医者伯爵家に望まれるはず。
王宮で医者伯爵家の行動を観察して、納得できたのなら、湖の塩伯爵の血筋を預けなさい。
彼らは、春の国の未来のために、必ず役立ててくれるでしょう』って。
だから、おばあ様の言葉にしたがって、医者伯爵家の方々を観察していました。
……今となっては、おばあ様の将来の見通しは、全部当てはまっていたと断言できます。
だからこそ、私は妹を預ける決心をしたのです。春の国の未来のために」
「……ふむ。そなたの祖母は、春の王位継承権を持つゆえ、国内政治に目を向けておき、将来の予想をするのは当然ぞ。
跡継ぎになる息子は死んでおるので、その次の孫世代に自分の考えを語るのは、自然な流れだと思う。
そして、先ほどそなたが述べた、医者伯爵家の行動を、すべて予言していたと。
よく教えてくれたな。そなたの頭の良さは、祖母譲りかもしれぬのう」
国王陛下は、私に近づき、よしよしと頭を撫でてくれました。
観察力に優れる、医者伯爵の当主殿も、私が一部を正直に告げたので、やっと信じてくれたようですね。
「……さすが、善良王の直系子孫と誉めるべきか、恐れるべきか……。
帝王学をしっかり受けておれば、地方に引きこもっていても、ここまで読めるものなのだな。西の公爵夫人とは、大違いだ。
それにしても、我が医者伯爵の策略を見通した上で、すべてを承知の上で、孫娘を我が家に預けてくれるとは……まこと豪胆な」
恐れおののいた様子で、ぼうぜんと呟く、軍師の家系の王子様。
まさか、自分の思考回路を読める人物が、春の国内に居るなんて、思っていなかったようですね。
心の中でだけ言っておきますけど、おばあ様は、最強の母の姑なのです。甘く見ないでください
最強の母と対等に渡り合える、最強の祖母にとって、親子ほど離れた医者伯爵当主殿の考えくらい、読めてしまうでしょうね。
そして、最強の母や祖母に育てられたのが、私です。
大人顔負けの思考回路を持てるのも、納得できると思いますよ。