135話 大人たちと知恵比べですかね?
新たなる人々が「出発の儀」が行われる部屋へ、到着しました。
春の国のトップ、国王陛下。それから、その弟一家ですね。
宰相をしている王弟殿下と一人息子のラインハルト王子。
そして、奥方様でした。王弟妃様は、西の戦の国の王女です。春の国で戦争が起これば、西国も身の振り方を考える必要がありますからね。祖国へ正確な情報を送るためにも、同席しましょう。
揃って現れた人々を見て、武官の王族、医者伯爵当主殿は片眉をあげました。
いとこになる、春の国王へ、お尋ねになります。
「西の公爵家は?」
「先ほど連絡を飛ばした」
「……飛ばした? 王宮におらぬのか? 昨夜は会議が遅くなったゆえ、私と同様に王宮へ泊まったであろう?
西の公爵の離宮は、王宮から少し離れておるぞ」
「今朝早く、帰宅した。奥方が出発の儀式に着る服装を、外出前に見て、誉めてくるためだそうだ。誉めねば、機嫌を損ねるゆえな」
西の公爵家は、すぐには来れないようですね。これは好都合です♪
この場で、国王陛下を巻き込んで、西の侯爵家の処分を決めてしまえば、西の公爵家も親戚をかばえませんからね。
厳しい処分……お家お取り潰しに、持ち込めるかも。
国王陛下の会話に耳を傾けながら、機会を待ちましょう。西の公爵夫人の話題をしていますね。
「あの者が機嫌を損ねたまま王宮に来て、儀式前に人目をはばからずヒステリーでも起こせば、我が国の恥になる。
こたびの儀式には、他国の外交官も参加するのだぞ? 我が国の者だけなら、いつもの事だと貴族たちは見て見ぬふりをするであろうが……」
「王族の一員ならば、回りの目を気にして、人々の見本になるように、振る舞うものだぞ。それを理解せずに、自分本意に振る舞うなど!
西の公爵が、顔だけで花嫁を選ぶから、このようなことになるのだ。王家の血が薄く、教養の無い者を、分家王族の妻にするから!
あの二人が婚約するときも、結婚したときも、我が医者伯爵家を含む、西地方の世襲貴族は、すべての家が最後まで反対した!
賛成したのは、西の侯爵の味方をした、王家の血を一滴も持たない新興貴族たち。
将来のことを何も考えず、平民が貴族に、最後には王族になると言う夢物語にうつつをぬかした者たちだ!」
……珍しく声を荒げる、医者伯爵家の当主殿。西地方の貴族事情が、垣間見えました。
西の公爵夫妻の結婚を望んだのは、私のおじい様が活躍した西戦争のとき、戦場となった西地方の復興に伴い、貴族になった元平民のようです。
復興費用を出したため、貴族の爵位を貰えた、金持ちの商人や農家たち。
医者伯爵をはじめとする、先祖代々の貴族の家系は、全面反対だったようですね。
「王族の花嫁になるなら、勉学に勤め、相応しい立ち振舞いと教養を、身につけるべきだったのだ!
現在の西の公爵夫人は、王子妃教育から逃げ回り、西の公爵当主が甘やかしてかばった結果、王族として最低限の立ち振舞いと教養を身につけておらぬ。
王家の血が薄く、世襲貴族に反対されていた以上、それを覆せるように努力をして、国中の者から認められるべきであった。
現在の王太子の婚約者候補に選ばれている、西地方の伯爵令嬢のように。
あの者は、血のにじむような努力をして、王妃教育にくらいついておる。
王家の血を一滴も持たぬゆえ、王太子の正室には無理かも知れぬが側室や他の王子妃は、なれる人材ぞ」
「……ずいぶん肩入れしておるな。医者伯爵は、中立の王族では無かったか?」
「もう西の侯爵の血筋に、我慢がならぬだけだ! 我が息子、ローエングリンの花嫁に、あのようなうつけ者の娘を押し付けるなど……。
もしも花嫁に迎えるのであれば、王太子婚約者候補の資格を剥奪された世襲貴族の侯爵より、未だに婚約者候補に名を連ねている新興貴族の伯爵を選ぶ!
努力せず国の恥になる置物より、努力して国の花になれる人間を選ぶ!
我が家が貴族のままであれば、置物でも良かったであろうが、春の王族になったのだ。
王族には、王族にふさわしい人間の花嫁を選ぶのが道理と言うもの。そうであろう!?」
拳を握って力説する、分家王族の当主殿。眉間のシワを際出せ、いとこたちに同意を求めます。
当主殿は壇上に居たため、部屋に入ってきたばかりのいとこたちを見下ろしました。
意図せず、怒りの形相が、壇上を見上げていた人々の目にさらされております。
特に西地方の世襲貴族は、驚きの表情をしておりましたね。
元西地方の貴族で、王族に格上げされてから、医者伯爵家が個人的な意見を、人々の前で出すことは無くなりましたからね。
ここまで感情をあらわにするなんて、春の王族になってから、初めてのことなのでしょう。
国王陛下は、年上のいとこに、静かな口調で問いかけます。
「……その様子だと、西の公爵夫人が、ローエングリンとオデットの婚約に反対しておるのだな?
平民の母親を持つオデットを押し退け、貴族の母親を持つ自分の姪を花嫁にしようと、画策していると見える。
公爵当主は、平民の祖母を持つ貴族の娘を花嫁にして、公爵夫人にした手前、反対はせぬよ。反対すれば、自分と奥方の結婚を全面否定することに繋がるゆえ。
また、平民の血を持つ貴族や王族を否定すれば、五代目国王の妾になった、平民の娘を祖先に持つ西の公爵家の存在自体を否定し、ひいては西の公爵から枝分かれした、西地方の全ての世襲貴族を否定することに繋がると、理解しておるもの」
「西の公爵夫人は、春の王族としても、西地方の貴族出身としても、一番してはならぬことをした!
王子妃教育を、きちんと受けておれば、このようなことは起こらぬ。
娘にも、姪にも、自分たちは平民の祖先を持つのだと教え、平民に寄り添い、守護する立場だと諭していたはず!」
「……そなたは、平民の血を持つ王子妃は否定せぬが、勉学をおろそかにしたことを、責めているのだな?」
「その通り! 医者伯爵家は、十八年前、突然、貴族から王族に格上げされることが決まり、我が息子や、弟夫婦や、甥っ子夫婦たちは王族になるため、どれだけ勉強を強いられたか……。
私とて、医者業務の傍ら、王子になるための帝王学の勉強を強いられたのだぞ?
公爵夫人とて、貴族から王族になったのだから、同じだけ努力して勉強を重ねて、当たり前であろうが!」
軍師の家系の王子様は、不満タラタラのご様子。
自分が努力して王子になっただけに、努力しないおバカさんの王子妃が、気に入らないと。
ご先祖様が西国の王族であったとはいえ、春の国の貴族になって、何百年も経ちますもんね。
雪の国の分家王族集団として、未だに帝王学などを教えながら育つ、雪花旅一座と違って、帝王学なんて受け継いでいないでしょうね。
……いや、医者伯爵家のご先祖様が、西国で受けた帝王学は、「医学」と「軍事方面」に偏っていたのかも?
平和な時代は、「権威ある医者一族」として、大陸中に名を馳せています。
また春の国が戦争に巻き込まれると、歴史に名を残す、優れた軍師を輩出してますからね。
西国は、古来から小国が乱立して、あちこちで戦争が起こる、戦国時代が長かったんですよ、
そして、いつしか地域全体を指して「戦の国」と呼ばれるようになりました。
戦争に勝つためには、軍事力が大切です。
国内でケガや病気がはやって国民が亡くなると、戦力になる兵士や、食料を収穫する農民が減ることになり、国の軍事力が低下します。
それを防ぐために、医者伯爵家は医学に特化したと、雪の国では分析されていたはず。
軍師の才能は、戦国時代を生き抜いたご先祖様の経験に、新たな経験を加えて洗練させながら、代々継承していった結果かと。
すぐれた武将と言うのは、刃を交えずして、その前段階の情報合戦で勝利するものだと、私の父方の祖父は言っておりました。
西国との戦争時代に意図的に噂を流し、噂を信じて油断した西国に大勝利したのが、私のおじい様「北の名君」ですからね。
「北の名君」のあだ名を付けたのは、医者伯爵出身の軍師なので、若い頃のおじい様は、よっぽどの知将だったのでしょう。
……いかん、思考が横道に反れていました!
国王陛下と医者伯爵当主殿のいとこ会話を、聞き逃してしまいましたよ!
考えることに没頭して、周囲をおろそかにする、私の悪い癖が顔を除かせていましたね。
えーと、現在は……?
「紅蓮将軍だと!?」
あっ、おじ様の話題に移っていましたか。国王陛下が、驚きの声を出しています。
医者伯爵当主殿は、冷静さを取り戻して、応じておられました。
「うむ。数日前に雪の国の政権が、北の公爵家から、東西の公爵家に移ったのが、大きな理由であろう。
紅蓮将軍の花嫁は、雪の国の内乱時に殺されず、生き延びることができた、数少ない東の公爵の血筋。
ならば、こたびの春の国訪問は、雪の東の公爵家の代表として、実の姪の様子を見るために、訪れたと考えられる。
姪の一人オデットは、我が息子ローエングリンと婚約しており、国内や周辺国家へ正式に知らせるための婚約発表を控えておるからな。
使節団長にならず、王族の身分を隠したのは、春の国に気を使わせぬためであろう」
四年前の雪の国の内乱のとき、内乱の首謀者は、自分が国王になるために、まず邪魔者をこの世から排除しました。
排除したのは、「雪の国の軍神」と呼ばれる、東の公爵本家の人々。
……私の母方の親戚たちです。
おじ様一家は、外交船旅に出ていた雪の王太子のお供をしていたので、命拾いしました。
急いで帰国後、防戦一方だった西の公爵家「雪の国の守護神」や、分家王族である雪花旅一座と協力して、内乱を鎮圧したと。
このような経緯があれば、雪の国王は、東西の公爵に信頼を寄せましょう。
内乱鎮圧に、北の公爵も頑張っていたのですが……内乱の一番の原因となったボンクラたちを、北の公爵出身の宰相が、当時のもうろく国王をそそのかして、勝手に雪の王太子の養子にした辺りで、信頼度はガタ落ちですよね。
現在の雪の宰相は北の公爵出身でして、なんとか権力を維持させるべく、身内の尻拭いに奔走していましたけど。
政権交代は、起きるべくして起きた出来事と言えます。
むしろ、四年間も東西の公爵が沈黙していた方が、不思議ですけど。
一番めんどくさい、内乱処理をさせていたんでしょうね。私がおじ様の立場なら、絶対そうします。
春の国へ逃げていた難民たちが帰国できるくらい、状況が落ち着いたのと、ボンクラ養子王子たちが、私を手に入れるため、春の国へ戦争を吹っ掛けようとしたので、おじ様たちが動いたと推測できます。
おじ様の話題は、まだ続いていますね。国王陛下も、おじ様が、うちの母の再婚相手と思っていたようです。
その理由は、医者伯爵家の当主殿が教えてくれましたけど。
「ふーむ。おじ上か……アンジェリーク秘書官の新しい父親では無かったのか? 春の王族全員の意見が、一致していたと思うが」
「うむ。雪の国から何度も北地方へ訪れた赤毛の使者が、『北地方の最後の貴族一家へ、雪の国へ来るように説得していた』と言う情報がある。
王宮で見掛けた、子供たちのなつき具合を合わせて考えれば、幼い子供を抱える未亡人の再婚相手と判断するのは、至極当然だ。
さすがに、雪の王族で、騎兵隊長と言う名誉ある立場の人物が、隣国に何度も足を運ぶなど、春の国の常識では考えられなかったゆえ」
「春の国の北地方の貴族は、血族意識が強固ゆえ、そこから考え直すと納得はできるが……。
紅蓮将軍は、祖母より北の侯爵の血を受け継ぐのだ。最後の北地方の貴族となった妹を説得し、自分が後ろ楯になって、雪の王族として迎え入れたかったのであろう。
特に、アンジェリーク秘書官は、将来の雪の王妃にと、雪の国から強く望まれていた存在。
雪の国王も、将来の王妃を手に入れられるのならば、隣国を訪れることを許すであろうな」
……今のおじ様は、私が雪の王妃になることを、望んでいませんけどね。
北国へ留学中の父方のはとこジャックが、私がボンクラの花嫁になることを拒否していると伝えて、何度も説得してくれた結果です。
雪の分家王族、東の公爵家に名を連ねるおじ様は、現在では公爵当主代理の肩書きを持つので、なかなか雪の国での権力が強いんですよ。
私の実のおじ様と言う立場も加われば、政権交代した現在では、私の結婚相手に関して、雪の宰相に匹敵する発言力を持つでしょう。
「なぜ、紅蓮将軍だと、春の国の者は気付かなかったのだ?
西の公爵当主や、捕虜になっていた騎士たちは、顔を知っておろう!」
「……紅蓮将軍と言えば、赤毛と豊かなヒゲが代名詞であったからな。
四年前に対峙した西の公爵も、開戦前の問答で、ヒゲの存在を確認しておる。
捕虜になった騎士たちも、赤毛とヒゲで、紅蓮将軍と理解したと言っていた」
……おじ様って、我が家に来るときは、ヒゲそってから訪問していましたからね。
私が赤ん坊の頃に、ヒゲを生やしたまま頬擦りして、私が痛さで大泣きしたそうです。
妹である私のお母様が激怒して、ヒゲをそるまで、子供には合わせない!と、宣言したとか。
以降、おじ様は、妹や姪っ子たちに嫌われないように、ヒゲ剃りしてから訪問。
帰国するころには、無精ヒゲが生え始めており、ヒゲ面のまま騎兵隊に復帰を繰り返していたようなので。
「ヒゲを剃った素顔など、雪の国でも知られていないのでは?
そうでなければ、こたびの副使節団長が、夜会のときに紅蓮将軍に酒を取ってこさせるなど、しないであろう」
医者伯爵家当主の言葉に対して、春の王太子、レオナール王子は、変な所に反応しました。
そばにいた医者伯爵の次期当主ローエングリン王子に、確認するように聞きます。
「酒をとってこさせた? 紅蓮将軍に? 貴族が、王族を使用人のように扱って? ローは、知っているか?」
「……えーと? あっ、うん。二日目の夜会のときとか。自分も見たよ。
一緒にいたオデットが『おじ様……一番下の立場だから、仕方ないのですね』って、ため息ついてた。
あれで、赤毛の外交官が、オデットと親密な関係にあるって、察したんだけと……実のおじ上だとは思わなかったよ」
レオ様は、ロー様の言葉に、目を丸くしました。
いつの間にか、壇上まで上がっていた、ラインハルト王子は、私に目を向けます。
「アンジェ。雪の国では、上下関係が厳しいのでありませんでしたか?
貴族が、王族を侮辱したら、処罰されますよね。
今年の春、雪の王位継承権を持つアンジェを格下に見た、南の公爵当主に就任予定だった貴族は、平民に落とされたのでしょう?」
「……おじ様自身は気にしていないと、思いますよ。今回の使節団の中では、新人外交官として、一番下っ端ですし。
厳しい軍隊の上下感覚で、新人は上司に逆らわないものと思って、行動しているはずです。
王家との面談のときだって、何一つ、口を挟まずに、他の外交官たちとのやり取りを観察していたのでしょう?
まあ、副使節団長殿が、おじ様の身分を知らないのは、正解です。
南方の国々の外交官と対等に渡り合える、知性派王族が同行すると知っておれば、おじ様を使節団長に推薦していたはずですから。
ちなみに使節団長殿は、団長を固辞しようとしたそうですが、おじ様が頭を下げて『団長になってくれ』と頼み込んだので、団長になりました。
あの方はおじ様が雪の王族と理解しているので、春の王族との面談のときには、必ずおじ様を同席させていたでしょう?」
「……つまり、今回の副使節団長は、雪の国へ帰国すれば、処罰されると?」
「雪の国王が時々やる、貴族の力試しですよ。春の国王陛下だって、今年の春にやられたでしょう?
雪の王弟が私を雪の王妃にするために、迎えにきたとき。
まず、始めに合格したのは、王宮騎士長殿と外務大臣殿です。あのお二方は、歌劇『雪の恋歌』に出てくる雪の天使、『雪の王家出身のアンジェリーク王女の血を一番濃く受け継ぐ娘として、雪の国へ輿入れして欲しい』と私を説得しに来ました。
私たち五人兄弟が、春の国で国王陛下や王太子以上に、善良王の血を濃く受け継いでいると知っていたのです」
国王夫妻の座る椅子に寄りかかったまま、性別を超えた親友に説明してあげます。
口達者な私に、発言の機会を与えたのです。思う存分、活用させてもらいましょう。
「次に合格したのは、私の代わりに、雪の国の王家へ輿入れさせる貴族令嬢を推薦した貴族たち。
身内や親戚の娘や孫を『遠い祖先が、北の侯爵の血筋を持つことを理由に推薦した』、五つの貴族です。
北の侯爵家は、雪の国の王位継承権を持っています。そこから考えれば、北の侯爵の血筋を持つのが、雪の国への輿入れとして最低条件と思い至りましょう。
彼らのうち、四つの家の若者は、王太子の新しい側近に任命されましたよね? そして、私を『雪の天使の姫』と呼んでいます」
室内の人々が、不思議そうな顔つきになっていました。
ちっ! 思考回路が戻って来ましたか。そのまま、思考停止していれば、良いものを!
仕方ないので、ご先祖様の権力をお借りしましょう。
「ご理解できていない方々。さすがに、王家の古い言い伝えは、ご存知ですよね?
『白き大地の白き宝を制する者は、国を制する。雪の天使は、白き宝を守る』と言う、善良王の言い伝え。
白き宝とは、陸の塩のこと。雪の天使とは、白き宝を守り、春の国を守る者のことです。
私の場合は、父方の祖母より、湖の塩の採掘権を受け継いだので、『湖の塩を守る、雪の天使』となります。
すわなち彼らは、私を王家の血を持つ高貴な血筋と知っているから、『湖の塩伯爵のひ孫の姫』『善良王の直系子孫の姫』と呼んでいるのですよ」
彼らは、本当は『雪花旅一座が、現役の雪の王族』だと、たどり着いた、切れ者の貴族たちなんですけどね。
ちょっと言葉を濁して、伝えました。雪花旅一座の血筋が、『雪の天使そのもの』だと、察されないために。
「彼らは、私を……陸の塩の採掘権を雪の国に差し出して、春の国を守ろうとした、王宮騎士団長殿や外務大臣殿と反対の行動を取りました。
『春の国の宝である、塩の採掘権は絶対に渡せない。雪の国が欲しいのは、アンジェリーク王女の子孫の血筋らしい。
だから、同じ子孫で塩の採掘権を持たない娘を差し出して、春の国を守ろう』としたのです。
春の国の未来を守るためは、雪の国へ差し出す、人柱の花嫁が必要です。
私の身代わりになる、人柱の花嫁を出そうとした彼らは、まごうことなき、春の国の忠義ある家臣の貴族。王太子の側近になれるのは、当然でしょう?」
ちらりと視線を走らせて、室内を見渡します。
よし、室内の空気は支配した!
「こんなことまで、言いたくなかったですけど……子供目線でも、おかしいと思えるのです。
先ほどの王太子の側近を輩出した家々と比べて、西の侯爵一家の行動を、どう思いますか?
西の公爵夫人になった、侯爵当主の妹の言動を、どう思いますか?
血筋にあぐらをかき、努力もせず、勉強もせず、無知を良しとして、貴族としての最低限の教養も、立ち振舞いも、身に付けて居ない人たちを。
親の後ろ姿を見て、子供は育つと言いますよね? 西の公爵夫人を見て育ったのが、あのファム嬢。そして、西の侯爵当主を見て育ったのが、あの侯爵令嬢です。
私の父親は、六年前に亡くなったので、うちの末っ子のエルは、父親と言う存在を知りません。
末の妹は、去年、王宮にやってきて、国王陛下や王弟殿下と毎日顔を合わせることになりました。。
生まれて初めて、一日中共に過ごす、父親代わりになる存在に接したのです。その後ろ姿を見て、成長したのです。たった半年間とは言え、影響力は絶大ですよ。
うちの末っ子と、西の侯爵家の血を持つ娘たちを比べれば、一目瞭然ですよね?」
うちの末っ子は、幼子の居ない春の王宮内で、半年かけてアイドルの地位を築き上げましたからね。
西地方の世襲貴族と言えども、目尻を下げて、笑顔で接してくれるのです。
小さな子供の頃から、母親譲りのヒステリーを発揮してきた、ワガママ王女。
素直に感謝してお礼の笑顔をふりまき、ごめんなさいが言えて、きちんと反省する貴族の子供。
この二人を比べて、どちらが可愛く思えますか?
王宮内の人々は、問答無用でうちの末っ子を、支持してくれると断言できますね。