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134話 おじ様の友情が、私の奥の手です

 軍事国家である北の雪の国で、王族の一員として暮らしている私のおじ様を、救世主に見えるように、仕立てあげました。

 春の国の王妃様と、王太子のレオナール王子を筆頭に、今、この場に居る人々は、おじ様を「春の国の英雄、善良王の子孫」と意識していることでしょう。


 さて、そろそろ、他の春の国の王族たちも、この部屋に駆けつけてくるんじゃないですかね?

 私の予想では、彼らが一番だと思います。


「失礼する! 『春と雪の国が戦争になる』と言うのは、まことか!?」

「切羽詰まったアンジェの声が、廊下中に響いたって、皆、真っ青なんだけど!」


 来た来た♪ やっぱり彼らでしたね。

 歴史に名を残す、軍師の家系。春の国で唯一の武官の王族、医者伯爵家!


 先ほど、わざと王宮中に聞こえるような大声を出して、春と雪の戦争を思わせることを言いましたからね。

 この部屋の前で、警備体制の最終確認をしている騎士たちが聞けば、春の王族たち……国王陛下や西の公爵当主、医者伯爵家に連絡しに走ってくれると思ったんですよ。

 報告を聞いて、王族の中で一番にやってくるのは、春の国の軍部のトップに位置する、医者伯爵家だと予想しました。

 軍事国家の(おさ)、雪の国王ですら一目置き、敵に回したくない武官の一族ですからね。


 彼らは、「中立の王族」に見せ掛けて、実際は国王派である私の味方です。

 そして、軍師の家系だけあり、頭をフル回転させるのが得意です。

 会話を重ねれば、私の狙い「西の侯爵家を排除して、分家王族の西の公爵の権力をそぎ落とす」に気づいてくれるはず。

 特に、医者伯爵家の次期当主夫人は、私の妹オデットがなる予定です。

 うちの妹の恋路を邪魔する西の侯爵令嬢を、何が何でも蹴落とす方向に向けてくれるかと。


 将来の妹の家族たちに、大いに期待していますよ!



 朝の団らん中だったのか、くつろいだ衣服姿で、医者伯爵家の親子は室内へ入ってきました。

 衣服に似合わぬ、険しい顔つきのお二人は、まず壇上から振り返った王妃様と王太子の姿を認め、一直線に近づいてきました。

 次に国王夫妻の座る予定の椅子に、寄りかかっている私を見つけます。


「王妃とレオナールも一緒なのか……ならば、アンジェリーク秘書官の発言の真否を問いたい。

春と雪の国が開戦しそうと言うのは、まことか?」


 医者伯爵家の当主殿は、壇上へ上がりながら、緑の瞳で王妃様を見据えられます。

 険しい顔つきのまま、質問を投げ掛けました。


「……ええ、我が国の貴族が、雪の国の王族を侮辱しました。

雪の国の怒りを解かねば、全面戦争になる可能性が高いでしょう」


 王妃様は、再び顔を青ざめさせながら、要点をまとめて発言しました。

 眉間にシワを寄せて、医者伯爵家の当主殿は沈黙します。


「……レオ。なんで、雪の国が怒ったわけ?」


 次期当主のローエングリン様は無表情で、はとこになるレオ様に、お尋ねになります。

 続けて私を見たので、私が怒ったと思っているようですけど。

 私は雪の国の王族の戸籍を持っているので、雪の王族に間違いはありません。

 ですが、激怒した雪の王族は、おじ様です。将来の義理の弟の誤解を解くために、簡単に説明しました。


「ロー様は、一昨日の謁見室の騒ぎと、発端となった商務大臣親子の発言をご存知でしょうか?」

「うん。知ってるけど?」

「ならば、話は早いです。商務大臣親子に直接侮辱の言葉を吐かれ、二人を連れて謁見室に乗り込んだ雪の国の使者は、私のおじ様です。

雪花旅一座の座長の次男で、うちの母にとって二番目のお兄様」

「えっ?」

「軍師の家系である、医者伯爵家の方々には、『雪の国の騎兵隊の赤毛隊長』と、紹介した方が分かりやすいかもしれませんね」


 商務大臣……西の侯爵家をかばうためか、言葉を濁しかけたロー様に向かって、簡単に教えてあげました。

 大きく反応したのは、父親の方でしたけど。


「まさか、『紅蓮(ぐれん)将軍』なのか!?」

「紅蓮将軍? なんですか、それ?」

「……大陸最強の騎士。騎馬の申し子。炎の軍神。紅蓮将軍。

これらは全て、雪の国の騎兵隊を率いている、赤毛の騎士を指す言葉だ」

「……なんですか、その物騒なあだ名の数々! おじ様って、そんなに血も涙もない騎士に見えますか?

あれでも一応、善良王の子孫なんですよ!?」


 雪の国で呼ばれる、紅蓮将軍のあだ名は知っていましたけど、それ以外は初耳です。

 不満そうな顔つきを作って、医者伯爵家の当主殿を軽くにらみました。おじ様は、春の国の英雄の子孫だと強調してやります。

 相手は、眉間のシワを際立たせながら、言い訳しましたよ。


「そう言うわけではないが……二十五年前、東の倭の国で活躍した、赤毛の若者の話は有名だからな。

あの若者が雪の国の騎兵隊に居ると分かった頃から、噂が独り歩きして、大陸中であだ名が増えたのは仕方あるまい」

「……確かに、あれが元で、おじ様は大出世しましたからね」

「しかし、騎兵隊長から外交官に転職するとは……。将来は、騎兵隊と弓騎兵隊を率いる騎馬将軍か、雪の国の軍事トップの騎士団長になると思っておったぞ」

「待って、父上! 騎士から外交官になれるものなの? めちゃくちゃ畑違いだよね!?」

「ローエングリン。外交手腕に優れる、アンジェリーク秘書官のおじ上なのだぞ?

経歴も、雪の王立学園を次席卒業していると発表されている。ちなみに同学年の首席は、東の倭の国の現国王。

このような優秀な人物に、外交ができない方がおかしい。

春の王宮に到着後、春の国王をはじめとして、私を含む春の王族が、軒並み何度も顔を合わせて、誰も騎士だと気付かず、外交官と信じていたのだ。

雪の騎馬隊長が、どれだけ文武両道に秀でた存在か、理解できるであろう」


 ……なんで、姪っ子の私を、引き合いに出しますかね? 私の外交手腕と、おじ様の努力は関係無いでしょう?

 世界最高峰と呼ばれる学問機関で、二位を取るのが、どれだけ難しいか。

 雪の国より劣る、春の国の王立学園で、私が首位を維持するだけでも大変なのです。おじ様の苦労は、想像できますよ。


「……あの者が、あの紅蓮将軍でしたか……。

王族の一員なのに、使節団長にもならず、一般外交官として振る舞っているとは、思いもしませんでした。

紅蓮将軍は、雪の王族の中では、海の王家の血と特徴を持つ、数少ない人物。

昔から我が国を通って、雪の国へ向かう『南の海の国』や、『海洋連合諸国』の各国の外交官は、『雪の国へ行ったら、一度はお目にかかりたい、雪の王族』と言いますからね。

そこから考えれば、外交官並みに、南方の国々との付き合いがあると思いますよ」


 扇子で青ざめた口元を隠しながら、王妃様は発言します。さすが、外交に強い南地方の貴族出身ですね。

 国際情勢について分析しながら、王妃としての意見を述べられますか。


「ちなみに、王妃様は、おじ様を見て、どんな風に思われていたのですか?」

「……アンジェリーク未亡人の再婚相手となり、あなたたちの新しい父親になる外交官だと」

「はい? 私の父親?」

「うむ。私も同感だった。オデットが『おじ様』と慕っていたゆえ、聞いてみれば『お父様のような方です』と嬉しそうに話してくれたからな」

「……うん。父上は、『オデットは、私の娘だ!』と、やけ酒あおって、翌日は二日酔いで一日寝込んだくらい、ショック受けてたもんね」


 この直後、おしゃべりな息子のロー様の頭に、無言の父親のゲンコツが降り注ぎました。

 ……二、三日前、平日なのに医務室に姿が見えないから、不思議に思っていたんですよね。

 やけ酒をあおるくらい、オデットを大切に思ってくれているのなら、姉として安心して妹を預けられますけど。


 軽く咳払いをしたあと、気難しい顔つきのまま、ロー様の父親……妹の将来のお父様は話し始めます。


「話を戻すが……紅蓮将軍を敵に回せば、春の国に勝ち目は無いぞ。大陸最強の軍隊、雪の騎兵がやってくる。

それに加えて、東の倭の国王が『紅蓮将軍は生涯の友』と豪語しているゆえ、東国も共闘宣言を挙げて、春の国へ最強歩兵を向かわすであろうな」

「さすがに、北と東から同時に攻められたら、守りきるのは難しいかも。

北地方の貴族は、紅蓮将軍の妹一家だから、雪の国の味方をするだろうしね。

そうなれば、王都を捨てて南下……いや、海に追い詰められると逃げ場が無いから、西地方へ移動かな?」


 武官の分家王族の長は、冷静に将来の見通しを挙げました。

 息子は、のんきに逃げる経路を考えはじめます。


「おい、ロー! せめて、王都を守る意見を出してくれ!」

「レオ、無理。絶対に守れない。だから、医者伯爵家は、王都を捨てる提案をする。

理由を説明してあげるけど、北地方の騎士団は消滅しているから、雪の国の軍隊に対応できないんだ。

それどころか、唯一の北地方の貴族のアンジェたちは、紅蓮将軍の親戚だから、春の貴族を辞めて、雪の王族になる可能性が高いね。

そうなると、必然的にアンジェのおじい様、『北の名君』も雪の国の王族の一員になるよ。

そして、北の名君率いる元義勇軍の兵士たちは、軒並み雪の国の軍隊入りするってわけ」

「ぐっ……北の名君が、敵に回るのは痛いぞ!」

「それに加えて、雪の国の属国である、東の倭の国が挙兵して攻めてくるだろうね。だから、東地方の騎士団は動かせないよ。

雪の国へ対応させるためには、南地方の騎士団を移動させることになるけど……あっちは海上戦を想定した、艦隊が主力だから、陸上戦は期待できないよね?」

「……なら西地方へ移動するしか、道は無くなるのか」

「んー、まあ……西地方へ行ったところで、春の国の滅亡が、ほんの少し遅くなるだけかな?

西地方の騎士団は、四年前に、紅蓮将軍の率いた騎兵隊に完全な敗北をしているから、勝つことは難しいと思うし。

西の戦の国へ助けを求めても、軍事国家に逆らってまで、軍隊派遣するわけないって。

西国へ亡命を望んでも、受け入れてくれるのは、ご先祖様が西国の王族である、我が医者伯爵家。

それから、現在の戦の国王の娘と孫に当たる、王弟妃様とラインハルトだけだね」


 わめく王太子へ向かって、冷静に意見する、軍師の家系の王子様。

 政治には疎いですが、軍事方面には、強い人ですからね。

 春の国が勝てる要素が全然無いと、正しく把握しておられます。


「……西国には、ファムが留学しているだろう? そっち方面の助力は見込めないのか?」

「ファム? 戦争勃発の報告が西国へ伝わると同時に、拘束されると思うけど。

だって、ファムの母上は、雪の王族を侮辱した、西の侯爵家の出身なんだよ?

戦争を誘発した貴族の血筋を持つんだから、雪の国へ突き出されるって。

最終的には、雪の国王の前で、公開処刑されるんじゃないかな」


 おおっ! レオ様、ナイス質問!

 私たちの敵である、西の公爵家の一人娘、おバカさん王女のファム嬢を話題にしてくれましたよ。

 将来の義弟も、私の望んでいた解答をしてくれます♪


 この問答は、室内に居る、西地方の世襲貴族たちも聞いていますからね。

 彼らにとって、王太子よりも大事なファム嬢を守るためにも、西の公爵当主に侯爵家を断罪するように、こぞって進言するでしょう。

 一人娘が処刑される可能性を聞けば、西の公爵当主は奥方の実家とは言え、西の侯爵家を切り捨てる判断をするかと。


 選民主義の塊である、西の公爵当主にとって、平民の血を持つ西の侯爵一家を庇って生かしておくより、王家の血を持つ自分の娘を生かす方が、一万倍以上価値があるはず。

 ……おバカな西の公爵当主は、自分の祖先も、五代目国王の妾の娘だと言うことを、忘れているんでしょうけどね。


 さて、春の王太子と、軍師の家系の王子様の会話は続きます。


「……春の国が生き残る方法は?」

「そりゃまあ……紅蓮将軍の怒りを鎮めるのが、一番簡単だと思うけど……。

相手は、雪の王族の肩書きを背負っているからね。オマケに、倭の国王と個人的友情を結んでる相手。

雪と倭の国が納得する形に持っていかないと、春の国は滅亡すると思うよ」

「……くっ。怒らせた相手が悪過ぎるぞ!」

 

 同感です。私が使いたくなかった、最悪の最終手段ですからね。

 なんで、よりによって、おじ様に雪花旅一座を侮辱する言葉を、聞かせるんですか! 西の侯爵家め!


「せめて、東国を遠ざけられないか?」

「そっちも無理だと思う。紅蓮将軍は、倭の国王の命の恩人だからね。恩人のためなら、倭の最強歩兵を動かすと思うよ。

レオだって、知ってるでしょう? 二十五年前に、紅蓮将軍が、大陸に名を轟かせた出来事を。

大陸全体が戦火に巻き込まれそうだったのを防いだのは、一応、紅蓮将軍なんだからさ」


 一つ年下の王太子の言い分に、肩をすくめながら、ロー様は答えます。

 眉間にシワを浮かべたまま、気難しい顔つきになる、ロー様の父親。


「……二十五年前か……当時の東国の王位継承争いは、我が国をはじめとする、近隣国家の火種であったな。

保守派の第一王子と改革派の第二王子。特に第二王子が、倭の国王になっておれば、再び我が国に戦争をしかけてきたであろう。

東国が雪の属国になったのは、春の国のせいだと、公言する王子であったから」

「よく言いますよ。陸の塩の採掘権を狙って、無力な貴族の娘を誘拐しようとした、犯罪者のご先祖様のせいでしょう?

雪の国は犯罪者たちを懲らしめるために、春の国に力を貸して、正義の鉄槌を食らわせただけです!」

「……辛辣(しんらつ)だな、アンジェリーク秘書官」

「現在、陸の塩の採掘権を持つ身として、事実を正確に述べただけですよ。

それでは、おじ様が『紅蓮将軍』と呼ばれる、きっかけの続きをどうぞ」


 独り言を聞きとがめ、思わず、横やりを入れてしまいました。かなりの嫌味を込めてね。

 医者伯爵家の当主殿は、眉間のシワを浮かべたまま、話を続けます。


 ……話してくれて、助かりますよ。

 おじ様の武勇伝を楯にすれば、東国の独立運動首謀者は、表だって、私たちに手が出しにくくなりますからね。

 まあ、独立運動をするってことは、属国を良しとして受け入れている、倭の国王の敵と言うことになります。同時に、おじ様の敵であり、雪の国の敵。

 雪の王族と親しい、現在の倭の国王を排除しなければ、東国の独立は難しいでしょうから。


「我が国をはじめとする周辺国家としては、第一王子に王位を継いで欲しかった。春と倭の戦争が勃発すれば、必然的に雪の国も出てくるからな。

雪の国の恐ろしさを知る、当時の国王も、第一王子を王太子にしたかったようだ。

だが、当時の東国の世論は、第二王子を推していた。東国の貴族と過激派軍部もな。

第二王子は、過激派軍部を後ろ楯に、武力で王太子になろうと画策。

第一王子を亡き者にしようと、過激派の最強歩兵を動員して、地方へ視察中の第一王子を襲撃したと聞く。

弟が兄を殺そうとするなど……かの残虐王の犯した大罪を実行しようとするなど、正気の沙汰では無い!

医者としても、精神に異常をきたしている、狂った者だとしか思えぬ!」


 ……春の国には、父親と弟を殺して国王になった、五代目国王の残虐王がおりましたからね。

 血縁殺しは、最悪の殺人罪とされます。

 分家王族の一員として、医者伯爵家の当主殿が発言したことにより、二十五年前のおじ様の敵は、春の国にとっても敵だと認定されました。


 この武勇伝が終わる頃には、おじ様の好感度はうなぎ登り!


 ……に、なると良いのですが。むしろ、恐怖感が増すかもしれませんね。

 なんせ、おじ様は「私の使いたくなかった最悪の最終手段」ですので。


「第一王子の護衛をしていたのは、倭の国の軍隊の中では、最弱とされる騎兵隊。

反乱軍に取り囲まれていた第一王子を窮地から救いだしたのは、赤毛の若者だった。

赤毛の若者は、歩兵に臆する騎兵から馬を借り受け、弓を射ながら第一王子を救いだした。赤毛が縦横無尽に動くその姿は、まさに『踊る炎、紅蓮のようだった』とか。

弓騎兵の特徴は、馬を思い通りに操る、優れた馬術から始まる。両手を離して弓を射る腕力やバランスなど、かなりの技術が必要とされる。それから……」

「医者伯爵当主殿。『東国の歴史上、初めての弓騎兵となったのは、紅蓮将軍』と、一言で終わりますよね?」

「……うむ」


 うんちく説明が長くなりそうだったので、強制的に終了させました。

 眉間のシワを濃くして、医者伯爵当主殿は、話をつづけます。


「危機を脱した第一王子は、紅蓮将軍や護衛の騎兵と共に、倭の王都へ、引き返した。

騎兵と歩兵では、進める速度が違うゆえ、紅蓮将軍は逆手にとって、第二王子より先に倭の国王に面会を取り付けた。

その結果、第二王子は反乱軍と認定され、父親である国王の派遣した正規軍に捕らえられることに。反乱軍に荷担したとして、過激派軍部たちも、拘束された。

そして、当時の雪の国王が東国へ赴き、目の前で第二王子や過激派たちを、自らの手で処刑したのだ」

「えーと……雪の国王は、東国の反乱を察していたとか。だから、学生時代に第一王子と親交のあったおじ様を、東国へ向かわせたらしいですね」

「……正直、雪の国の先読みは、恐ろしい。騎士一人を密かに派遣するだけで、東国の反乱を最小限の被害で抑えてしまった。

一人で反乱を抑えるという無茶な命令を、やりとげてしまった紅蓮将軍も、紅蓮将軍だがな」


 あきれたような、畏怖するような、複雑な感情を込めた声音でした。


「……おい、アンジェ。お前のおじ上は、とんでもない人物だな」

「そうですね。味方にすれば、この上なく頼もしいのですが、敵に回すのは、死んでもしたくないです。

紅蓮のあだ名の通り、常に燃え盛る炎のような人ですからね。

東国へ派遣されたときも、兄殺しと言う大罪を犯そうとした第二王子には、正義の炎を。殺されかけた第一王子には、友人の灯火を向けていたんだと思いますよ。

だって、春の国の英雄『善良王の子孫』なんですから」


 ジト目で見てきた親友に、冷静に答えてあげました。

 色とりどりの花を胸元に抱えたレオ様は、花の根元をきつく握りしめ、苦々しげな声を出します。


「……紅蓮将軍が倭の国王を救っている以上、あの二人が生きている間は、雪と倭の強固な絆関係は揺るがんだろうな。

もしも、春と雪の戦争になれば、倭の国王は借りを返そうと、最強歩兵を派遣するであろう。

そうなれば、春の国は間違いなく滅ぶぞ!」


 ……そう、これが私が倭の国の軍隊、最強歩兵隊を動かせるツテです。

 現在の倭の国王に、おじ様は大きな恩を売っているため、おじ様経由で頼めば、軍隊を貸してくれるはず。

 特におじ様の姪っ子の私は、東国が昔から欲しがっている、「陸の塩の採掘権」を持つので、私の存在をちらつかせれば、東国は食いつくかと。

 私に貸しを作れば、私の子供か孫から花嫁を貰えると考えるでしょうからね。


 ……まあ、私の子孫が東国へ輿入れするなら、塩の採掘権と二つの王位継承権は、結婚直前に放棄してからかな。

 雪の国も、東国へ渡すのを許さず「大陸の覇者」の地位を利用して、春と倭に圧力をかけて、絶対に放棄させるのが見えていますし。

 未来の心配をすることなく、強い軍隊を借りられる奥の手は、持っておきましょう。


悪の組織の女幹部(アンジェリーク秘書官)は、外交をはじめとする、交渉手腕に優れる。

そして、悪の組織の博士(ローエングリン王子)は、軍師を兼ねることができる。


彼らを配下に収める、悪の組織のボス(王太子レオナール)は、自身の圧倒的なカリスマ性を用いて、部下の言動を利用し、国民を洗脳していくのである。


……女幹部も、博士も忘れていた。

ボスは理想の未来を実現させるためなら、細かい所までこだわり、小さな努力の積み重ねを惜しまない腹黒だと。


ボスは、女幹部のおじの話を通じて、女幹部が善良王の子孫だと、国民の中に密かに刷り込んでゆく。

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