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126話 選ぶ? 誰が? ……わたしが?

 ようやく、王太子の書類のうち、「至急確認」が、片付きました!

 長かった……本当に長かった……。


 残りの書類は、視察から帰宅後に確認してもらいます。

 居残りしていた、財務大臣や王太子の側近仲間と一緒に会議室へ向かいました。

 突然決まった、東の倭の国と、北の雪の国の王族たちの訪問について、夜九時から、緊急の会議が開かれることになったのです。

 参加者は、先代国王夫妻や、その息子夫婦たち、分家王族の医者伯爵一族、私の宿敵である西の公爵当主。

 それから、西の公爵派の大臣も、国王派の大臣も、王宮騎士団長も、東地方の辺境伯も、室内に勢揃いです。

 うちの弟とはとこも、関係者として、呼ばれました。ただ、母の姿が見えないのは、不思議でしたけど。

 うちの下の弟と妹を寝かしつけるためと、現在の当主は娘の私なので、私に判断を任せるとの伝言を、弟からもらいました。


 会議室に到着するなり、私と一緒にきた王太子のレオナール王子と、先に来ていた医者伯爵家のローエングリン王子が、国王夫妻と医者伯爵家当主に呼ばれて、別室に行きました。

 不審げな眼差しで、眠気覚ましのお茶を飲みながら、西の公爵が五人を見送ります。


 レオ様と同い年のラインハルト王子が、不思議そうに私に近付いてきて尋ねました。


「アンジェ。レオとローは、どうしたのでしょうかね?」

「さっき、レオ様とロー様が、私に言葉を教えるのを面倒くさがったので、ロー様の父君が教えてくれたんです。

だから、お二人が教えなかったことについて、怒られるのだと思います」


 私たちの会話に、西の公爵や大臣たちが、聞き耳を立てている気配がします。


「どんな言葉を聞いたのですか?」

「『二人で刺激的な夜を過ごす』の意味です。

ほら、レオ様が、ルタ嬢にされかけたって言っていた、王都の恋の駆け引きとやら。

レオ様は『てごめ』『きせーじじつ』『じょーじ』のことだと、簡単に教えてくれたのですが、初めて聞く言葉ばかりで、よく分かりませんでした。

だから、詳しい意味を聞こうとしたら、ロー様は、『大人の恋愛に分類されるから、絶対に教えない』って、イジワル言うんですよ! ヒドイですよね!?」


 なぜか、ライ様は口を開いて、絶句しました。

 あちこちで、持っていた筆記用具を、落とす音が聞こえます。

 西の公爵は、飲んでいたお茶でムセたようで、盛大に咳き込みました。


「アンジェ! ローの父上に、その意味を聞いたんですか!?」

「はい。 『権力で相手を無理矢理、花嫁になるように仕向けて、勝手に神に夫婦の誓いを立てて、周囲に夫婦だと分からせるように、神殿の鐘を鳴り響かせること』だと習いました」

「さすが、ローの父上です! 良かった……本当に良かったですよ!」


 胸元で祈る形に手を組み、天を仰ぐライ様。

 なぜか、あちこちで、安堵のため息も聞こえました。


「……と、言うことは、お仕置きの時間ですね?」

「はい。黄金の右手を、頂戴しているかと」


 顔を前に戻したライ様は、真顔で聞いてきました。

 私が率直に答えると、今度は失望のため息が、あちこちから聞こえましたよ。

 直後に、部屋の扉が開き、国王陛下たちが入室されました。後ろから、頭を押さえた二人が、トボトボついてきます。


「ライ様。お二人が可哀想なので、このお話は、これで」

「……そうですね。忘れることにします」


 ライ様は頷くと、私から離れて、ご自分の席へ戻っていかれました。

 チラリと西の公爵を確認すると、息を整え、レオ様たちへ、あきれた視線を送っていましたよ。


 さて、会議に集中しましょう。

 現在の春の国で、雪の国の最新情報を持っているのは、雪の国へ留学中で一時帰国したばかりのジャックです。

 雪の国の政治の権力図が塗り変わったことは、ジャックによって伝えられましたからね。無視できません。

 同時に、雪の国でのジャックの身分……『雪の王子』の戸籍を知っていれば、信用もできないのですが。


 春の国は、父方の祖父以外の血筋は、無視するお国柄です。

 ジャックの母親が『雪の分家王族、西の公爵家の血筋の王女』と知っていたのは、春の王族くらいかと。

 春の国の文官の世襲貴族にとって、ジャックは「藍染工房の跡取り息子」くらいの認識で、ノーマークの存在だったでしょうね。


 国王陛下も、ジャックや私に厳しい視線を向けて、真偽を図りかねているようです。


「……東地方のキハダ染めの子爵領地、次期領主予定のジャックよ。

春の国王として、そなたと腹を割って話したい」


 国王陛下の言葉が、会議の開始を告げました。

 私の隣に座る、はとこに、大人たちの視線が集中します。


「ジャック。あなたが雪の国で見て、聞いて、頼まれたことを話しなさい。

三か月前に訪問されたばかりの雪の王弟一家が、また春の国を訪問するなど、ただ事ではありませんからね」

「良いのか? 驚いて心臓止まるかもしれねぇぜ?」

「ええ、予想はついていますけど。

この程度で驚いて倒れる人材なら、大臣は勤まりませんよ」

「姉貴、今、目をそらしたよな? 倒れるヤツが居るって、確信してるよな!?」

「もし倒れたら、医者伯爵家の方々が診察してくれるので、問題ありません!」


 はとこは、渋ります。

 ですが、姉として慕ってきた私には逆らえないのか、ため息を吐いて言いましたよ始めました。


「雪の国は、春の国を討ち滅ぼす」


 ジャックの痛恨の一撃。

 農林大臣は、泡を吹いて倒れた!


 ……やっぱり、倒れましたか。ご高齢の農林大臣には、キツイ話だと思ったんですよね。

 私とジャックの会話から、空気を察して移動していた王宮医師長殿が、診察をしています。


 他の大臣たちは、いきなり瀕死の精神状態に追いやられました。かろうじて息をしています。

 ジャックの言葉は、衝撃的だったでしょうね。


「……と、言うのが、俺が到着した頃の雪の国の世論だった。

俺と入れ替わりに、春の国へ向かった、雪の王弟が帰国すれば、すぐにでも戦争が行えるように準備が進められていたぜ」


 お調子者のはとこは、やんちゃ盛りの十五才。

 さりげなく、大人たちにいたずらを仕掛けてきました。

 国王陛下は、動揺を隠しながら、続きを促します。


「雪の王弟殿下が帰国後は、どうなったのだ?」

「切望していた、湖の塩伯爵家から、ひ孫のエルを花嫁をもらうことが決まったから、世論が真っ二つに分かれた。開戦派と共存派に。

開戦派は、姉貴……『アンジェリーク』をどうしても雪の王妃にしたい、北地方の貴族たち。

共存派筆頭は、ひ孫王子の結婚を通じて、『アンジェリーク』と親戚になる、西地方の公爵だ」


 雪の西の公爵は、ジャックの母方のひいおじい様です。

 うちの末っ子のエルと、王弟の一人息子との婚約が決まって、一番喜んだのは、この人でしょう。

 雪の国のひ孫である王子と、春の国に暮らすひ孫の親戚が、結婚するのですから。

 春と雪の国が戦争になると、一番困る立場なのです。

 かわいいひ孫王子の結婚のために、共存を掲げたのでしょうね。


「……間を置かず、再び春の国訪問をする理由はなんぞ?」

「そんなもん、遊びに来るに決まってるじゃん♪

雪の国の王弟一家が春の国に来る目的は、物見遊山だ。

俺のはとこである、アンジェリークとミケランジェロが演じる歌劇『雪の恋歌』を鑑賞することみたいだぜ」


 ウソだ!


 と、声には出しませんでしたが、国王陛下をはじめとする王族全員とと、大臣たち全員の顔に書いてありました。

 私は「やっぱりね」と言う心境でしたね。


「もう一つの目的は、春の国を観察し、処分を決めること。

雪の国の王妃になるはずだった、アンジェリーク王女殿下を奪った春の国をどうするか、決めにくるんだよ」


 およ? 予想外の目的が明かされましたよ。

 しかも、私の名前が出ました。よく聞きませんと。


「ジャック。ボンクラ王子たちが関係しているんですね?」

「そうだぜ、姉貴。雪の国王の養子の三人だ。

春の国のお偉いさんは、姉貴が雪の国の王女の戸籍を持つこと、知ってるよな?」


 私との会話の途中で、ジャックは軍事国家の王子の目付きになりました。

 殺気のこもった視線で室内を見渡し、春の国の大臣たちを威圧します。


「文官のお偉いさんたちには、騎士の考えが理解できないだろうから、噛み砕いておしえてやる。

雪の国民にしたら、姉貴たち姉妹は、『隣国の強欲な王族や貴族に囚われている、憐れな王女たち』なんだよ。

今こそ騎士道にしたがって、我らの姫をお救いするべきだ。

悪魔の国を滅ぼし、雪の天使たちを、雪の国に取り戻すべきだってな」


 大臣たちは、目から鱗が落ちた顔になりました。

 文官の世襲貴族は、騎士道なんて、真剣に考えたことないでしょう。

 騎士である王宮騎士団長や、東の辺境伯は、険しい顔になりましたけどね。


 ……二重国籍の難しい所ですね。

 私自身は、春の国で生まれ育った『春の貴族』なので、囚われているつもりは無いのですが。

 次期王妃と、失われた雪の南の公爵の血筋を求める、雪の国民にしたら、手元に取り戻したい『雪の王女』なのでしょう。


「開戦論の主導者は、雪の国王の養子王子どもだ。

王家の血を持たないヤツらが、生まれついての王族たちに『次期国王』と認められるには、絶対に姉貴の血筋が必要だからな。

権力にこだわるバカは、雪の王弟の一人息子とエルの婚約が決定しても、納得できなかったんだ。

追い討ちをかけるように、俺の帰国前に『東の倭の国の王族が、春の国へ向けて出発した情報』が、雪の王宮に届いてよ。

春の国が東国と手を結んで、『東国が、雪の属国から独立するのを、手助けするつもり』なんじゃねぇかって、推測が流れ始めた。

手助けするには、『塩の採掘権』を東国に渡すのが、一番分りやすい同盟の結び方だぜ。

だから、王女たちが取引の道具にされないうちに、助けるんだとよ」

「待て。我が国と東国は、手を結んでなどいない!

ずっと陸の塩を狙い続けてきた東国に、なぜ、陸の塩の採掘権を渡さねばならんのだ!」


 ジャックに果敢に話しかけてきたのは、生まれついての春の国の王族。

 王太子のレオナール王子です。ジャックに恐怖しない、兄貴分。

 ニッと、ジャックは笑い、言葉を続けます。


「俺も、そう思う。東国は雪の姫ではなく、雪の王子を狙って、嫁を押し付けるはずだぜって、雪の国王に言ってやったぜ」

「……ジャック。お前は、どちらの立場で、雪の国王に合ったのだ?」

「レオ兄貴が想像してる立場じゃねぇよ。

俺は『雪の天使、アンジェリーク王女』に忠誠を捧げた『雪の天使の騎士』として、面会してきた。

雪の国は、軍事国家だ。騎士の心が重んじられる国。

昔、西国との戦争で、国のために命を捧げた騎士の誇りを踏みにじり、平民に落としたような、恥知らずの王族が治める春の国では、考えられないだろうがな。

俺は『恥知らずの国出身の騎士見習い』って、思われたくなかったから、『北の名君の弟の孫』で通したぜ。

現代の騎士道の体現者として、雪の国の騎士たちからも尊敬される、『北の名君の親戚』としてな」


 はとこは、毒舌を炸裂させます。

 さげずむ視線で、春の国のお偉いさんたちを見渡しました。とりわけ、西の公爵を。


 たぶん、ジャックはひいおじい様に頼んで、非公式で雪の国王と面会したのでしょう。

 それで、雪のボンクラの尻拭いはしたくないと、私が輿入れを拒絶していると、伝えるために。


「おい、ジャック。お前は、まごうことなき、アンジェの血縁者だな。今、ものすごく実感しているぞ」


 ……レオ様の意見は、否定しません。

 ジャックは、私が正論で相手を叩き伏せる様子を見ながら、育ってきた子ですからね。


「それから、アンジェを他国へ渡そうとする、不届き者が居たのは認める。

その者は、僕自ら、罰するために行動しているところだ」

「……ふーん。レオ兄貴は、明日から、東地方の視察に行くって、言っていたよな?

合点がいったぜ。その言い方だと、春の国の裏切り者の目星は、もう付いてるんだよな?」


 はとこは、自分のペースを貫き、レオ様に軍事国家の重圧をかけていきます。

 殺気と呼べるものを、ぶつけました。


「こっちも質問したいんだけど、開戦派の偽物王子たちはどうしたの?

確か……ジャック殿が、帰国前に幽閉したみたいだけど」


 ジャックに声をかけたのは、分家王族の医者伯爵の跡取り、ローエングリン王子でした。

 涼しげな王家の微笑みを浮かべて、向けられたジャックの殺気を受け流します。


「偽物ねぇ。軍事国家の王子を偽物呼ばわりして、あんた、平気なのか?」

「別に怖くないよ。自分(ぼく)は、由緒正しき春の王家と、西の戦の王家の血を持つ身だからね。

そして、春の王家には、雪の国の王家の血が流れているんだ。

養子縁組で王子になった程度の相手には、むしろ、敬意を払って貰う側だよ」


 殺気に臆せず、感情の読めない王子スマイルで答える、将来の義弟。

 さすが、歴史に名を残す軍師の家系だけあり、知将らしく受け答えしました。

 ジャックは、小さく舌打ちしたあと、渋々答えました。


「……いけすかねぇ野郎だぜ!」

「ジャック、時間をムダにせず、話を進めなさい」

「へー、へー。了解だぜ、姉貴。

養子王子たちは、俺が決闘で打ちのめして、ベッド送りにしてやったよ。

三人とも足を折ってやったから、すぐには動けねぇだろうぜ。

何より、年下の俺と正々堂々戦って負けたから、やつらの男の株はがた落ちだ。従うヤツは、徐々に減るはず」

「足のどこを折ったの? 治癒期間を計算するから、詳しく教えて」


 ロー様に言われて、ジャックは行儀悪く、足を机の上に置きました。

 膝と足首の真ん中を押さえます。それを見たとたん、ロー様は言葉を紡ぎました。


脛骨(けいこつ)、もしくは腓骨(ひこつ)の中心付近か。二つ合わせて下腿骨(かたいこつ)って、言うんだけど、膝から足首までの間の骨のことだよ。

で、その患部だと骨がくっつくのが、早くて六週間、平均して八週間くらいかな。

馬から落馬して折れることもある部位だから、雪の国には機能回復訓練の手順も、存在していたはずだよ。

だったら、若さも考慮して、約一月半から三か月あれば、馬に乗れるくらいは復活するかな?

雪の王弟殿下の春の国の滞在期間も、それくらいか……。

北国に秋が来る前に、春の国と戦争するか、雪の国王は結論を出すつもりなんだろうね。

冬が近づくほど、春の軍隊は弱り、雪の軍隊は強くなるから」


 スラスラとロー様が説明すると、大臣たちの一部が、驚きの眼差しを向けました。


「何を驚いている? ローエングリンは、医者伯爵の次期当主なのだぞ。

国が危機に瀕しておるのに、もう才能を隠させる必要は無い。

文官たちの至らぬ所を補うのが、武官である、我が医者伯爵のもう一つの役目。

何より、軍事才能の無い王子が、軍事国家である雪の国のオデット王女と、婚約できるわけなかろう」


 落ち着いたダンディな声が、ロー様を支えます。

 ようやく、大臣たちは、医者伯爵家のもう一つの顔を思い出したようですね。

 有事になれば……国内外が荒れれば荒れるほど、世間に名を知らしめる一族。

 雪の国の次に、戦上手と呼ばれる「戦の国」の王家の血を、連面と受け継ぐ、軍師の一族を。


「……あんた、おっとりした見かけによらず、かなりの切れ者だよな。それから、かなりの武術の達人。

今日の昼、初めて会ったときから観察してたが、身のこなしに、隙が見えねぇ。

正直、あんたに不意討ち仕掛けても、勝てる気がしねぇよ。本気を出したあんたは、雪の養子王子どもより、強いと思うぜ」

「ありがとう。これでも、戦の国の王家の血筋を持つからね」


 ギロリと睨んだあげく、悔しげに白状する、少年ジャック。

 爽やかな王子スマイルで受け流すロー様は、デキル大人の風格をまとっていました。


「……あのさ、何驚いた顔してるの? 春の国の貴族って、本当に鈍いよね。

雪の国王が、周辺国家で敵に回したくない王子の一人は、このローエングリン王子殿下だよ?

だからこそ、雪の国にとって、最も価値ある三人の王女の内の一人、オデットを与えたんだ。

ちなみに、現在の雪の国で、一番価値のある王女は、雪の国王の実子じゃない。

二つの王位継承権と、二つの陸の塩の採掘権を持つ、僕の姉と妹たちだからね」


 ジャックを援護するように、私の弟ミケランジェロが続けます。

 ……脳みそ筋肉の弟たちも、やっと気付いたようですね。ロー様が、私と同類だと。

 観察力に優れ、相手の感情を読み取り、心理合戦を制することができる、外交の才能を持つとね。


 「政治にうとく、まったく見所の無い王子」と、周囲や西の公爵に思わせて、暗殺されないように、今まで生き抜いてきたロー様が、凡人のわけありません。

 ロー様の場合、外交の才能を政治の場所では無く、相手を罠にはめて、生き残るために、日常生活の場で使ってきたようです。


 医者特有の観察力。先祖代々受け継がれてきた、心理学。

 柔和な笑顔の裏で、腹黒の王族たちを騙し続けたほどの、知将なんです。


「言っとくけど、春の国が存続できる条件の一つは、ローエングリン殿下が生きていることだよ。

雪の国で、最も価値のある王女を、預けるわけだからね。

殿下が世継ぎを得ず亡くなれば、うちの妹が春の王族になる必要は無くなる。

僕らが春の貴族を名乗る必要も無くなり、雪の王族に戻るだけ」

「春の国の命運は、俺たちが握ってることを、忘れんなよ!

てめぇらは、俺たちの親戚、北地方の貴族を見殺しにしたんだ。

なら、俺たちがてめぇらを見捨てても、文句は言えねぇよな?

因果応報。自分達のやったツケが、戻ってくるだけなんだから!」

「あはは。将来の兄上たちは、頼もしいな。

軍事国家の雪の国としては、医者伯爵家は、絶対に失いたくないよね。

善良王の血を引く、軍師の血筋は、将来の子供や孫のためにも、生かしておきたい血筋だもんね♪

自分(ぼく)もオデットも、雪の南の公爵出身、アンジェリーク王女の子孫。

自分とオデットの子供が、雪の南の公爵の血が一番濃くなるのも、理由の一つだろうけどさ」

「ちっ! 本当に嫌なヤツだぜ!」


 さっきから、周囲へ殺気を撒き散らす、うちの弟たち。

 大臣たちは青白いを通り越して、死にそうな顔つきになっています。

 そんな中、にこやかな笑みで殺気を受け流し、飄々と答えるロー様は、「味方にすれば心強く、敵に回せば、おそろしい」と大臣たちの心に刻まれたことでしょう。


「おい、そろそろ義理の兄弟喧嘩は済んだだろう?

東国の独立運動の邪魔をするために、雪の王弟が来る。これが、結論だよな?」


 王者の眼差しで、部屋をゆっくりと睨み付ける王子様。

 殺気と知謀が渦巻く室内を、圧倒的なカリスマで、自分の支配下に置く者。

 これが春の王太子、レオナール様です。


 息のつまりかけていた大臣たちは、やっと深呼吸できました。

 レオ様を見やり、「さすが王太子!」と、称賛の視線を送ります。


 レオ様の声に、ロー様は肩をすくめました。

 雪の国王が目をかける軍師の王子でも、王太子には敵わないんだと、周囲は思い込んだことでしょう。


「あ、うん。単純明快に言うと、レオの言う通りだよ。

そこで、提案なんだけど、ジャック殿も、レオの視察に同行したらどうかな?

その目で、顛末(てんまつ)を確かめたら良いよ。その方が納得できるし、雪の国へ報告しやすいでしょう?」

「へー、自信がありそうじゃん。歴史に名を残す、軍師の作戦ってか」

「それから、もう一つ提案。アンジェも、東地方に連れていってくれない?

ジャック殿なら、東国から守れるよね?」

「はあ? 姉貴を囮にしろって!? ふざけるな!」


 ジャックとロー様は、無言のにらみ合いを始めます。

 一触即発の雰囲気。

 急にレオ様が立ち上って、こちらに歩いて来ました。私の近くに立ちます。


「アンジェ、話がある。耳を貸せ」

「なんですか?」


 言われるまま、耳を傾けました。耳元で、ささやかれます。


「ルタに殺されかけた復讐、させてやるぞ。

それを踏まえて、僕と一緒にくるか、来ないか決めろ」


 それだけ言うと、離れました。

 腕組みすると、じいっと、私の返事を待ちます。


 ……復讐? 殺されかけた復讐?


 ……していいの? 


 だって、私個人のことですよ?


「アンジェ。決めるのは、お前だ。

くるか、こないか、二つに一つ!」


 くるか、こないか?


 レオ様が決めてくれないの?


 選ぶ?


 誰が?


「アンジェリーク。自分で考えて選ぶんだ!」


 ……自分で選ぶ?


 選ぶ? ……えらぶ?


 自分で? じぶんって、だれ?


 じぶん………じぶん……わたしのこと?


 わたしが、えらぶ?


 わ、た、し、が?


 理解しきれず、レオ様を見つめてしまいました。

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