115話 独身貴族の会話は、切実です
「おい。新しい側近たち。今回の使節団おもてなしは、良い経験になると思うぞ。
僕が国王になれば『即位の儀』や『結婚の儀』など、二つ以上の国が同時に国内に滞在することも多くなる。
その前練習だと思って、気合いを入れて、頑張ってくれ。期待しているからな!」
今年の春から、王太子の側近になった四人は、王太子のレオナール王子の激励に、背筋を伸ばしました。
緊張している雰囲気で、ビシッと一礼します。
「とは言っても……お前たちは、内務に携わることが多い、西と東地方の世襲貴族だからな。
外交関係は、我が国唯一の海がある影響で、必然的に他国の船を出迎えてきた南地方の世襲貴族が強い」
少し考えこむと、レオ様は視線を巡らしました。
外交官の子息殿と、新米秘書官殿に声をかけます。
「おい、南地方のお前たち二人が、コイツらを指導してやってくれ。
外務大臣の息子と内務大臣の元補佐官だから、外交を司る外務大臣と、国政を司る宰相の橋渡しとしても、最適だ。
新人たちは、二人を見て、自分で技術や知識を学ぶんだぞ」
「えーと、じゃあ早速、王宮騎士団長の所へ、行ってきてくれるかな?
これは、西地方の君たちの方が行きやすいよね? 彼らを連れて、キミの父上の所へ、お使い頼むよ」
「了解っす。ほら、自分と一緒に行くっすよ」
話をふられた外交官の子息殿は、指示を出しました。
王宮騎士団長の子息殿が二人を連れて、すぐに部屋から出ていこうとしました。
西地方出身の新米側近のうち、一人は戸惑った表情を浮かべ、もう一人は無表情で顔を見合わせます。
気の利かない親友たちに、私は側近仲間として、口を挟みました。
「外交官の子息殿。新米側近方は、なぜ、騎士団長殿の所へ行くか、理解されていないご様子。
幼い頃から、王太子の側近であったあなた方と違って、阿吽の呼吸で、すべてを察する域には達しておられないのです。
一つ一つ丁寧に教えて、きっちり仕事を覚えてもらってください」
「えっ、そこからなの? アンジェのときは、一回も教えなかったのに?」
「我が家は、騎士の家柄です。武官の世襲貴族。
騎士団長殿の所へ行く指示を受けたら、他国を迎える警備の相談をすると察せます。
けれども、彼らは二代前の財務大臣と、三代前に法務大臣補佐官を輩出した、文官の世襲貴族。
さすがに文官に、武官の考えがすぐに理解できるなんて、思えませんよ」
「……そっか。そこからなんだ。
えーと、雪の国を出迎えるときに、北地方に居る王宮の騎士たちを動かせるか、騎士団長に確認してきて欲しいんだ。
北地方の騎士団は、構成員の北地方の貴族が全員亡くなって、事実上、消滅しているからね。
今、北地方に滞在しているのは、復興支援に行っている王宮騎士団の騎士だけなんだよ。
東国の方は、レオ様が東地方へ視察に行くから、街道沿いに警備を強化してて、視察後もそれを継続すれば大丈夫そうだからね」
説明を受けた一人は、納得した表情になりました。もう一人は無表情のまま、承知の頷きをします。
王宮騎士団長の所へ行きかけた三人を制したのは、新米秘書官殿でした。
「お待ちなさい。重要なことが抜けていますよ。
レオ王子。東国の使節団は、レオ王子が国境の視察に行かれた際に、お出迎えして王宮にお連れすれば良いですが……。
雪の国の王族の方々のお出迎えは、いかがしますか?
東国を王太子が出迎えるのならば、北国にも同等の人物を送る必要があります。
そこも考慮してから、警備の手配を」
「むっ? 出迎え? 僕は東国を出迎える予定はないぞ?」
「東国の使者が到着した日から逆算しますと、倭の王族たちは、もう我が国との国境へ向けて出発しているでしょう。
国王様が、レオ王子に国境へ向かうように命じられたのは、出迎えのためと推測できます」
「……つまり、アンジェが東国にさらわれないように、牽制しろということか」
腕組みした王太子は、仏頂面になりました。私を見ながら、唸ります。
変な方向へ、話が転がり出しましたよ。仕方ないので、口を開いて、割り込みました。
「私より、うちの長男の花嫁斡旋が目的じゃないですか? レオ様は、それを邪魔するのが仕事になると思いますよ。
昔、東国と北国が戦争に発展したのは、我が国が西国との戦争をしている隙をつき、山の塩の採掘権を持つ、北の侯爵家の娘を、東国がさらおうとしたからです。
北の侯爵家は、雪の王位継承権を持って居ますので、雪の王族が怒り、我が国との軍事同盟を理由に参戦。
東の倭の国は、軍事国家の雪の国にボロ負けした挙げ句、領土は半分奪われ、雪の属国にされました。
もし、陸の塩の採掘権を持つ私を東国へ連れ去れば、今度こそ、雪の国は東国を滅ぼし尽くしますよ。
それを理解していれば、東国は花嫁を得るのではなく、送り込んで子供の代で陸の塩の採掘権を得ようと画策することでしょう」
スラスラと意見を述べていたら、いつの間にか、室内は静かになっていました。
会計員の大人たちが、驚いた表情で、私を凝視していますよ。
彼らを代表して、新米秘書官殿が質問してきました。
「……雪の天使の姫は、本当に北地方の貴族ですか?
まるで、外交に強い、南地方の貴族のような考え方をしますね。
だいたい、北地方の貴族は、雪の国の脅威に備えるため武官の世襲貴族が多くて、政治や外交に弱いと言うのが常識なのですが……」
「私の場合、母の影響だと思いますよ。
うちの母は若い頃、雪の国へ留学して、あっちの王立学園で三年間勉強してきた才女ですからね。
他国へ留学した者が、素晴らしい考え方をするのは、ご存知でしょう。
東国へ三年間留学されていたクレア侯爵令嬢が、『将来の王妃筆頭候補』と呼ばれるようにね」
……真っ向から質問されると、返事に困るのですが。
苦し紛れに、東地方の侯爵令嬢を、例に出しておきました。
三年間語学留学をされていたご令嬢は、春の国の王立学園へ編入した直後に、学力テストで一位を取ったくらい優秀な人です。
私の説明に説得力を持たせ、春の国の民を納得させるには、ちょうどよいので。
「……雪の国の王立学園って、世界最高峰の学問機関だからね。
ボクの父上も、あそこを卒業したから、外務大臣になれたと言っていたよ。
本当は、ボクも留学したかったけど……四年前に内乱が起こったから、行けなかったんだよね。
まあ、父上が習ったことは、子供の頃から教えてもらって、全部自分のものにしたけどさ。
アンジェも、母上から教わっていたんなら、外交に強いのも納得できるよね」
「なるほど……武官の父君を、文官の才能がある母君が支えておられたと。
雪の天使の姫君は、母君の姿を見て学びとられたと考えるなら、つじつまがあいます」
ぼそっと言葉を発したのは、将来の外務大臣でした。
私の送った「SOS」視線に気付き、助け船を出してくれましたよ。
後で、東国の王家の情報をたっぷり提供して、お礼しますからね。
「新米秘書官殿。納得いただけたのなら、幸いです。
それで、話は戻しますが……レオ様。雪の国のお出迎え役は、いかがしますか?」
「そうだな……移動の日程を考えれば、東国の後、北国を出迎えるのは無理だ。
おい、ライの出発日は、ずらせられんか?」
「無理だよ! 西の戦の国には、南の海の国の王家が来る予定だから、あっちで三か国会談ができるように、ラインハルト様は出発するの。
もしも会談に参加できず、西国と南国の同盟を強固にさせたら、海の安全に響く可能性があるからね」
「……やはり難しいか。各国の王立学園が夏休みに入ると、どの国でも成人前の王子たちが人脈を広げようと活躍するからな。
子供の王族の少ない我が国は、子沢山の他国に比べて、圧倒的に不利だ。
春の国の未来に直結する、ライの人脈を広げられる貴重な機会を捨てるわけには、いかん!」
「ですが、レオ王子に匹敵する人物となれば、ライ王子しか居ませんよ?」
「……分かってる、分かってる! 考えるから、ちょっと待て!」
外交官の子息殿、新米秘書官殿の意見に、レオ様は苦渋の表情を浮かべました。
あー、お出迎えのことは、失念していましたね。
エルの手紙くらいで、雪の国の親戚たちが来る予想は、私もさすがにしてなかったので。
まあ、二つの国から使者が来るなら、私の宿敵である西の公爵当主は、絶対に裏に隠れるなんてしないでしょうけど。
自分の持つ春の王家の血筋を誇り、周囲を見下す、選民意識の塊のおバカさんならね。
薄っぺらな王族のプライドを掲げながら、うちの親戚に頭を下げて、ゴマスリするのがお似合いですよ。
心の中で、あざ笑ってやります。
さて、悩んでいる上司に、提案してみましょうか。
「レオ様。雪の国のお出迎えは、新興分家王族の次期当主ローエングリン様が最適かと」
「ロー? ローなぁ……あいつは、今まで他国の前に出したことが無いぞ?
それに歴史ある雪の国を出迎えるなら、まだ西の公爵の方が最適だと思う」
「ロー様と雪の王弟殿下は、うちの妹たちを通じて、将来は親戚になるのですよ?
私個人としては、東国の王家も来る今回は、ロー様を周辺国家にお披露目する、よい機会と考えますが」
ジロリと、レオ様の青い瞳が動きました。
『お前、雪の国の王家を動かしたのは、ローの存在を世界に知らしめるためか!』
そんな、レオ様の心の声が聞こえた気がします。
違いますよ。雪の国の親戚たちは、貴重な歌劇を見るために、遊びに来るだけです。
涼しい視線に、そんな思いを込めて、見返しました。
私の視線をどう受け止めたのか、レオ様は目を閉じると、ため息を吐きましたよ。
「うーむ、二つの国が突然訪問予定をねじ込んだことを考えると、王宮のことは、西の公爵に任せた方が良いだろうな。
しかし、今まで影で僕を支えるだけだったローに、いきなり表舞台に立てとは頼みにくい。
相手は、大陸の覇者の王族だぞ。西国のさらに西『森の国』や、南のさらに南の『海洋連合諸国』の王族すら、頭を下げて敬意を示す存在だ。
もしも、ローが失態をおかせば、我が国の威信は、地に落ちる。雪の国の機嫌を損ねないために、遠方の国ですら我が国を批判し、国交を制限することになるだろう」
えー! 雪の国の王族って、他国から、そんな風に思われているの!?
雪の国で暮らして居ない私は、雪の王族に対する、他国の王族の振る舞いを、直接見たことがありませんでした。
後で、雪の国で暮らしていたお母様に、聞いてみませんと。
それにしても、意外でした。雪の国の王女である私に、春の国の国王陛下をはじめ、春の王族たちは友好的ですからね。
よき隣人として接してくれていますし、私も相手を目上として敬意を表しています。
地獄につき落とす予定の西の公爵家は、別ですけど。
もし、遠方の国家との国交問題まで発展したら困るので、手を打っておきましょうか。
「ロー様だけで心配でしたら、『北の名君』夫妻に同行を、お願いしましょうか?
奥方は言わずと知れた、湖の塩伯爵の姫です。春の国が、世界に誇れる、王家の血筋。
『北の名君』自身も、軍事国家の雪の国では、近代の騎士道物語の代表格として有名人ですし」
「北の名君夫妻か……。この際、ありかもしれん。
おい、お前たちは医者伯爵家に言って、ローとアンジェの弟たちを呼んできてくれ。
雪の国の出迎えについて、相談がしたいと伝えろ!」
「かしこまりました」
私の提案に、レオ様は思考を巡らせ、軽く頷きました。
東地方の新米側近の二人が、医者伯爵家の離宮に向かってくれました。
「そっちは、ローの父上……医務室の王宮医師長の所へ言って、ローのお出迎え役の打診を。
それから騎士団長の所で、アンジェが雪の国の警備に、『北の名君』を加えることを提案したと、伝えてくれ」
「了解っす。自分は、医務室へ行くから、騎士団の方は任せたっす」
「承知」
次々に飛び出していく、騎士団長の子息殿と西地方の新米側近たち。
五人が部屋から消えて、外交官の子息殿と新米秘書官殿は、おもてなし計画の見直しに口を出しています。
おもてなし計画の見直し案ができるまで、暇になっていた見習い会計員の一人が、怪訝な顔をしました。
「……北の名君?」
独り言は、周囲の耳に届きました。
先日、王家御用達のレストランでレオ様を怒らせた西地方の三男坊は、思ったことが顔や口にでるタイプのようです。
「知らないのか? ほら、西国との戦争の救世主!
農民から騎士の頂点に登り詰め、王家の姫を花嫁にしたって、伝説の!」
ほがらかに答えたのは、東地方の次男坊ですね。やんちゃ坊主の表情で、剣を振るうマネをしました。
「知ってるけど……それ、単なる噂だろう?
北の名君は、先々代国王が西国へ向かったとき、敵を欺いた仮の姿だって、じーちゃん言ってたし」
「僕がおじいさんから聞いたのは、医者伯爵の軍師の仮の姿だって。
だって、実際に王家の姫を花嫁に迎えて、医者伯爵が王族になってるじゃないか。
だから、ローエングリン様に北の名君が同行するってことは、医者伯爵一家が、北国をお出迎えするってことだろう?」
西地方の貴族である、次男坊と三男坊は、反論しましたよ。
仲良し独身貴族四人組は、発言していなかった最後の一人、紅花の天使に恋した一人っ子を見ます。
「お前は、どう思うんだ?」と、視線で回答を促していました。
「えーと……正体は商人で、反物問屋らしいって、おじいさんから聞いたけど」
「はあ?」
「いや、だって……キハダ染め産地の娘の結婚式に乗り込んで、貴重な反物と引き換えに、娘を引き取るところ、結婚式に出席していたおじいさんが見たって、言ってたから。
結婚相手に話をつけていた奥さんは、西国にさらわれていた、塩伯爵の姫に間違いないって。
だから、姫が『あなた』と呼んでいた若者が、有名な『北の名君』だろうって、おじいさんは言ってた」
「見間違えの可能性は?」
「無い、絶対無い! おじいさんも、王宮勤めの会計員だったから、王家の血筋の塩伯爵の姫を、小さい頃から知っているよ!
君たちは、小さい頃から知ってるファム王女を、見間違える?」
「それは、無い無い。あの麗しきファム様を見間違えるなんて、絶対に無い!」
「ほら、見間違えてないでしょう!」
仲良し独身貴族たちは、計算そっちのけで、話しに夢中でした。
ムキになった一人っ子は、勢いだけで他の三人を説得しましたよ。
……なかなか面白い見せ物ですね。無関係なら、笑っていたでしょうけど。
「北の名君の孫」である私にしたら、頭痛のするような内容です。頭痛の変わりに、胃痛を感じましたけど。
目を伏せて、服の上から、胃の部分を軽く押さえました。
「その話は、僕も聞いたことある。
キハダ産地の先代領主は、事故に見せ掛けて殺されたってな。
お家乗っ取りに邪魔な娘は、年寄りの商人に売られそうになってて、それを助けたのが、義に厚い北の名君だって。
東地方じゃ、都市伝説として、密かに有名だと言っていた」
「えー、北の名君は、実在の人物なのか? 誰から聞いたんだ?」
「彼女から……あ、いや、なんでもない」
練り直したおもてなし計画書を渡すついでに、内務大臣の部下である、事務官見習いの一人が会話に加わって来ました。
ついでに、口を滑らせています。そっと、視線をそらしました。
「彼女!?」
「彼女って、なんだ、彼女って!」
「うるなさいな! 僕だって、結婚したいんだよ!」
西地方の独身貴族たちは、口を揃えて叫びました。
事務官見習いの一人が、責められている友人をかばいます。
「こいつ、兄さんが結婚したから、王立学園卒業と同時に家から出されて、独り暮らし中なんだ。
独り暮らし直後から『誰もいない、寂しい家に帰りたくない!』が口ぐせになって、暗い性格になって、近寄りがたかったんだけどな。
やっと、商人の娘の彼女が出来て、明るくなってきたところだから、生暖かい目で見守ってやってくれ」
「……お前、家を追い出されたのか? しかも、平民の恋人?」
「次男なんだから、当たり前だろう! 成人したからには、自分の力で生きていくしかないんだ。
貴族の花嫁がくるわけない。自分で見つけないと、一生独身だぞ!」
「そ、そうか。次男だもんな。当たり前だよな」
西地方の独身貴族は、変な所に反応しました。
次男坊はかすれた声を出しながら、簡単に引き下がります。
友人の三男坊に視線をやり、反応を伺いました。
「なぁ、兄さんが結婚したから、追い出されたんだと。自分で、花嫁見つけろって。お互い、明日は我が身かもな」
「……次男の君は、まだ近くに分家として、家を構えられる可能性があるだろう?
僕なんて三男だから、分家すら怪しいのに。長男がうらやましい……と言うか、ねたましい!」
西地方の三男坊は、目の前の机で仕事をしている、東地方の一人っ子を思わずにらみました。
「長男と言っても、一人っ子は大変なんだ!
僕が跡継ぎを残さないと、父さんも一人っ子だから、お家断絶して王家預かりになるんだからな!」
「おじいさんの親戚が居るだろう?」
「キハダ産地の前例があるから、東地方は、跡継ぎ問題に厳しくなってるんだよ!
王家と言うか……東地方総元締めの東の侯爵家出身、先代王妃様の許しがなければ、結婚もできない雰囲気になってる」
「その点、レオナール様が結婚相手を決めてくれた僕は、幸せかな?
東地方の次男なんて、簡単に婚約すらできないし、婿養子も絶望的。
前回の王太子の婚約者候補を出した子爵家なんて、長男どころか、親戚まで子供たちの婚約に王家から待ったがかかって、色々もめていると聞くからさ」
紅花産地の子爵家へ婿入りすることが決まった、東地方の次男坊は、安堵の表情をしました。
……仕事そっちのけで、独身貴族たちの会話は続きます。
同じ部屋に、彼らの父親が居ることを、すっかり忘れていますね。
仕事をしないバカ息子たちに、顔を赤くした、怒り顔の父親たち四人が包囲網を縮めていますよ。
「おい、独身貴族ども! あのアホ女の話は、するな!
僕の古傷を抉るなと、レストランでも言ったのを忘れたか?
第一、東地方のお前たちは、僕が仲人すると言うのに、見合い前からケチをつける話をするな!」
父親のカミナリが落ちる前に、女性運の無い王太子から、カミナリが落ちました。
王太子には、秘書官の私が苦言を申し上げましたけど。
「レオ様。書類が片付かないからって、八つ当たりはしないでください。室内の士気が低下しますので」
「だが、こいつらの発言は、聞き捨てならん!」
「聞き捨てならないのは、仕事に集中していない証拠です。今のレオ様は、仕事のできないダメな男性の見本ですね」
「ダメ男だと!?」
「仕事はサボっていたうえ、それを指摘すればアレコレ言い訳する。
やっと仕事をするのかと見守っていれば、全然集中せずに周囲のムダ話に聞き耳をたてて、仕事一つマトモに終わらすこともできない。
それから、頼んでも居ないのにムダ話にわざわざ参加して、王子の権力をふりかざしたあげく、部下に八つ当たり。
こんな男性のどこが、素敵だと? カッコいいの真逆ですよね?」
「うっ……」
「今のレオ様のお姿は、『女性が結婚したくない相手、第一位』に君臨すると思いますよ!」
私が親切丁寧に解説すると、室内の温度が真夏から真冬に変わった気がしました。
レオ様はショックを受けたのか凍りつき、口を動かすのを忘れています。
ムダ話をしていた独身貴族たちも、連帯責任を感じたのか、うつむいていますね。
私がやり過ぎたなんて、全然思いませんよ。
皆さん、身から出た錆ですって。