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113話 不本意ながら、王子は手駒をお望みです

「寝たきりになった先代騎士団長夫人は、ここにいる『雪の天使、ミケランジェロ王子殿下』が助けてくれたよ。

今年の春、殿下が騎士団長の家に下宿してから、奥方の体調は良くなったよね?

ご夫婦で、屋敷の庭を散歩する回数が増えたのは、王宮でも噂になったから、君たちも知っているはずだよ」


 ローエングリン様の声で、椅子の背もたれに身を預け、ふてくされていた私の弟ミケランジェロに視線が集まります。


「雪の国のミケランジェロ王子殿下。

西の公爵派の代表格でもある、西の辺境伯を助けたのは、なぜですか?」

「……そんな、基本的なことを聞かれるとはね」


 春の王子からの質問に、弟は王子スイッチを入れました。

 前髪をかき揚げ、普段隠している、青空色の瞳をあらわにします。

 不機嫌を引っ込め、軍事国家の王子としての強気な顔を見せました。


 私の脅しに耳をふさいで、現実逃避をしていた王太子のレオナール様は、いとこのラインハルト王子によって、現実に引き戻されていました。

 レオ様はさりげなく腕組みをして、王者の眼差しで、うちの弟とロー様の会話を観察し始めましたよ。


「春の国のローエングリン王子殿下。

そなたも、知っておられると思うが……苦しむ民が居たら、助けの手を差し伸べるのが、王族の責務なり。

我が身には、春の国の王家の血が流れている。憎き相手だろうと、春の国の民である以上、無視はできぬ。

彼らが僕の助けを拒否したのなら……春の王家の血筋と認めないならば、それなりの対処をしていたであろうがな」

「それなりの対処とは?」

「春の国から排除するのみ。春の民であることを拒否し、悪魔の手先になった者を、春の国に住まわせる必要は無い」

「お言葉ですが、あなたが、春の国のために忠義を尽くしてくれた武官を、捨て置くことなどできないでしょう。騎士の中の騎士、湖の塩伯爵家のひ孫ですから。

奥方の命を盾にされ、西の公爵に言いなりになっている、西の辺境伯を捨て置けず、あの家に下宿され助けたのでは?」


 姉である私には、弟の微かな焦りが読み取れました。

 お世話になっている、西の辺境伯の先代夫人が「毒を飲まされている」なんて、私同様に知らなかったはずですから。


 春の国の西の辺境伯であり、王宮騎士団長を輩出する家柄なんて、王族の医者伯爵と同じくらい、隣国の警戒対象です。

 雪の国から、国王直属の間者が入り込んでいるはずなのに、私や弟に情報を伝えていないとは……。


 むしろ、雪の国が買い被って、私たちが知っていたと思い込んでいた可能性が強いです。

 なんせ、『あのアンジェリーク王女と、その弟ミケランジェロ王子!』という、肩書きがありますからね。


 ……すまない、弟よ。

 頑張って、春と雪の非公式国家会談を乗り越えておくれ。

 大丈夫、うちの弟と妹は天才揃い。お姉様は、信じていますよ!


 弟は軽く目を閉じました。一呼吸おいて、軍事国家の王子として、威厳ある顔つきになり、鋭い視線を向けます。


「……ローエングリン王子殿下こそ、春の王子でありながら、助けることができず、苦しまれたでしょうな。

そこに居るような、悪魔の手先を含む、西地方の春の民全てを人質に取られていたのですから」

「やはり、お見通しでしたか」


 ロー様は弟の視線を受け流し、悲しげな瞳で、王家の微笑みを浮かべました。


 ……どうもミケは、持てる知識を総動員して考え、医者伯爵の望む解答にたどり着いたようです。


 さすが、我が弟! あんな短時間で考えつくなんて、やっぱり天才♪

 お姉様は澄ました顔をしていますが、心の中では鼻高々ですよ!


「ローエングリン王子殿下は、先ほど西の公爵家を『人の皮を被った化け物一家』と、呼んでおられた。

そして、『頭角を現せば、西の公爵に暗殺される。医者伯爵には、暗殺された前列がある』とも、おっしゃられた。

その二つから考えれば、毒の対処のできる医者伯爵が、そこにいる悪魔の捨て駒たちの家族の病気を治さないのは不自然すぎる。

ゆえに、医者伯爵にゆかりある、西地方の春の民すべてを、西の公爵家に人質にされていると考えられるわけです」

「……医者伯爵が解毒して治療した、西の公爵の手駒の家は、数ヵ月後に家族全員が暗殺されるのです。強盗の仕業に見せ掛けて。

我が家が治せば、殺される。何度も続けば、西の公爵の警告だと気付きますよ。

ゆえに、表だって治療はできず、偽医者によって定期的に飲まされている毒の症状を緩和させる薬を、我が手の者を使って、あのような西の公爵の捨て駒の家に届けさせるのが精一杯でした。

ですが、自分の婚約者に、雪の国のオデット王女殿下を迎えることができ、やっと状況を打破する切っ掛けが掴めたのです。

医者を目指す雪の王女が『治療したい』と望めば、雪の国を恐れる西の公爵は手が出せなくなります。

雪の国のミケランジェロ王子殿下が、西の辺境伯の先代騎士団長夫人を治療してくださったように」


 ロー様はイスから立ち上がり、うちの弟に、春の王族として、最大限の感謝の礼を示しました。


「西地方の貴族が大嫌いな、北地方の貴族が、わざわざ下宿するなど、今までの常識ではあり得ません。

それでも、ミケランジェロ王子殿下は命の危険をかえりみず、春の王家の血筋として、西地方の貴族の代表格である、西の辺境伯の屋敷に滞在してくださった」


 長いお辞儀の後、頭を上げて、王子スマイルを浮かべます。

 弟はロー様にソファーに戻るように促しました。


「ローエングリン王子殿下、椅子にお戻りを。

我が祖父母は騎士として、西国との戦争で命を散らした西地方の騎士たちに、最大の感謝と敬意を持っていましてな。

そして、西国と手を組んで戦争を起こしていた、西の公爵に、最大の嫌悪感を示しているのです。

戦争がなければ、西の騎士たちが命を散らすことは無かった。そして、そこにいる彼らが没落して、西の辺境伯や医者伯爵が面倒を見る羽目にならなかったゆえ。

春の国の裏切り者、西の公爵に人質を取られた、春の国の忠臣を救うのは、我が家として当然の選択です」


 ……隣国の王子同士の非公式会談は、腹の探りあいをしながら、各国の代表として話します。

 うちの弟の言葉は、雪の国王の意思として。ロー様の言葉は、春の国王の意思として、受け取られると言うことですね。

 緊張感が最高潮に達した、弟のボロが出ないうちに、姉として意見を補強しておきましょう。


「そこで、ボケッと聞いている、西の公爵の捨て駒殿。

うちの弟の言葉を簡単にまとめると……うちの祖父母は、戦争時代に敵国と裏取引していた西の公爵が大嫌いなんです。

特に善良王の直系子孫である祖母は、昔は戦争の犠牲になり、今は家族の命を人質に取られ、残虐王の子孫の西の公爵家に苦しめ続けられている、武官の世襲貴族たち……あなたたちのような存在を助けたいと心から願っていました。

四年前に、騎士団長殿がうちの領地に来られて、我が家と接点ができたので、慎重に計画を練り、時期を見計らっていたのです。

そして、万を期して、弟が正面から騎士団長の家に乗り込み、正々堂々と人質を助けたわけですね」


 「信じないぞ」と、私と弟を睨む、使用人の男性。侍女の方は、反抗する気力を失っていましたけど。

 使用人はともかく、気力の尽きた侍女を丸め込むなんて、簡単ですよ。


 うちの弟は下宿中、病弱な先代騎士団長夫人を気づかい、体の弱い私が愛用している「タンポポ茶と乾燥藍をブレンドした薬草茶」を、差し入れしていたんでしょうね。

 弟しては、原因不明点の病気だから、気休めのつもりで。


 ですが、実際は毒を飲まされていたから、解毒の薬草がドンピシャで効果を発揮したと。

 偶然の産物。結果オーライと言うヤツのようです。


「私を含む、うちの家族が春の国で害されたり、亡くなったりすれば、雪の国は全武力を投入して、春の国へ攻め入りますよ。

だから、西の公爵は、雪の王族である私たちに、簡単には手が出せないのです」


 一拍、間を置いて、言葉を続けました。

 冷たく美しい、雪の天使の微笑みを浮かべながらね。


「去年の秋ごろ、『雪の国の軍隊が隊列を成して南下している』と情報が入り、王宮がパニックになっていたのを覚えていますか?」


 西の公爵の捨て駒は、少し考える顔になりました。

 男性使用人は、何かに気付いたのが、ハッとした表情で私を見ます。


「あなたのご想像通り、あれを動かしたのは、私です。

うちの末っ子が北地方で居るときに、西の公爵の手駒が誘拐しようとしましたからね。

弟や妹を保護するために、すぐに動かせる『私兵派遣』を雪の国へ要請したので、あの程度の数の軍隊でしたが。

私が本気で雪の国の軍隊を動かすなら、四年前に北地方を占領した数の倍以上に、周辺国家の軍隊が加わると思ってください」


 私兵の部分を強調してやりました。微笑みを深め、軍事国家の王女として、重圧をかけていきます。


「西の公爵は、アンジェの手のひらで踊らされていただけだ。

あのとき、西の公爵は雪の国の報復を恐れて、すぐにファムを西国へ亡命させたぞ。

当然だな。アンジェの妹である、雪の国のエル王女殿下を誘拐するように指示したのは、頭の悪いファムだったから。

西の公爵は、春の国の王位継承権を放棄させて、娘を切り捨てるように見せかけ、安全な所へ逃がした」

「今まで西の公爵が手駒を作るために、あなたの家族を人質に取っていたので、ファム嬢も私から人質を取ろうと考えたのでしょう。

春の国の未来のために、雪の国との戦争回避に動いていましたが、妹にまで手を出されては、さすがに我慢の限界です。

うちの妹を人質にすると言うことは、春の国が、雪の国へ宣戦布告すると言うことですよ?

強行手段に出て、ファム嬢に自分の立場を分からせ、春の国から追い出すように、仕向けました」

「全くもって、お前は外交手腕には感心する。僕の望む通りに、北と西の国へ、話を通してくれたからな。

僕の予想通り、アンジェの妹を連れ去る予定だった、西国へ逃げたぞ」

「春の国の害虫を追い出すために、親友へ協力するのは当然です。それに、私ができるのは、外交関与だけ。

王位継承権を放棄するしかないと西の公爵が思うように、周囲から仕向けていたのは、政治手腕に優れるラインハルト様ですよ」

「おやおや。ファムを追い出すには、他国を動かすのが一番早いと、助言をくれていたのはローですからね?

我が王家にとって、身近な他国と言えば、私の母上の出身の西の戦の国。そして、アンジェが王族の戸籍を持つ、北の雪の国。

私は軍師であるローの発案にそって、政治関与をしたに過ぎません」

「王家の権力っていうのは、ここぞと言うときに使う切り札って、ライたちに教えていたもんね。

ファムみたいに常日頃から悪用していたら、本当の権力の使い方なんて、一生かかってもできないだろうけどさ。

亡命先の西国では、自分の権力が通じないって、ちょっとは学習したらいいんだけどねぇ」

「ロー。あのアホが学習するわけ無いだろう。六才のエルですら理解できている王家の責務が、理解できないんだから。

王家の責務とは、民を守り、民の幸せのために権力をふるうこと。

エルとファムを比べたら、どう見ても、エルの方が頭が良いし、王宮内外でも王女らしい振る舞いしているだろうが」

「……それもそうだね。ファムは十六才なのに、隣の国の六才の王女より、格下だって証明したもんね」


 性別を越えた親友である、私と腹黒王子様たちのアドリブ演技は、息ピッタリです。

 将来の義弟も加わり、余裕しゃくしゃくで、一斉に高笑いしてみせました。


 西の公爵の捨て駒を含む、室内の使用人たちから、血の気が引いていきましたよ。

 子供の私たちが王家の権力を用いて、周辺国家を簡単に動かしたと信じこんだようです。




 去年の秋の私兵軍隊は、領地にいた私の母が独断で動かしました。春の王族たちに軍事圧力をかけて、王都にいる私が外交戦に持ち込めるように。

 最強の母は、雪の国王へ、挙兵後に事後報告したようです。……この辺りが「最強」のゆえんですね。

 レオ様たちは軍隊に焦って、引き揚げさせるために、かなり譲歩しました。

 うちを男爵から伯爵に格上げしたあげく、王家が預かっていた二つの陸の塩の産地を含む、北地方の親戚たちの領地をすべて、我が家に返してくれたのです。


 それから、ファム嬢は軍隊の知らせがあった日に、密かに西国に脱出しましたが、西の公爵は数日後に留学したと国王に報告しました。

 私は脱出を知っていましたが、知らないふりをして、西の公爵の話を信じる演技をしてあげました。

 素人の西の公爵当主が、女優の卵の私の演技を、見破れるわけありませんよ。


 以上が、去年の秋、「現代の立身出世物語」として、春の国中で話題になった私の裏事情ですね。

 軍隊は我が家の独断行動と承知の上で、レオ様たち春の王子様は、自分たちが考えて、雪の国の王女である私と協力したことにしました。アドリブで、尾ひれと背びれをつけたわけですね。

 今夜、お母様に報告して、つじつまを合わせておきましょうか。

 西の公爵を追い詰めるには、春の国王の協力が必要ですから。

 レオ様たちも、ご両親に報告して、雪の国の王女である私たちが春の国王に協力してくれると、口添えしてくれるでしょう。


 さて、静まり返っている室内に、レオ様の声が響きました。


「おい、お前たち。そろそろ覚悟を決めろ」


 腕組みしながら、仏頂面で氷の視線をなげかける王太子。


「僕が一言、『毒を飲まされた』と国王である父上に申し上げれば、お前たちをすぐに死刑にできるぞ。

お前たちが準備した毒はローだけでなく、春の王太子の僕や、王弟の息子であるライも一口飲んでいるからな。

春の王子たちを毒殺しようとした事実は、もう成立しているんだ。

王太子の暗殺未遂なんて、大罪だ。一族すべてが処刑の対象だぞ?

お前たちの家族どころか、親戚全員、嫁の家族や親戚、それから生まれたての孫だろうと全員、容赦なく死刑になるわけだ。

そこまで理解しているのか? 国家転覆を(たくら)む、極悪人ども!」


 王太子は腕組みしたまま、脅迫していきます。

 国王の一人息子に続いて、詳しい説明を付け加える、王弟の一人息子と軍師の家系の王子様。


「ちなみに、私が毒を飲まされたと知れば、西の戦の国の王家も動きますよ。

私は『戦の国王の孫』でもあるんですから。

あなたのような極悪人は、春の国で死んだ方がマシだと思うほどの苦しみを味会わせたあと、生きたまま西国へ引き渡します。

西国でも、春の国と同じぐらいの刑罰を受けるでしょうね。

もちろん、先ほどレオが述べた一族や血筋関係全員ですよ。子供だろうと、容赦なくね。

どこの国でも、国家転覆を(くわだ)てる罪人なんて、一滴も血を残すわけありませんから」

「んー、雪の国が良い例かな?

四年前に、愚かと名高き先代国王に変わり、自分が国王になろうとして反乱を起こした、南の公爵家。

反乱の最中に、先代国王は病死したけど、賢さで有名な王太子がすぐに即位して、反乱を沈静化させたよね。

その結果、雪の国で最も古い分家王族であり、最も権力を持つはずだった南の公爵は、反乱に加担した貴族共々、全員が処刑されたでしょう?

今でも生き残っている南の公爵の血筋と呼べるのは、古い古い時代に南の公爵から分かれた分家……反乱に加担せず、王太子の味方をした家だけだよね」


 ……こういう時、ロー様が、真の意味で軍師だと再認識させられますね。

 話ながら、ちらちらと私たち兄弟やはとこに、意味ありげな視線を送ってきます。

 他国がつかんでいない、内乱の裏事情を知ってるとね。


 生き残った古き南の公爵の血筋は、うちの母方のおじい様の血筋。つまり、雪花旅一座なんですよ。

 各地を旅する王族だけあり、ツテが広い、顔も広い。

 反乱が起こったときも、ツテを使って、最後まで公爵当主を説得しました。聞いてもらえなかったけど。

 それから、雪と国境を接する、西の戦の国と東の倭の国が、内乱に便乗して挙兵しないように、雪の西の公爵と協力して、国境の守備を固めましたからね。


 その次は、反乱の首謀者に説得が通じなかったので、被害を最小限にするため、暗躍しました。

 南の公爵当主が捕縛されたあと、反乱に加担した貴族たちに降伏をすすめる使者を送り、一計を授けます。

 奥方と離婚して、奥方を子供と一緒に奥方の実家に戻させてから、降伏するのだと。


 降伏した後、子供は反乱に加担した父親と無関係と判断され、生かされることが決定しました。

 ただし、家はお取引潰しになり、爵位と領地は王家預かりに。

 預かった各領地には、おじい様の親戚にあたる者が領主代行として、派遣されました。

 領主代行の補佐には、母親の旧姓を名乗った、先代領主の子供が指名されましたけど。

 私の親戚たちは、領地経営の仕方を子供たちに教えながら、国王への忠誠心を持つように洗脳……いや、教育する、教師になるのです。

 子供たちが王家の期待に沿える成長を見せたら、父親の爵位と領地を返して、家を再興させることを、新たなる国王は約束しました。

 雪の国の分家王族である、南の公爵は見せしめのために、すぐに処刑されたのとは、雲泥の差ですね。

 ゆえに、反乱に加担した父親たちは、即位したばかりの賢い国王に感謝します。

 新たなる王に誠心誠意お仕えするように、子供に言い残し、国家転覆を企てた犯罪者として、処刑されました。


 こんな経緯がありまして、現在の雪の王家は、うちのおじい様にご恩を感じており、すぐにお願いを聞いてくれるわけですよ。

 お願いの最たるものは、四年前の春の国への軍事侵攻でした。


 ……雪の国でおじい様が暗躍しているうちに、春の国の北地方では、暴動が多発して情報収集が困難になったんです。

 その内、雪の国の内乱鎮圧に協力していた、雪の国の西の公爵……私のはとこであるジャックのひいおじい様は、絶望的な情報を入手しました。


 春の王都で、北地方の貴族が爵位を取り上げられ、ケガの治療を満足に受けられず、死んでいったと。


 可愛い孫たちが春の王家に見殺しにされたと思い込んだ、おじい様たちの怒りは、怒髪天をつきました。

 雪の国では内乱の犯罪者にも恩情をかけたのに、春の国は内乱の被害者を見捨てたのです。

 おじい様は、雪の国王に許可を取り、西の公爵と結託して大軍を伴い南下しました。

 孫たちの弔い合戦として、春の国の王家を滅するために。


 そんなわけで、四年前の雪の国の軍事侵攻の理由を知る、春の国の西の公爵当主は、私たちに迂闊(うかつ)に手が出せないんですよね。



 私が記憶を思い起こしている間も、春の国の王子様たちのお言葉は続いています。

 今は、ロー様が発言されておりました。


「まだわかんない? 君たちは、西の公爵の捨て駒だと、春の王太子も言っているんだよ。

没落して平民になった元貴族の一族が消えても、王族である西の公爵には、なんの痛手にもならないからね。

だって、君たちの後に、王家の血を一滴も持たない商人や農家を西地方の貴族にして、分家王族の権力を維持してるじゃないか。

君たちや、西の新興貴族の後釜は、いくらでも居るって、自覚しといた方が良いよ?

西の公爵は君たちが助けを求めても、『勝手にやったことだ』と言って切り捨て、死刑台へ送るって」


 二杯目のお茶を飲みながら、世間話でもするように軽い口調で話す、医者見習いの王子様。

 捨て駒たちが、畏怖(いふ)の視線で見ているのに、気がついていないようですよ。


 ……なかなか、シュールな光景でしょうね。

 王子様が軽口を叩きながら、美味しそうに飲んでいるのは、捨て駒たちが人を寝たきりにするほど強力な毒を入れたお茶なんですから。


「僕は心が広いからな。一度は、選択肢をやろう。

王太子の暗殺を企てた極悪人として、一族すべて公開処刑されるか。

西の公爵にお願いして、生き延びることに賭けるか。どちらでも、好きな方を選べ♪」


 楽しげな声を出しながら、悪意のにじみ出る笑顔を浮かべる、王太子。

 あえて他の選択肢は提示せず、西の公爵の捨て駒の方から言わせるように仕向けましたよ。


 ……ちっ。私に毒を飲ませていた犯罪者たちは、命拾いしましたね。

 レオ様は捨て駒たち自身の意志で寝返らせ、自分の手駒にする、おつもりのようです。

 「私の王子様」がお望みなら、不本意ですが従うしかありません。


 うちのおじい様を見習い、春の国王陛下に絶対的忠誠を持つように洗脳……いや、教育を施しませんと。

去年の秋とは、小説内で7~8話の間にあった話です。


短編「花の公爵令嬢と雪の男爵令嬢 〜悪役たちの綺想曲〜」で、詳しく書いてみました。

この小説では、ほとんど台詞のなかったファムが、短編ではダブル主人公の立ち位置です。

そらから、悪の組織の敵対組織にあたる、西の公爵側の追加戦士の立ち位置で、「ボリス王子」も先行登場。

小説では最近やっと名前が出ましたが、かなり前から登場が決まっていたわけです。


……戦隊ものを調べていたら、悪の組織の新幹部登場があるなら、正義サイドにも追加戦士が登場するようですね。

西の公爵は正義じゃないから、私の中では、敵対する別の悪の組織扱いですが。

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