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109話 おバカさん王女と有能な私の違いを、見せつけておきましょう

 政治の勢力図を塗り替えたい、腹黒王太子のレオナール様から話しかけられた王宮医師長は、気難しい顔つきになります。

 中立を掲げる分家王族の当主は、慎重な姿勢を崩しません。


「……覚えている。お前は何を言いたいのだ?」

「僕は王太子として、ファムとアンジェの会話を見過ごせません。

あのとき、アンジェは、ハッキリ指摘した。ファムには、春の国の王族としての誇りが欠けていると。

偉大なる農家の血筋を誇るべき王族が、祖先の血筋を知らず、農家を見下す発言をしました。

それに、春と雪の二つの王位継承権を持つ、アンジェの存在も知らなかった。

王家の歴史を知らない。王家の親戚も知らない。春の国の品位を下げる発言を平気でする。

このようなものを王妃にすれば、我が国は他国に(あなど)られ、格下に見られます!」

「レオナール。今のお前も、春の国の品位を下げる発言をしている自覚はあるか?

王家を守るはずの王太子が、よりにもよって、王族をおとしめる発言をしているのだ」


 レオ様は、去年の春、自分の婚約が延期になったときの話を引き合いに出します。

 初めて会ったときのファム嬢は、私の「父方の祖父の藍染農家の血筋」を指して、あざ笑いました。


 攻撃された私が、黙っているわけないでしょう。

 揚げ足をとり、王家の歴史を使って返り討ちにして、赤っ恥をかかせてやりました。


 あの場には、春の国の王族すべてと、東と南の侯爵当主が居ましたからね。

 言い換えれば、春の国の政治の中心人物たち。その人物たちに、愚かな王女と有能な男爵の女当主の会話は、記憶に深く刻まれたと思いますよ。

 私が王太子の秘書官と言う、素晴らしき役職を得たのは、その翌日でした。


 ついでに王妃教育の責任者という、出血性胃潰瘍の原因になった役職も押し付けられましたけど。

 自己中心的な王女に真っ向から意見できる娘は、今まで王都に存在しませんでしたからね。

 国王陛下は、政敵である西の公爵家への嫌がらせも兼ねて、ファム嬢と同い年の私を責任者に抜擢したのです。


 話を戻して、ファム嬢が私に言い負かされた敗因は、春の国の常識です。

 春の国では、父方の祖父の祖先しか重視しませんから。

 ファム嬢にしたら、私は北地方の最後の貴族だから、婚約の儀の会場に呼ばれただけの田舎者と言う、認識だったでしょう。


 おバカさんの王女は、私の父方の祖母を見過ごしておりました。

 うちの祖母は、春の国の王位継承権を持つ、湖の塩伯爵家の娘。

 貴重な陸の塩の採掘権を持つ一族で、唯一の生き残りなのです。


 春の国が陸の塩の採掘権を、周辺国家に主張するためには、絶対に必要不可欠な、王家の血筋。


 そんな重要な血を受け継いだ私を、堂々と王家の敵に回そうとしたファム嬢の行動には、春の国の政治の中心人物たちもあっけにとられたと思いますよ。

 頭の悪さを披露し、王妃の資質が無いことを、自ら公言したと同じですからね。



 さて、レオ様と会話中の王宮医師長は、気難しい顔のまま、言葉を発しました。


「ファムは、婚約が延期になったあと、王妃教育に勉強に力を入れていたであろう?

アンジェリーク秘書官は、王妃教育の責任者としてファムを見守り、立派な王妃になる日を待っていた」

「ローの父上。僕だって、ファムが成長するのを、気長に待っていました。

その結果、どうなりましたか?

ファムは王妃教育に打ち込むどころか、教育を拒否して、ふしだらな本性を現しましたよね!」

「レオナール。男として、年頃の娘の一時的な火遊びくらい、多目に見る度量はなかったのか?

お前が東の子爵家の娘にうつつをぬかして、側室にしようと心乱したから、ファムはお前の心を繋ごうとして、火遊びをしてみせたのだろう。

なぜ、ルタを側室にしようと思った? 妻をファム一人に絞らなかった?」

「当時のファムが反省せず、真面目に王妃教育を受けていなかったからです。

春の国の王族としても、他国の前に出せないファムの代わりに、国の花になる嫁が必要だと、僕は考えました」


 嘘です。方便です。

 レオ様は、子供がたくさん欲しいから、見目麗しい花嫁を求めました。

 子供がたくさんいれば、新たな分家王族を作れると思って。

 私がレオ様の本音を知ったのは、ファム嬢とルタ嬢が婚約者候補の資格を剥奪された後でした。


 一人っ子王子のレオ様は、十一才の時に、強い危機感を持ってしまいます。

 親戚である医者伯爵家の次男が亡くなり、末っ子のローエングリン様が跡取りになる様子を見てしまってから。


 レオ様には、兄弟が居ません。自分が亡くなっても、安心して未来を託せる、弟や妹が居ないのです。

 一人っ子の事実は、レオ様に重くのし掛かりました。

 そして、自分の子供には、兄弟を作ってやりたい。たくさん子供が欲しいと言う夢を持ちます。

 最終的に、たくさん子供を得るためには、花嫁が多くいれば良いと考えるに至りました。

 その結果、ルタ嬢を、もう一人の婚約者候補に選んだのです。


「ファム以外の婚約者候補四人の中で、一番マシだったのが、ルタでした。

ルタは、王妃教育責任者のアンジェを、他の婚約者候補たちみたいに、『口うるさい腰巾着』と呼ばなかった。

男爵風情と小馬鹿にしているのは、知っていましたが」

「……なんとも、教養を疑う発言をする者が、王太子の婚約者候補に選ばれていたのだな。

推薦したのは、大臣たちだったと記憶しているが。

医者伯爵は中立の王族ゆえ、公平を保つため、婚約者候補たちに接触しなかったのだが……それは間違いだったようだな」

「一応、ルタは、アンジェの助言を聞く素直さを、持っていましたよ?

それを見込んで、真面目に王妃教育を受けてくれると、僕は期待したのです。

ファムも、切磋琢磨できる相手がいれば、真面目に王妃教育を受けてくれると思って。

でも、僕の希望は打ち砕かれました。ルタも、ファムの悪影響を受けて、ふしだらになった」


 レオ様は、一旦口を閉じました。ぐっと表情を引き締めます。


 私は、静観するしかできませんでした。口喧嘩に発展しつつある二人に背を向けます。

 困った表情を浮かべ、医務室内部を見渡し、助けてくれそうな人を探しました。


 居た、副王宮医師長殿!

 医者伯爵当主の一番目の弟のあなたなら、なんとかできますよね?


 パアッと、期待を持つことが分かる表情を作り、熱い視線を送りました。

 弟殿は、王家の微笑みを浮かべて……両手で大きくバッテンをしました。


 バツ? えー、ダメなの!?

 目を真ん丸にして、弟殿を凝視しましたよ。

 弟殿は顔を横にふり、兄は怖いと言うジェスチャーをして、私から視線を反らします。

 思いっきり落胆したと分かる動作をしたのち、すねた顔つきで、可愛らしく弟殿をにらみましたよ。


 仕方なく、背後の口喧嘩を見守るために、視線を戻しました。

 医者伯爵当主殿は、上手く逃げますね。言葉巧みに、国王にも、西の公爵にも、味方するような発言をしています。

 レオ様は、年の功に敵いませんでした。とうとう援軍を求めて、私に声をかけましたよ。


「……おい、アンジェ! 僕と王宮医師長の意見を聞いて、どう思う?」

「不毛な言い争いをしていると感じました。時間の無駄づかいです」

「なんだと!?」

「根拠は、今ここに居ないファム嬢の過去について、意見のやりとりをしているからです。

現在のファム嬢は、己の行為を悔い改め、春の国の王位継承権を放棄しました。そして西の戦の国へ、語学留学に赴いておられます。

春と雪と戦の国、三か国の関係と、周辺国家の現状から考えますと……春の王女として、適切な外交判断をしたと言えましょう」


 レオ様が怒鳴り付けてうるさいので、無表情になって、言い返しました。

 私がファム嬢を……王太子を裏切った王女をかばう発言をしたので、レオ様の機嫌は急行直下します。

 地面の下から響くような、低い、低い声をお出しになりました。


「春の王女として、適切な選択か? あれは、ファムと言うより、副宰相……父親の西の公爵当主の判断だと思うが。

あいつは王妃教育の最中、『我が国と取り引きをするなら、我が国の言葉を話せばよい。言語よりも、伝統ある王家の刺繍を勉強するほうが王妃として、国に貢献できる』と言い切ったヤツだぞ。

あの発言は、国王である僕の父上や、副宰相に用事があって廊下で待っていた大臣の半分が聞いている。

外交の才能が無いファムに、外交官のマネができると思えん。

何をもって、お前は『ファムが適切な外交判断をした』と思ったのだ?」


 王宮医師長との口喧嘩を止め、腕組みしたレオ様から、質問を投げかけられました。


 では、私の実力をお見せしましょう。

 医務室内で聞き耳を立てる方々も、私とファム嬢の格の違いを実感できると思いますよ。


「ファム嬢の滞在先は、西の戦の国の分家王族であり、雪の国との国境を守る辺境伯の家。

春の国にとって、北の雪の国へ影響力を持つ、西国の王族との繋がりは重要です。

なおかつ、ファム嬢は王位継承権を放棄し、子々孫々も春の国の王位を認められません。

このことは、レオ様の父君の国王陛下と、ファム嬢の父君の西の公爵当主が約束を交わしましたよね。

また、それを北の雪の国、南の海の国、東の倭の国の王家も了承しています。

つまり、西国の王家がファム嬢の血筋を利用し、他国に協力をあおぎ、春の国を(おびやかす)かすことが出来無いと言うことです」

「……雪の国から見た場合は、どう見えると思う?」

「ある意味、脅威でしょうね。国境を接する二つの国が、王家の血筋を通じて、親密な関係を結ぶのですから。

これは、雪の国だけではなく、南の海の国にとっても、同じことですけど。

西国は、『西の宝石姫』と呼ばれた麗しき王女をよこし、我が国との関係回復をはかりました。

そして今回、ファム嬢という春の国唯一の王女を西国に送ることで、春の国は西国との『完全なる和睦』に同意したことになります。

『完全なる和睦』と言うことは、軍事同盟を結び直すことも可能にしますからね。

国境を接する雪と海の国は、うかつな行動が取れなくなります」

「……お前の意見は、ファムを西国に輿入れさせるのが前提だぞ。

西の公爵当主が、大切な一人娘を政略結婚の道具にするとは、思えん」

「そもそも、レオ様の花嫁候補になった時点で、政略結婚じゃないですか。

春の国の王家の血筋を濃くするために、ファム嬢は春の国の王子の誰かに嫁ぐことが決められていましたよね?

実際に婚約者候補として、六年前に医者伯爵家のローエングリン様が、お見合いしておりますよ」


 そこまで言って、わざとローエングリン様の父親に視線を寄越しました。

 私につられるように、医務室内の視線が、王宮医師長に集まります。

 注目の的になった本人は、眉間のシワを濃くして、私をにらみ返しました。


「将来の王妃を妻にはできないと言って、医者伯爵家は辞退した」

「言い換えれば、王宮医師長殿は、レオ様とファム嬢の婚約をおし進める口実にしたんですよ。

遠い親戚である西の公爵と、いとこである国王、どちらにも義理が立ちますからね」

「中立の王族としては、当然の選択であろう」


 王宮医師長は不機嫌を隠さない視線を寄越し、言い放ちます。

 私は平気な顔で受け流しましたけど。


「ええ、王族の役割の一つは、貴き王の血筋を将来に繋げることですから。

あなたは、分家王族の当主として、春の国の王家を守る選択をなされました。

ご子息であらせられるローエングリン様も父君を見習い、春の国の王家を守る選択をされたのです。

まずは、ご自分がファム嬢とお見合いし、『分家の王子では釣り合わない、やはり王太子になるレオナール王子が最適だ』と、貴族たちに思わせるように仕向けました。

その次は、五年もの間、伯爵階級以上のご令嬢とお見合いし続け、本家王族の王子……ラインハルト様に、ご令嬢の情報を流しておられた様子。

ラインハルト様には、『レオナール様に愚かな花嫁を迎えるわけには行かない』と伝えて、情報提供されていたと聞きます。

実際はラインハルト様の花嫁を見つけるために、協力していたのでしょう。

西国の王女を母親に持つ、ラインハルト様の花嫁選びは、春と戦の国との関係に大きく影響を与えますからね」

「……アンジェリーク秘書官の想像力には、驚いたな。政治に(うと)い息子を、そのように評価するとは。

息子は、国に影響を与えるような、思慮深い行動は出来ぬよ。それは、この国の王族や貴族すべてが知っている、周知の事実だ」

「王宮医師長殿が、春の国の王族として、ローエングリン様の有能さを隠さねばならなかったのは、承知しております。

レオナール様より優秀と判断されて、王太子に担ぎ上げられては、ファム嬢を王妃にするために暗躍したローエングリン様の行動が、すべて水の泡になりますからね」

 

 さりげなく、王宮医師長殿の退路を(ふさ)ぎにかかりました。

 気難しい顔で睨み付ける相手に、雪の天使の微笑みを浮かべて、涼しい視線で見返しましたよ。


「ローエングリン様が、レオ様に秘密のお願いをされていたのは、私の妹と正式婚約したときに、大臣たちの前で明らかにされたでしょう?

北地方の最後の貴族を花嫁にしたいから、お見合いで男爵家の順番が来たら、仲人をして紹介して欲しいとね」


 王族相手だろうと、反論はさせませんよ。

 まだまだ私の独壇場です。


「父方の祖母が王女であるローエングリン様だからこそ、我が家の価値に気が付いたんですよ。

我が家で最も重要なのは、私の父方の祖母です。善良王の直系子孫、湖の塩伯爵家出身の祖母。

王位継承権と陸の塩の採掘権を持つ、唯一無二の存在。

騎士や軍師の家系がこぞって欲しがる、騎士の名門の血筋。

塩伯爵のひ孫にあたる私たち三姉妹は、歴史に名を残す軍師の家系の王族、医者伯爵家にとって、最適な結婚相手でした。

だからこそ、レオ様はローエングリン様のために、長女の私ではなく、医者になりたがっている次女のオデットを引き合わせたのです」


 ……亡くなられたローエングリン様の兄君も、似たような選択をされていました。

 山の塩の採掘権を持つ、北地方の辺境伯。雪の王女を母に持つ、北の侯爵の娘と婚約しましたからね。


「オデットとの仮婚約を正式婚約にするため、ローエングリン様は、本当に努力されましたよ。

反対していた私を説き伏せ、春の先代国王と雪の現国王まで味方につけて、正式婚約決定の場に望んだのですから。

現在の春の国の王家で、他国の王家まで動かせる存在が、どれだけいると思いますか?」


 私は、ローエングリン様の味方です。

 聞き耳を立てる医務室内の貴族たちを使って、噂話になるように仕向けました。

 将来の義弟の立場が強くなるよう、民衆心理を誘導するくらい、簡単な仕事ですよ。


 王宮医師長殿が何か言いかけていたので、気付かないふりをして、わざとレオ様に話しかけました。

 私の邪魔ができるなら、やってみれば良いのです。ロー様の父親とて、返り討ちにしますよ。


「レオ様。ファム嬢も、他国に影響を与える王族になるべく、春の王位継承権を放棄した上で、『西国の王家に見初められる』と言い残し、旅立たれたのでしょう。

『春の国で唯一の未婚の王女』と言う価値は、はかり知れません。

また、東の倭の国のように、王女には最初から王位継承権が無い国も多いので、王位継承権の放棄は醜聞にならないでしょう。

麗しき美貌と立ち振舞いに、素晴らしき身体美。『春の国の高嶺のバラ』と呼ばれた王女の実力をもってすれば、辺境伯の王子を虜にするくらい、簡単ですよ」

「お前は、去年の我が国の混乱を忘れたのか? 貴族が真っ二つに割れて、国政に影響がでたんだぞ!」

「それが、副宰相殿の狙いだと、気づかないんですか?

西国の国政に影響が出るくらい、ファム嬢に骨抜きになる男性が多ければ多いほど、春の国が有利になるんです。

今の春の国は、四年前の北地方の動乱によって、(いちじる)しく国力が落ちていますからね。

他国と戦争になれば、国の存続は守れても、領土をいくつか失いましょう。回復する時間が必要です。

西国との戦場になった、西地方の歴史を考えれば、西地方に領地を持つ公爵家は、国力を回復させる方法を考えますよ。

そして、同時に春の国に居ずらくなった、可愛い一人娘が幸せになれる道も探して、西国の辺境伯に預けたのだと推測できます」


 私の復讐対象である、西の公爵家全体を持ち上げる発言をしておきました。

 よく聞いて、内容を吟味すれば、おとしめてバカにしている内容だと分かるのですけどね。


『浮気性のおバカな王女は、春の王族から見限られてしまった。居場所が無くなったから、西国に逃げ出したのだ。

西の公爵当主も、おバカさんな選択をしたけれど。王位継承権の無い娘は、春の王族として何の価値もない。

せいぜい、ふしだらな本性を他国で見せびらかせるくらいしか、利用価値のない娘だと言いふらしてるも同じだ』ってね。

 


 悪口に気がついたのかどうか知りませんが、レオ様は考え込む顔になりました。


「西国の北の辺境伯か……あの家でファムと釣り合う者は……」


 王太子は、次々と年代の近い王子の名前を挙げていきます。


「あとは、僕と同い年である、末弟のボリス王子だな」


 思い付く名前をすべて言い終え、レオ様は一息つきました。

 腕組みをすると、仏頂面に。青い瞳で、値踏みするように、私をじっくりご覧になります。

 

「……アンジェ。お前、いくつだったっけ?」

「十六ですよ、レオ様の一つ下」

「十六だったか。ファムと同い年とは、思えん」

「栄養不足で成長が遅いので、もっと年下に見られますけどね。まあ、そのうち、母のような容姿に成長すると思いますよ」

「……打てば響くヤツだな。本当に頭の回転が早い。

お前の不幸は、女に生まれたことだろうな。男だったら、外務大臣に出世、間違い無しだったろうに」

「頭脳を買われて、王妃の補佐をする秘書官になる予定です。田舎貴族の娘としては、大出世ですよ」


 雪の天使の微笑みを浮かべて、軽口を叩きました。

 レオ様は、性別を超えた親友。気の置けない仲間ですからね。

 時々、私の心を乱す言動をされて、ギクシャクすることもありますが。

 基本的には、人生を捧げた相手、「心からお慕いする私の王子様」なのです。


「ローの父上とおじ上。女を男にする薬って、ありませんか?」

「あるわけなかろう!」

「馬鹿げたことを言うな!」


 レオ様は真顔になって、医者伯爵家の王子兄弟に、真剣なまなざしを向けました。

 即座に否定され、怒られましたけど。


「やっぱり、無いですよね。はあ……アンジェが男だったらなぁ。

我が国の将来の外交関係は、絶対に安泰だったはず!」

「何を言っているのですか? 親友である、外交官の子息殿がおられるでしょう! あの方が、将来の外務大臣ですよ?」

「まあな。でも、お前の才能を目にするたびに、惜しくてたまらん。

湖の塩伯爵家の権力を引き継いだお前は、自分の言動が、春の国に及ぼす影響をわきまえている。

それゆえ、王家の血筋を隠して、人前に立つことを望んだ。そして、よっぽどでなければ口を挟まん。

親戚である王族たちが、アホなことを仕出かしたときとか。僕とファムの婚約延期が良い例だ」

「それから、レオ様が将来の国王として、目に余ることをなさったときですね。きちんと苦言を申し上げているでしょう」


 澄ました顔で揚げ足をとり、ツンと顔を反らしました。


「レオナール、秘書官に一本取られたな。愉快、愉快、はっはっは♪」


 医者伯爵家の当主は、珍しく私の味方をする発言をしました。

 気難しい顔を止めて破顔し、冗談めかした口調で大笑いしたゆえ、この状況を楽しんでいると、周囲はとらえたでしょう。


 実際は、王太子の味方になる。西の公爵家の敵になる。

 そう宣言されたも同然。


 春の国の政治における勢力図が、大きく塗り変わった瞬間でした。

悪の組織の女幹部(アンジェリーク秘書官)は、外交手腕に優れる幹部。

その才能は、外国との交渉の場だけではなく、国内でも発揮されるのである。

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