第8章 1mと焼肉パーティ②
掘りごたつタイプの六人用の席に座った。
机の真ん中には七輪。
横に三人並んで、向き合う形になる。
俺は横三席の真ん中に座っている。
右に白天寺。左に朝菱。前には左から光野、工口、蓮宮が座っている。
周りから見たら美少女四人を侍らす男二人だな、コレ。
あと、この座り順は合コン的にどうなんだ? 行った事無いから分からない。
「まぁ、入店順に座ったからしょうがないか」
「「「「?」」」」
「………………大丈夫?」
しまった。また呟いてた。白天寺には何かを心配された。多分、頭の。
「ま、紅空はどうでも良いから、タダで貰える飲み物を注文しろやー」
蓮宮の言っていた通り、全員ソフトドリンクを一人分サービスして貰った。
「もう、肉頼んで良いのよね?」
「ああ! 全然問題無いです! ……ではこれより! 合コ……じゃなくて、『親睦深めよう☆焼肉パーティ』を開始致しやす!」
と、またもや工口が幹事らしい事を言った。ネーミングセンスはアレだが。
「どうでもいい」
蓮宮はその空気をも壊しかけた。
まず最初に来たのはタン塩(大盛)。注文者、蓮宮。
さっき理由を聞いたら、
『焼肉はタン塩から始めるのが常識』
と返された。
その言い方はそうじゃない人を拒絶していないか?
「折角だから、皆で肉の交換をしよう」
と、蓮宮が蓮宮らしくない事を唐突に言った。
だが、その発言の意図が、
「皆と肉を交換して会話を作ろう♪」
では無く、
「タン塩一皿分の金で色々な種類の肉を食べよう」
にしか聞こえないのは何故だろう?
「じゃ、取り敢えず網も温まってきた頃だろう。肉置くぞー」
と、(俺が)取り敢えず宣言し、トングで肉を六枚置いた。残り六枚。
「美味そうだな」
聞いているだけで腹が減りそうな音を立てて肉が焼けている。
因みに、肉を注文すると同時に、全員が一つずつライスを注文していた。俺の案だ。
「じゃあ六枚あるし、一人一枚、って事で良いのか?」
と光野。
「そうだな」
と俺。
「じゃあ、肉が焼けるまで雑談といきますかー」
と工口。
「お、合コンっぽい流れだねー。合コンがどんなのか知らないけど♪」
と朝菱。
「………………合コン?」
と白天寺。
「めんどい。早く食べて帰りたい」
と蓮宮。
「「「「いちいち空気を壊すなッ!」」」」
と四人。
白天寺は黙々とライスを食べている為、ツッコミに不参加。
「先に全部食うなよ?」
後で肉と一緒に食うから美味いんだし。まぁ、そのままでも美味いが。
「………………分かった」
その時、肉から食欲をそそる匂いの煙が出てきた。
「よーし。じゃあひっくり返しておくよー♪」
と朝菱。
トングで六枚をひっくり返すと、そこには丁度良い焦げ目があった。
「美味そうだなー」
と光野。
「そろそろ良いかなー……」
と工口。
「いや、まだ」
と、蓮宮。
「工口の企画にしては盛り上がってるなー」
と、俺。
だが、この時の俺達は知らなかったのだ。
肉が、ここに居る全員に、対等に分け与えられる事など無かったのだ。
どうやら、肉から上がる煙は、肉奉行の開戦の狼煙だったらしい。
肉の両面に良い焦げ目が付いてきた頃の事だった。
「「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあ!」」
と、唐突に朝菱と蓮宮が叫んだ。
「「「え?」」」
二人とも割り箸を素早く動かし、肉を素早く網から取った。
朝菱が三枚。蓮宮が三枚。
「……三、枚?」
一気に三枚ずつ掴んだ二人はそれらを素早くレモン汁に付け、素早く頬張り、『もぐもぐ』と言う擬音が聞こえてきそうな速度で租借し、『ごくん』と言う擬音が聞こえてきそうな勢いで飲み込んだ。
ここまで五秒以下(俺の体内時計調べ)。
「「「……え?」」」
光野、工口、俺の声だった。白天寺は無視している。怒っている様に見えなくも無い。
「「うん。美味しい」」
「「「……」」」
よーし。そろそろ言っても良いかなー。
「「「何やってんだお前等ッ!」」」
食べ物を目の前にすると性格が豹変する。
良くも悪くも漫画らしいソレが、朝菱梓の本性だ。
食堂で狂戦士の如く食事しているのを目撃したのは俺の記憶に新しい。
「世界の肉は私に食べられる為に存在する。……私がこの誘いを受けたのには立派な意味がある。……他人の金で肉をたらふく食う為だッ!」
どうなんだ、朝菱。人として。口調変わってるし。まだキャラ立ってないのに。
「どんなに食べても胸に肉が行かないんだけどな……」
と、憂鬱そうな顔で呟いても、俺らの肉はお前らの腹の中だ。
「そ、そうだよなー……、あはは……」
光野が悲しそうな顔で胸に手を当てていた。
無視して良いんだよね? 男として、ここは無視して良いんだよね?
「ま、割引券を使えるだけ良いじゃない。ライスとドリンクはあるんだし」
と蓮宮さん。
「「「……ほう?」」」
焼肉屋に来たクセに、米とジュースで我慢しろ、と?
「他人が楽しみにしていた肉を奪い取り、他人の希望を絶望にする。ソレが快感」
なんか中学二年生っぽい言い方でさらっと怖い事を言ってきた蓮宮さん。
「「「……ふざけるなよ」」」
目の前の肉をそう簡単に食わせてたまるか。とか決意を固めている隙に、残りの六枚が金網にセットされていた。
まずい。このままじゃこの六枚も。
「「「コイツらの腹の中に入ってしまうッ!」」」
まずい。肉は美味いかもしれない(食べてないから断定不可)が、この状況はまずい。
「………………」
ジュー……、と言う音を立てて次の肉が焼けてきた。
「アタシ、今日は何枚の肉を食えるんだ……?」
光野がそう呟いていた。同感だ。
「あきらめるな、光野、翔。諦めなければ何とかなる!」
と、工口が俺達に言葉を掛けた頃、目の前の肉に丁度良い焦げ目が付いてきた。
「「だと、良いんだけどなー」」
残りは片面。朝菱がこの六枚をひっくり返した。食べ頃になる前に作戦を立てないと。
「「……」」
朝菱と蓮宮はメニュー確認に一生懸命だ。
今だ! 作戦名は『先手必勝』!
「もらっ…………たァァァァァァァァァァっ!」
この肉は俺の物だ!
と、強く意気込むも、俺の持つ割り箸が肉に触れる瞬間。
「「させないッ!」
左と斜め右から伸びてきた二組の箸が俺の目当ての肉に伸びてきた。
右と左から一組ずつ、蓮宮と朝菱の箸が。
「アンタには渡さないッ!」
そう熱く言い放ったのは朝菱。
「それはこちらの台詞だ!」
と(珍しく)熱く言い放ったのは蓮宮。
「えっ、ちょ「「させるかッ!」」って……」
結局、俺が狙っていた肉は左から伸びてきた朝菱の箸に奪われた。
「スキ有りッ!」
「あっ」
朝菱が俺と蓮宮から肉を奪って喜んでいる間に、蓮宮が素早く残りの五枚をさらった。
「あーあ、取られちゃったー」
「……」
こうして、第一ラウンド『塩タン』は蓮宮の勝利。
「なんだコレ」
俺はつい呟いた。
「ホント、何枚食えるんだろうなー。……あ、店員さーん。石焼ビビンバ一つー」
早くも肉争奪を諦めた光野が石焼ビビンバを注文していた。
「「賢明な判断だな」」
俺と工口が冷めた目で呟いた。