第7章 1mと焼肉パーティ①
入学式の二日後。つまり、委員会決定とかがあった日の次の日。
午前八時十八分。俺は自席に座っていた。眼前には工口の姿。
「出会い、欲しいよな」
脈絡も無く変な事を言う、という事に定評のある工口だった。
「……神妙に呟くな。シリアスパートだと勘違いするだろ?」
「ぐはっ!」
俺の冷静なツッコミが工口を貫いた。
「ま、まぁ、それは良いとして。……俺はついに出会いのチャンスを見つけたのだよ!」
「マジかっ!」
コイツがそんなチャンスを見つけただと?
って言うか、本当に唐突だな。
「コレだっ!」
某未来から来たネコ型ロボットが秘密な感じがする道具を謎のポケットから取り出す時の様なポーズで、工口はポケットからカラフルな六枚の紙を出した。
「なんだソレ」
俺は取り出したポーズのままフリーズしている工口に言葉を投げかけた。
「フフフ。コレは最近、駅前にオープンした焼肉屋の割引券さ」
と、某未来から来たネコ型ロボットの声真似でそう言った工口は、俺に六枚の内の一枚を差し出した。その紙には、こう書かれていた。
『本券をお持ちのお客様は本券一枚につき会計二割引(お一人様一枚まで)』
と。
「……で、コレがなんで出会いのチャンスなんだ?」
どう考えても焼肉割引券が出会いのチャンスにはならないんだが。
「馬鹿めっ! なんで俺がコレを六枚持っていると思う?」
「さぁ?」
偶然だろ?
「コレを餌にして合コンを開くのだよ!」
「……あぁ」
なるほど。馬鹿なのか。
「今時の女子高生は割引券一枚でホイホイついてくるのか?」
「ああ!」
「即答かよ!」
そんなもんなのか。今時の女子高生って。違う気がするんだが。
「ま、そう言う訳で、良いヤツ二人確保しろ。俺も二人探すから」
「断る」
「拒否権は無い」
工口はそう言い、俺にさらに二枚渡してきた。これで工口の持つ紙は残り三枚だ。
「日時は?」
「今週の日曜日の午後六時だ! 腹減らして来い、って言っとけ!」
そう言い残し、工口は教室を駆け足で出て行った。
「アテも無いクセに」
俺は呟いた。
が、その直後、ホームルーム開始を知らせるベルが鳴り響いた。
「……」
工口はトボトボと歩いて帰ってきた。
「なるほど」
コレが『出鼻を挫かれた』と言うヤツか。
「バカね」
一部始終を見ていた鈴梨がそう呟いていた。
「同感だ」
で、さらっと日曜日。
「焼肉だぜ焼肉! しかも女子とのイチャイチャ付きで!」
今は午後五時四十六分。待ち合わせの時刻まであと十四分ある。
「お前にイチャイチャは無いだろうけどな」
てか、イチャイチャなんて死語じゃないか?
「何だとぉ!」
ま、それはどうでも良い、として。俺も工口も、今日は私服だ。
「ま、無駄と分かりつつする努力は嫌いじゃないけどな」
工口は気合を入れてきたらしく、張り切った(結果失敗した)のが分かりやすい服装。
「無駄じゃ無ぇよ! そこを間違えるな!」
「知るか」
ま、俺は普通に、近所に外出する時の服で来ているがな。
「女子の私服だヒャッホイホーイ!」
そこまではしゃぐ気にはならないが、まぁ、気持ちは分かる。
「二ミリ位は、な」
「何がだ?」
その時、前方から女子の声がした。
「おーい、紅空ぁー」
と、前方から小走りで俺達の所に来たのは。
「あ、光野か」
光野千春だった。
紺をベースにしたボーイッシュな私服(スカートでは無くズボン)で身を包んでいる。
髪型はいつも通りのポニーテール。
「遅ぇぞー、光野ー」
「まだ待ち合わせの時間前だろ? 何が『遅ぇぞー』だ馬鹿工口!」
「そこまで言わなくても良いだろ!」
手ぶらに見えるが、良く見るとズボンのポケットに財布と携帯が突っ込んである。
「他の奴らはまだ来ていないのか? って言うか、他のメンバー知らねぇんだけど」
と言う疑問を工口に投げかける光野。
「残りは女子三人だ。メンバーは「ちゃっちゃかすちゃらら、たったっ♪」!」
工口の台詞は俺の着メロに阻まれた。
「どうしてんだ、紅空?」
と、俺のポケットから出たケータイを覗き込む光野。
「えっ……と」
メールだった。
宛先は、俺。送信者は、鈴梨。件名は、『急用で行けない』。
本文は無かった。
「「え……」」
俺と光野の声だった。
「ん? どうした?」
事情を理解せずに色々と妄想している(であろう)工口の声だった。
「ヤベぇ、んだろ?」
嫌な汗ダラダラな俺を心配する光野の図。
心配してくれる人が居る、ってありがたい物だね。
「ああ。かなりヤバい」
合コンに一人足らない。五人で進行も出来るが、人数が半端だ。席の数的にも。
「工口、どうする?」
俺はリーダー(笑)である工口に相談した。
もう事情は(俺のメールを勝手に覗く事で)理解したっぽいしな。
「他に知ってる女子のメアド無いのか、翔?」
「あると思うか?」
「無い」
「ですよね!」
今のやり取りは全て俺と工口のものである。
まぁ、実際にはもう一人だけ知ってるメアドがあるのだがな。
そして工口もそれを知ってるはずなんだがな。
「……あのー、お二人さーん」
と、光野が珍しくか細い声で声をかけてきた。
「「何?」」
あ、ハモった。もし鈴梨がこの場に居たらツッコんだんだろうなぁ……。
「アタシ、誰か呼ぼっか?」
「「何ですと?」」
その発想は無かった。確かに、俺と工口の二人で選ぶ必要は無かったな。
「「頼む!」」
「わ、分かった、けど、さ……」
ハモリの連続でビビられている俺達。
「そうだな! 知り合いの中で一番の美少女だ!」
By工口。
「わ、分かった」
そして光野はズボンの右ポケットから携帯を取り出し、誰かにメールをした。
「女子高生って、メール打つの早いんだな……」
By俺。
「ま、慣れてるし」
By光野。
「ふーん」
俺は相槌を打つと共に時計を確認した。
午後五時五十一分。待ち合わせ時間まで、あと九分か。
「なぁ、工口」
と、光野がアッサリと工口に話しかけて、
「へ! え、な、何でしょうきゃ!」
工口は舌を噛んだ。やっぱ、緊張しているんだな。工口は。
「ぶっちゃけコレ、合コンだろ?」
「ぐうぇ!」
「図星か」
光野がつまらなさそうに言った。
「別に合コ「てってってってて、てててててーてて♪」らく!」
工口の魂の叫びは誰かの着メロに阻まれた。
「誰の着メロだ?」
「俺か」
工口のでした。
「何でお前の着メ「ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ」!」
俺の台詞が着メロに遮られた。今度は多分、光野のだ。
ま、着メロって言うか、マナーモードなんだが。
「ん。アタシのか」
「……来たのか?」
もしかしたら他のメールかもしれないしな。一応確認だ。
「もうすぐ来る、ってさ」
「俺が呼んだもう一人ももうすぐ来るぜ。……あ、来た」
俺は二人の目線を追ってみた。そこには私服姿の女子が二人居た。
「はろー♪」
例の一番さん、朝菱梓。
質素な服で起伏のあまり無い体(何がとは言わ以下略)を包んでいる。
髪型はお団子+アホ毛。
「なんだ朝菱か。お前、肉目当てできたんだろ?」
「あ、バレちゃってる? 折角なら安く食べたいしねー」
そう言えば光野、クラス全員のメアド集めたんだっけ。
その時に朝菱とも仲良くなっていたのか。なんか仲良さそうだ。
まぁ、この際、そっちはどうでも良い。
「ねぇ、千春?」
「あぁ。そうだな」
「「今、紅空が凄く失礼な思考を「気のせいだ!」うな」」
図星だったので、慌てて否定しておいた。危ねぇ危ねぇ。
で、本題の、もう一人は。
「ぅおぉ……」
こちらは光野が呼んだのだろう。
工口がこいつを呼べる訳無いからな。
「ヌァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァアアアァァァァアァイッス!」
天に吼える工口。いつもは出来ないが、今ならば俺でもその気持ちを理解できる。が。
「「「「うるさい!」」」」
「すんません!」
工口以外のその場の全員が怒鳴った。
「ま、工口は放っておくとして、沙耶ちゃんも来たんだね♪」
「早かったなー、沙耶」
「俺、明日死ぬのかなー。こんな幸せで、美少女三人(と、余計な一人)に罵倒されて、俺、明日死ぬのかなー。翔、どう思う?」
「『(と、余計な一人)』って何なんだ!」
「括弧の中を読むな!」
ま、それはどうでも良いとして。そこに居たのは、新入生代表。
「……こんばんは、で良いのかしら」
蓮宮沙耶、さん、だった。
落ち着いた色の上着とスカートが彼女の凛とした空気を目立たせている。
「光野ォ! 良くやったァ!」
「ちょ……、どさくさに紛れて抱きつくな変態!」
「うぼぁ!」
「二人とも仲良いねー♪」
「良くない!」
「ひどい!」
どれが誰の台詞かは推理してみよう。因みに俺は参加していない。
「あと一人、か。……アイツ、いつ来るんだ?」
「呼んだのは翔だろ? 連絡してみたらどうだ?」
「へー。紅空が呼んだんだー。次のメンバー♪」
「どんな奴なんだよ。残りの一人」
「早く食べて帰りたい」
「「「「え?」」」」
俺達は最初、誰の台詞か理解出来なかった。
まぁ、蓮宮さんの台詞なのだが。
「ちょちょちょちょ蓮宮ちゃん? さ、ささ、早速何を言ってくれちゃってるのかな?」
と朝菱のフォロー(?)。
「ただの本心。この割引券、今日で期限切れらしいし、勿体無いし」
へぇー。そうだったのか。
「あと、『五人以上で来店のお客様にはソフトドリンク一杯サービス』ってネットに書いてあったし」
よく調べたな。
「……ん?」
それって。
「別に楽しみとかじゃない。早く食べて帰る」
「……ふーん。じゃあ何でわざわざホームページ見たの?」
と、朝菱の的確な指摘。
「ッ!」
と蓮宮。
「あ」
と、工口。
「まさか現実にも居る、とは」
行きたくない、とか言って、実は楽しみにしている。何と言うツンデレ。
「楽しみにしていないのにさー」
と工口。
「わざわざホームページなんてさー」
と朝菱。
「見るハズ無いのにさー」
と俺。
「「「楽しみにしていないんだー」」」
と三人。
「……え? 今、どう言う流れ?」
と、光野。
「チッ……」
By蓮宮。
「……まぁ、蓮宮さんイジリはこの辺にするとして、今ココにいるのは五人だよな?」
と工口。
「あぁ、そのハズだが」
俺は人数を数えてみる。
眠そうに欠伸をしている光野。
全身から『早く帰りたいオーラ』を出している蓮宮。
なんとか『早く帰りたいオーラ』を取っ払おうとあたふたしている朝菱。
美少女三人が近くに居てテンション急上昇中の工口。
あと、俺。
「うん。五人だな」
「いや。六人だ」
と、意味が分からない事を呟いている光野。
「何を言っているんだ? 五人だぞ?」
と工口。
「いや、後ろを見て……」
と光野。
「いやいや千春ちゃん。今は四月だよ? 怪談にはまだ早い♪」
と朝菱。
「………………よく見て」
と、後方から謎の声。
「「「へ?」」」
俺、工口、朝菱が一斉に俺の後ろを見た。
そこには、俺が誘った焼肉メンバー②が居た。勿論、①は鈴梨だ。
「………………二十分前から、ずっとここに居たのに」
そこには、制服で身を包んだ白天寺昇華が居た。
「「「マジで?」」」
今は午後五時五十九分。つまり、白天寺は午後五時三十九分から居た、と言う事だ。
「………………マジで」
俺が来たのもその位だった気がする。
数日前、俺が割引券の最後の一枚を渡す相手を探している時、白天寺が近くを通った。
まぁ、他に誘う候補も居なかったので半ば強引に誘った。
別に嫌そうじゃなかったし。
「それじゃ、気を取り直して。……入店するとしますか!」
と、工口が幹事らしくまとめた。
「……嫌な予感しかしないんだが」
と呟いたのは俺だ。
「大丈夫だよ、多分♪」
こうして、俺達六人は颯爽と入店した。




