ソウル・ロンダリング2 おまけ
令和七年 五月二十四日(土曜日)
「かえでちゃん、あっち向いて。エプロンの結び目整えるわ」
「般若さんありがとう。なんか、テンション上がるね。メイドさんの服装って」
かえでが、レース飾りの付いたカチューシャの位置を前後にズラし、迷いながら言った。
更衣室の外で角成が待っていると、店舗の方で大きな物音がした。
急いで角成が駆けつける。
店長と、女性従業員数名が、角に追い詰められている。
[かっくん、あかん。玄ちゃんが言うてた『まよいびと』や。どうするか決めて]
大神様が角成に言う。
角成が胸元に入れた牙笛を出して吹くまでもなく、そこには半透明の男性がいて、何か言っている。
「 ……なぁ、カリスマどこ行った? ……なぁ、カリスマ……」
離れていても聞き取れる。
半透明の男性は、近くにある椅子に手を伸ばし、力任せに、人がいない方に向けて投げた。
椅子は壁に当たり、脚が折れて床に落ちる。
[あれくらいやったら、片手間で八つ裂きにして地獄に叩き落とせるから、いつでも言うてね]
大神様の言葉に角成は、半透明の人を注視したまま、黙って大きく頷く。
霊魂的な存在は、見る・聞く・触れる、などの、物理的なエネルギー消費を伴う現象を起こすことは不可能である。
だが、極々稀に、視覚・聴覚などに干渉できるようになる者がいる。
しかも今回は触覚(物に触る)まで実現している。
角成がダッシュして従業員たちの前に立ちはだかる。
「大神様、注意を引いて足止めしてもらえますか? 僕はこの人と一緒に帰ります。だから決して八つ裂きにはしないで温厚な対応でお願いします。それと、従業員さんたちの安全第一で」
[なぁんやぁ、久しぶりに室内で大暴れできると思ったのにぃ~。壁蹴って三角飛び、とか、カッコええやんかぁ。……しゃぁない、また今度見せるわ]
そう言いながら、大神様が姿を現す。
角成と半透明の人以外見えないが、シベリアオオカミの二倍以上、要するに競走馬、サラブレッドくらいの大きさはある。
[このくらいの大きさやったら、脅しに……]
「 ……なんだ、このでっかい犬は? ん? オオカミか? 撫でてやるから、こっち来いよ」
半透明の人は犬好きらしく、大神様に向かって両手を広げた。
全く脅しは効いていない、が、注意を逸らす事は出来たようだ。
「皆さんは従業員控室へ!」
角成がドアの近くで通路を確保しながら、皆の盾になるように両手を広げて立つ。
「あらあら……、あれだけ話ししたのに、まだ約束の時間になってないよ」
玄宗さんが入って来て言った。
「早く、……早く合わせろ。カリスマ、……カリスマユニットのZ小町に」
「かっくん、大神様引っ込めて、あっちの部屋で、見ざる言わざる聞かざるでこれに着替えて来て。急いで!」
「はいッ!」
角成が紙袋を受け取り、従業員控室の更衣室のドアに三回ノックをする。
「どうぞぉ~、私ら着替え終わってるよぉ~。手伝うから、入ってぇ~」
室内から般若さんの声が聞こえる。
素早い動作で角成が部屋に入る。
「んっ? 手伝うって、ひょっとして、えぇ~~~~~っ!」
角成の叫びが聞こえた。
玄宗さんが半透明の人と、対峙し睨み合っている。
「この前話ししたやんか、ちゃんと三人来るって。もうちょい待ってよ」
「わかってはいるけどぉ、早くしてくれって言ったじゃんかよぉ」
「人間生きてると、誰でも学校とか家事とか育児とか仕事とかが有ったり無かったりで、何かと忙しいやんか、だから勘弁したってよ」
そう言った玄宗さんが身体中のポケットをさぐっている。
「あと、ジャーマネとかスケジュールとかか? 俺は引きこもってたから、そんな感覚も曜日の感覚すらも無かったんだよな。……でもさぁ、あれから何日待ったと思ってるんだよ。早くしてくれよ」
「あっ、しもた、矢立て持ってくるの忘れた! しゃぁない、車まで取りに行くか。きみ、そこのフカフカのソファに座れる? ……すごい、座れた。んじゃぁ、そこ動かんといてな。すぐ戻るから、ちょっとそのまま待っててな」
玄宗さんは半透明の人が『爬虫類が苦手』と言っていたことを思い出し、念のため宇賀神様を、半透明の人に一応気を使い、別室である従業員控室内に残して、
「キミ悪い人と違うから、望みも叶えたいし、出来る限り穏便に済ませたいねん。頼むから、大人しくしといてな。お願いね」そう言って、ダッシュで店を出る。
半透明の人は、
「長野さんはいい人だけど、いくら何でも待たせ過ぎだろぉ……」そう言って、ソファから立ち上がり、
「どこだ? ……こっちか?」と、少し開いていたドアの隙間から、スッと、従業員控室に入る。
「ここかぁ~、カリスマ~」
幽霊がじりじりと、従業員さんたちに迫っていく。
(続きは『ハートのありかと矢の行方』へ)
裏導師 第二部 饒舌な鏡 完
長編部門前後編、一旦完結につき、以後、中・短編、をお楽しみください。
最後までお付き合い頂き、出演者一同感謝いたします。
僭越ながら、富田林 浩二が代表して御礼申し上げます。
ありがとうございました。
短編作品『ハートのありかと矢の行方』
に続きます。




