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プロローグ
夜は、優しくない。
ノクティアの夜は、人を選ぶ。
罪を持つ者ほど、深く沈む。
「——動くな」
低く、押し殺した声が響く。
足元で、影が揺れていた。
それは彼自身のものではない。
いや、“もう”彼の一部になりかけている。
遠くで、誰かが叫んだ。
助けを求める声。
喉が裂けるほどの、必死な声。
少年は目を閉じる。
——行け。
——でも、行けば終わる。
影が囁く。
「また、同じことをするのか?」
心臓が強く打つ。
一歩、踏み出せば届く距離。
伸ばせば、手は届く。
だが、その一歩が——
すべてを壊すかもしれない。
「……っ」
喉の奥で声が潰れる。
足は、動かなかった。
その瞬間。
光が弾けた。
音が消えた。
叫びが、途切れた。
——そして、夜だけが残った。




