32.五人の処遇
「ではこの問題を……クリスティーナ様、答えを」
「…………………」
卒業パーティーから2日経った。
表向きは留学となっているが、実際殿下たちは留学ではなく退学になった。
あの卒業パーティーでレイが精霊王で私の契約精霊であると話したにも関わらず、騒ぎになっていないのには理由があった。
私が陛下に話していいという意味で頷く前に念話でレイに許可を得た魔法が原因だ。
実はその魔法は記憶操作に近いものなのだが世間には知られていない魔法な上、使い方によっては危険なものなのだ。
レイに魔法を学んでいた時に教わったが、この魔法を使うときは許可が必要だと何度も言われた。
私は今回陛下とミア様以外のその場にいた人に記憶操作の魔法を使い、そのとき起きたことを一時的に忘れさせた。
一時的にというのはこの魔法は永遠には使えない。
魔法をかける時間が長ければ長いほどかけた対象者への負担が大きくなるからだ。
卒業パーティー後陛下とミア様に、かけた魔法のことを話すと国の重鎮と学園の先生には知らせるとのことだった。
「………様、クリスティーナ様!」
「え?」
「聞いていましたか? 考え事は構いませんけど授業はきちんと聞いていてください」
「はい、すみませんリアム先生」
「ではこの問題の答えを」
ニヤリと笑みを浮かべながら問題の答えを聞いてくるリアム先生。
よく見ると結構難しい問題だった。
それを授業聞いていなかった人に聞くの!? 内心そんなことを思いながら答えを言う。
リアム先生が家庭教師として屋敷に来ていた時、学園で学ぶべきこと一通り叩きこ……教えてくれたので問題はないが。
「ティナ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですわ」
隣の席からミア様が心配そうな顔でこちらを見つめてくる。
ミア様も休んでから登校したのがあの卒業パーティーの日だったのだ。
だからあの流れを見ていたわけで……ミア様にも魔法をかけるべきだったのかもしれないが、なんだかミア様には覚えていてほしいと思ってしまったのだ。
結局ミア様はレイの正体や私の契約精霊のことを知っても、今まで通りに接してくれた。
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「何をしに来たの!? あっレイヴン様!」
扉を開けるとヘレン様と目が合った。
彼女は私を見るなり嫌な顔をしていたがレイの姿が見えると目を輝かせて今にも飛びつきそうだった。
レイは今すぐにでも帰りたそうな顔をしていた。
だが私たちは目的があってヘレン様たちに会いに来ていた。
たちと言うのはヘレン様の次に殿下たちにも会うということだった。
「ヘレン嬢、今日はある目的があって来た」
「レイヴン様! どうか私のことはヘレンと呼び捨てにしてくださいませ!」
「さて……今までの行いによりヘレン嬢、あなたの契約精霊である光の上位精霊との契約は破棄する!」
レイはそう言いながら私の腰に手を回して自分の方に引き寄せた。
ちょっとドキッとしたわ。
だってレイ、ヘレン様には精霊王としての顔つきをしているのに私を見るときはいつもの優しい笑顔を向けてくるんだもの。
ヘレン様はそんな私たちの様子を見て、獲物を狩るときの猛獣の目つきでこちらを睨んでいた。
次の瞬間彼女の体が少しの間淡く光ったのだが、すぐに収まった。
「クリスティーナ様、何をしたの!? レイヴン様。なぜそんな悪役令嬢と一緒にいるのですか! 本当はヒロインである私に惹かれていくはずなのに……。もしかしてその女に魅了の魔法でもかけられているんですか? そうでないとシナリオと違ってきてしまう…………」
いや、どう見てもやったのは私じゃないっていうことくらいわかるわよね?
ヘレン様はしばらくブツブツと考え事をしていた。
そして彼女は自信満々な表情を浮かべ、人指し指で私を指してきた。
これではどちらが悪役令嬢かわからないわよ。
「レイヴン様、今私の光魔法でその女から解放してあげます!」
そう言ってヘレン様はレイに向かって解除の魔法を発動しようとしたのだが何も起こらなかった。
レイが先ほどヘレン様と精霊の契約破棄を宣言したからだろう。
彼女は本当に話を聞かないわね。
「ヘレン様……私はレイに魅了の魔法などかけておりません。それにレイにかけようとしても意味がないと思います。そんな魔法など使わなくてもレイは私を選んでくださったから……」
「それ以前に魅了の魔法など存在しない」
「うそ……うそよ」
レイは私の話に付け足すように言った。
それに対しヘレン様は、私がレイに魅了の魔法をかけていないということよりも、レイが私を選んだという事実が信じられなかったようだ。
「確かにここはゲームの世界に似ています。ですがここはゲームの世界ではなく現実ですよ。いい加減認識を改めてください」
「やっぱりあなた………転生者! レイヴン様を先に攻略されるなんて!」
「残念ながら私はその続編が出る前に死んでしまったのでプレイはしていません。ゲームの中のレイとここにいるレイを重ねないでください」
「ティナ………」
レイは私に優しく微笑みかけた。
ヘレン様はそんなレイを見て少し気まずそうにして────
「…………なんかお二人が自分たちの世界に入っているのを見ると、ゲームとかどうでもよくなってきちゃった。私、レイヴン様が推しで……だからどうしても攻略したかったけど無理そうですね。諦めることにします。今更なのですが、今まですみませんでした! 許してほしいとかは言ったりしません。ミア様にも直接会って謝りたかったのですが」
猫を被っていたのか、ヘレン様の態度が今までとは違っていた。
ヘレン様の処遇は監視の元しばらく王宮の塔にあるこの部屋で過ごすとのことだ。
基本部屋から出られなく、例え出られたとしても許可が必要で傍には数人の監視を連れなければならない。
「それは今すぐにというわけにもいきませんが……一応聞いてみます」
「わかりました。それだけでも十分です」
ヘレン様、本当に別人みたい。
今まで話を聞かずに突っかかってきたりあんな態度だったからか、なんか疑っちゃう。
そのあと私とレイは他の四人のところへ向かった。
他の四人もヘレン様と似たような処遇だけどアルフォード様は、廃嫡されている。
なので第二王子が新たに王太子となった。
廃嫡されると思っていなかったのか、アルフォード様はショックで放心状態になっていて話しかけても何の返答もなかった。
テオ様は自分が敬っている精霊の王の契約者、つまり私に対し失礼なことをしてきたことで何度も謝ってきた。
だがレイがテオ様を拒絶したため彼もまたショックを受けて立ち直るのには少し時間が必要かもしれない。
フレッド様は騎士団長の息子というだけあって正義感が人一倍強かったため、自分が今までしてきたことに気づき精神的に追い込まれていた。
ハロルド様だけは他の四人とは違い、変わらず私に突っかかってきていた。
それを見たレイが一度私だけを部屋から出し何かをしていた。
中から悲鳴みたいなものが聞こえたけど……。
入っていいと言われ入ると土下座でハロルド様が謝ってきた。
レイ……本当に何をしたのよ。
「──────っていう感じでしたの。それでミア様はヘレン様に会いたいですか?」
「そうですね。以前のように話を聞かないのでしたら正直お断りしたいところですけど……こちらの話にきちんと耳を傾けてくださるのでしたら会いますわ」
「今のヘレン様でしたら大丈夫だと思います」
五人に会ってきたことをミア様に伝え、ヘレン様が会いたいと言っていたことを伝えた。
もちろんゲームのところは省いての説明だが。
私はあんなことをされて会いたくないと言うのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。
早速予定がない時にでも一緒に行こうと思う────────




