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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第4章》ふたつの世界。繋がる世界。
111/218

111話.冒険者バラン(1)

湖で水龍狩りを率いていた冒険者バランとその仲間達がカルを追ってリガの街にやってきます。


話は、少し前にさかのぼる。


国境の精霊の森を後にしたカル達は、帰路の途中に立ち寄った湖で水龍を救った。


その代りに水龍狩りに集まった100人以上もの冒険者と戦う羽目になった。


だが、お猫サマの召喚の儀式により出現した神獣なめくじ精霊により100人以上の冒険者達の武具を台無しにしてしまった。


それによりカルは冒険者達に恨まれてしまったが、カル達を追って来た冒険者は皆無であった。


唯一カル達を追って来たのは、湖で水龍狩りを率いていた冒険者バランのチームだけである。


他の冒険者達は、神獣なめくじ精霊の粘液により全ての武具から着ていた服やパンツまで溶かされてしまい、武具の買い直すためのクエスト獲得に必死であった。


湖を後にしたカル達は、ラドリア王国のリガの街に入ると穀物倉庫へと入った。


そこには、精霊ホワイトローズが作ったゲート空間移送システムが置かれており、城塞都市ラプラスのサラブ村へと繋がっていている。


ゲート空間移送システムを使えば、このリガの街から城塞都市ラプラスへは馬車で1日で移動できる。だが、それ以外の道となるとポラリスの街を経由するしかなく、その場合は馬車でも3日はかかる距離であった。



カルは、穀物倉庫を守る冒険者達に事の経緯を説明し追手の冒険者が来る事を伝え、その原因となった水龍を披露した。


冒険者達は、大樽の中で泳ぐ小さな水龍を珍しそうに見てはしゃいでいた。


「では、追手が普通に領主殿の行先を訪ねてきたら、城塞都市ラプラスへ向かったと言えばよいのですね」


「はい。その時は、普通に馬車での行き方を教えてあげてください」


「もし、追手が剣を抜いて来たら・・・」


「その時は、追手を足止めしてください。最悪倉庫の中に入られても例のキューブを隠してしまえばよいだけです」


「Aランクの冒険者と戦うのは少し不安がありますが、警備隊が来るまでの話ですから問題ないでしょう」


「とにかく無理だけはしないでください。追手はAランクの冒険者です。ここは戦場でもなければダンジョンの最下層でもないのです。ただの街中の穀物倉庫ですから」


カルは、追手としてここにやって来るはずの冒険者達に罠を張った。カル達がつけられている事は知っていた。それを逆手にとって遊んでやろうというのだ。


カルがリガの街で借りている穀物倉庫には、買い取った穀物と売り出す酒が詰まった酒樽が置かれており、それを守るために複数のBランクの冒険者チームを雇っていた。


冒険者のチームリーダーを集めて追手への対策をお願いした後カル達は、ゲート空間移送システムを通りサラブ村へと向かった。






「どうです。やつら倉庫に入ってからの動きは」


「それが倉庫から出て来ません」


「でもおかしいですね。これだけ穀物と酒樽の出入りがあるというのに馬車を倉庫に入れたままにするなんて」


「馬車1台といえど荷物の運搬には邪魔なはずです」


カル達を追って来たブレアと途中で合流したローガンが建物の屋根上からカルが借りている倉庫に出入りする人や馬車の監視を続けていた。


湖からカル達を追って来たのは、ブレア(アサシン)。そしてリガの街で合流したのは、ローガン(剣士)、バート(魔術師)、アイリス(神官)の3人である。


湖で水龍狩りを指揮していたAランク冒険者であるバランと数名の仲間は、冒険者ギルドへ出頭し水龍討伐が失敗した経緯の説明に行く羽目になった。


水龍討伐に参加した100人以上の冒険者の武具が神獣なめくじ精霊の粘液により熔かされたため、冒険者達から行き場のない苦情が冒険者達を指揮したバランと冒険者ギルドへと向けられた。


本来なら冒険者がどんなクエストに参加して、それが成功しようが失敗しようが自己責任である。


ところがAランク冒険者バランが指揮をとる水龍狩りなら”絶対に失敗しない。絶対に高収入が見込める”と高を括った冒険者達が集まりすぎて収集がつかなくなったのだ。


水龍狩りは、カル達の参戦で見事に失敗し水龍を横取りされてしまった。


さらにAランク冒険者のバランに絶対の信頼を寄せていた冒険者ギルドは、買い取る予定だった水龍の売り先を既に決めていた。そのため謝罪やら賠償金やらの責任問題を冒険者ギルドは、全て冒険者バランになすりつけようとしていた。


それだけ冒険者ギルドも水龍狩りに期待を寄せていたのだ。


結局、冒険者バランは、冒険者ギルドから水龍狩りを絶対に成功させる様にと半ば命令を受けてしまう。


湖で水龍狩りに参加した冒険者達はというと、使い物にならなくなった武具を買い直すために、各地のダンジョンやクエストをこなすため、各地へと散ってしまった。


遥か南方の田舎にある城塞都市ラプラスへ行く旅費を考えると赤字になる事は目に見えていた。


そして、またあの武具を熔かすなめくじが出現した場合、新調した武具が使い物にならなくなる可能性が大である。


結果、最初はバランと行動を共にしていた冒険者達は、徐々に減っていき気が付けば、リガの街までやって来たのは、バランとその仲間達だけであった。


「そして・・・誰もいなくなったか」


「しょうがないですよ。武具を新調するだけでもかなり金がかかりますからね」


「それにこんなド田舎まで来る旅費もそうですが、仮に水龍狩りが出来たとしてその後の事もあります」


「そうですよ。こんなド田舎じゃ冒険者ギルドに行ったところで大したクエストも片手間仕事もないでしょう」


「大赤字覚悟でこんなド田舎の水龍狩りに来るやつなんざいないか」


「皆を恨まないでください」


「そうだな。所詮根無し草の冒険者稼業だな」


先行してリガの街に入った仲間達の後を追い、間もなくリガの街に入る冒険者バランとその仲間達。


後続のメンバは、バラン(剣士)、チェスター(重戦士)、ハーパー(魔術師)の3人である。


Aランク冒険者チーム。”闇を打ち滅ぼす者”の7人がカル達と奪われた水龍の親子を求めてこんなド田舎までやって来たのだ。


途中、街々の冒険者ギルドに立ち寄りどんなクエストがあるのか覗いてはみたが、ド田舎に相応しいカビの生えたクエストがゴロゴロしていた。


当然の様にそんな街にいる冒険者もCランク止まり、Bランクがいればその街の英雄気取りでAランクの冒険者などお目にかかることは皆無であった。


バラン率いる”闇を打ち滅ぼす者”チーム総勢7人は、リガの街に到着するとカルが借りている穀物倉庫近くにすぐさま集合した。


「あの倉庫を調べてみたが護衛の冒険者チームが3チームもいます。いくらなんでも穀物と酒樽を保管するには警備が厳重過ぎる」


「つまりあの倉庫には、何かあると言う訳か」


「はい。それに探査魔法で調べたところ、詳細は不明ですがおかしな魔法具が置かれているようです」


「それ以外に何か分かったか」


「荷運び人達に話を聞いてみましたが、みな口が固くて内情を全く話しません」


「ますます怪しいじゃねえか」


「あのガキが中にいるかは分からないけど面白そうだから1発ぶちかましてやろうよ」


「おいおいおだやかじゃないな」


「こっちだってやられたんだ。やり返すくらいいいだろうが。それにこんなド田舎だの警備隊もすぐには来んだろう」


だがチーム”闇を打ち滅ぼす者”の中で常識人と言われる重戦士のチェスターが控えめな発言を行った。


「あの、素直に倉庫の管理人に聞いてみるのはダメですか」


「はあ、なんだそりゃ」


「倉庫の横に事務所があいますよね。あそこの事務員さんに聞いてみるんですよ。それにあの子供は、城塞都市ラプラスで待ってるって言ったなら直に城塞都市ラプラスに向かった方がいいと思うんですよ」


「お前は、いつも常識的な事ばかり言うな」


「それが私の仕事ですから」


「・・・お前の意見は分かった。だが今回は却下だ」


「そうですか。でも私の意見を聞き入れてくれた試しが無いような・・・」


「そんな事はないぞ。お前の意見はいつも参考にさせてもらってるぞ」


常識人であるチェスターは、いつもの様に常識的な意見を言ったものの、それはあっさりと無視されてしまった。


チェスターは、今回ばかりは何か悪い予感がしていたのだが、それを聞き入れてくれる者はここにはいないのだ。


「それじゃあ。サブリーダーのハーパーの意見を採用する。皆、あの倉庫に突入するぞ!」


「「「「「「おー」」」」」」


Aランク冒険者のチーム”闇を打ち滅ぼす者”は、強さが売り物のチームである。だが欠点は、何も考えずに行動する事であった。




Aランク冒険者のチーム”闇を打ち滅ぼす者”の7人は、白昼堂々各々の獲物を手に重装備でカルの貸倉庫前へと歩き出す。


その姿は、これから戦うというオーラを体全体からまき散らしていた。


カルの倉庫を警備している冒険者達は、すぐにその異様なオーラに気が付き荷運び人達に倉庫から逃げる様に指示を出す。


荷運び人達もその指示に従う。それはまるで日頃から訓練でもしているかの様に倉庫から隊列を組んで遠ざかって行く。


「おいおい。やつら俺達が来るのを知ってたって感じじゃねえか」


「追跡したのがばれていたようです」


「まあ、あちらさんも見た事のない巨大なめくじを召喚できるスキル持ちがいるんですから、追手くらいばれて当然ですよ」


「それじゃあハーパーとバート。いつもの頼むわ」


「「了解」」


魔術師のハーパーとバートのふたりでフレアランスを時差攻撃を開始する。それと同時に重戦士のチェスターがふたりの前に出ると大盾を構えて攻撃に備える。


剣士でリーダーのバランと剣士のローガンが魔術師を守りつつ次の攻撃に向けてタイミングを計る。


神官のアイリスが攻撃のダメージ軽減のバリアを張り、アサシンのブレアが後方の守りを固める。


ハーパーとバートのふたりがフレアランスをまさに放とうとした瞬間。倉庫前の道に倉庫を守る冒険者が並び見慣れない大盾を5枚並べた。


「ははは。何のつもりだ。そんな盾で私達のフレアランスを防ぐことなどできないよ」


ハーパーとバートのふたりが放ったフレアランスは、目の前で大盾を構える冒険者達に向かって一直線に飛来し、そして何も起こらなかった。


「ちょっ、どういう事だい。私のフレアランスが不発なんてありえないよ」


「いや。フレアランスが不発だった訳じゃない。あの大盾がフレアランスを吸収したんだ」


「そうだった。湖で巨大ななめくじが私のエクスプロードを吸収したんだよ」


「あの大盾。よく見ると表面に魔法陣が刻印されているし魔石も使われている。何か特殊な魔道具か」


「あっ、思い出したよ。”月刊魔術師”の今月号の読者投稿欄に未確認情報として載ってたよ。場所は明かせないけどとある都市で魔力を吸収して魔石に変えるおかしな大盾があるって」


目の前に構えられた大盾からは、確かに小さな魔石がいくつも吐き出され道に魔石が積み上げられていく。


「あっ、あっ、あれ欲しい!欲しい!欲しい!バランあれ買っておくれよ!」


魔術師のハーパーは、なぜか物欲に火が付いたらしく戦いそっちのけで敵が構える大盾を欲しがった。


「おい。今は戦闘中だぞ」


「固いこと言うなよ。あれがあったら魔石を売るだけで大金持ちになれるんだよ」


そんな会話が聞こえてきた倉庫を守る冒険者が思わず笑い出す。


「ははは。よくこの大盾の事をご存知ですね」


「そりゃ”月刊魔術師”を定期購読してるからね」


「ほう。私はこの大盾を城塞都市ラプラスの領主殿から託されてからというもの懐が豊かになりましたよ。なんせ戦いで生み出される魔石は、個人のものにしてよいとお約束いただいておりますからね」


「いーな。いーな。その大盾どうやったら売ってくれるんだい」


「そうですね。売る事はできませんが、城塞都市ラプラスで雇われれば使わせてもらえると思いますよ」


「えーいいな。そうしよっかなー、鞍替えしよっかなー」


その言葉を後ろで聞いていたバランが思わず怒りの声を上げた。


「ハーパー。それ以上ろくでもない事を口走ったらどうなるか分かってるだろうな」


「ちょっ、冗談に決まってるだろ。でも・・・大盾欲しいな」


「ハーパー!」


「わっ、分かったよ」


チームリーダーとサブリーダーのハーパーの会話によりちっとも攻撃が進まないまま事は進展を迎えていた。冒険者のチーム”闇を打ち滅ぼす者”の後方から街の警備隊が隊列を組んで迫っていたのだ。


「バランまずいです。警備隊が来ました。しかも100人近い数です」


「おいおい随分と手回しがいいじゃねえか」


「恐らく近くに警備隊を潜ませていたんでしょう」


「仕方ない。ここは引くぞ」


バラン達は、一斉に路地裏に入ると逃げに転じた。


「第2隊と第4隊は、やつらを追え。往来で魔法を放った奴は重罪だからな。第1隊と第3隊は、倉庫街を警備しろ。まだ残ってるやつらがいるかもしれん」




街の警備隊を率いるランド大尉とモリス少尉が倉庫を守る冒険者達の前へと姿を現す。


「助かりました」


「いや。いつも盗賊退治で世話になっているからな。それにウエスト子爵からお得意様を守る様にと事ある毎に言われている」


「ありがとうございます。これは、少ないですが皆さんで飲んでください」


倉庫を守る冒険者のリーダーは、警備隊を率いるランド大尉にどこからか出してきた大樽を差し出す。


「いつもすまんな。兵士達もこの酒が大好物でな。お前らの仕事ならいつでも手伝いに来ると言っているぞ」


「恐れ入ります」


倉庫の警備を行っている冒険者達は、このリガの街周辺に出没する盗賊団や強盗を捕まえるために街の警備隊と行動を共にする事が多く、警備隊とは顔見知りであった。


さらに城塞都市ラプラスは、この地域を統べるウエスト子爵とも懇意にしており、この街を拠点に商売を行っているロイズ商会より大量の穀物を買っていた。


さらに城塞都市ラプラスが出荷しているラピリア酒(薬)のほぼ全ての買付を行っているのもロイズ商会であった。


この土地で城塞都市ラプラスの領主であるカルに害をなす者を黙って見過ごす者などいないのだ。


「そういえばあの連中、いきなり攻撃してきましたね。てっきり領主はどこにいるって聞いて来ると思ったのに・・・準備していた捨て台詞が全て台無しです」


倉庫を警備する冒険者のリーダーは、想定した動きをしてくれなかった冒険者バランに少しがっかりした様子であった。




その頃、バラン達は・・・。


「いたぞあそこだ。追え!」


「バラン。なんで攻撃しないのさ」


「街の警備隊を攻撃したら俺達は、冒険者ギルドから冒険者証をはく奪されるんだよ。それに全国でお尋ね者になるなんぞまっぴらだ」


「えー、じゃああの大盾は誰が買ってくれるんだい」


「そんなの知るかよ!」


バラン達は、路地裏を警備隊の追跡から必死に逃げ回っていた。


少しカルの考えた結果とは異なったが冒険者バランは、やっとの思いで警備隊から逃げきるとリガの街を出て城塞都市ラプラスへと向かう事となる。


戦いが始まると思いきやバラン達は、あっけなくリガの街から逃げてしまいました。


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