110話.精霊界と妖精(3)
妖精達は、ある者の支援を受けて何やら始めています。
それは、精霊界にいる妖精達とは明らかに違い、この世界にいる妖精達だけの特徴の様です。
精霊達が巨木の元へと向かう。茫漠の荒地が広がり足元には石や岩が転がり足場がとてつもなく悪い。
そんな茫漠の荒地を蛇行しながら進み精霊達は、ようやくと巨木の根本へとやって来た。
そこには、白い扉があり妖精達が何やら大きな筒状の物体を扉の奥へと運び込んでいる最中であった。
「目の前の妖精達が何かを運んでいるように見えるが、あれが何に見える?」
「えーとですね。私達がこの世界に来た時に同行していた技術者達が運び込んだ探査機に見えます」
「ですが新品ではないですね。回収した古い探査機でしょうか」
「やはりそう見えるか。古い探査機は、精霊界に持ち帰り廃棄する予定だったはずだ」
「では、なんで妖精達が古い探査機を持っているのでしょう?」
古い探査機を扉の中に運び入れている妖精達は、突然現れた精霊達の姿に驚くと顔中から大量の汗を吹き出しつつ手を振ってその場しのぎの挨拶を贈る。
「どう見ても怪しいです。まさか古い探査機を盗んできた訳ではないですよね」
この言葉を聞いた瞬間。妖精達は、古い探査機を一目散に扉の中へと押し込んでいく。
古い探査機は、重力制御により地上から1m程度の高さを浮遊している。その探査機を多数の妖精が全力で扉の中へ押し込む。だが重力制御により浮遊している古い探査機は、なかなか動いてくれない。
「おい、あれを扉の中に入れるな!」
精霊達が一斉に扉へと走り出す。妖精達は、必死になって古い探査機を扉の中へと押し込もうとする。
精霊達の足があと一歩という所で妖精達は、古い探査機を扉の中になんとか押し込むと、扉をすっと閉じてしまう。
精霊は、閉じた扉の取っ手を必死に引っ張るが微動だにしない。
「くそ。妖精達め。探査機を盗んで何をしようというのだ」
「まさか、探査機の技術を盗もうとしているのでしょうか」
「バカ言え。分解した程度でそう簡単に理解できるシステムじゃない」
「それに複製するにしてもそれなりの設備がいる。妖精達の手に負えるものじゃない」
「機器を動作させるには、システムを改修する必要があります」
「だったらなんで探査機なんて盗んだんでしょう」
「知らん。だが、こちらの世界に同行してきた技術達に知らせないとな」
精霊達は、扉の横に設置されている透明なパネルを操作する。
「だめだ。俺のIDが無効だと・・・今のIDは最上位特権のはず」
その時、パネルを操作した精霊は、ある事に気が付く。
「おいおい。なんだこの表示は・・・フェアリーシステム Version1.2.1だと」
「そんな。このシステムは、精霊システム489.25のはず・・・」
「でも細部が微妙に違いますね。それにときたま画面に妖精のアニメーションが入ります。以外と細かくて可愛いシステムじゃないですか」
「つまりあれか。妖精達は、我ら精霊のシステムをコピーして別のバージョンを作って運用していると言うのか」
「まさか・・・」
「まずいぞ。もしこれが本当なら精霊界のシステムを乗っ取られる可能すらある」
「ええっ、精霊界のシステムって技術者が少なくて数百年間も放置状態って聞いてますよ」
「とにかくだ。精霊界へ戻るぞ」
「あっ、精霊樹の苗木を植えたままにしてました。あれを回収しないと」
「くそ。仕方ない。さっきの場所に戻るぞ」
精霊達は、慌てふためきながらまた茫漠の荒地を苗木を植えた場所へと走り出した。そして、苗木を植えたはずの場所には、大きな穴が開いていて苗木の姿はどこにもない。
「くそ。苗木まで奪われたのか。どこまでも俺たちをバカにする妖精達だ」
「まあまあ、そう怒るなよ。たかが妖精じゃないか」
「何を言っている。もしこれが元で妖精達がとんでもない事を引き起こしたらどうする」
「とんでもないことって何です?」
「そっ、それは分からん。だが・・・」
「とにかくです。精霊界へ戻りましょう。ここで騒いでもらちがあきません」
「そうだな、分かった」
精霊達は、本来なら無害のはずの妖精達を警戒しながら精霊界への扉へと向かった。
精霊界への扉へ向かうとそこには、古い探査機を探すために森の中を必死に歩き回る技術者達の姿があった。
精霊達は、今までの経緯を説明しつつ急いで精霊界への扉へと入っていく。
その精霊達の姿を触覚の先端に付いた目で追う神獣なめくじ精霊。
実は、今回の事件の黒幕は・・・。
精霊界への扉に隣接する施設は、中央が精霊界への扉を覆う壁のない大きな屋根。その片方に精霊神お猫サマの家。もう片方に神獣なめくじ精霊の家が並ぶ。
神獣なめくじ精霊の家の中を窓越しに覗いてもがらんとした何もない部屋があるだけ。
しいて言えば、神獣なめくじ精霊の体から分泌される粘液によって金属や布などの殆どが熔かされてしまうのだが、この家に関しては粘液が付着しても熔ける様なことはない。
周囲が暗くなりはじめると建物のあちこちにぶら下げられた魔法ランタンの灯りがほんのりと周囲を照らしはじめる。すると今日の仕事が終わったと判断した神獣なめくじ精霊は自身の家へと向かう。
神獣なめくじ精霊が家の前にやって来ると扉が自動的に開いていく。神獣なめくじ精霊は、ゆっくりと家の中へと入り扉もまた自動的に閉じていく。
家の外から窓を覗くと灯りもない部屋の中に神獣なめくじ精霊だけがぽつんと佇む。
だが、実際の部屋の中の光景は違っていた。
部屋の奥に別な扉がありその奥へと進む神獣なめくじ精霊。
扉はゆっくりと閉じられていく。家の外から窓を覗くと、そこには明りもない暗い部屋の中に神獣なめくじ精霊が佇む姿が見えるだけであった。
部屋の中にあった扉を抜けるとそこには、巨大な木がそびえ立つ草原があった。
草原をゆっくりと進む神獣なめくじ精霊。
巨大な木の根元には、妖精達が腰をかけながらのんびりと過ごしている。
妖精達の頭の上には、小さくて愛らしいクラウンがちょこんと乗せられていた。
妖精達の目の前には、透明なパネルがいくつも並びそこには、目にも止まらぬ速さで文字と映像が映し出される。
妖精達は、目の前のパネルに映し出される文字や映像を見ている訳ではない。これは、現状を確認するためだけに映し出されているのだ。
妖精達の小さな頭の上に乗せられた小さくて愛らしいクラウンは、妖精達の脳に直接情報を送り蓄積させるデバイスであり、それは他の妖精達のものと連動して記憶の共有化も行う。
以前、カルが装備している大盾の最奥に住む精霊ホワイトローズが、数百の妖精を用いた分散システムを用いて魔獣の遺伝子情報の解析を行っていた。
このシステムは、それよりも何世代も先を行く教育システムである。
だが、神獣なめくじ精霊からすれば、この教育システムですら陳腐化した古代のシステムでしかない。
そう。神獣なめくじ精霊は、この地で妖精達に教育を施していた。精霊界の数千年にもぶ技術の進歩の過程を全て妖精達の脳へ送り込んでいるのだ。
なぜ神獣なめくじ精霊がそんなシステムを所有しているのか。なぜ妖精達にそんな教育を施しているのか。
それは、精霊界の知識の進化を導いて来たのが他ならぬ神獣なめくじ精霊だからだ。だが、精霊界の精霊は種としての限界に達してしまった。神獣なめくじ精霊は、新たな種を探しその種に未来を託そうとしていた。
それを支援したのは、精霊神である。
精霊神は、種として衰退を始めた精霊達から精霊界を守り次世代の種を誕生させ存続させる計画を練り続けていた。
だが、神の御業を用いてもその種が精霊界に生まれる事はなかった。だが、皮肉な事に別世界に送り込んだ精霊とその精霊が誕生させた妖精達から次世代の種となりえる者が現れた。
その種は、好奇心旺盛で何にでも首を突っ込みたがり、或いはいたずら好きであった。
そんな妖精達がある時、原住民が植えた木に成った果実を食べた事で何かが変わった。
それこそが種を変える何かであった。
だが、妖精達はそんな事など知らず美味しい果実を食べ、原住民が作ったお酒を飲んだ。
その事が種の進化の一端を担っていたのだ。
それを知った神獣なめくじ精霊は、精霊界からカル達が住む世界へとやって来たのだ。新たなる種を導くために。
だが、精霊界は既に崩壊の道を進んでいた。今まで種の進化を導いて来た神獣なめくじ精霊にとってもそれは辛い出来事であった。
ひとつの世界がこの宇宙から滅び去ってしまう可能性があるのだ。それを止める手立てが僅かだが見つかるかもしれない。そのカギを握るのがこの世界にいる精霊達が言う”原住民”の少年であった。
巨大ななめくじの姿をした生物。それは、精霊をも凌ぐ科学力を有し精霊神と共に歩み神に準ずる生物。
だがその姿が”なめくじ”である事が災いした。その姿を見た者は、誰もが種の進化を操る超高等生物であると考えもしなかった。
この宇宙には、多種多用な生物がおりその生物が持つ知識もまた多種多用である。
神獣なめくじ精霊は、見た目にもグロテスクな”なめくじ”の姿をしている。だが、それが本当の姿なのか。なめくじという姿にとらわれるとこの世界の本質を見誤る事になるかもしれない。
精霊達が精霊界へと戻り、数日後に装備を整えてカルが住む世界へと再びやって来た。
精霊界の扉を開くと神獣なめくじ妖精が鎮座している。
だが、以前の様に扉の周囲にいるはずの妖精達の姿はない。
精霊達も今回ばかりは、この精霊の森にいる妖精には厳重に警戒する。
妖精達は、この扉を使い精霊界へと何度なく出入りを繰り返している履歴が空間移送システムのログに残っていた。
本来なら勝手に出入りできないはずの妖精達が、管理者扱いとなりふたつの世界を行き来できる状態は
異常である。
だが精霊界のシステム管理者には、それをどうにか出来るほどの技量を既に持ち合わせてはいない。
この世界にいる妖精達は、精霊界にいる妖精達とは明らかに異なっており、なぜそうなったのかもこれからの研究の課題に上げられていた。
精霊達が精霊の森を抜け茫漠の荒地へとやって来ると、妖精達がどこからか入手した精霊樹の亜種である巨木が姿を洗わす。
茫漠の荒地であったはずの地は、既に豊かな大地へと変貌しており草や木々が生い茂り、木々の根本には苔が生えているものさえあった。
巨木の前へやって来た精霊達。その巨木の後ろを別の巨木が己の根を足の様に動かしながら、精霊達の視界の外へと過ぎて行く。
「あの巨木は、私達がこの世界に持ち込んだ苗木の様ですが、精霊界ではあの様に歩いたりしません」
「ああ。それくらい俺も知ってるさ。目の前の光景が信じられなくてな。思わず見入っているところだ」
「これを全て妖精達がやったというなら驚きを通り越してしまいます」
「こんな技術が手に入るなら精霊界の技術を差し出しても・・・」
精霊達のそんな会話の最中、精霊達の頭の上を見慣れない物が飛んでいた。
それは、金属の大きな広口の鍋に硝子の大きな鍋の蓋を上から被せた様なもので、その中には妖精が乗っており上下左右にふらふらしながらも空を飛んでいた。
精霊達は、その空飛ぶ物体に思わず見入ってしまう。
「あっ、あれは反重力システムでしょうか」
「まさか。以前に盗んだ探査機のシステムを自前で解析したというのか。しかもそれを実際に作っただと・・・この短期間にか」
「精霊界の妖精達ですらそんな事はできない。まさか誰かが手助けしているのか」
「そんな事を出来る者などこの世界にいません。まして原住民にそんな知恵も知識もありません」
「だが、これで技術流出は現実のものとなったな。これは、女王様に最優先で報告する事案だ」
精霊達は、巨木の周囲を飛ぶいくつかの鍋の様な物体に見入っていると、いつの間にか目の前に白い扉が現れ、その前には1体の妖精が姿を現す。
妖精は、その白い扉を開けると精霊達をその扉の奥へ入る様に促す。
開かれた扉に先には、精霊達がこの世界に持ち込むはずであった研究施設が広がっていた。
この世界の一部の妖精達は、既に精霊界の精霊と同等の知識を有する存在へと進化していた。
先々週、病院で検査を受けました。結果は最悪でした。ははは・・・どうしよう。
という事でラックにつるして埃を被っていたBMCを引っ張り出してまた乗り始めました。
既に足の筋肉が衰えて最悪の状態ですが、以前の様にヤビツ峠を1時間ちょいくらいで走れる様に戻したいと・・・。
それがいつになるかはまた別のお話。それが出来たら再び渋峠にチャレンジしたいな。




