ダンデリオルート
休日、いつものように一人で歩いていたところ、見知った人間を見つけた。
ダンデリオが道を徘徊している。
なにをしているんだろう。
「スミマ、セーン
ビーズアクセサリーしりま、せんか~」
「これ?」
とりあえず茎ノ葉君に渡された落とし物のビーズを見せる。
「おう!それですよ~」
「なら返す」
ビーズの花を手渡した。
可愛くて結構気に入ったけど、落とし主に返すべきだと思ったから。
「お礼に三倍返しシマス」
落とし物を拾うとお礼が貰えるというが、どこかが違う。
それに拾ったのは私ではないとはっきり言った。
「おーざんねんでーす」
ダンデリオは肩を落として去った。
一体なんだったんだろう。
「なぜこの国に来たの?」
「知り合いがイマースから」
「ふーん」
「しりたいですかー?」
ものすごく言いたいと、目が主張している。
「どうでもいい」
知り合いが誰か、特に気にならないので追究はしない。
「オシエマセーン」
なんだこいつ…。
「ハナさんはフレンドいますかー?」
「よく聞かれる。いるけど、ちゃんと人間のお友達が。」
しっかり友人に部類できるのはグランデさん。
クラスメイトなら茎ノ葉君、雨瓦君は結構話しているはずだ。
「おっ…おう」
なんか不満そうな反応。
「…花が友達、って答えてほしかった?」
たいして会話もしていないのに、もう変な先入観を持たれているなんて、少し驚いた。
〔長髪の男子学生が落とし物と言って女子学生に手渡していたそれは、拾ったものではない。
彼女へ渡した奴の手製であることは、奴をずっと監視していたからわかっていた。
その女子学生を気に入ったわけではないが、二人が作る柔らかで甘い雰囲気を壊してやりたかった〕
夜に庭付近で物音がしてひっそり窓から覗くと、一瞬ダンデリオらしい背の高い男の姿が見えた。
咄嗟に裏口から外に出て追いかける。
「ダンデリオ、道に迷ったの」
「ええーまあーそうですよー」
なんだかわざとらしい反応だ。
ともかくなぜダンデリオはこんな時間にその服で、出歩いているのだろう。
怪しいから更に追求するかと考えている最中、ダンデリオは逃げた。
昨日に引き続き、今日も怪しげな物音がして、匍匐前進で隠れながら近づく。
しかし、もうそこには誰もいなかった。
「今晩は」
いきなり後ろから声をかけられた。
咄嗟に横へ転がって、ゆっくり起き上がる。
黒いコート、目出し帽の名も知らぬ集団の中の一味が、一人でいるなんてどうにもおかしい。
「なんのよう?」
「様子を見にきただけですよ。私はこれで失礼します」
家に不法侵入しておいて逃げようったって、そうはいかない。
「止まってくれたら不法侵入も許すし、帽子をとって姿を見せてくれたら、なんで私に協力してほしいか話したら協力しないわけでもない」
取り合えずいま必要な条件をすべて突きつけて協力の有無は曖昧にしておく。
「…協力など、しなくてもいい。ただ一つ条件がありますよ」
「なに?」
「君が、オレのものになるなら」
目出し帽のくせに格好をつけた台詞を言う。
「イマイチ決まらないなあ…これで、どうですか?」
「ダンデリオ…」
変な集団の頭はダンデリオだったのか…。
目出し帽はさておき、カタコトはどこへ行ったのだ。
「結局あなた達はなんなの?」
「神父」
聞くまでもないか。
黄色くて安っぽいパチモンの十字架をひらりと目の前で揺らされる。
「インチキ神父だったんだ」
「まあねもっともらしく怪しまれない言い訳にはこれが一番だから」
「あなたが怪しい集団の仲間どころかトップだったなんて…」
「別にトップではないけどね」
まだ上にいるのだろうか、というか彼らは何を目的とした集団なのだ。
「オレ達のボスの名はキングス・キャルフェ、名もなき、否…存在を隠したカルト集団、オレ達は力がそこらの団体より強いんだ」
「どうしてそんなヤバそうな人が現れたの?」
この先もずっと隠れていろよ、と思う。
「ボスには病に蝕まれた息子が…理由はおいおい話すとしてそれを治療したいと言うわけで、華の力…いいや、君が開発した植物延命の薬を頂きたいというわけだ」
「嫌。花火を人に向けたらいけないんだから」
植物用の薬を人体に取り込むなんて正気とは思えない。
「人は者言わぬ花のように植物状態になることもある、だから人と植物の構造は似ている…君の薬を改良して人間に使えるようにしたい」
「…それは気休めじゃないの?」
いくら治りにくい病気を治したいと言われても独学で作った薬を渡したくない。
見ず知らずの誰かが苦しんでいると言われても、無償で助力するほど私は優しくはない。
「買いかぶりすぎ私の作ったものはただ花が好きなだけの一般人が作った偶然の料理みたいなもの」
「まあ、気休めでもなんでも、必要なんだ」
あまり欲しそうには見えない。
「上に命令されて嫌々やっているの?」
「そんなところかな…生活のカテ、給料のためだよ」
ハッとして腕時計を見たダンデリオはまた明日くると言って帰った。
本当は利益なんてどうでもよくて、ただ薬の開発が失敗して死なせるのが怖いだけ。
それでもいいなら渡したいけど私は、どうすべきだろう。
「それで、薬は渡してくれますか?」
‘別にいいんですよ’なんて感じの嫌みがダンデリオのムカつく表情から聞こえてくる。
「そんなに言うなら渡すから」
「え」
ダンデリオは一瞬、マジで?と言いたげな顔をした。
彼は意外とわかりやすい反応をする。
もっと上手く立ち回り、私を欺くのかと思いきや根は正直のようだ。
「なんだよ…」
敬語になったりタメ口になったり、彼がよくわからない。
立場的に私達はどういう関係なのだろう。
「まあいいや…とってくるからそこで動かず、庭に触らず待っていて」
つい失念していたが、ダンデリオは勝手に家に侵入して、庭を物色する手癖の悪いやつ、きっぱり言っておかないとだ。
「とくに庭に興味なんて無いです薬を探していただけですよー」
いい大人がいじけるな。
「ほら」
キッチンの隠し冷蔵庫から取り出したものを醤油さしにつめた。
「…薄口醤油?」
「違う」
「ありがとう」
「今後勝手に庭に入らないで、ついでに薬の作り方は絶対に教えない」
「はいはいそんなに俺が嫌ですか、こっちもこれさえ手に入れば用はないから…」
別にダンデリオが嫌いだという問題ではない。
怪しい団体を家に近づけたくないだけだ。
静かになったのはいいことだが、ダンデリオは本当に来なくなった。
来なくてもいいけど、だけど、礼の一言もなしとは筋が通らないんではないか。
はじめからそんな期待はしていなかった。
なのになぜこんなに落ち着かないんだろう。
ダンデリオに会いたい。
だから探しに行こう。
「葉陽斗」
葉陽斗ならネットで調べてくれるだろうか。
「なに?」
「名も無きカルト集団の居場所を知らない?」
「姉さん…名前が無いなら調べようがないよ」
たしかに。
こうなったら当てにならない目撃情報だとしても、それに賭けるしかない。
簡素な地図を持ち、ベタな路地裏や美術館の地下室などを迷いながら探した。
結局見つからないどころか家に帰れなくなった。
いつのまにかチンピラよりヤバそうな奴等がいそうな場所に迷い込んでいた。
「ようお嬢ちゃん、こんなトコロでなにしてんの?」
ベタすぎる。
「ガキはこぉーんなとこに来ちゃいけねーよォ?」
柄の悪い男がニヤニヤこちらを見ている。
「さっさとお家に帰んねぇと~」
家に帰りたいのは山々である。
しかし、道に迷っているのだから仕方がない。
「おい無視してんじゃねーよ!!」
うざい。
「こいつ、ダンデリオさんのトコにつきだしてやるか」
「あなた達はダンデリオの知り合い?」
「あ?なに呼び捨てしてんだ?」
「私は彼を探していたら迷ったの」
「おめーダンデリオさんの彼女か?」
普通に考えたらそう勘違いされても仕方ない行動か。
「はっ!まさかダンデさんがこんなガキ相手にするかよ~」
「お前達、俺を馬鹿にしているのか?」
その声は――――
「だだたダンデさん!?」
ダンデリオの姿を見るやいなや脅えるチンピラ二人。
「なんで君がここに?」
こんな場所にいる理由をたずねられたが、うまい言い訳が思い浮かばない。
道に迷ったと正直に答えるのは嫌だ。
「…100円でもいいから薬代を払って」
咄嗟にわけを話した。
でもさすがにこれは無理があるか。
「……」
三人は唖然としている。
「まあいい…お前達はさっさと持ち場に戻れ」
「へい!」チンピラは床を開き、いかにもな地下通路におりていった。
「本当は道に迷ったんだろう」
「…うん」
バレているならもう認めるしかない。
「なぜ道に迷ったりなんか…よりによってここに」
「あれ以来姿を見なくて、なんだかムカついたから」
「つまりどういう意味ですか?わけがわからない」
これ以上話すと会話が終わりそうにないので、とりあえずは家に送ってもらおう。
「とにかく迷ったから家に帰らせてくれると助かる」
ふいに手から地図を書いたメモがすり抜けた。
「“カルト集団の目撃情報の地図”って…」
しまった…これでダンデリオを探していたことを知られてしまったに違いない。
「そういうことか…
でも君は俺の事を嫌いだと言っていたじゃないですか」
「べつに嫌いとはいっていないけど」
というか好きでも嫌いでもない。
変な奴が家のまわりをうろついている程度の認識だった。
「もう来るなと言ったのは君なのに…もう会いに行く理由もなかったですし」」
現れなくなったのは薬を渡したからではないの?
「そう言っても次の日に平然と家の周りをうろうろされるだろうと思っていたから」
もしや私が来るなと言った願いを本気で守ってくれたのだろうか?
「嘘なんてついたって仕方ない」
彼はそれを律儀にきいてくれたんだ。
なのに一人で悶々と悩んだり、私はなんて馬鹿なんだ。
「まさか君が自分から会いに来てくれて、道に迷うとは…」
ダンデリオは笑っていた。
嬉しそうに見えるのは気のせい?
「会いたかったわけじゃない
偶然道に迷ったらここだっただけ
とにかく帰るから家まで連れていって」
「偶然道に迷ってここにたどり着くなんて、普通はありえないけどな…」
たしかにそうではあるが、本当にいつのまにか着いたのだから仕方がない。
「ミスター・ダンデリオ」
「なんだ」
彼の部下らしきフードの男が言伝てを終え、去った。
「華、悪いが着いてきてもらう」
「は?」
ダンデリオに手を引かれて、地下通路に連れ込まれてしまった。
しかたなく暗いじめじめした水路を歩く。
早く家に帰りたいのに、困ったことになった。
マンホールの下がこんな場所だとは…。
はじめて知った。
地下の道から地上に上がると、怪しい屋敷の扉が開かれた。




