表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/37

雨瓦ルート

雨瓦くんを病院に送り、帰るつもりだったが、気になって病院に行く。


「こまったことになりましたよ~」

「ご両親と連絡がとれません」

「おうスミマセン、ワタシ用事がありますよー」

ダンデリオが帰ってしまった。

仕方なく家族が来るまで私が病院に付き添うことになった。


挿絵(By みてみん)

「ありがとう…君のおかげで、なんとかまだ生きてるよ」

目を覚ました雨瓦くんが、苦しそうに話す。


「別に…」

まだ花を枯れにくくする薬を作る前は枯れた花との別れがつらくて、それを思い出した。

弱った花に優しくするように、彼にもそうすべきだと思って、無視はしなかった。


「僕、皆からお金持ちなんて言われてるけど…

全然そんなことないんだ…父さんが喫茶店の店長で、いつもは喫茶店の二階に住んでるよ」

そう言って彼は酸素マスクを外し、息を絶え絶えにしながら、苦笑いを浮かべる。

父親が喫茶店で働いているのか、なら連絡がつかない理由もきっとそれだろう。


見た目のせいでそういうレッテルが貼られたのが嫌だった。

そういいたげな表情である。

しかし無駄な同情はしない。

下心のある同情を散々されてきただろうから、返って迷惑だろう。


藤檎(とうご)!」

病室に来たのはおそらく雨瓦君の父親だろう。


「君がつきそってくれていたんだね、ありがとうお嬢さん」


別に私は何もしていないのに感謝されるのは面倒だ。

携帯を持たなくても学校の連絡先くらい覚えておけばよかった。


「じゃあ」

「うん…ありがとう園崎さん」

取り合えず頭を下げて病室から出た。


病院から家に戻ると、どっとした疲れが押し寄せた。


約束の通り雨瓦くんが家に来ることになった。


「一緒に帰ろう」

荷物はないからと、直行するらしい。


「植物で溢れていると思ったんだけど、外観は普通だね」

「中はすごいよ」

家の中は足の踏み場はあるにせよ植物で溢れている。


「本当だすごいね…!」

さすがは園芸部員、こちらのテーブルにある菓子や茶に目もくれず熱心に葉を見ている。

しかし相手は喫茶店の息子、お茶を気に入るだろうか。


「取り合えず好きなだけ居座ってもいいよ」

植物に興味のある者は人類皆仲間だと思っている。


「あ、お茶だ」

「…喫茶店なら珍しくないでしょ」

「紅茶のほうが好きなんだけど、家ではコーヒーばかりだから」


休日が明けるまで、なんだかだるい感覚があるまま登校した。


挿絵(By みてみん)

先週の金曜日に倒れたとは思えないほど元気である。


「この前はありがとう君のお陰で、元気になれたんだ」

なんだかわからないが、元気になったならよかった。


部活は園芸部らしいので、雨瓦くんは花瓶に花を飾る。

手にオレンジや黄色の花を持っている

彼にはオレンジより同系色の青い花が似合いそうだと、あまり関係ないし、余計なお世話だが、そんなことを思った。


「やっぱり花、といったら園崎さんだよね。

園芸部に入ってくれたらいいのに」

自分でも園芸部に入っていないのが不思議だが、自宅が一人園芸部なので無理だ。


外で、というか人の見ているところで、調合した虫避け薬や延命薬を使えないのは嫌。

それと私の開発した薬を使えない場合害虫が寄ってきてしまうし、私は虫が気絶してしまうくらい苦手だ。


それに榊との計画もある。



「園芸は家でやっているから」

「家にお花があるんだ…羨ましいなあ…家は花置けないから」

一階のカフェが仕事で二階が部屋と、連結しているなら花壇が置けないのは仕方がない。


私が言うのも変だが、そんなに花が好きなのか。


「園崎さんの家に見に行ってもいい?」

同い年だが、弟系というか健気というか、病弱で儚げなオーラのせいか、断れない。

まあ、中津先生みたいなタイプなら丁重にお断りしていた。


「いいよ」

榊は仕事で来週まで忙しい。

だから花の世話くらいで、他人から見ればヒマである。


「じゃあ今日の放課後でいい?」

こくり、と頷く。


授業の間も背後から視線を感じながら、放課後になった。

約束の通り雨瓦くんが家に来ることになった。


「一緒に帰ろう」

荷物はないからと、直行するらしい。


「植物で溢れていると思ったんだけど、外観は普通だね」

「中はすごいよ」

家の中は足の踏み場はあるにせよ植物で溢れている。


「本当だすごいね…!」

さすがは園芸部員、こちらのテーブルにある菓子や茶に目もくれず熱心に葉を見ている。

しかし相手は喫茶店の息子、お茶を気に入るだろうか。


「取り合えず好きなだけ居座ってもいいよ」

植物に興味のある者は人類皆仲間だと思っている。


「あ、お茶だ」

「…喫茶店なら珍しくないでしょ」

「紅茶のほうが好きなんだけど、家ではコーヒーばかりだから」

なるほど。


「そうだ、台所借りてもいい?」

「かまわないけど」

何か作るのだろうか、リンゴを片手に持っていた。


「むくだけ?」

「父さんがリンゴを食べちゃダメだって言うから」

リンゴのアレルギーではないのかそれは。


「あ、アレルギーとか、飲んでいる薬に悪影響があるからじゃないよ、父さんがリンゴ嫌いなだけで」

「つまり、家でならバレずに食べられるってことね」

なら外でも…と思ったが包丁もナイフも使えないか。

よく考えたらカットリンゴは酸化しやすいし、塩水につけると味がわからなくなる。

やはり剥きたてのほうが美味しいくて綺麗だ。


「二個あるから一つあげるよ」

ウサギリンゴを作り終えた雨瓦君は、赤くて綺麗なリンゴをくれた。


「ありがとう」

するする包丁を滑らせてその皮をうまく途切れないようにする。

調合に比べたらこちらのほうが楽だ。


「写真とっていい?」

「いいよ」

物好きなものだ。


「あの、ご家族は?」

「え?ご家族は…」

「呼んだ姉さん?」

葉陽斗が来てしまった。


「こんにちは」

「…こんにちは~(こいつが姉さんの言っていた病弱なクラスメイトの雨瓦藤檎か…いたって健康そうだな姉さんにトリイルナンテユルセナイ)」

弟の邪悪なる心の声が聞こえてしまった。


「弟さんがいるんだ」

「話してくれなかったの!?」

「きかれなかったから」

せめて学校にいる間はこいつを忘れていたかったし。


しばらく葉陽斗を睨み付けていると、妙に静かになっていておかしいと思い、雨瓦くんの様子を見るすやすやと眠っていた。


「姉さん、こいつ居座る気だよ!早く家にノシつけて送らないと」

葉陽斗を無視して雨瓦くんを家まで運ぶか、起きるまで待つか考える。


「軽そうだし運べそうにも見えるけど喫茶店の場所知らないんだよね」

「じゃあネットで地図を…」

「私は地図読めない」


結局雨瓦くんをソファに寝かせておく。

強引に起こしたいのは山々ではあるが、今まで病人だったし。


一時間くらい経って雨瓦くんはようやく目を覚ました。

「あ!」

雨瓦君はなにかを思い出した様子。


「前に父さんが君に会いたいって言った話をしたよね?」

「うん」

返事をしないまますっかり忘れていた。


「無理だったらいいんだよ?」

「あーうん、まあ行くよ」

せっかくだから喫茶店の場所を覚えたい。


「じゃあさっそく今行こう!」

意外と強引というか、行動力があるんだなあと感心した。


手を引かれながら喫茶店につく。


「いらっしゃいませ…申し訳ありませんが本日はもう…」

「父さん、園崎さん連れてきたよ」

雨瓦君は嬉々としながら私の手を強く引いた。


「藤檎、レディの手を強引に引いてはいけないと言っているだろう?」

彼は感情に任せて怒るのではなく、きちんと諭すように言っている。


「あ、ごめん…」

雨瓦君は申し訳なさそうに私を見た。


「別にいい」

彼の強引さなど中津先生に比べれば可愛いものだ。


「すみませんお嬢さん」

「いえ、あれから元気になりましたね」

「はい…お陰さまで」

マスターというか、雨瓦君のお父さんはカウンターに戻る。


「何かお飲みになりますか?」

そういわれて、さらっとメニューを見る。


「ジャスミンティーで」

特に好きなわけではないが、メニューにはコーヒーと唯一コーヒー以外のこれしかなくて、一番好きなミルクコーヒーを頼んだら笑われそうだと思ったから消去法で。


マスターは一瞬驚いた様子で、何事もなかったように準備を始めた。

コーヒーにすべきだっただろうか。

ジャスミンティーを選んだときの反応が気になる。

なにか理由があるのか遠回しに尋ねてみよう。


「少し気になったので聞いてもいいですか?」

「はい」


「軽食の他にある飲み物はほぼ珈琲だけなのに、どうしてジャスミンティーがメニューにあるんですか?」


「妻が好きだったので…」

過去形ということはもう彼のそばに奥さんはいない。

この様子を見るに、奥さんは亡くなっているのかもしれない。


「すみません」

聞いてはいけない質問をして後悔した。


お茶を一杯飲み干した。

会計しようとしたら、お礼だからいいと制される。


このお茶はいつ飲んでもあまり美味しくないと感じていたが、意外と普通に飲めた。

家庭用のパックや市販のペットボトルではないからだろうか?

ここはコーヒーの店でコーヒーしか出来ないのだろうと想定していたけど…。

メニューにあるくらいだから美味しいのは当たり前か。


「そろそろ帰らないと」

もうすぐ7時になる。

うっかり忘れていたが、7時半に観たい番組があったのだ。


「おや…もうこんな時間ですね」

腕時計を見たマスターは、私を家までおくると言った。

一人で帰ろうとは思ったが、近いとはいえ時間が時間なのと道はうろ覚え、雨瓦君だと万が一何かあったとき対処出来ないから結果的にマスターになった。

それに逆にこちらが守りたくなるような雰囲気だ。


「留守を頼んだよ」

「うん」


道中たわいない会話をして家まで着く。


私は玄関に入り、鍵を閉めた。


急に力が抜けて、立っていられなくなりフローリングに膝をつく。

まただ…なぜかこの頃疲れやすい。

肉体が疲労している


基本的に外出は学校と近場の花屋たまにコンビニに行く程度、なのに疲労するだろうか?

これといって病気もしたことがない。


こうなってしまった原因を考えてみるが、特に浮かばない。


「姉さん」

「…なに?」

「なにって、最近どうしたの?」

やはり、他人から見ても私が疲れているとわかるようだ。


「取り合えずネットで調べるよ」

「うん」

手を触れずにカタリカタリとキーボードが動く。

もはやなにも云うまい。


「“生気を空いとる霊”…さすがにないな…幽霊なんているわけないし」

お前がそれをいうか。


「人体実験…?」

「そういうのはいいから謎の疲れを調べて」

「調べているんだよ?使えないなーこの機械」

少なくともお前よりは使えるだろう。


「あ、これなんていいかも」

半信半疑で画面を視る。


「“名も無きカルト系教団”?」

「うーん。そこでは古代の黒魔術だけでなく、不老不死を研究する地下室があるらしいよ、それで、人の魂を喰らって、命を永らえるっていう」

「まさか」

なぜそんな怪しいものが――――。


あのカルト団体となにか関係あるではないだろうかと、考えてしまった。


変な疲れがくるのも彼らが私に近づいてきた時期と重なる。


しかし、私から命を削って何をしたいのか、わからない。

生気を削るなら私の他にも被害者がいるはず。

しかし、近所や学校でそんな気配はない。

元々人とあまり関わらないのだ、人から恨みを買う理由もない。


では、一体どういうことなんだろう。


次の日、雨瓦君は普通に登校している。


「おはよう」

「園崎さん、おはよう」

いままで休みがちだった彼は、最近元気に学校に来ている。

もしかしたら、病気は治ったのかも。



夜にカルト集団が現れ、薬を寄越せと言ってきた。


「私から生気を吸い取っているのは貴方たち?」

「なんのことでしょう?」

フードをとらなければ表情はわからないが、本当に知らない様子。


「貴方たちに会うようになってからつかれやすくなった」

「しかし、私たちは一応、生身の人間です」

つまり彼等は変な能力を使っているわけではないのか。


「それが本当に我々のせいだと?」

「時期的に?」

ただ、転校生がやってきたのも、ライトシェイドや榊に出会ったのもこの頃だった。


「まさか…違うか…」

集団のリーダーは何か知っているようで、自問自答を繰り返している。


「なにか知っているの?」


「我々が薬を届ける相手がそんな力を持っていた気がします」

「誰?」

その相手が知らない間に私の近くにいたということ?

薬を届ける相手とは誰だろう。


「自分で探してください」

結局集団は去ってしまった。


探せと言われてもその候補がいない。


こういうのをなんと表すべきだろう。

八方塞がり…に近い言葉はないだろうか。


とにかく早く寝て明日に備えよう。



「…おはよう」

「おはよう園崎さん」

「園崎さん…おはよう」

雨瓦君は茎ノ葉君と話していたようだ。

植物好き同士のようだし、席が近いからそれも普通か。


「その首から下げているのは…」

茎ノ葉君は雨瓦君の首を指さしている。

身長の差もあり、彼を見下ろしたことはなかったため、首のチェーンに気がつかなかった。


「…これ?母さんの形見なんだ」

徐に留め具を外し、ペンダントを見せてくれた。


形見、ということはやはり亡くなっていたのか。

「それは…すまない」

「気にしないで、小さい頃のことだから」

彼とは立場が違うが、私も小さな頃に別れた実の両親のことは、印象が薄い。


シルバーのプレートの表面にに3センチ程度の青いハートの石がついている。

「これは…サファイアか?」彼とは立場が違うが、私も小さな頃に別れた実の両親のことは、印象が薄い。


シルバーのプレートの表面にに3センチ程度の青いハートの石がついている。

「これは…サファイアか」

茎ノ葉君は聞く前に宝石の名前を断言した。

さすがはお坊っちゃまといったところか、見ただけで本物の宝石だとわかるんだ。


「そうなんだ?偽物のアクアマリンだと思ってた」

雨瓦君は知らないでつけていたようだ。


それにしてもこの石を見ていると、体の力が抜けていく気がする。


――――まさか。


雨瓦君があいつらの言っていた能力者?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ