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ライブ崩壊 第五層:静寂の固定

 拍手は続いている。一定の間隔で、正確に、揃っている。乱れはない。欠けもない。会場全体が一つの動きとして維持されている。

 唯はそれを聞く。音は届いている。はっきりと。だが、自分の中には入ってこない。意味として接続されない。ただ、外側で鳴っている。

 手を見る。指を動かす。開く。閉じる。その動きが、どこにも接続されない。拍手に乗らない。次の一回にも影響しない。最初から関係がない。

 少し速く動かす。間隔を崩す。それでも変わらない。会場の拍手は一定のまま続く。乱れない。ずれない。

 自分の動きは、含まれていない。

 明は画面を見る。波形は整っている。ログは連続している。エラーも欠損もない。完全なデータ。だが、操作がない。入力しても変わらない。反映されない。

 キーを打つ。確かな感触がある。だが、波形は揺れない。ログにも現れない。その入力は、最初から存在していない。

 美遊は客席を見る。観客は拍手をしている。揃っている。完全に。その中に、自分がいない。

 視界にはある。距離も同じ。だが、含まれていない。呼吸をする。吸う。吐く。その動きがどこにも現れない。線も現れない。白にも届かない。

 存在している。だが、使われていない。

 拍手が鳴る。一回。また一回。変わらない。

 唯は白を見る。扉の形をしたモノリス。変わらない位置。そこに向かって、すべてが流れている。線が走る。白に入る。消える。その繰り返し。

 自分の動きだけが、その流れに乗らない。線が現れない。入らない。消えない。

 明はログを見る。拍手の数は一定。観客の数も変わらない。密度も同じ。計測上、何も欠けていない。

 だが、現実の中で、外れているものがある。

 自分たち。

 その存在が、記録に含まれていない。

 存在しているのに、対象ではない。

 美遊は一人の観客を見る。手を上げる。打つ。下ろす。その動きが正確に繰り返される。ずれない。迷いもない。

 その人は拍手をしている。

 自分は違う。

 同じように手を動かしても、その動きは拍手にならない。ただの動きのまま、終わる。

 唯は理解する。これは失敗ではない。遅れでもない。

 外れている。

 最初から。

 拍手は続く。同じ間隔。同じ音。同じ配置。

 唯は違いを探す。次の一回。その前の一回。そのさらに前。

 差がない。

 変化がない。

 繰り返されている。同じものが、更新されずに。

 瞬きをする。閉じる。開く。視界は同じまま。観客の位置も、手の高さも、角度も変わらない。

 連続しているのではない。

 同じ状態が、並んでいる。

 明はログを追う。時間は進んでいるように見える。カウンタは増える。だが内容は同じ。どこを見ても同じ値。同じ波形。

 進んでいるのではない。

 位置が変わっているだけだ。

 更新されていない。

 美遊は呼吸をする。その前の呼吸と区別がつかない。同じだから。

 今が新しくない。

 前からあるものと同じ。

 唯は理解する。時間が進んでいない。進んでいるように見えているだけだ。

 状態が更新されていない。同じ状態が続いている。

 拍手が鳴る。一回。また一回。同じように。完全に。

 その“次”がない。前と同じだから。

 連続ではない。同一の反復。

 唯は白を見る。モノリス。変わらない。最初から同じ。

 そこに入るものだけが続いている。だが、変化しない。蓄積もない。減少もない。

 ただ、同じまま。

 もしこれが続くなら、すでに続いている。

 今も。

 前から。

 同じ状態で。

 唯は一歩、前に出る。客席へ向かって。距離は近い。数歩で届くはずの位置。

 歩く。

 一歩。

 また一歩。

 だが、変わらない。

 距離が縮まらない。

 見える位置が同じまま。

 足は動いている。床の感触もある。

 だが、進んでいない。

 位置が更新されない。

 美遊は手を伸ばす。観客へ。触れるはずの距離。

 触れない。

 距離はある。最初から。

 変わっていない。

 動きだけが繰り返される。

 結果がない。

 接続しない。

 明は電源ボタンを押す。反応があるはずの操作。

 だが、画面は変わらない。最初から押されていないかのように。

 操作が存在しない。

 美遊は声を出す。喉は動く。空気も震える。

 だが、音にならない。

 拍手に重ならない。

 外に出ない。

 発生していない。

 唯は理解する。

 戻れない。

 最初から、その外にいた。

 だから、戻れない。

 拍手が鳴る。一回。また一回。続いている。完全に。

 観客は動き続ける。揃っている。乱れない。欠けない。

 誰も外れていないように見える。

 最初から、その数だったかのように。

 白は動かない。空間の中心。そこに向かって、すべてが流れている。

 線が走る。白に入る。消える。

 変わらない。

 繰り返される。

 終わらない。

 終わっているのに。

 続いている。

 三人は動かない。

 動いても変わらない。

 接続されない。

 含まれていない。

 ただ、見ている。

 外から。

 ずっと。

 変わらずに。

 更新されないまま。

 どこにも進まず。

 どこにも戻らず。

 固定されたまま。

 ここでは、何も更新されない。

 拍手は、まだ揃っている。


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