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俺が再び頭を下げて、やはり、しばらくはベルは何も言わなかった。なんと言えばいいか逡巡しているような雰囲気を感じたが俺は頭を上げなかった。
しばらくそのままでいると、根負けしたようにベルは口を開いた。
「――そのせいで養子に出たの?」
いきなり核心をつく質問だ。俺は表情を引き締めて顔を上げた。
「父はそうだったかもしれない。学校での出来事は親たちにも知られていただろう? クレアのご両親ともうちは親しかったし。俺がレノックスを止められないっていうことが、俺の環境を変えようと思った理由かも。その関係が、卒業後も続くことを懸念したのかもしれないな」
「……そう」
ベルの表情からは何も読み取れなかったが、ここで怯むわけにはいかなかった。
「でも、俺はあと少しの辛抱だと思っていたんだ」
ベルは目を瞬いた。
あの初等学校さえ出れば、また元の関係に戻れると思っていた。俺は跡取りではないし、実家にいても兄の補佐をしながら領地を治めていくのが仕事だったろうが、勉学より武に秀でていた俺が領地に残れば、俺の役割は自領の自警団の団長などをすることになるだろうと考えていた。
外交や他所の領地との折衝の部門ではないから、レノックスとの接点も少なくなると思っていた。
実はレノックスは、ベルのことを嫌っていたのではない。逆に気に入っていたのだ。あの年頃特有の好きな子はいじめたくなるというやつだ。悪いことに、あいつは俺がベルと幼馴染なことも知っていた。今考えると、おそらく低学年の頃、ごくたまに話をしているのを見られていたのだろう。
ベルはその頃から地元では目立つ容貌だったから。
俺はレノックスの下心にもヤキモキしたが、幸か不幸かベルはそういう男心はわからないらしく、ただただレノックスの態度に困惑し、嫌がっていた。
「……信じられない」
俺がそのことを伝えるとベルは目を丸くして、それから嫌悪の表情を浮かべた。案の定、レノックスの本心には全く気づいていなかったようだ。
「悪いけど、自分より成績がいいせいで嫌ってたとしか思えないわ」
「だけど俺も剣術の成績はレノックスより良かったけど、それでどうこうということはなかった。お前は騎士の家のだしな、で終わりだったよ。あいつにとってベルの成績は絡みに行くいい口実ではあったとは思うよ」
それも俺がベルに近づけない理由だった。レノックスにさりげなくベルとの関係を探られていたし、今でも俺と親しいことがわかれば、ますますエスカレートすると思ったからだ。
「取り巻きの俺の方がベルに近しいとは気付かれたくなかったんだ。でも、――全部言い訳だな」
ベルは困ったように眉を下げた。
「俺は、ベルが許してくれるなら昔のような関係に戻りたい。初等学校ではなくてもっと前の――」
あの頃、二人で庭を駆け回っていたあの頃に――。
「そう……」
今度はベルが俯いてしまった。
「急に俺のことを信じられないのも理解できる。だから、俺が本気だってことを見に来てくれないか?」
顔を上げたベルがきょとんとした顔で俺をみる。
「どういうこと?」
「俺は先日の剣術大会の予選で勝ち抜いた。本戦に進めることになったんだ。そこで優勝する。それをベルに見届けて欲しい」
ベルが目を見開いた。剣術大会の優勝を見届けるということは、伝統的に婚約者や恋人の役割だ。そうでない場合、優勝者は意中の相手に剣を捧げて愛を乞うことができる。
「剣術大会で優勝するって言っても三年の部だけど。だけど俺の剣は、ベルに捧げるよ」
そう言って俺はもう一度立ち上がり、騎士の礼を取った。




