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第25話 侯爵の決断


 ドノヴァンさんの怪我が回復した頃アルメリア侯爵の下に王室から一通の書状が届いた。

 アルメリア侯爵に呼ばれた私はその内容を聞いて呆れ返ってしまった。


「近頃の王国内に発生した魔獣はアルメリア侯爵領に滞在している魔女リーリエが呼び出したものである。直ちにこの大罪人の身柄を王室に引き渡すように……って何ですかこれ?」


「ははは、全く馬鹿げた話だろう。だがこのような流言飛語を信じる馬鹿は私の領内にはいないから安心して欲しい」


 この根も葉もない冤罪話の出所は大体想像がつく。

 聖女フレミアが先日の魔獣大量発生事件の罪を私に擦り付けようとしているに違いない。

 アルメリア侯爵の言う通りこの町でそんな事を信じている人間はいないが外部の人間は話は別だ。

 最も魔獣の被害が大きかったのはバニートゥフレイクスに襲われたこの町である。

 町の人達は今も壊れた城壁や荒れた家屋の修復に追われている。

 事情を知らない王都の人間がその事実だけを見て私が犯人と思い込んでんでしまうのも無理がない話だろう。

 何よりこの書状には王室の印が押されている。

 つまり私が犯人だというのは王室の公式な見解である。

 その事を指摘するとアルメリア侯爵は大きくため息をつきながら答えた。


「王室というかセリオス殿下の見解だろうな。あんなのでも一応王太子としてご病気の陛下に代わって国内の問題を解決しようと頑張っているつもりらしい」


 仮にも国のトップに立とうという人間が裏付けもとらずにこんな馬鹿げた噂を信じてしまうとは王国の先が思いやられる。


「傍迷惑な話ですね。でももし王都から私を捕らえる為の兵が派遣されたら私はどうなってしまうんでしょうか」


「大丈夫、そんな事はこの私が許さないさ。もし王室が強硬手段に出るつもりなら私にも考えがある。いや、そろそろ頃合いだろうと思っていたんだ」


 そういってアルメリア侯爵は不敵な笑みを浮かべた。

 嫌な予感がする。

 厄介事に巻き込まれるのはごめんだ。


「そ、それでは私はこれで失礼します」


「待ちたまえ」


 ここは何も聞かずに知らん振りして帰るのが得策だろうと退出しようとしたが時既に遅く引き止められてしまった。


「リーリエ嬢、君の仕立てた衣服のおかげで我が領内は王都を凌ぐほど発展した。最早我々がコスタミア王国の一部である必要がないと思わないかね?」


「あー! あー! 何も聞こえません」


 思った通りとんでもない話に巻き込まれてしまった。

 私は両手で耳を塞いで聞こえない振りをするがアルメリア侯爵は構わずに聞いてもいない話を続ける。


「本日をもって我が領はコスタミア王国からの独立を宣言する。リーリエ嬢にはこれからも我々に力を貸して欲しい」


「うう……それは強制ですか?」


「いや、我々は教会の連中とは違う。我々に協力するかどうかは君自身で選んで欲しい。もし君に断られたならそれは仕方がない。私は君の意思を尊重するよ」


 そうは言ってもアルメリア侯爵の後ろ盾がないと私は冤罪とはいえ魔獣事件を起こした大罪人として王国に断罪される。

 最初から私に選択肢なんてないじゃないか。


「うう、ズルいですよ閣下……大体王国を敵に回して勝算はあるんですか? 私の仕立てる衣服も万能ではありませんよ?」


「勿論だ。勝てない戦を仕掛ける程私は愚かではないよ。シャノン、ドノヴァン殿を呼んでくれ」


「はっ」


 アルメリア侯爵の合図でシャノンさんがドノヴァンさんを連れてきた。

 この人は王国の騎士であるドノヴァンさんをも己の野望に巻き込もうというのか。

 でもドノヴァンさんは誰もが知る騎士の鑑である。

 彼に協力するとはとても思えない。

 最悪の場合謀反人許すまじとアルメリア侯爵を断罪するべく斬りかかるかもしれない。

 私はアルメリア侯爵は判断を誤ったなと思い冷めた目で見る。

 しかしドノヴァンさんは私の予想に反して落ち着いた様子でアルメリア侯爵の話に耳を傾けている。


「……お話は分かりました閣下。私もセリオスの日頃の軽はずみな行動を由々しく思っていました。しかもこの度のリーリエ嬢への仕打ち、聖女フレミアに良い様に利用されているのにそれを気づいている様子もなくまったく嘆かわしい。このまま何もせずに彼が次期国王に即位するのを指を咥えて見ていては王国に明日はないでしょう」


 そこは同意見である。

 私は後ろでうんうんと頷いた。

 その時私はドノヴァンさんの言動に違和感を覚えた。


「あれ? ドノヴァンさん今セリオス殿下を呼び捨てにした?」


 私もセリオス殿下には思うところがあるがあれでも仮にも王子だ。

 人前ではちゃんと敬称をつけて呼ぶように気を付けている。

 それなのに良識あるドノヴァンさんの非常識な物言いに私は思わずそれを口に出してしまった。


 アルメリア侯爵とドノヴァンさんは意外そうにお互い顔を見合わせる。


「おや、リーリエ嬢はご存じありませんでしたか?」


「え? 何をですか?」


「ドノヴァン殿はセリオス殿下の兄君ですぞ」


「……へ?」



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