原作開始
少し時が経ち、今日は入学式。
「それでは行ってくる。今日は入学式だけだから、ウルとマリアは先に荷解きを済ましておけ。明日から二人には共に学園に来てもらうからそのつもりでいろ」
「「承知しました」」
ウルとマリアは返事をしてからすぐに作業に取り掛かる。
アブソリュートは王都の学園に入学するにあたり、王都にあるアーク家の別邸に移ることになった。
そしてアブソリュートは待たせている馬車に向かう。
その足取りは堂々としたものだった。
『ライナナ王立学園』
ライナナ国の貴族は十五才になったら必ず入学する規定のある三年生の学校である。
クラスはA〜Eに分けられ入学試験での成績を元に振り分けられる。
また、貴族の他にも有名な商人の子や教会の推薦、貴族の後ろ盾がある場合は平民でも入学が可能になっている。
特例で王族や勇者は試験が免除される。
この学園で重要なのが爵位と成績もとい実力である。
試験や授業内での模擬戦や筆記の成績が良ければ就職先や将来の出世、学園内のカーストに影響する。
学園内での爵位による上下は基本的にはないが完全にとはいかない。もちろん派閥を超えての友情も中にはあるが、基本的につるむのは同じ派閥の人間になりがちなのが現状である。
そして今日は入学式という一大イベント。開場してから新入生への準備や、手伝いの為に来た上級生の姿も多い。
そんな賑わう空気のなか、生徒たちの視線が校門付近に集まる。
校門の前に黒塗りの馬車が大量に並んで鎮座していたからだ。
ある生徒たちが言葉を漏らす。
「あの馬車って確かアーク家の?」
辺りがざわめきだしたところで馬車から人が降りてきた。それは威圧的な雰囲気を出しながらも体中から嫌悪感を感じさせる男だった。
誰かが言った。
「アブソリュート・アークだ……」
アブソリュートが姿を見せた後、後続の馬車からぞろぞろと傘下の貴族達も降りてくる。アブソリュートを先頭に、アーク家派閥が勢揃いする形になる。
アーク家派閥が現れてから明らかにその場の空気が重くなったのが分かる。
周りの者達に異様な光景に映ったアーク家派閥は、上位貴族が少なく。国の中では目の敵にされる存在だった筈だ。悪い噂があっても表立つ存在ではなかった筈なのに、今は目が離せない。
「お、おい、アーク家の派閥ってあんなやばそうな奴らの集まりだったか?」
「噂ではアーク家はかなりヤバイ組織の親玉って聞いたことあるけど……あの圧力もしかして本当なのかも」
「上位貴族にも噛みつく狂犬ウリスに、社交界の花レディ・クルエル嬢もいるぞ」
人垣が自然とアブソリュート達を避けていく。その場の空気はアブソリュートによって支配されていた。
アブソリュートはスキル【王の覇道】で周りを少しだけ威圧して重い空気を演出したのだ。
アブソリュートという絶対的な強者とその傘下の者達を印象づけるためにこの催しが行われた。
まずは第一印象が大事だ。決して舐められてはいけない。私がいる時なら叩きのめすが、私がいない時に目をつけられては傘下の者達を守れない。
だから、示さなければならない。アーク家の結束をこの場で。アーク家派閥に手を出そうと思わせないように。
「アーク家の派閥にはあんまり近づかない方がいいかもな……」
「あぁ、同じクラスになりたくねぇよ」
「俺はレディさんとお近づきになりたい……」
「止めとけ、前にしつこく言い寄ってきた奴がアブソリュート・アークに半殺しにされたって話だぞ。絶対殺される」
その甲斐もあり、この場にいた者の中に刻まれた。アブソリュート派閥と、それを率いるアブソリュートという存在を。
入学式は学園にある講堂で行われた。席は決まってなかった為に後ろの席をアーク家で埋めた。
クリスが横で話しかける。
「さっきは凄く見られていましたね。まさか、あんなやり方で周りを牽制するなんて思いませんでした」
私はそれを鼻で笑う。
「牽制だなんて大袈裟な言葉を使うな。クリスよ、私はただお前らと共に登校しただけだ、そうだろう?」
「あんなに殺気を振り撒いといてよく言えますね。貴方って人は……」
クリスや周りの者達も苦笑いしているが、アブソリュートに感謝と羨望の視線を向けているのが分かる。
彼らはアブソリュートが自分達の為にあえて牽制してくれたことを理解しているからだ。
「ありがとうございます。アブソリュート様」
「ふん、知らん」
代表してお礼を述べるクリスだが、アブソリュートはそれを受け取らない。いつものやりとりを続けるのだった。
そうして入学式が始まった。始まってからは不備もなくスケジュール通りに進んでいく。
校長や教師の紹介等が行われて最後に新入生の紹介が行われる。
代表は王族であるミカエルだ。
「校長先生、教師の皆様、温かい歓迎の言葉ありがとうございます。私達はライナナ国の者として恥ずべき所のない人として成長できるようにこの学園で学ばせて頂きます。そして今後もライナナ国を共に支えていく仲間達との仲を深め、どんな悪にも負けないよう強くなってゆきたいと思います。これから三年間よろしくお願いします。新入生代表 ミカエル・ライナナ」
ミカエルの代表の言葉が終わり、拍手が湧く。私も拍手をするが、私はミカエルの言葉が
『学園で私の支持者を集めてアブソリュートを潰して、王太子の座に返り咲く』
という意味に聞こえた。
席に戻るミカエルと目が合う。ミカエルは憎しみのこもった目をしていた。その目を見て確信に変わる。
王太子の座から降ろしたから安心していたが、まだミカエルは諦めていなかったか……。勇者に聖女、それに元王太子に原作イベントか……いいぜ、迎え打ってやるよ。
最後に生き残るのは――
アブソリュート・アークだ!
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