試験を終えて
◇アリシア視点
学園の入学試験を受けにきたアリシアはあのアーク家の子息と模擬戦のペアを組む事になった。アーク家の評判の悪さは子供ながらに聞いているし、パーティーでもいつも傘下の貴族を大勢侍らせているのを遠巻きに見ていた。できればあまり関わりたくない人種だが、試験なので仕方ない。
アリシアは頭を切り替える。
それに相手は武闘派カコ家のトリスタンに聖女だ。力を合わせなければすぐにやられる。
「……話すのは初めてね。アリシア・ミライよ。それで役割はどうする? 私は魔法しか使えないから遠距離からの攻撃になるけど」
アブソリュート・アークは不気味な男という印象であった。噂によれば、かなり優秀らしい。もしかしたら二人で力を合わせれば聖女達に勝てるかもしれない。
そう思ったが、アブソリュートからは相手がアブソリュートの間合いに入ったら手を出さなくて良いと言われたのだ。
「いいの? 聖女は戦えないから貴方がトリスタンと戦っている時に私が魔法で援護した方が確実だとおもうけど?」
アリシアの疑問にアブソリュートは悠然と答える。
「ふん。いくら聖女が援護しようと戦うのはトリスタン一人だ。それを二人がかりで潰すのはあまり美しいやり方ではない。場面ごとに役割を分けて一対一で戦うのがいいだろう」
「っ⁈」
アブソリュートの答えにアリシアは自身を恥じた。
たかが試験、ニ対一で相手を倒そうとするなんて確かに褒められたものじゃない。
アリシアはアブソリュートの勝負に対する姿勢に感銘を受けた。実質一対一を行うことで相手側をたてた形にもなる。
(悪い噂ばかり聞くけど、今回ばかりは素直に尊敬するわ)
アリシアはこの勝負に対しての姿勢を勇者アルトに見せてやりたかった。勇者アルトは強いが、アブソリュートの様な誇りを持ち合わせていないように感じたからだ。
(……もし、アルト君が今のアブソリュート・アークの姿勢を見たらどう思うかしら。何か感じてくれれば嬉しいけど、何も感じないようなら……少し寂しいわね)
「……ごめんなさい。私、貴方を誤解していたわ。確かに誇りある上位貴族の私達がやることではないわね。分かった、貴方のやり方に従う。誇りを持って戦いましょう!」
「あぁ、それと聖女には当てるなよ?」
アリシアはここにきて見せるアブソリュートの優しさが少し微笑ましく感じた。
そして試合が始まる。
聖女の援護を受けたトリスタンが距離を詰める。アリシアは魔法でトリスタンを攻撃するが相手は止まらない。
すぐに距離を詰められてアブソリュートと交代するハメになった。
そしてトリスタンと斬り合うアブソリュートの姿を見て、アリシアはまた驚愕した。
(嘘っ……トリスタンはあの武で有名なカコ家よ。決して弱くない。むしろ、聖女の援護を受けた今なら勇者ともいい勝負ができる筈、それをアブソリュートが互角に戦ってる⁈)
本当は、アブソリュートはかなり余裕を持て戦っていたが、あまり戦闘経験のないアリシアには二人は互角に見えたのだ。
そして二人が打ち合うその戦いにいつの間にか見惚れていた。
一方的に攻め立てるトリスタンの剣戟を、アブソリュートは全て正面から受けきってみせた。
もはや二人の間に試験など関係なかった。
互いの剣技をぶつけ合う美しい試合に目が離せなくなる。
ドクンドクンと血が熱くなる。
会場には刃が交じり合う音だけが響き、あたりを見回せば皆この試験を見守っていた。
「もう終わりにしよう」
そうアブソリュートがいうとトリスタンも同意するかのように全速で切りかかる。
攻めるトリスタンに受け続けたアブソリュート。
白熱した試合の結果アブソリュートが勝利した。
試合が終わるとアブソリュートはアリシアに目もくれず去っていった。
その背中をアリシアはずっと見つめていた。
試験の帰り、すっかり試合の熱がとれたアリシアは勇者について頭を悩ませた。
(どうしよう……アブソリュート・アークがここまで強いなんて思わなかったわ。もし、これから学園でアルト君が彼に喧嘩を売る様なことがあれば……)
アリシアは暴走しがちな婚約者を思い浮かべる。以前、アーク家をぶっ潰す等とほざいていたのだ。必ず何か起こすに決まっている。
(アルト君はミライ家が後ろ盾……もしアブソリュート・アークにアルト君が喧嘩を売ったりしたら………ヤバいわ!)
アブソリュートと勇者アルトが戦えば被害が大きくなる可能性が高い。その責任所在は原因の勇者の後ろ盾であるミライ家になる。
(屋敷に帰ったらアルト君に喧嘩を売るなと言いくるめなければ!)
アリシアの苦難は続くのであった。
◆
アーク家
入学試験を終えたアブソリュート達は、同じ受験生の傘下の貴族をアーク家に招いてパーティーをしていた。
昔とは違いアブソリュートの周りにも人が集まっている。
「アブソリュート様の戦う姿かっこよかったですわ!」
「そうか」
「あのカコ家のトリスタンを圧倒するなんて流石です。是非、今度手合わせお願いします!」
「ああ」
「アブソリュート様! わたくしと結婚して下さいまし!」
「……」
アブソリュートに話しかける傘下の貴族に対してぶっきらぼうだが、ちゃんと受け答えをする。
流しているように見えるが普段からこんな感じなので周りも気にしていなかった。
パーティーも締めに入り最後にアブソリュートから全員に伝えられる。
「さて、全員今日はご苦労だった。普段から鍛錬を欠かさないお前らの事だ、きっとベストを尽くせた事だろう」
話を聞いている者達の顔は精悍だった。全員アブソリュートを支えるために鍛錬を欠かさなかった。これをアブソリュートは知っていたのだ。
「これから私達は学園に入ることになる。学園では身分は関係ないとあるが、それは建前であり爵位の壁はもちろん存在する。そこで、私達は見せなければならない。アーク家派閥の結束を!」
アブソリュートは全員の顔を見渡す。
「ライナナ国では私達アーク家派閥はいつも悪者扱いされ侮蔑されてきた。私達がグレーな仕事を生業にしているからだ。だが、グレーな仕事をしているだけで悪者扱いされるなら私は一生悪役のままでいい。グレーな仕事で救われる命もあるのを私は知っているし、私はアーク家に誇りを持っている。問題は、何故表だって馬鹿にする奴がいるのか? それはアイツらが私達を舐めているからだ」
全員の顔つきに怒りが見える。これまで散々馬鹿にされ続けられてきたからだ。
アブソリュートは続ける。
「もう一度言う。私達は見せなければならない。アーク家派閥の結束を! もうお前らは馬鹿にされていいほどの弱者ではない。そして力を示さなければならない。力のない悪は正義をかざす強者の思うままに蹂躙される。それが嫌なら共に抗い続けよう。私は常にお前たちの前にいる!」
ドクンッ
聞いている者達は胸が熱くなる。
あのカコ公爵のトリスタンをも圧倒する力を持つ彼が自分達を仲間と認め、守るとまでいうのだから。
「お前達アーク家派閥であることを、悪だということに誇りを持て! そして見せてやろう悪の誇りを!」
全員が頷く。
それを見てアブソリュートは悪い笑顔で告げるのだった。
「初めが肝心だ。全員で行くぞ!」
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