目を背けていた事実
【前話までのあらすじ】
キャカ畑一面が、黄色い花で埋め尽くされた時、女王レミンは父上のアアルクを連れてきた。ライスたちが見たアアルクは、老人ではなく30代前半の男性であった。そしてその時、秘想石が光り始めていた。
◇◇◇
『キャカの木』を復活させた功績に、ギガウをはじめ全員が、祝いの宴に招待された。
これは願ってもない機会だ。城内に入ることができれば、スレイの鼻と耳で行方知れずのマイルを見つけることが出来る。
ツルツル岩の階段をひたすら登り、城の入口に足を踏み入れると、早速スレイが反応した。
「ライスさん、匂いがします。マイルさんの匂いが。しかもこの匂いは.. 毒と薬の匂い」
「え!? マイルは大丈夫なの?」
「毒の匂いは微かだし、大丈夫だと思います」
「わかった。じゃ、あとで隙を見て探してきてくれる?」
案内の衛兵が振り返ったのですぐに口を閉じた。
『君たちは招かれた客人だ。これから迎賓広間での食事会だが、他の場所には立ち入らないように。用がある時は私に声をかけてくれ。私は女王の護衛をしているカイだ』
長い廊下の突き当りの豪華なドアを開くと、赤い絨毯の先にはご馳走が並んでいた。
『さぁ、すぐにレミン様と.. アアルク様がいらっしゃる』
リジは、護衛のカイが拳をぎゅっと握りしめたことに、気が付いた。
一方、ライスは目の前のご馳走に目をキラキラさせていた。
「リジ、リジ! こんなご馳走は久しぶりだね。何から食べてやろうかな!」
「ライス、あんた目的を忘れないでよね」
「わかってるって。 でも、せっかくのご馳走なんだから、これはこれで楽しまなくちゃ損だよ」
「まったく.. それより、ちゃんと秘想石は持っ—— ライス! あなたの鞄から!」
ライスの鞄の隙間から強い光が漏れていた。鞄から光る秘想石を取り出し、テーブルに乗せると、その光は迎賓広間の白い壁に映像を映しだした。
そこには深蒼石の豪華な柱に囲まれた廊下が映っていた。映像は揺れながら廊下を進み、赤い細工模様のある白い扉が開いた。扉の向こうには、豪華な料理が並ぶテーブルと、ライスたちの姿が映っていた。
「これは.. どういうこと?」
リジはゆっくりとアアルクの顔を見た。
「待たせて.. なんだ? 何を見ておるのだ?」
レミンはテーブルを周り込むとその映像を目撃した。
「これはなんだ! ここに映るは、私たちか!?」
驚くレミンを無視して、リジは映像のもとを辿った。間違いない、その映像はアアルクの目線からのものだった。
アアルクがレミンに近づきながら言った。
「な、どうしたのだ、レミンよ」
レミンは壁に映る自分とアアルクを交互に見て、映像が父アアルクの視線なのだとわかった。
「ひっ.. !! 」
レミンは、自分に伸びるアアルクの手をはじいて拒絶した。
「どうしたのだ、レミン....」
アアルクが壁に視線を向けると、映像が合わせ鏡のように何重にもなった。
「うわあっ! なんだと言うのだ。なんなのだ、これは!?」
アアルクは両手で目を押さえながら塞ぎ込んだ。
『形のない宝石』
ライスが呟いた。
光る秘想石を鞄にしまうと、広間は水を打ったように静まり返った。
いつもは先陣を切るリジでさえ、この状況を説明する言葉が見つからなかった。
「いつなのですか?」
最初に切り出したのはライスだった。
「何が.. だ?」
レミンが聞き返した。
「レミン様には、今の質問の意味がわかっているのではないですか? レミン様のお父様が現れたのは、いつのことなのですか?」
「あ、現れただと.. 何を言っておるのだ!!」
『 ..60年も前に、リキルス国へ旅立ったままのアアルク様が、お若い姿でご帰還なされたのは14日程まえです』
「カイ、黙りなさい!」
レミンは護衛のカイを怒鳴りつけた。
「レミン様、恐れながらアアルク様は『形のない宝石』です」
「な、何を.. 先ほどから訳のわからぬことを.. なんだ、その何とかという宝石とは!?」
「『形のない宝石』は、人が心から願うモノに姿を変える宝石です。私は、それは物だけに限ったことと思っていました。でも違ったんです。レミン様、お父様は光の中から突然現れたのではないですか?」
「そ、そんなこと..」
「レミン様はきっとお父様に会いたい、帰ってきて欲しいと願っていたのでしょ? 私にもその気持ちわかります.. きっとその願いに宝石は応えたんです。だって今のアアルク様の姿って、レミン様の想い出にあるアアルク様の姿なのだから」
その時、ライスは式紙のルシャラのことを思い出していた。式紙ルシャラの姿は、幼き頃のロスの想い出にある母の姿だったからだ。
「貴様、その口を閉じねば、死を与えるぞ! 衛兵! そ奴らを地下の牢にぶち込むのだ!」
「レミン、やめなさい!」
「ええい、うるさい!!」
レミンはあれほど慕っていた父アアルクに対して、命令するような言葉遣いをした。彼女も気が付いていたのだ。目の前にいる父親が、別の何かであることを。
「わかった、小娘。お前が父上を偽物と呼ぶのなら、お前がリキルス国より本物を連れて来るのだ! 丁度、旅に必要なキャカの木もある!」
レミン女王は父親のアアルクを冷ややかな目で見ると言った。
「リキルスの行き方は、そこの父上に聞くがいい」
「 ..レミン」
そして続けて強い口調でカイに命令した。
「その小僧とミレクを捕らえよ!」
カイは渋々命令に従った。
「よいか。もしもお前がリキルスから手ぶらで帰ったら、小僧とミレクの首を跳ね、港町ケロットにさらしてやろうぞ」
そう言い放ち部屋を後にするレミンは、高笑いをしていた。それは、どこか悲しみをごまかそうとする響きに満ちていた。




