10年……拡視点 01
拡視点。
10年という長い歳月をもろともせず、颯子はオレを想い続けてくれた。
途中、何度もオレに関して辛いことがあったはずなのに。
それは俺がワザと颯子にツレなくしたり、付き合ってる相手がいるように振る舞ってたからだ。
どうしてそんなことをしたかといえば、それは簡単なことで、颯子にオレのことをあきらめさせるためだ。
何年か先にあるかもしれない、オレ以外の相手との新しい出逢いを、オレなんかのせいで潰すわけにはいかないから。
実際付き合ってる相手がいたのは、高校三年のときから大学に入って二年くらいまでだ。
付き合った相手にはちゃんと好意があったし、それなりに楽しかった。
颯子のことが頭になかったわけじゃない。
でも、オレと颯子とでは恋愛関係なんて成り立ちはしない。
お互い成人後の10歳の年の差ならまだ考える余地もあっただろうが、高校生と小学生の低学年。
どう見てもオレの性癖を疑われる。
なのに、颯子からの軽いお遊びのキスに高校生の自分が焦りまくったのがなんとも言えず情けなかった。
昔から颯子のことは好きだった。
オレのことが好きだと、身体全部でアピールしてくる颯子が可愛いくてしかたなかった。
だけどその気持ちは恋愛感情ではないと思っていたから、その焦りはなんだったのか自分でも理解できなくて、もしかしてオレは本当にロリコンなんだろうか? としばらく悩んだほどだった。
そのあと、度々見かける颯子以外の小学生の女の子を見てもなんとも思わないところをみると、どうやら“ソレ”は颯子限定なんだと納得した。
自分ではわからなかった性癖かとショックを受けたが、違うとわかってホッとした。
でもその気持ちが、颯子限定だとわかったことがホッとできることなのかと新たに悩みになった。
だからなのか、自分は常に “誰かと付き合ってなければ” と思うようになってた。
それは無意識の行動で、自分でも自覚もなくやってたことらしい。
颯子とは年の差で付き合えるワケがない。
颯子はオレにとって隣に住む、歳の離れた妹のような存在。
そう思い込むように自分に言い聞かせた。
思い込む時点で自分の気持ちに気づいていたんだろうけど、それには気づかないフリをして蓋をした。
全ては颯子のためだと、年上のオレが気をつけなければと思っていた。
ただ、大学2年のときに彼女をつくることに限界を感じてしまった。
オレも相手に好意があって始まった交際のはずなのに、付き合いだしてしばらくすると“先”を考えるようになってしまっていた。
自分で付き合う期限を決めてるのに気づいてしまった。
“ひとりの相手と長く付き合ったなら、別れられなくなるんじゃないのか?”
という考えが付き合って半年もすると、自分の中に浮かんできてしまう。
別にひとりの女と長く続いたっていいじゃないか。
それはそれでいいことだろう?そのまま結婚したってかまわないはずだろう?
そう思うのに、浮かぶのはときどき見かける颯子の顔だった。
この前見かけたときは、まだ黄色の帽子に赤いランドセルを背負ってた。
とんでもなく可愛いとか、美人ってワケじゃないけど、颯子は可愛い。
特に、にっこりと笑った顔なんて文句なしの可愛さだ。
『拡ちゃん待っててね』
『結婚なんてしないでね』
『私にもチャンスちょうだいよ』
オレがワザと付き合ってる相手がいるとか、オレのことをあきらめろと言うたびに、颯子は泣きそうな顔と声になる。
オレが誰かと付き合っていれば、颯子はオレとのことを強く望まないのを知っていたから。
ただ、その颯子の想いがオレが考えてる以上の気持ちだったとは気づかなかったけど。
今から思うと、子供だった颯子にずいぶんヒドイ仕打ちをしてたんだと反省しまくってる。
そのときはそうすることが、颯子にとっていいことだと思っていた。
本当は付き合ってる相手がいようが、颯子のことをかまいたかったクセに。
抱き上げて、膝に乗せながら一緒の時間を過ごしたかったクセに。
自分の胸の上で颯子が眠ることが、自分にとっての一番の癒しだったクセに。
オレは自らそれら全部を手放した。
それが颯子のためだと……そう思っていたから。
だから颯子にキスをされたあとからワザと颯子をさけるようになって、すぐに彼女をつくった。
学校でオレに近づいてきてた女子が何人かいたから、相手を見つけるのは簡単だった。
ときどきオレと彼女が一緒にいるところを颯子に見られてたのは知っていた。
でも、オレはそれでいいんだと思った。
颯子にオレとの年の差をわからせるのと、早く他に相手を見つけさせるためには。
就職して、転勤を機に家を出て颯子から離れた。
ときどき交わした颯子の視線は縋るような眼差しで、オレの気持ちを煽りに煽った。
颯子に泣かれて縋られたら、オレはきっと颯子をこの手で抱きしめてしまう。
だから颯子には黙って引っ越した。
そのあとの母親の数々の女関係の憶測は否定しないできた。
そうしていればきっと自然と颯子にも伝わって、オレのことは隣にいた仲のよかったお兄さんとなるだろうと思った。
なのに、いきなりの颯子からの電話にオレの気持ちは一気に跳ね上がる。
そんな気持ちを抑えて、素っ気ない態度を取った。
付き合ってる相手なんていなにのに、いるフリまでして。
それからときどきかかってくる電話も送られてくるメールも、来る度に顔を綻ばせてたクセにほとんど相手にしないようにしていた。
最初にかかってきたときに、即行で携帯のアドレス帳に登録したクセに。
そのころのオレは、ときどきそのとき限りの相手とするくらいだった。
年に数えるほど。
颯子が高校生になってからは、まったくといっていいほどなくなった。
いや……颯子が高校生になったからなのか。




