厨房になんかいる……
「食料はまだ大丈夫そうか」
厨房近くを歩きながら王、アンヘルが言った。
バシリオは大股に歩く王に、急ぎ足でついて歩きながら言う。
神官の衣は裾が長いので歩きづらいのだ。
「今のところまだ。
王様が渇水の気配に気づき、なにもかも早めに手を打ってくださったので」
「……聖女を呼ぶのも早めにしてよかったな。
どちらもすぐに役に立ちそうにはない」
――はあ、片方はもう、あっという間に貴族の男とひっついてしまいましたしね。
「おや? 厨房が騒がしいですね」
覗くと、広い王宮の厨房の片隅にしゃがんでいる娘がいる。
龍美だ。
調理するのを眺めているようだ。
みんな楽しげに龍美と話し、自分の自慢の料理について語っている。
龍美は平らな石の上で調味料となるカラフルな実などを混ぜ合わせ、石でゴリゴリこすっているのを面白そうに眺めていた。
「面白いですねー」
と龍美は目を輝かせている。
……そうですかね?
我々にとっては見慣れた光景なのだが、とバシリオは思っていた。
「実も葉っぱも余すところなく使うんですねー」
王が龍美の前に歩み出て言った。
「それも儀式の準備の一環か」
みなが慌てて畏ろうとしたので、王は手でそれを止める。
みな頭を下げ、黙って調理に戻った。
「いえちょっとした息抜きです」
と龍美は笑う。
「できましたよ、焼きバナナ」
年配の女の調理人が平らな鍋で焼いていた飴色のバナナを大きな葉っぱで包み、龍美に渡す。
「わあ、ありがとうございます。
あの、この香辛料つけてもいいですか?
シナモンみたいな香りの……
シナモンかな」
「いいよ、お食べ」
聖女というより、近所の子に話しかけるようにみんな話しかけている。
「うん、美味しいっ。
ありがとうございますっ。
あ、王様たちもどうですか?」
と龍美が振り向いた。
「焼きたて美味しいですよ」
いや、毒味! とバシリオが思ったとき、龍美が言った。
「私、毒味に食べますね」
ともう一本のバナナを少し折ってかじる。
「はい、王様」
と龍美はアンヘルにバナナを差し出した。
「いや、そんなすぐに食べたら、毒味の意味がな……」
王はまだ龍美の手にあるそれを一口口にした。
「うむ。
美味いな……。
作りたてだとこんなに美味いのだな」
「今度から目の前で調理してもらってもいいかもしれないですね。
あ、さっきいただいたこっちの果物も半分いかがですか?」
「……もらおうか」
王が素直だ……。
そういえば、さっき、この娘があの方に似ているとか言っていたな。
まさか、王はこの娘に好意を抱いているとか?
「うむ。
美味い。
そっちももらおうか」
「は、はい、王様っ」
と調理中だった調理人たちが駆け回りはじめる。
……単に出来立ての食べ物に好意を抱いているだけかもしれないが。




