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最強暗殺者、聖女に詰められ短足猫になる  作者:
第2部-焔牙騎士滅亡
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滅亡-2.罪状認否

「さて、時間がありません。順番にあなたたちの罪状を読み上げます。まずはそこの、槌を構えている方。レイさん、それと大鎌のオルさんでしたか?」


ルンは、死神の鎌よりも鋭い書類の束をめくった。


「――罪状一、不当な魔力による都市施設の損壊。罪状二、爆発音による近隣住民の睡眠妨害および聴覚障害の誘発。罪状三、無許可での大規模解体。……特に罪状二は深刻です。あなたの放つ騒音のせいで、近隣の赤ん坊が342人、夜泣きを始めたというデータがあります。……教育上、極めて有害です」


「睡眠妨害!? そいつは濡れ衣だ! 世間じゃあ、あの日はひどい嵐で、屋敷に雷がバンバン、一か所に落ちた現象が起きたって噂になってるじゃねえか。自然災害だよ、自然災害!」


「レイの言う通りだ、あんときは土石流災害も出てただろうが!俺たちにできるわけがないぞ!」


「私の前で自然現象のせいにするのは、物理法則に対する侮辱です」


ルンさんは眼鏡のブリッジを指先で叩き、冷徹に告げた。


「落雷の電圧、および電流の指向性が、あなたの魔力波長と100%一致しています。気象庁のデータによれば、当日の積乱雲の密度では、あのようなピンポイントの放電は不可能です。……言い逃れは、あなたの知能指数の低さを露呈するだけですよ」


レイの戦槌が、床に落ちた。


世界を滅ぼす破壊の力。彼が誇ってきた「轟く閃電」が、ただの「近所迷惑な騒音」として定義され、断罪されていく。


「オルさん、あなたもですよ。土石流の知識すらも知らないとは勉強不足ですね。どうやって起きるというんです?」


オルも地面に膝をついてしまう。


続いて、ルンさんの視線は石工のテラと鍛冶屋のフォコへ移る。その瞳には、路傍の石ころを見るような無関心さが宿っていた。


「次にテラ、フォコ。半年前の要塞都市解体時、不必要な地脈の振動を発生させ、結果として大規模な延焼を誘発しました。都市機能の一時停止に伴う経済損失は、国家予算の0.5%に相当します」


「何を言ってやがる!」

テラが身を乗り出し、岩のような拳を机に叩きつけた。

「あの件は確かに俺たちがやったさ! だが、その後俺たちは『表の顔』の解体屋として、一銭も取らずに修復を手伝いに行ったんだぞ! 街の奴らには泣いて感謝されたんだ! 悪いことどころか、英雄扱いだ!」


「マッチポンプという言葉を知りませんか?」

ルンさんの声が、さらに一段、温度を下げた。

「自分で壊し、自分で直す……。それは人道支援ではなく、単なる『器物損壊および自作自演罪』です。あなたがたが享受した『感謝』は、被害者の無知に付け込んだ詐欺的快楽に過ぎません。……法的観点から見れば、あなたがたは感謝されるべき英雄ではなく、片付けの面倒を強いた粗大ゴミと同じです」


「粗大……ゴミ……だと……?」

誇り高き職人でもあった二人の顔から、一気に血の気が引いた。自分たちの矜持が、ルンさんの口を通すと「自作自演の迷惑行為」という最低の犯罪に塗り替えられていく。


ルンさんは、まるで事務作業をこなすように、次なる調書を流れるような動作でめくった。


「シロ、セコ。あなたたちは先月の砂漠都市での活動時、気圧操作と水分吸収による広域環境改変を行いましたね」


「ハッ、あんな不毛な土地の環境を少しいじって、誰が困るってんだよ! 影響なんてゼロだ、ゼロ!」

風車職人のシロが吐き捨てるが、ルンさんの視線は射抜くような鋭さを増した。


「影響ゼロ? 傲慢ですね。カオス理論を学び直してはいかがです? あなたたちが気圧を弄んだせいで、翌日の気象予測モデルに0.2%の誤差が生じました。その結果、周辺の漁村の漁師たちが網を出す時間を一分遅らせたのです。……わかりますか? 彼らの人生の貴重な一分間を、あなたたちが奪った。これは全人類の労働時間を不当に毀損した『全世界的生産性阻害罪』に該当します」


「たかが一分ごときで、何屁理屈を言ってんだオメェ」


「我々を舐めているのか」


「法とは、その重箱の隅に宿るものです。あなたたちが無視したその『一分』の積み重ねが、世界の秩序を崩壊させるのです。彼らの『一分』の重みを舐め腐っているのはそこの二人です。」


最後に、氷彫刻家のネヴェと調剤師のペセに、冷徹な審判の光が当てられた。


「そしてネヴェ、ペセ。美しい氷塊と毒霧……。それを芸術的だとでも思いましたか? 公共の場における無許可の路上パフォーマンス、および劇物乱用による公共汚染です」


「この女……! 私たちの『毒』が、どれだけの腐敗した貴族を浄化し、民衆を救ったと思ってるの!?」

ペセが懐の毒瓶を握りしめるが、ルンさんの圧倒的な威圧感――「魂の絶対優位」の前に、指先が凍りついたように動かない。


「浄化? 勘違いも甚だしい。それは保健所と行政、および司法の仕事です。医学的根拠も法的権限もない無免許の素人が、殺菌消毒のつもりで毒を撒く。それは救済ではなく、ただの不法投棄です。……あなたがたの行為は、社会という清潔な部屋に、土足で泥を持ち込む行為と何ら変わりません」


「泥……? 私たちが……泥だっていうの……?」

美しい氷の魔術を誇ったネヴェが、その場に力なく膝をついた。


ティルは、その光景をただ呆然と見守ることしかできなかった。

焔牙騎士(フレイム・ファング)』。かつて戦場を蹂躙し、国家の軍隊すら壊滅させた最強の集団が、暴力ではなく「社会的な正論」と「事務的な宣告」によって、一人、また一人と精神を解体されていく。


「……野郎ども、構えろ。この女、噂のアイリスって女と同じ……いや、それ以上に『話が通じねえ』」


ティルが、最後の力を振り絞って大刀『大虎徹』を抜こうとした。

しかし、その重い刀身が鞘から一寸わずかも動かない。ルンさんが、冷たく眼鏡をクイと上げたからだ。


「……抵抗ですか? それは『公務執行妨害罪』の追加を意味しますが。よろしいのですね?」


最強の虎の咆哮さえも、ルンさんの手にある「六法全書」の理不尽なまでの重みに、完全に飲み込まれようとしていた。

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