再会-震える虎と丸い狼
平和そのものの午後。公園の芝生の上で、僕は自分の置かれた境遇を呪うことも忘れ、日差しの温かさに微睡んでいた。
今の僕は、銀髪の死神ではない。アイリス姉さんに「ルウちゃん」と呼ばれ、鈴のついた赤いリボンを首に巻かれた、体重わずか数キロのマンチカンだ。
だが、その平穏は、聞き覚えのある「音」によって破られた。
――カツ、カツ、カツ。
規則正しく、一切の迷いがない鋭いヒールの音。その足音が近づくにつれ、公園の騒がしさが潮が引くように静まり返っていく。本能が、かつての「最悪の終焉」としてのセンサーが、最大級の警戒を告げた。
「にゃ……?(この威圧感……アイリス姉さんに匹敵する、氷のような『理』の気配……!)」
その人物が引くリードの先には……。
真っ赤なリボンを首に巻き、自身のアイデンティティであるはずの「虎のような咆哮」を出そうとして、「キャン! キャンキャン!」と、震える甲高い声を上げる、茶褐色の小さなチワワの姿があった。
白地に赤の斑点。クリクリとした大きな瞳。そして、生まれたての子鹿のようにプルプルと小刻みに震える、小さな小さな、あまりに小さな茶褐色の塊。
「キャン……! キャンキャン!!(おい、久しぶりだな、銀髪の便利屋! てめえ、その短い足は何だ! 笑わせるんじゃねえぞ!)」
「(……ティル、その無様に震える足はどうした。そっちこそ笑わせるなよ、猛虎が聞いて呆れるぞ。)」
……間違いない。
声は高いが、その傲慢なまでの口の利き方、魂の波長。
かつて三日三晩、僕と死闘を繰り広げた「轟く赤雷」こと、ティルその人だ。
「あら、ルン! 久しぶりね。その子が例の?」
アイリス姉さんが、ふわりと花が咲くような微笑みを浮かべて手を振る。するとルンさんは、眼鏡のブリッジをクイと押し上げ、事務的な、しかしどこか慈しむような視線をバッグの中へ落とした。
「ええ、アイリス。この子がティルよ。少しばかり『破壊衝動』が強すぎたので、今は私のバッグの中で、社会の規律というものを骨身に刻ませているところよ。……先ほども、鳩を追いかけようとして公道での速度超過を試みたので、厳重注意をしたところです」
「まあ、元気な子ね。うちのルウくんは、すっかりおとなしくなっちゃって。ほら、ルウくん、お友達よ。ご挨拶して?」
アイリス姉さんの「聖母の狂気」と、ルンさんの「鉄の狂気(冷徹)」。
二人の「最強の飼い主」が並び立った瞬間、公園の空間密度が跳ね上がり、近くの噴水の水が圧力で一瞬止まったように見えた。僕とティルは、その絶対的な支配者たちの足元で、ただの「可愛い愛玩動物」として振る舞うことしか許されなかった。




