赤雷-破壊の化身
アイリスに抱かれ、喉を鳴らしながら、僕は薄れゆく意識の中でかつての「戦友」を思い出していた。
僕たちには、表の世界でも奇妙な縁があった。
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彼と初めて出会い、刃を交えたのは、四年前の凍てつく冬の夜だった。
標的は、飢饉に乗じて私腹を肥やし、数千人の領民を餓死させた腐敗の大商人。
僕は裏口から隠密に潜入し、護衛を一人ずつ眠らせていた。だが、その瞬間——。
「ドォォォォォォン!!」
正門が、まるで巨大な隕石が衝突したかのような轟音と共に消滅した。
舞い上がる煙の中から、紅蓮の闘気を纏った巨漢が姿を現した。
「どけ。その外道は俺が食う。お前もあのカスを護衛しに来た犬か?」
ティルが肩に担いだ大刀から、パチパチと赤い火花が散る。その眼圧だけで、周囲の私兵たちは失禁し、腰を抜かした。
「……勘違いするな。俺はこのゲスを粛清しに来ただけだ。お前こそ、派手に暴れすぎて標的に逃げられたらどうするつもりだ?」
「逃がすかよ。俺の咆哮が聞こえた時点で、あいつの心臓は半分止まってんだ。……へっ、仕事が被ったってわけか。なら、どっちが先にあのデブの首を獲るか勝負だ!」
その夜、大商人の館は、僕の「神速」と彼の「絶対破壊」による凄惨な競技場と化した。
競い合うように私兵を殲滅し、逃げ惑う商人を追い詰める。
結局、最後の一撃は同時に決まった。僕が喉を貫き、彼が胴を両断した。
「気に入ったぜ、銀髪。お前、ルウっつったな? 今日のところは引き分けだ。……だが次はねえぞ」
雪の降る月夜、僕たちは互いの得物を鞘に収め、拳を合わせた。
この夜から、僕たちは「444人リスト」の筆頭候補として、闇の世界で恐れられる双璧となったのだ。
僕の率いる『白爪』が、音もなく標的の心臓を射抜く「外科手術」なら、ティルが率いる『焔牙騎士』は、悪そのものを根こそぎ吹き飛ばす「天災」だった。
ティルは伝説の破壊者「轟く赤雷」。
彼が愛刀『大虎徹』を抜けば、夜の静寂は雷鳴のような爆音にかき消される。悪徳領主が贅を尽くした居城も、鉄壁を誇る騎士団も、彼の前では紙細工に等しい。
一振りで空間を焼き、二振りで大地を割る。彼が通った後には瓦礫と灰しか残らない。
僕は、時速400kmの世界で静かに踊り、彼は紅蓮の劫火の中で全てを粉砕する。
「弱者のための正義」を標榜しながら、僕たちは異なる地獄を歩んでいた。
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その数週間後、僕は彼の表の顔を初めて見ることになる。これが本来のティルの素の性格だ。
「まさか、お前も表の顔があったとは......」
「よおルウ! この建物の解体、俺がさっさと終わらせてやるからよ。お前は後の片付けと、住人の引っ越し先の手配を頼むぜ!あのときの借りはこの復旧作業で返してやる!」
かつての昼下がり、埃舞う工事現場で豪快に笑っていたのは、解体屋のティルさんだ。188センチの巨躯に鋼の筋肉。彼が巨大なハンマーを一振りすれば、老朽化した廃屋は鮮やかに崩れ去る。
僕はその横で、便利屋として住人の荷物を運び出し、新しい住居の契約書を整えていた。
「助かる、ティル。君のパワーがあれば仕事が早い。子供たちも、君の豪快な仕事を見るのが大好きみたいだ」
「ガッハハ! そうかよ。なら、もっとド派手に壊してやらあ!」
僕たちは単なる仕事仲間以上の「共犯者」でもあった。
ティルが壊した建物の跡地には、必ずといっていいほど、行き場を失った元農奴や貧困層のための公共施設が建つ。彼が「解体」で得た報酬のほとんどが、名もなき弱者たちの自立支援に消えていることを、僕は知っていた。僕もまた、便利屋の依頼料を装って、病の娘を持つ母親にこっそり薬代を融通していた。
僕たちは、光の当たる場所では「善良な市民」として、社会の綻びを繕う協力者だった。




