次の運命が出来るまでの呪い
だが、リカオン、お前は最初と変わらない。
全てを救おうと考えている眼差しだ。必死でどうしたらロワが戻ってくるのか、思案しているのが判る。
リカオンは、誰よりも、「主人公の風格」を持っていた。
オレのように偽物じゃない、信念を。
(そうだ、お前は本物なんだ……本物のヒーローなんだ……リカオン)
――……っはは、まだ、まだお前は物語を変えようと気力があるのか、リカオン。
あれだけ嫌になるほど、時間を巡ったというのに、ようやくエンドが見えても納得しないのか。
妥協しないのか。
面白い、ならばその話、オレも乗った。
今度こそ、上辺のかっこつけではなく、本音でロワと接したい。
「貴方たちに絆はなかったの」
少女が姿を現す――黒いワンピースに、金色のロングヘアーの少女。その瞬間、物語に新しい名前がついた。
後悔をするより、罪を償いロワを取り戻せと心がざわつく。
ロワ、これが挫折か? これが挫折からの、立ち直るという人間の強みか?
オレは、お前に疲れたと告げてから、一気に体が軽くなって心も安らいだ。
けれど、お前の喪失感だけは絶対あってはならないと思ったんだ。
今度は疲れたからやめるなんて、言わない。
「何も言い訳はしない」
煽れ。
煽れば、きっとこいつは乗ってくる。
少女にとって、ロワは欠かせないんだ、なぜだかは知らないけれど。
オレは、ロワを取り戻す為に、今度こそ心を折らない誓いを立てて、もう一度呟いた。
一陣の風がざわっと黒い木々を揺らし、オレの前髪を荒れさせるので、目を細めた。
「何も言い訳はしない」
少女が嗤ったから、嗚呼、ロワは生き返るんだろうなと予想がついた。
この少女ならば、人の運命を変えるのさえ食事するように簡単なんだと。
さァさァ、もう一度みんなで、踊りましょう演じましょう。
きっと始まる素敵なストーリィ。
次に捲るのは、違う絵本。さぁ次の主人公は、だァれ?
少女の傍に、大きな白ウサギが現れる――嗚呼、嗚呼。
これから起承転結の起が始まるんだと実感する。
ならばオレは、「頼」が存在する物語に徹しよう。
オレがいなくても、代わりに子孫に伝えていこう――どれだけ時間がかかっても、オレの無念を晴らしてくれと。
いつか、子孫がロワという存在を見つけ出して、ロワの厚意が報われる日がきて欲しい。
オレは、愚かにもまたしても、選択肢を誤ったのだと、このときには気づかなかった……ただ、物語は始まって、ヨダカのオレの物語は終わっていた。
ウルドがオレで、ヴェルダンディがリカオンで、スクルドがロワになる呪いは終わっていた。
もうオレ達には何も物語はない――物語がない世界にロワはこない。
(物語を新しく作るには……)
考えろ、全力で。何のために、脳みそがある? 拗ねるためじゃないだろう?
オレの理想はできたが、誰かが聞けば誰かと喧嘩になるだろう理想だった。
オレは最後まで、生きてるだけで害悪になる、純粋悪だ――。
そんなオレでも、ロワだけは許してくれたから……今度はオレがロワを救いたい。
悪だから、どうした。屋敷自体も悪なんだ、悪に向かって悪が対抗して何がおかしい?
綺麗事だけじゃ生きていけない、綺麗事だけの人間はどう見ても不自然だ。
とても嫌みな奴である――と、オレはもう判ったんだ。
「何も」
言い訳できるほどの正義は、オレにはもうない。
理想には正義なんて関係しない。
オレの中にできた理想が悪なのは、判ってはいるが願わずにはいられなかった。
この五人でずっと仲良くしたいという、寂しがりの願い。
五人一緒にいられる理想を、持ち続けよう……ロワが帰ってきたら、何をしよう?
皆で、色んな話をしたいし、ああ食事もいいな。
ご馳走を皆で食べて、笑い合う未来が欲しい――それがオレの理想だ。
呪いをかけよう、次のウルド・ヴェルダンディ・スクルドが存在する呪い。
もう二度とオレは、ウルドにはなれないが、物語を続ける血筋があれば……もしかしたら幸せに暮らせるかもしれない。今度こそロワや皆と。
ウルド・ヴェルダンディ・スクルドさえいれば、時間を遡ったり未来へ行ける――。
何度でも繰り返せる――ロワが現れるまで繰り返せる。
ロワ、お前が終わらせてくれた物語だったが、お前がいないままは駄目だ。
だからオレは呪いをかけるよ。長期的計画の呪いを。
早く叶えたい――オレはシリアスに進む展開の中、想像する未来にわくわくして、皆の前で笑いを堪えて、呪いを掛けた。
夜が明ける――大晦日が終わり、元旦へと日付が変わる。
たった一日が過ぎるまでの道のりだというのに、その一日はえらく永く感じて、朝焼けの眩しさに目を細めた。
終焉と始まりの予感が到来する――。
ただ、オレはもう一度あの子兎に会いたかった。
あの子兎が「幸せだ」と笑う顔が見たかったし、「さようなら」をきちんとした場で伝えたかった――。
今まで、特別に誰かを救おうなんて考えなかった。
皆を平等に救おうとしていた、五人という形が好きだった、決して崩れないでいてほしい形だと思っていた。
でも、それは逆を言うと、リカオンも、若葉も、シンも、ロワも今まで大事にしていない証明でもある。
オレにとって、唯一が生まれた――唯一が生まれた瞬間に、オレは他の人を捨てた。
全てを選ばなくなった悲しみを弔おう。
たった一人を選ぶ喜びを祝おう。
――もしも、過去に戻れるならば、何を望む?
――もしも、未来を知っているなら、何を知りたい?
――もしも、現在が選択肢の分かれ目だと自覚できたら、どの選択肢を選ぶ?
過去に戻れるなら、過ちをなくしたい。
未来を知れるなら、それは死ぬほど退屈だ。
現在が選択肢の分かれ目だとしたら――? いつだって、どんな瞬間だって、何かを選択しなければ何も起きない。
悲しみも、安らぎも――怒りでさえ起きない。
だって、オレは……選択をし続けなかったのだから。
だから、今、この瞬間選択する。
ロワがいる未来を作る為の、奇跡を起こそうと。
少女の合図で意識が途絶える瞬間、目の端に、オレとよく似た顔の少年と、黒髪の少女が映った。
オレに挑んでるのに泣きそうな眼と視線が交わった、表情に怒りが宿る少年にオレは笑いそうになった。
オレを、憎んでいる。あの眼は、オレを憎んでいる。
あの子が次の「読者」だ。オレがもう戻れない役目。
どうしてあの子か理由をオレは知っている、オレの想像通りに事が運んだのなら、その結果のあの憎しみだ。
(ほら、やっぱり選択すれば、未来は変わる――新たな〝物語〟が生まれたんだ)
新しい読者――オレの子孫よ。ようこそ、物語の海原へ。
君の戦いは、これから始まるんだろう。オレの選んだ最悪な選択によって。
読者の戦いは、さぁこれから。
己の持つ物語のために、戦え。
幕間、これで終わりです。次からはロワ編です。




