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終章‐1

 後から聞いたところによると、アリーセ=フィアリス軍曹の超弩級魔装砲による砲撃は、海賊船タビー・トリスがちょうど反転したところに命中したらしい。その砲撃で主推進機関を損傷したタビー・トリスは、こちらも主推進機関を損傷していた軽巡洋艦ディートガルトと、見様によっては間抜けな鈍重な追い掛けっこを繰り広げた挙句に、ようやく拿捕された。ともあれ、これでタビー・トリス所属の海賊は残らず捕縛したことになる。

 試作兵器である超弩級魔装砲が増幅した魔力の過負荷(オーバーロード)によって爆発し、アリーセが負傷した件について、アッシュとエリカ=デ・ラ・メア=ブラウスパーダ少尉が、本作戦の指揮官であるハンナ=シュタウフェンベルク大尉に抗議したのだが、驚いたことにハンナは、テストも十分でない試作兵器を使った作戦に非があったことを認め、謝罪した。大尉が軍曹に頭を下げたのだ。アリーセは恐縮し過ぎてパニック寸前になってしまった。

 そうして、連絡して呼び付けた海軍第七艦隊所属の艦艇に、救出した豪華客船マリクレール=アントワーヌの護衛と諸々の後始末、及び拿捕した海賊船タビー・トリスの処理を押し付けて、軽巡洋艦ディートガルトの陸軍第六辺境警備師団第二連隊第一大隊の各小隊は帰還することにする。彼らは陸軍、それぞれ任地の惑星があり、それを留守にしてきているのだ。あまり長く空けておくわけにはいかない。今回の事件については、陸軍と海軍、それぞれの上層部の手柄の取り合いでまた揉めるのだろうが、それは彼ら現場の人間には気にしても仕方のないことだ。唯一、中間管理職である大隊長のハンナにとっては頭の痛い問題かもしれないが。

 エリカたち第八小隊は往きと同じように、気障な優男、フランツ=ロイター少尉の操縦する大型バスのような大気圏内往還船(シャトル)に乗って、彼女たちの任地であるアッシュの星へと送ってもらうことになった。昨日、この艦に来たときに着艦した格納庫に向かい、大気圏内往還船(シャトル)に乗り込む。またエリカが操縦席のすぐ後ろの座席に、アリーセとサーニャ=ストラビニスカヤ伍長が一番後ろの座席に座った。サーニャは大怪我を治療したばかりのアリーセのことが心配なようで、ぴったりと付き添っている。いつも仲のいい二人だが、今はいつも以上だ。最後に、チッピィを連れたアッシュが乗り込む。それを見て、フランツが頬を引きつらせた。

「あー、あの准尉の件については、大人気なかったと思っている。だから、その毛むくじゃらの生き物を近付けないでくれないか」

 アッシュは苦笑する。

「ああ。もうこっちも腹は立ててねぇよ。安心しな。――それより、うちの星のエリカたちの駐留基地のある辺りに着くのって、何時頃になる?」

「うん? そうだね……。現地時間で夜明け前ぐらいじゃないかな」

「夜明け前か……」

 フランツの答に、アッシュは顔をしかめる。明日は月曜日。学校があるのだ。これは、徹夜で登校しなくてはならないかもしれない。

「それが、どうかしたかい?」

「いや、なんでもない。こっちの話だ」

 気軽に聞いてくるフランツに手を振って、適当な座席に着席した。

 窓の外には、見送りに来てくれた第七小隊の皆が並んでいる。小隊長、ジゼル=アンリエット=シャンティエ少尉が、窓の中のアッシュに手を差し伸べんばかりにして言った。

「あぁ……、暫しのお別れね、ダーリン。愛し合う二人を引き裂くなんて、運命ってなんて残酷なの」

「誰が愛し合ってんだ……。あと、ダーリンって言うの止めろ」

 アッシュが突っ込む。しかし、ジゼルは聞いていない。

「きっと会いに行くわね。――うぅん。むしろ、ダーリンがあたしの任地に会いに来てくれてもいいわ」

 彼女の任地は、当然、先日訪れた彼女らの本星とは違う。アッシュの星とはまた別の辺境の未開惑星のはずだ。そんな違う星を見に行くのはちょっと楽しそうだな、などと思ってしまったアッシュは、ついこう答えてしまった。

「それはいいな。出来たら遊びに行きたいよ」

 それを聞いてジゼルが目を輝かせる。

「ホントに!? きっとよ!? 絶対だからね!?」

 しまった、と思うが、もう遅い。アッシュは頬を引きつらせて、頷くしかない。

「あ、ああ。いつかそのうち、機会があったらな」

「うん。約束!」

 ジゼルは本当に嬉しそうだ。それを無碍に扱うのが忍びなくなってしまい、アッシュは少し優しげな笑顔を浮かべた。

「ああ。また会おうな」

「絶対、近いうちにね。うちの両親に挨拶に行く日取りとか、決めないとならないし」

 もう、アッシュは苦笑するしかない。

 小隊副官のマーク=ラピッドファイア准尉が、いかにも好青年という笑みを浮かべて、ジゼルの隣で言う。

「えぇ。是非遊びに来て下さい。歓迎しますよ」

 彼にまでこう言われてしまっては、もう断れない。アッシュは苦笑気味に頷いた。

「ああ、それじゃ、ホントにそのうちお邪魔するかもな」

「はい。お待ちしています。今回は、お世話になりました。また、いずれ」

「ああ、またな」

 次に、クラリッサ=ファインマン曹長が顔を出す。

「今回は、賑やかで楽しかったわ。ありがとね。それと、ジゼルのことをよろしく」

 アッシュは少し疑問に思ったので、小声で聞いてみた。

「なぁ、クラリッサは、ジゼルが俺とくっついてもいいのか? あんた、ジゼルのこと好きなんだろ?」

「勿論、ジゼルのことは大好きよ。ジゼルの幸せがあたしの幸せだわ。だから、あなたとくっついてジゼルが幸せになれるんなら、大歓迎だけど?」

 どうやら彼女のジゼル好きは、百合的なものではなく、もっと広義のものだったらしい。勘違いしていた。

(それにしては、この姉さん、百合っぽい言動が多いんだよなぁ)

 などと思うが、さすがに口には出さない。

「そっか。まぁ、ジゼルのことは……、その、なんだ、一応考えておくよ。じゃあ、またな」

「えぇ。またね」

 と、クラリッサは一歩下がって、グェン=ヴァン・クォン軍曹に場所を譲る。

「ホントにそのうち遊びに来てくれよなー。魔法の自作の話とかしたいしさー」

「ああ。俺も、おまえにはハッキングテクニックとか聞きたいことは山ほどあるよ。またな」

「おう、また」

 最後にカテジナ=ペトラ=ビェルカ兵長が、おずおずと窓辺に寄ってきた。

「せ、先生、また、いろいろ、教えて下さい」

「おう。また次の機会にな。一人でもちゃんと練習するんだぞ」

「は、はい。が、頑張ります」

 カテジナはアッシュの言葉に素直に頷く。

 操縦席からフランツが声を掛けてきた。

「お別れは済んだかい? そろそろ出発を――、失礼致しました、大隊長殿。彼らになにか御用でしょうか?」

 フランツの緊張した言葉に、窓から顔を出してみる。すると、大隊長のハンナが大隊副官のセラフィーナ=カルティアイネン中尉を伴って、格納庫に入ってきたところだった。慌ててエリカたちが立ち上がって敬礼しようとする。ハンナは手を振って、それを押し留めた。

「構わん。楽にしていろ」

 その言葉に一同が緊張を解く。ハンナはアッシュが座る座席の窓まで歩み寄ると、声を掛けてきた。

「自分はこう見えて、案外、生意気な口を利く若造が嫌いではない。勿論、口先だけでないやつに限るがな」

 いきなりそんなことを言う。なにが言いたいのか、と不思議に思っていると、ハンナは驚くべきことを言い出した。

「貴様、正式に我が軍に入隊するつもりはないか?」

「は?」

 思わずアッシュは聞き返してしまう。ハンナは言い直した。

「現地協力員でなく、正式な陸軍軍人にならんか?と聞いているのだ」

「いや、軍人って……。悪いけど、無理だよ。学校もあるし。……まぁ、卒業して就職に失敗でもしたら、そのときは考えてもいいけどな」

 ふざけて、そんなことを言ってみるが、ハンナの顔は真剣だ。

「む。そうか。貴様は学生か。では、勉学に励め。勿論、気が変わったら、いつでも自分に連絡してこい。便宜を図ってやる」

 そこまで言われてしまっては、こちらとしても真面目に応対せざるを得ない。

「ああ。わかったよ。頭に留めておく」

「私からも、お願いします。一度、真剣に考えてみて下さい」

 セラフィーナまでがそんなことを言うので、アッシュは気恥ずかしくなった。

「なんだよ、二人して。陸軍ってのは、そんなに人手不足なのか?」

「有象無象はいらん。欲しいのは精鋭だ」

 ハンナは相変わらず、至って真剣な顔付きだ。そこでふと、なにかに気付いたような表情になった。

「む。そういえば、まだ礼を言っていなかったな。――今回は貴君の協力に感謝する」

 そう言って、ハンナは敬礼する。その手を下ろすと、別れの挨拶を口にした。

「また有事には協力してもらうことがあるかもしれん。そのときにはよろしく頼む。それではな、『灰かぶり』のアッシュ」

 アッシュはその言葉に応じる。

「ああ。またなんかあったら呼んでくれ。手伝いにくるよ。またな、『鉄雷』のハンナ」

 その言葉を聞いて、ハンナは愉快そうに大笑した。誰もが恐れて、陰でしか囁かれないその二つ名を正面から言われたのは、実に久しぶりだったのだ。

 彼女がなにを笑っているのかわからないアッシュは、不思議そうな顔になる。ハンナは、それには構わず、フランツに命じた。

「ロイター少尉。送迎任務に出発しろ」

「アイアイ・マム」

 見送りの一同が全て格納庫の外に退避し、通路の隔壁が閉じられるのを確認してから、フランツは大気圏内往還船(シャトル)を発艦させる。目的地は、アッシュの住む青い惑星だ。

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