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第六章‐3

 船橋内でこの船の航行システムの乗っ取りを仕掛けていたらしい五人ほどの海賊は、雪崩れ込んできた第七、第八小隊の面々によって、あっという間に捕縛される。

 この船橋にいたということは、おそらく彼らが海賊のリーダー格なのだろう。そう思って、アッシュは捕縛した彼らを観察してみた。

 ――ドクロの付いた海賊帽もかぶっていないし、顔に大きな傷跡があるわけでもない。鉤状の義手でもなければ、棒の義足でもなかった。勿論、麦藁帽子もかぶってはいない。

 なんだか、色々なイメージが混じってしまっている気もするが、想像していた『海賊』とはかけ離れていた。一言で言うと、ただのそこらのごろつきに見える。

「だから、はーろっくみたいなかっこいいのじゃないよぉ、って言ったでしょぉ?」

 軽く落胆していると、いきなり後ろからアリーセが、そう声を掛けてきた。

「うぉ! だから、どうして俺の考えてることがわかるんだよ!?」

 アッシュは驚いて飛び退く。アリーセは、にははと笑った。

(……エスパー?)

 魔法使いがいる異星だ。超能力者がいても不思議はないような気がしてしまう。

(アッシュ、遊んだ?)

 頭の中に念話の声が響いた。チッピィの声だ。どうやら、この船橋にいた海賊のいずれかが魔法使いで、妨害魔法(ジャミング)を仕掛けていたのが、意識を失ったので解除されたのだろう。

(チッピィ、一緒、遊ぶ!)

 チッピィには、彼らが遊んでいたように見えるらしい。アッシュは軽く溜め息を漏らした。

「おまえは気楽でいいな」

(気楽、なに?)

「いや……。遊ぶのはもう少し後でな。まだ仕事中だ」

(わかった、アッシュ)

 念話通信が復活したので、早速エリカもハンナに念話で報告しているようだ。

「船橋の制圧、完了致しました」

(む。では、検分に向かおう)

「イエス・マム」

 念話を切って、エリカはジゼルに向き直った。

「船橋に先に入った小隊の勝ちという今回の勝負は、私たちの勝ちですね。最初に船橋に入ったのは、私たちの小隊のアッシュですから」

 それを聞いて、ジゼルが頬を膨らませる。

「ダーリンが最初に入ったんだから、妻であるあたしの勝ちでしょ」

 エリカとジゼルの視線が火花を散らした。二人同時に、アッシュを見る。

「アッシュ、どうなんですか!?」

「あたしの勝ちよね、ダーリン!?」

 二人に詰め寄られ、思わず一歩下がってしまった。すると、彼女たちは二歩前に出てくる。

(うわぁ! どうすればいいんだ!?)

「じゃ、じゃあ、今回は引き分けってことで――」

「それで、納得するとお思いですか!?」

「ダーリンは、どっちの味方なの!?」

 二人がさらに詰め寄ってくる。気圧されたアッシュもさらに下がるが、その背中がドンッと壁にぶつかった。もう逃げ場はない。

 どうするべきかと必死で考えていると、また頭の中に声が響いてきた。

(お。やっと繋がるようになったみてぇだな。妨害魔法(ジャミング)を解除出来たか)

 軽薄そうな男の声だ。アッシュは、救いの手、とばかりにそれに飛び付いた。

「悪い。念話だ」

「そうですか……。仕方ありませんね」

「もう!」

 不満そうに言う二人に背を向けて壁のほうを向くと、アッシュは念話に意識を傾けようとする。だが、そこで疑問に思った。彼の魔法使いの知己は、ほとんどこの場に揃っている。

 ――では、この念話の主は?

「……誰だ?」

(そりゃねぇぜ。冷てぇじゃねぇか。『灰かぶり』のアッシュさんよ)

「てめぇ、ラン――っ」

 この名前を迂闊に口から出すのはまずい、と咄嗟に判断し、いったん心を落ち着ける。

(なんの用だ? 『緑風』のラングラン)

 この軽薄な喋りは、盗賊ラングラン=クレド、通称『緑風』のラングランのものに間違いなかった。ラングランが笑いを含んだような声で言う。

(覚えててくれて嬉しいぜ。――まぁ、用ってほどのことじゃねぇんだけどよ。一仕事片付けてくれた礼に、ちょいと種明かしでもしてやろうかと思ってな)

(種明かし?)

 その言葉も気になったが、何故この男が海賊退治の礼をするというのだろう。

(ああ。――このマリクレール=アントワーヌをタビー・トリスのやつらが襲撃するってタレコミがあっただろ? ありゃ、おれさまよ)

(なに!? どういうつもりで、そんな真似しやがった!?)

 ラングランのその言葉に、アッシュは声を上げそうになる。

 犯罪者同士といえども、全員が仲間というわけではあるまい。勿論、対立や抗争もあるだろう。そんなことはわかっていたが、反射的に聞いてしまった。

(わざわざ聞かなくても、わかってんじゃねぇのか? ――ちょいとタビー・トリスのやつらは、派手にやり過ぎたんだ。仕事場は海と(おか)で違うが、放っとくとこっちにまでとばっちりがきそうだったからな。そうなる前に手を打ったってわけよ)

(……やっぱり、そんなとこかよ)

(ちなみに、タビー・トリスのやつらが乗り込んできたらすぐ対処出来るように、おめぇさんらがマリクレール=アントワーヌのパーティに招待されるように仕向けてやったのも、おれさまだ。楽しんでくれたか?)

(ダンスなんか踊る羽目になったのも、てめぇのせいか!)

 アッシュは思わず頭の中で叫ぶ。ラングランが吹き出すような気配がした。

(なんだ? おめぇさん、金持ち連中に混じってダンスなんぞ踊ってたのか? そいつぁ、さぞ見物だったろうなぁ)

(うるせぇよ!)

 アッシュが頭に血を上らせるほどに、ラングランは上機嫌になっていくようだ。

(そうそう。タビー・トリスのやつらに、お宝かっさらってドロンじゃなくて船ごと乗っ取っちまえば身代金ガッポガッポだぜ、って吹き込んだのも――、おっと、これは余計だったか)

(全部、てめぇの掌の上だったってことかよ。くそっ!)

(まぁ、そう悔しがんなよ。こいつが人生経験の差ってやつだ)

 ラングランが例のにやにや笑いを浮かべているだろうということは、容易に想像出来る。

 だが、アッシュは、そこで気付いた。

(てめぇ、さっき、『この』マリクレール=アントワーヌって言ったな? まさか――)

 そもそも、念話が届く距離には限界がある。恒星間どころか、惑星間でも通信は不可能だ。それほど近くに他の艦船が、内部から外部への魔法を遮断してしまう不可視結界も張らずに停泊していたら、ディートガルトに発見されていないわけがない。

(ご名答。今、おれさまはおめぇさんと同じ船に乗ってるよ)

(やっぱりか! どこにいやがる!? いや、そこを動くんじゃねぇぞ! 船内中探して――)

(残念だな。もう間に合わねぇよ。既に格納庫の小型艇(ランチ)の中だ。お宝を満載にしてな)

(火事場泥棒かよ!?)

 アッシュは反射的に突っ込んでしまった。

(人聞き(わり)ぃな。今回、色々と骨折りしたんだぜ? ご褒美があってもいいだろ)

(いいわけあるか! てめぇ、うちの星じゃ盗みはしねぇって言っただろうが!)

(ああ。確かに、おめぇさんの星の『上』で仕事する予定はねぇって言ったな)

 自分の冗談が面白かったとでもいうかのように、ラングランが笑っている気配がする。

(てめぇ……! くそっ! そこ、動くな! 今すぐ――)

(おっと、残念ながら時間切れだ。迎えが来ちまう。それと別れの挨拶代わりに教えといてやるが、タビー・トリスに残ってたやつらが、もうそろそろ逃げ出す頃じゃねぇか?)

(なんだと!?)

 そのとき、船橋で現場検証をしていた第一小隊の隊員の一人が、計器を見て声を上げた。

「当船の第五格納庫が開いています! そこから小型艇(ランチ)が一機、発進しました!」

「む!? 海賊の一味が逃げたか!?」

 その場で検分をしていたハンナが、大音声で反応する。そこへ、さらに別の計器を見ていたドミトリーの声が掛かった。

「当船の左舷近傍に時空震! ――航宙船が転移してきました! 中型の貨物船だと思われます! こんな近くに跳んでくるなんて、危険な真似しやがって……!」

「むぅっ! 次から次へと……! なんだと言うのだ! 海賊共の仲間か!?」

 ハンナが獰猛に唸る。

「第五格納庫から発進した小型艇(ランチ)が、貨物船に収容された模様! 貨物船の前方に『(ポータル)』が発現! この船との間の安全距離も取らずに、また転移航法に入るつもりなのか!? どこまで危険な真似をしやがるんだ、こいつは!? 転移した直後に再転移なんて、魔力炉への負荷も半端じゃないだろうに、なんて無茶を……! ――貨物船の反応、消失(ロスト)!」

「観測機器を総動員して、転移先を追跡しろ!」

 ハンナが指示するが、この船は彼らのものではない。全ての機器を円滑に運用することは出来ないだろう。

「ハンナ隊長、ディートガルトに戻ったほうが効率がいいと思います」

 セラフィーナの進言に、ハンナは頷く。

「うむ。ディートガルトに帰艦するぞ! 当船内に散っている他の小隊にも伝達しろ!」

「おい、おばさん!」

 発せられたその呼び掛けに、その場にいた全員が、ぎょっとして動きを止めた。『鉄雷』のハンナをそんな風に呼んだ者など、聞いたことがない。どれほどの雷が落ちるかと、一同は身をすくめた。しかし、当のハンナは特にどうということのない顔で振り返る。

「なんだ、民間人?」

 ハンナに呼び掛けたアッシュは、早口でまくし立てた。

「ディートガルトに戻るのには賛成だが、貨物船のほうはもう間に合わねぇ。相手は『緑風』のラングランだ。追いつかれるようなヘマはしねぇだろう」

「『緑風』のラングランだと!? 貴様、何故そんなことがわかる!?」

 ハンナが、気の弱い者なら腰を抜かしそうな大音声で問い返す。だが、アッシュもそれに怒鳴り返した。

「説明してる暇はねぇ! それより海賊船だ! 残ったやつらが逃げ出すぞ!」

 アッシュがそう言うのとほぼ同時に、二人のやりとりに気を取られていた隊員の一人が、計器の警報音(アラート)で我に返り、その計器を確認する。そして、すぐに慌てた声を上げた。

「接舷していた海賊船タビー・トリスが、当船から離れていきます!」

 それを聞いて、アッシュは舌打ちをする。間に合わなかった。

 ハンナが怒鳴る。

「貴様に対する詰問は後回しだ! 総員、至急、ディートガルトに帰艦せよ!」

「アイアイ・マム!」

 その場にいる全員が、駆け足で船橋を飛び出した。

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