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第四章‐3

 軽巡洋艦ディートガルトの艦橋内に、警報(アラート)が鳴り響く。

「出たか」

 陸軍第六辺境警備師団第二連隊第一大隊の大隊長にして、この艦の艦長であるハンナ=シュタウフェンベルク大尉は、艦長席に深く腰掛けて、その前の操作卓(コンソール)に両肘を突き、両手を口元で組んだポーズのまま呟いた。護衛任務でマリクレール=アントワーヌに移乗している隊員が多い為、空席の目立つ艦橋内を見渡す。だが、このままでも、最低限の航行、戦闘には支障はないはずだ。勿論、そのように人員の配置を調整してある。

「艦種識別、ドラッヘン級駆逐艦。――ただし、かなりの改造の跡が見られます」

「タビー・トリスに間違いないようだな」

 ハンナは、情報解析担当の部下の報告に頷いた。

「位置は?」

「本艦とはマリクレール=アントワーヌを挟んで逆側になる、マリクレール=アントワーヌの直下です。――なんだ、この距離は!? 接触するほどの近さです! タビー・トリス、マリクレール=アントワーヌに接舷します! ――いえ、接舷しました!」

「なんだと!?」

 ハンナは、艦長席から勢いよく立ち上がった。観測(レーダー)手席に着いた部下を、雷鳴のような大音声で怒鳴りつける。

「そんなところに接近されるまで、何故気付かなかった!? 当直の周辺監視は、居眠りでもしていたのか!? 不可視結界で艦の魔法的観測による早期警戒システムが使えんのだ! 光学的機械的観測を密に行えと命じてあっただろうが!」

「イエス・マム! しかし、観測機器には、なんの反応も――」

 観測(レーダー)手が、困惑したように言い訳を口にした。当直の監視要員が詰めているはずの艦体各所の観測所と連絡を取っていた通信士が、振り向いて報告する。

「監視要員の話も同様で、機器には反応はなかったそうです!」

 観測(レーダー)手が、恐る恐る推論を述べた。

「どうやら、観測機器に反応しないように、なんらかの欺瞞処置が施されていたとしか考えられません……」

「ばかな! 魔法技術を使用しない純粋に光学的機械的な隠密機構(ステルス)だというのか!? そんな旧暦時代の遺物、どこから持ってきた!?」

 信じ難い部下の報告に、ハンナは獰猛に唸る。

 まるで手品のように突然現れた海賊船タビー・トリスが、なんらかの手を打つ暇もなく、護衛対象である豪華客船マリクレール=アントワーヌに接舷し、気密ハッチの一つに強引に連結してしまったのだ。敵ながら、見事な手際だと言う他ない。

「不可視結界解除!」

 ハンナが大音声で命令を下す。もはや隠れている意味はなかったし、結界内にいては外部に魔法も通らない。

「アイアイ・マム! 不可視結界解除!」

 情報解析担当の部下が彼女の命令を復唱して、隣の空席の操作卓(コンソール)に手を伸ばす。

「主魔力炉を巡航出力(クルーズ)から、すぐに戦闘出力(ミリタリー)に上げろ! 全艦砲雷撃戦用意!」

 ハンナは矢継ぎ早に指示を出した。

「全砲門、魚雷発射管開け! 目標、タビー・トリス!」

「無理です! どのように位置取りをしても、照準機器の精度の限界で、マリクレール=アントワーヌを誤射する可能性が否定出来ません!」

 ハンナの命令に、火器管制担当の部下が悲鳴を上げる。ハンナは頭からベレー帽をむしり取り、くしゃりと握り潰すと、短く刈り込んだオレンジ色の髪を掻きむしった。

「ならば、こちらもマリクレール=アントワーヌに接舷しろ! 直接乗り込んで、海賊共を駆逐する! 総員、白兵戦用意!」

「アイアイ・マム! マリクレール=アントワーヌに接舷します!」

 操舵手が慎重な操艦で、ディートガルトをマリクレール=アントワーヌに近付けていく。

「総員、白兵戦用意! 総員、白兵戦用意!」

 通信士が、緊急を告げる艦内放送を流し始めた。

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