騎士団と契約
俺は『武具錬成スキル』のことをヒドラに話した。
「――なるほど、カロンがこれを作ったと……。この刻印は本物だ。偽造なんて出来るものじゃない。たとえ偽造ができても、武具に綻びが生まれ簡単に潰れてしまう。それが摂理だ」
「信じてくれるか」
「ああ、信じるとも。カロン、お前にガルガンチュア騎士団の武具を作って欲しいくらいだ」
「マジか! いいのか、無名の俺で」
「誰だって最初は無名さ。名はこれから広めればいい」
嬉しいことに、ヒドラはブラックスミスとの武器契約を打ち切り、俺を契約してくれるようだ。今後はS級ランク以上の武具を俺が作り、供給することになった。
……やった。
これでお金も稼げるし、もっと自由度も上がる。ステュクスに必要な万能薬も見つけやすくなるかもしれない。
「あの小僧とガルガンチュア騎士団が契約ぅ!?」
「ありえねぇ……」
「でも、あの少年はS級の魔剣を所持しているんだぞ」
「つってもなあ、信用できるのかねェ」
「俺たちの命を預けるんだぞ。大丈夫か?」
不安の声が上がるが、やるからには俺は全力でやる。この不安を吹き飛ばすくらいのアイテムを作って驚かせてやる。
「ヒドラ、俺は自分の家に工房を作る。たくさん武具を作ってやるから待ってくれ」
「分かった。まずは一週間待とう。それから継続するか検討しよう」
「助かる。でも、三日もあれば十分かも」
「早いな。まあいい、いつでも言ってくれ」
ロブソンのことも任せ、俺は騎士団を後にした。
* * *
このことを早く親父に知らせないと。
急いで屋敷に戻った。
玄関前でウロウロする親父の姿があった。不安そうにしているな。
「おーい、親父。帰ったぞ」
「カロン!! 飛び出して行ってしまったから、心配したぞ」
「悪い悪い。でも、あのロブソンをガルガンチュア騎士団に突き出してやったんだよ」
「ほ、本当か!? 金は取り戻せそうか!?」
「騎士団長のヒドラが何とかしてくれるはずだ。今は任せよう」
「……カロン。カロンよ! よくやってくれた! お前を無能だと思っていたこと……改めねばならない。お前はやれば出来る子だ!」
そう褒められると照れるな。
ようやく親父に認められたような気がして俺は嬉しかった。でも、ここからがスタートでもある。
ガルガンチュア騎士団と契約を交わした以上、俺は武器や防具を作ってやらねばならない。金の為に。なによりも、義妹のステュクスの為に。
「親父、俺は工房が欲しいんだ。どこか使っていいか?」
「もちろんだ。この屋敷は無駄に広いからな、好きな場所を使うといい」
「ありがたい。さっそく使わせてもらうよ」
「その前にステュクスに顔を出してやれ。あの子も心配していたからな」
「そうか。分かった」
俺は屋敷の中へ。
まずはステュクスの様子を見に行くか。
階段を上がって二階を目指す。
廊下を少し歩いた場所に大きな扉が。この場所こそがステュクスの部屋だ。
扉をノックしてしばらく待つと反応があった。
『どうぞ、お入りください』
「入るぞ、ステュクス」
中へ入るとステュクスが顔を輝かせた。
「兄さん! 良かった。どこかへ飛び出して行ってしまったと、お父様がおっしゃっていたので」
「すまない。ちょっと野暮用でね」
「なにをされていたのですか?」
「お世話になっていたブラックスミスギルドのマスターを捕えた。ロブソンは、親父の金を騙し取ったんだ」
「まあ……そんなことが」
「ロブソンは、俺が捕らえてガルガンチュア騎士団に引き渡した。もう安心だ」
「良かった。お兄様が無事で」
「ステュクス……。そうだ、俺は騎士団と契約を結んだんだ」
「契約を?」
「これから武器や防具をたくさん作って、騎士団に売るんだ。独占契約だからな、無限に儲かるぞ」
そう伝えるとステュクスは少し不安気だった。それどころか、ベッドから立ち上がって俺を静かに見据えた
「どうした?」
「兄さん、あまり無茶はしないでください。わたし、本当に心配で」
抱きついてくるステュクスは、弱々しくて、小さくて、本当に小さくて――今にも壊れてしまいそうだった。
俺は……もっとステュクスの傍にいてやりたい。
「これから工房を作るんだ。ステュクス、一緒に働かないか」
「兄さんをお手伝いですか? ぜひやりたいです」
元気な笑顔でうなずくステュクス。良かった、これなら一緒の時間を過ごせるし、心配も掛けない。今しばらくはアイテムの製造に専念しよう。