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その1 勇者、町長と揉める


王「なに・・・?勇者が行く先々で問題を起こしておるだと?」


大臣「ええ、陛下」


王「はて、そのような男には見えなかったが・・・」


大臣「いえ、悪に手を染めたというわけではございませぬ」


王「では・・・?」


大臣「その強い正義感が故か、その土地の領主と揉めたり」


大臣「時には、法を破ったこともあるとのことで」


王「ふむ・・・少し安堵した」


王「この世界は広い、我が統治が及ばぬ土地では悪政が蔓延ることもあろう」


王「法律とて、全ての事例に対応でき得るものではない」


王「勇者に正義がある限り、見守ってやろうではないか」


大臣「し、しかし、我が国は法治国家、建前というものがございます」


王「ふむ、大臣の申すことも最もだ」


王「何か、手はあるか?」


大臣「はい。陛下の了承が頂ければ、すぐにでも取り掛かります」


王「うむ」


王「よきに計らえ」


------


騎士♂「というわけで、出来上がったのがこのパーティーだ」


商人♂「はあ、急に酒保から異動を命じられたので」


商人「てっきり、何かやらかしたかと思ったんだけど」


賢者♂「では、我々の主要業務は勇者のやらかしたことの後始末と考えてよろしいですか?」


騎士「まあ、言葉は悪いが端的に言えばそうだ」


騎士「正確には、『勇者事業における特別職勇者係の管理及び、指導』だな」


商人「特別職勇者係?」


賢者「それはですね」


賢者「勇者を期間を限って役人扱いにして、一部の権限を融通してるんですよ」


賢者「そうしないと、関所越えの手続きだけでも手間暇が掛かりますからね」


商人「ははあ、勇者の待遇一つにしても理解しずらい文言で括るとは」


商人「さすがお役所仕事だなあ」


賢者「お役所ですから」


騎士「まあ、そこら辺にしておけ」


騎士「ひとまず、私たちの仕事は各地で勇者が起こした問題に対処しつつ」


騎士「最終的には勇者に追いつき同行することが目標だ」


騎士「追い付かなければ、指導も管理もできないしな」


賢者「なにより、勇者が問題を起こす前に対処できる、ですしね」


騎士「そのとおりだ」


商人「うわあ、勇者一行はだいぶ先行しているんでしょう?」


商人「それは面倒だなあ」


賢者「商人さん、私たちは組織図で言えば大臣の直轄」


賢者「うまくすれば、大臣の覚えめでたく」


賢者「若くして要職に就くなんてことも・・・」


商人「さあ、みんなで頑張りましょう!」


商人「何をしているんですか?のんびりしている暇はないんですよ!」


騎士「まあ、落ち着け」


騎士「現場では、職長である私を含めた4人で行動することになる」


賢者「4人?3人の間違いでは?」


騎士「もう一人のメンバーは、先行して勇者を追っている」


騎士「役人としての経験は浅いから、皆でカバーしてやってくれ」


賢者「わかりました」


商人「後輩の育成ですね、お任せください」


騎士「では、我々も出立するか!」


賢者「おーっ!」


商人「おーっ!」


------


盗賊「勇者が隣町の町長と揉めやがった!」


騎士「盗賊さん、言葉遣い」


盗賊♀「あ、すみません!」


賢者「もう一人のメンバーは貴方ですね、初めまして」


商人「おー、男臭いパーティーかと思っていたけど」


商人「女の子が一人いるだけでも場が和むねえ」


騎士「紹介しよう、王国で暴れまわっていた義賊の娘、盗賊さんだ」


商人「・・・ん?」


賢者「えっと、それは・・・?」


騎士「安心してくれ、彼女自身は罪を犯していない」


盗賊「あ、よろしくおねがいします!」


騎士「まあ、盗賊のスキルは親父さん仕込みらしくてな」


騎士「本人も、真面目で勉強熱心なところを大臣が目をつけて」


騎士「大臣付き秘書という形で新たに採用したそうだ」


盗賊「この業務をやりとげたら、投獄中の父さんの減刑と」


盗賊「私を正式に役人にしてくれるって約束なんです」


盗賊「頑張りますので!よろしくお願いします!」


賢者「我が国も、なかなか無茶をしますね・・・」


商人「と言うか、それって黙ってたほうがよくない?」


盗賊「・・・あっ!」


騎士「・・・で、盗賊さん。勇者がどうしたって?」


盗賊「あ、はい!」


盗賊「勇者一行ですが、隣町の町長さんと揉めたらしいです!」


騎士「うん、それで?」


盗賊「え?」


騎士「・・・え?」


盗賊「えーっと・・・以上です!」


騎士「うん・・・」


騎士「賢者さん、お願いできるかな」


賢者「あー、盗賊ちゃん。ほうれん草はわかる?」


商人「そこからやるのか・・・」


盗賊「はい!報告・連絡・相談ですね!」


賢者「うん!元気はよろしい」


賢者「盗賊ちゃんは、隣町の事件を、いち早く聞きつけて報告に駆けつけてくれた」


盗賊「はい!」


賢者「報告ってのは早いに越したことはないけどね」


賢者「情報は正確でなくちゃあならない」


商人「詳細がわからない、そのうえ『揉めたらしい』という不確かな情報」


商人「これじゃあ、報告とは言えないってこと」


盗賊「!」


盗賊「・・・すみません」


賢者「よし!それじゃあ、それを踏まえて、もう一度情報を探ってきてもらえるかな」


盗賊「はい!では、行ってきます!」


商人「・・・切り替え早いなあ」


商人「って!もう居ねえ!ほんとに素早いなあ」


賢者「前途多難ですね・・・」


騎士「まあ、うまいこと指導してやってくれ」


------


盗賊「洞窟の魔物を倒した後、街に戻ってきた勇者が」


盗賊「出迎えた住人達の目の前で、町長を叱責したそうです」


盗賊「それで町長さん、『面目丸つぶれだ!いったいどんな指導を受けているんだ!』」


盗賊「てな、具合です」


商人「なんでまた、勇者はそんなことやらかしたんだ?」


盗賊「どうやら、魔物の怒りを鎮めるために町の娘を生贄に出してたみたいで」


賢者「ああ、正義感の強い勇者が怒りそうな案件ですね」


騎士「ふむ、苦情処理が我らの初仕事というわけか・・・」


商人「別に、手続き上の問題はないんだし無視して出発ってわけにはいかないんですか?」


騎士「私たちの仕事は勇者事業の管理・指導だからなあ」


騎士「勇者の不手際には積極的に関わらないと、職務放棄と見なされかねん」


商人「はあ、そんなもんですか」


騎士「ええっと・・・苦情対応はっと・・・」


騎士「いや・・・町長からの苦情だから・・・通常の苦情対応じゃまずいか・・・」


盗賊「な!なんですか、その分厚い本は!?」


商人「『業務取扱要領』通称『要領』。まあ簡単に言うと業務マニュアルだよ」


賢者「説明しよう!」


商人「よろしく」


賢者「我々の業務は、すべて法律や政令に則って執り行われます」


盗賊「はい」


賢者「この要領は、第一線で働く我々のために」


賢者「法律や政令に基づいた業務の取り扱いを分かりやすくまとめられたものです」


盗賊「え・・・、こんな分厚いんですか・・・」


賢者「そりゃ、あらゆる業務取扱を網羅しているからね」


商人「役人で出世したければ、ある程度は覚えておいたほうが良いよ」


商人「手続きや、書式に詳しいってのが管理職の必須スキルだからね」


盗賊「えぇ・・・」


商人「まあ、どこに何が書いてあるかだけでも覚えておきなよ」


賢者「騎士さん。地方行政の首長からの苦情も、通常の苦情対応で問題ないですよ」


賢者「ですので業務改善推進室の管轄です」


賢者「業改推に報告書、というか反省文ですね」


賢者「それの提出で処理は完了です」


賢者「書式も全て、頭に入っていますので書き起こしましょうか」


商人「まあ、こういう変態も稀にいるけどね」


盗賊「す、すごい・・・覚えてるんですか」


賢者「まあ、伊達に賢者と呼ばれていないよ」フフン


騎士「噂には聞いていたが、頼りになるな・・・賢者くん・・・」


賢者「とりあえず、報告書を作成するにも状況を確認しないといけません」


賢者「町長に直接話を伺いに行きましょう」


賢者「盗賊ちゃんの報告通りだとすると、町長は相当怒ってると思います」


賢者「騎士さん、同行して頂けないでしょうか」


騎士「うむ、まあ頭を下げるのが私の仕事だしな」


商人「じゃあ、こちらは街で食料と水を補給しておきます」


盗賊「あの・・・私はどうすれば?」


盗賊「またすぐに、勇者一行を追いかけたほうが良いですか?」


騎士「うーん。・・・もう日も落ちるし、出発は明日で構わないよ」


騎士「盗賊さんは、商人くんと一緒に装備の補充をお願い」


盗賊「はいっ!」


騎士「それと、今晩は盗賊さんの歓迎会やるから」


商人「はい!幹事はお任せください!」


騎士「うん、よろしく」


賢者「では、行きましょうか騎士さん」


騎士「よし、気は重いが怒られに行くか!」


------


盗賊「騎士さん、怒られるの分かっていて町長に会いに行かないといけないなんて」


盗賊「可哀そうですね・・・」


商人「ああ、責任者はあれでいいんだよ」


盗賊「そうなんですか?」


商人「書類作成は、賢者や俺だけで何とかなるし」


商人「盗賊ちゃんは、俺たちに先行して情報収集の仕事がある」


商人「職長たる、騎士さんの仕事は規定の範囲内での最終的判断と」


商人「俺たち下っ端じゃ受けきれない問題を代わりに背負いこむことだからさ」


盗賊「なるほど・・・でもですよ」


盗賊「それって、騎士さんが受けきれない問題が出てきたらどうするんです?」


盗賊「騎士さん、潰れちゃいませんか?」


商人「そりゃあ、そうなったら騎士さんも大臣に振るでしょ」


商人「あの人も役人経験長いし、そこらへんは俺たちより重々承知してるよ」


盗賊「管理職って、大変なんですね・・・」


商人「なに、逆に言えば管理職の仕事なんて、そんなもんだよ」


盗賊「・・・そういうものですか」


商人「そんなことより、賢者は俺たち同期の中じゃ一番の出世頭だ」


商人「今のうちに仲良くなっておいて、損はないぜ」


盗賊「要領を全部覚えちゃうぐらいですもんね・・・」


盗賊「騎士さん形無し・・・」


商人「・・・まあ、部下のほうが業務の取り扱いを心得てるなんて、よくあることだよ」


商人「それに、職長の仕事はさっき言ったとおりだしね」


盗賊「よし!今日は賢者さんと仲良くなれるよう歓迎会がんばります!」


商人「言っておいてなんだけど、逞しいなあ盗賊ちゃん・・・」


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