俺と彼女の物語
五大国会議が終わり各国大使団が帰途についた日、俺とアーガイル君は伊達男卿に呼び出されてめっちゃ説教された。
お高そうな椅子に優雅に腰かけながら睨みだけで威圧してくる伊達男卿は完全に悪の首領です! 猫撫でててほしい!
「そもそもなぜメッセージカードを握りつぶしたのかね?」
「ルーデット卿! それはアーガイル君の独断です!」
「スカッとするくらい気持ちいい裏切りだなおい!」
いや、俺その場にいなかったし。
事件後、ライアード・バーネットなるニヤケ面のチャラ男が差出人と思われるメッセージカードを卿に渡したら激怒された。
ちなみにカードの文面はこう。
『ルーデット古き友よ、幼き日の約束を果たそう』
俺らはこれを何らかの罠や呼び出しの類であると勘違いしていたが、卿の説明によるとそうではないらしい。
「かつて私は幼い彼は約束をした。まだ生意気盛りだった彼はこう言ったんだ、アルトリウス、あなたを僕の船に乗せてあげるよと」
「それフェスタ軍艦の事ですよね?」
「完全にシシリーはフェスタ軍艦にいるって召喚状じゃねーか」
「彼が船と呼ぶのは無敵艦隊旗艦ベルクレスト号だ。港に停泊していたのはオーグ級だよ」
「つまりどういう事です?」
「決意表明だろうな」
「なんのです?」
「さて…な。とりあえず君達にはペナルティーを与えよう、当座は我が屋敷の修繕作業に従事したまえ」
「「うす……」」
断るとやべー気配がしてるんで承知する。
浅黒い肌をしたむくつけき野郎どもと一緒に汗を流す日々が七日ほど続き、ようやく解放された。
事件は曖昧な霧のように不確かな形で終結した。
会議初日に起きた色々な事件がどんな意味を持っていたのか、俺にはよくわからなかった。ほとんど蚊帳の外だったしね。
一番詳しそうな伊達男はやべー奴なので詳しく尋ねるのはやめた。これで幕引きだ、きっと何人かだけが理解していればいい、そんな事件だったんだ。
誘拐されたシシリーは朝にはひょっこり戻ってきた。下層街の少しお高いホテルで眠らされてて、見張りもいなかったので普通に帰ってきたそうな。枕元には謝罪の書かれたカードと慰謝料らしきフェスタの金貨数枚があったらしい。
ハンス君も昼には釈放されて戻ってきた。なんか知らんが騎士団に捕まってたらしい。
「もうほんと、殺されるかと思ったんだ!」
とか半泣きで訴えられたので事情を尋ねると、五大国会議とかいう普段より厳重な警備体制下の空中都市に入ろうとして捕まったとか。そりゃ不審者だから留置所に放り込まれたんだろって話だ。許可証もない平民の子供が自由に出入りできるところじゃねえもん。俺もカトリたんから予備の許可証借りてるし。
で、何だかわからないけど服飾の親方の下に戻るらしい。
「僕に冒険者は無理みたいなので」
「心からそう思うよ」
「リリウス君はハッキリ言うよね……でもそれだけじゃなくて、やっぱり夢を諦めたくないんだ」
どうやら今度の決意は固いらしい。
前よりいい顔つきになってるし、これなら応援してやるよって感じだ。ケツ掘りに来る兄弟子対策にいい物をあげよう。
「餞別をやるよ」
「どうしてスプーンばかりを一束も……」
「ケツ掘りに来る兄弟子には逆にこいつ噛ましてやりな」
スプーンちらつかせて凄んで見せるとハンス君もマネしたが迫力が足りない。
もっと狂気を滲ませないと怖くないよ!
「ありがとう、短い間だったけどリリウス君からは色々教えられた気がするよ」
スプーンの攻撃力の話だな。
「カトリーさんと仲良くね?」
「……ま、ぼちぼちやるさ。ハンス君も元気でな」
「うん、お互いに」
俺らはがっちり握手を交わして別れた。
ノリで長いお別れみたいな空気になってるけど、ハンス君の寝泊まりする工房ってギルドとそんなに離れてないからぼちぼち会う気がするんだよね。
事件の後にはお説教とお別れと、謝罪が待っていた。
「みんなごめん! 俺もう一回カトリたんとやり直したいんだ!」
グランナイツのみんなに誠心誠意を込めて土下座する。
いわゆる焼き入れとか落とし前ってやつを覚悟してたんだけどね……
「結局元鞘ってやつねー」
「ただの痴話喧嘩のなげー奴だったんだろ。ああいい、気にすんなよ」
「ま、こればかりは仕方ありませんね」
おい、俺との別れをもう少しごねろ。
もっと泣いたり怒ったりして! 淡白過ぎるよ!
「じつはバトラから最初に言われてたしねー」
マジかよ、バトラの野郎俺の内心見抜いてやがったのか?
本人の俺でさえ見抜けてなかったのに。
「リリウス君は愛想尽かされることはあっても自分から別れたりしないから、そのうち復縁したがるだろーってさ」
見抜いてたのは非モテの性質かよ。
目が合ったらドキドキして、声をかけられたらこいつ俺に気があるんじゃないかとドキドキして、スキンシップされたら恋しちゃう性質完全に見抜いてやがる……
「バトラ?」
「お前は案外情深いところもあるからな。一度好きになった女を簡単には忘れられないんだろ?」
「すまない」
「元々承知の上だ、気にするな。それにお前のちからが想定以上だったのもあるしな」
「共に強くなると言っておきながら俺の方が随分と足りなかった。成長を願うならカトリーエイル嬢を頼るべきだ」
「感謝する」
「やめろやめろ、お前が殊勝だと調子が狂うんだ。どうせお別れだろうってそんな態度をしていると後で後悔するぞ。同じ町で冒険者やるんだ、たまたま会った時に気まずくなるぞ?」
それは嫌だな。
なんだかんだこいつらともけっこう仲良くなったしね。
「たまに声をかけるぞ」
「こっちもたまに手伝ってもらうかもな」
拳を合わせてまた会おうと男と男のご挨拶。やれやれ、本当に度量が大きくなってやがるな。本気で兄貴っぽいぜバトラ。
そして最後に俺は男としてのけじめをつけなければいけない。
「ユイちゃん、本当にごめん!」
「何がごめんなんですか?」
圧が……ないだと!?
「そもそも私たち別に付き合ってたわけでもないですし」
マジかよ俺の存在軽すぎるだろ……
え、俺だけ勘違いしてた奴? 嘘でしょ?
「最初からバトラに忠告されていたわけですし、必要以上に仲良くなんて、ありませんでしたよ?」
「嘘でしょ……」
悪女二号発見……
甲斐甲斐しく特別なお料理作ったりマグカッププレゼントしたり……えぇぇ……
マジか、俺もてあそばれてただけなのか……
「また機会があればクエストに行きましょう」
「は…はい」
「その時はお友達として仲良くしてくださいね?」
「善処…します」
この町にいるのが変態と悪女とダメな子だけって理解してたはずなのに。
すげー騙された感。あれれ、モテ期どこ行ったの?
意気揚々と出ていくはずがリンチされた気分だぜ。すげー猫背でハウスを出るぜ。
最後にもう一度だけみんなへと振り返ると、ユイちゃんの目に涙があるようなまぼろしが見えた。都合のいいまぼろし過ぎる……
「さっさと出ていけ、それ以上いると家賃取るぞ!」
ひでえ。
涙のお別れとは言わないけど、もう少し優しくしてくれてもいいじゃん。
俺が全部悪いんだけど。
ハウスを出ると午前八時。ちょうど朝メシの時間だ。
下層街の外れにある、大してうまくもない肝っ玉母さんのカフェに寄りると、カウンターでおしゃべりしてる美女を見つけた。
この傷ついた心を癒すためにナンパでもするか。フラれたら泣くぞ、泣いてやるからな。
「そこのお姉さん、少年の腹筋は要りませんか?」
めっちゃ苦笑されたぜ。そんな面も好きなんだけどさ。
「腹筋はもう要らないかなー?」
「マジかよ……改宗したの?」
「弟に会ったんだ、おっきくなってた」
本当に嬉しそうに語りながら、表情は一抹の寂しさを帯びている。
彼女は計算高い女だけど、今だけは本当って思えるんだ。
「君よりもずっと大きな大人になってたんだ。それに自分の道も見つけてた。だからあたしも前に進まなきゃってさ」
「だから腹筋はもう要らないのね」
「そ、だから今必要なのは相棒かな? 強くて頼りになる子がいいんだけど、心当たりない?」
事件に意味を求めるのは酷な話だ。
苦難に遭ったからって成長しなきゃいけないなんて誰が決めたのか。
面倒で大変で大げさな事件のわりに俺には何も得る物はなかったけど、強いて言えばこれは変態と飼い犬なんて不確かな関係じゃなくて、彼女と俺が本当の相棒になるお話だったんだ。
このあと俺はめちゃくちゃいい立候補をした。
第四章完!
次回パートナーシャッフル後編は近日……できれば明日書きます?




