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野良犬 VS チャラ男

 無数の空っぽの個室が並ぶ地下牢は暗闇。

 本来静かで何の音もしないはずの地下牢に詰問の声がこだましている。


「外交官には不逮捕特権というものがありますの」


 その声は優美で艶やかでさえあるが、ねちねちした粘着質も兼ね備えていた。


「ゼーランダ条約批准国は外交官を国賓として扱い、如何なる嫌疑・罪状があろうともその身を拘束してはならない。こんなものは子供でも知ってると思っておりましたのに、まさかイルスローゼの騎士様ともあろう方々がご存じない?」

「……は、あ、あのぅ、存じ上げてはおります」

「では今わたくしの身に起きている現象についてはどうお思いになられますの?」


 囚人がねちねちねちねち見張りの騎士を詰問している。まるでクレーマーだ。


 同盟国の王女という立場を持ちながら、道理が通った正論だから性質が悪い。正直に言って一介の騎士がどうのこうのできるお相手ではない。

 騎士は心の中で復元した、自分にこんな役目を押し付けた上役を殴りまくっているだろうね。


「お答えなさいませ! 事は外交問題のみならずあなたの身柄にまで及びますわ! 我がベイグラント統一王朝は今回のペナルティーとしてあなたの身柄を要求してもいいのですよ!」

「ひぃぃぃぃぃいい!?」


 騎士が脱兎の如く逃げ去った。きっと上役に文句を言いにいったに違いない。

 その用件がベイグラントからの要求があっても絶対に引き渡しに応じないようにという懇願なのか、この厄介な王女様の見張りを別の誰かと交代してくれというものなのかは謎だ。両方かもしれない。俺なら両方頼んだ上で国外逃亡する。


 再び静寂の戻った地下牢に足跡がこだまする。

 哀れな囚人二人目というわけだ。大きなミスリルの手枷を嵌められた女が騎士の案内で個室を通り過ぎ……


「お待ちなさい」


 通り過ぎる前にクレーマー王女様が呼び止めてくれたぜ。


「そちらの方をわたくしの部屋に入れなさい」

「は……しかしですね、この者は都内で暴力沙汰を起こした凶悪な……」

「外交問題にいたしますわよ!」

「ひぃぃぃい!? う、承りました!」


 外交問題強すぎぃ!


 騎士が連行してきた女をソッコーでクレーマーの牢に入れて、逃げていったぜ。

 騎士って貴族身分の末席ではあるけど大臣とかに命令されたらソッコー首が跳ぶんだ。ほんと宮仕えなんてするもんじゃないぜ……


 連行されてきた女とクレーマー王女が向かい合って座り、ニコリと微笑み合う。


「ベイグラント統一王朝外交全権大使のラスト・フィア・ベイグラントですわ」

「カトリーエイル・ルーデットです」

「名前だけは存じておりましたせいか、初めてという感じは致しませんわ」

「お互いにそのようですね」


 苦笑し合う二人の空気はなごやかで、地下牢なのに社交界での会話のようだ。

 二人の本来の身分を考えれば、そういった出会い方をしても何の不思議もないのに何の因果か地下牢で会ってしまったわけだ。


「おおよその手筋はすでに見えておりますの。とりあえず情報交換をいたしません?」

「と言ってもあたしの方は蚊帳の外のようでほとんど何もわからないんです」

「ではこちらから。冒険者ギルド上級職員シシリー嬢をさらった理由は所縁の者が取り戻しに行く口実を与えるため、または取り戻しに動いても不自然ではない状況を作るためです」


 一瞬激高を顔に出しかけたカトリーエイルが耐えた。

 親友が誘拐された事実を初めて知らされた人間の態度としては極めて冷静だ。もちろん心の中は相応に荒れ狂っているかもしれないけどね。


「ニセモノの実行犯を用意すれば動いても動かずとも大義名分は立ちます。外交団を襲った凶悪犯を捕縛する大義名分がです。この一件に関してはフェスタとイルスローゼの共謀と確信しております。ま、実際に実行したのはわたくしですのでこの策謀は潰せたとみてよいでしょう」

「……ラスト様がフェスタの外交団を襲ったんですか? なんで?」

「ええ、途中で手筋が見えましたもので」

「何のためにそのような事をなされたのですか?」

「ん~~~~、シュテル様への嫌がらせ?」


 マジかよ。軍艦襲った理由マジかよ……


「というのは冗談でしてよ」

「はぁ……」

「我がベイグラントはルーデット卿を高く評価しておりましてよ。卓越した軍事的・政治的手腕に加えて渋い独身のおじさ……こほん。ともかくアレですねアレ、スカウトしたいと考えておりますの」


 今の本音ほぼ全部漏れてたよね……

 マジかよ、男漁り感覚でスカウトとか王族マジかよ……


「現在浮き彫りになっている策謀はこれのみ。わたくしが地下牢から出て喚き散らせば朝靄のように消えてしまう程度の問題ですわね。もっとも騎士団は今頃ルーデット卿の屋敷を襲っている頃でしょうが」

「そして何もかもが終わった頃に何食わぬ顔をしてこの場に現れ、手違いだの何だのと理由をつけてラスト様を釈放なさるでしょう」

「カトリーエイル様のおっしゃいますとおり。つまり解決方法はただ一つ、この地下牢から速やかに抜け出し、証拠を揃えて王陛下を糾弾する事」


「あはは、難しそうですね……」

「そうですわね、わたくしども二人だけでは地下牢から抜け出す事も難しいかもしれません(ちらっ)」


 はい、いいかげん出てこいって催促ですね。


 でも仕方ないじゃないか、見張りがいなくなったら連れ出そうと思ってたのに、カトリたんが来ちゃうんだもん。どんな顔して会えばいいのか、まだわからないんだもん。


 とりあえずフォロー第一弾としてパクった鍵束つかって牢屋の鍵空けるぜ。


 ガチン!

 キィ……


「鍵が開いた……」

「もう、恥ずかしがっちゃって」

「どなたかを潜伏させているのですか?」

「よくは知らない子ですの、でも悪い子ではないと思うの。悪党三万人を切り刻んできたわたくしが言うのです、信じていただいてけっこうですのよ?」


 信じてくれるの嬉しいんですけどあんた超やべー女だな!

 さあリリウス君の戦い方って奴を見せてやるぜ!





 地下牢に囚われていたラストとカトリーエイルはすでに自由の身である。

 真っ暗な地下牢を淑女のように優雅に歩き、出口を目指している。様々な策謀が進行する現在にあってその遅々とした歩みは、他者から見ればもどかしくさえあるだろう。


「急いては事を仕損じるという格言がありますが、わたくしは真理であると思いますの。準備を整え、実行する。この手順を違えた場合軍は機能不全を起こしますもの」

「今は見えない誰かのお膳立ての最中かあ。あたし自分で色々やっちゃう方なので少しもどかしいです」

「あらあら、それはとても好ましい気質でしてよ。でも殿方にもたまには花を持たせてあげるのが良き淑女の振る舞いだと思いますの」


(……この人ほんとに国中の貴公子から婚約を断られた人かな? この自信満々な男性哲学どこから来てるの?)


「というふうにアルマから聞きましたの。妹はロマンス小説が好きな子でして、こういったマナーには人一倍うるさいの。淑女が戦場に出るなんてはしたない、軍服なんか捨ててドレスを着ろってうんざりしますわ」

「ふふふ、仲がよろしいのですね?」

「それはもちろん可愛い妹ですもの。でもわたくしに求婚者が現れないのはそういう理由ですってそれはもう口うるさくて困っちゃうの。殿方を立てるつもりはありますの、でも柳木のように頼りない方々にもたれかかるのはねえ……」


 地下牢の暗闇に明かりが落ちている。

 出口だ。


 警戒しながら近づくと、ケツに剣を刺された状態で騎士二人が倒れていた……


「うわー、ものすごく見覚えのある成敗方法だ……」

「あらあら、とっても過激ね♪」


 ラストがこれ幸いと騎士のケツから剣を抜き、己の武器とする。

 そして初めて気がついたみたいにカトリーエイルに嵌められたミスリルの手枷を見つめ、


「その重そうな拘束具わたくしがお外しいたしましょうか?」

「すっかり忘れてたかな。よっ…と!」


 カトリーエイルが腕にちからを込めるとミスリル製の頑丈な手枷が弾け飛ぶ。

 そんな光景を見たラストは心からの微笑みを浮かべてカトリーエイルの手を握る。まるで化け物仲間を見つけたと言わんばかりの歓喜の微笑みだ。


「カトリ様とはお友達になれそう♪」

「結婚できない同盟とかだったらやだなー」

「その時はご一緒に暮らしましょう。旦那様はいなくてもお友達と暮らす老後も楽しいと思いましてよ?」

「やだなー」


 心の底から拒否る。

 するとラストが泣きながらすがりついてきた!


「そんな無体を仰らないで! わたくしもう国内に結婚相手がおりませんの! このままだと本当に老後は一人寂しくなの~~~~!」

「と、ところでお膳立てはもう済んだのかな? どこかに目印でも……」


 赤い絨毯が敷き詰められた廊下を探せばすぐに不自然な物が見つかった。

 絨毯の上に点々とパンクズが落ちている……


「こーゆー童話見たことあるなー」

「あらあら、お掃除されたら大変ですわね。少し急ぎましょう!」

「こんな夜中に掃除する人いないと思うなー……ラスト様って噂よりダンチでフリーダムだなあ……」


 パンクズは謁見の間まで続いていた。


 少しだけ開かれた扉の向こうから話し声が聴こえてくる。


「このような夜更けに何の用事ですかね、いや文句というわけではないのですが」

「まったくだ。緊急の案件でないのなら朝にしてもらいたいものだな」


 ムハンマド大使とサルマン大使の不機嫌そうな声だ。


 何事かと扉を覗けば侍従を連れた三国の大使が、シュテル騎士団長に詰め寄っていた。当のシュテル団長は眉を八の字にして困り果てている。


「あー、申し訳ない。何か手違いがあってお三方を呼びつけた者がいるようだ」

「手違い? 手違いで真夜中に呼び出して、やはり用はないから帰れと申すか?」

「やれやれ、太陽宮の使用人もたかが知れるな。よければ奴隷を幾人か手配しましょうか? 我が国のどんなに貧しい家の奴隷でもこのようなミスはしないでしょうな」

「ま、用がないのなら帰るまでですが、明日の会議で何らかの埋め合わせくらいはしてほしいね」


 我が意を得たりとばかりにムハンマドがライアードの肩を叩いた。


「ライアード大使はやはり冴えているな! そうだな、この一件は何らかの埋め合わせをするべきだ、そうだろうシュテル殿」

「小僧どもがはしゃぎおって。だが利権の一つも譲らねばこの場は治まるまいぞ?」

「困ったな。こんな夜中に大使を呼び出すなんていったいどこの馬鹿だ……」


 謁見の間を覗き見しているラストの唇が三日月のように歪む。

 面白い遊びを見つけた悪女の笑みだ。


「あらあら、面白いことになっているわね?」

「ラスト大使まで呼びおったか……」


 シュテル団長はどうにも掴めないこの状況に困惑しているようだが、牢獄に閉じ込めてあるはずのラストが現れても顔に出さない程度の冷静さは保っているらしい。


「なにやら埋め合わせをいただけるようなので、来てしまいましたわ♪」

「呼ばれてもないのに来るとは……」

「ベイグラントの赤い魔女の名は伊達ではないね」

「人の弱みを見つける嗅覚だけは褒めてもよいか……?」

「厄介な方だ。あぁもうわかったわかった、これこの通り頭を下げて謝罪する。明日以降の会議では利権の一つ二つくらいなら譲歩も考えよう、みなにはどうかお怒りを鎮めていただきたい」

「すぐにいただきたいのですけれど?」


 シュテルとラストが目を細めて睨み合う。

 何も知らない余人からすれば何かあったな程度にも取れるだろう。


「ラスト大使、その話は余人を交えぬ場でお願いでき……いぃぃい!?」


 その瞬間、何の前兆も予兆もなく、太陽宮で最も警備が厳重なはずの謁見の間に男が五人現れた。


 ちょうどシュテルと四人の大使の間に出現した五人の男はボロクソに殴られて気絶しており、ケツからおびただしい出血が……


 だが全員の目は男どもが首からかける看板に集中していた。


「僕らは」

「トライデントを騙り?」

「フェスタ軍艦を襲撃した……ね、なるほど」

「お馬鹿さんです。あらあら、これはねえ……」

「PS謎の義賊より愛を込めて…か。まったくルーデットめはどこまで読んでいた?」


 驚きながらも三大使と団長の目は室内に潜伏しているであろう何者かを探していた。

 サルマン師の放った波紋系探査魔法は一度は賊の位置を掴んだが、するりと逃げられてしまっていた。


「この反応は神代の魔法具……儂の知らぬ魔法大系か、面白い」

「賊は?」

「解呪反射(ディスペル バック)に驚いて逃げていきおった。尋常ならざるアジリティか機眼のどちらかを持ち合わせた手合いと見た」

「それは厄介そうだ」


「はいはぁ~~~い、みなさん注も~~く!」


 血塗れラストが童女のようにあどけなく挙手したので一同揃って嫌そうな顔になる。

 絶対いやな発言をする気だって確信したのだろう。


「わたくしは今回の埋め合わせとしてルーデット邸を襲撃している騎士団の撤退を望みまーす!」

「ラスト大使それは……」

「もちろん今後如何なる事情があろうと難癖をつけて始末しようなんて為さらないと確約するを希望いたしま~~~す!」

「他の物では……まからんのか?」

「わたくしを投獄した罪まで揃えて、卑劣な策謀で嵌めた無実の人の嘆願で済ませようというの。これを承服できないのなら今後誰も太陽の約束を信じないでしょうね」

「む…むむ……」


「話はよくわからんがね、ボクもその提案に乗らせてもらおう」

「ムハンマド大使まで。なぜだ?」

「ラストに恩を売れる機会だ、見逃す手はないね。なあラストこの恩は今後ボクの首で返してくれよ?」

「ええ、一回だけは見逃してあげる」

「素晴らしい、ボクはこれで二つの生命を得たわけだ。戦場で会うのが楽しみになってきたよ!」

「ふんっ、我は利権を取るぞ」

「あらあら、サルマン師はお変わりない方ですこと」

「ご老人はこれだから。空気を読めないと若者に嫌われますよ?」

「黙れ、そういうのを同調圧力と言うのだ。国家を代表する大使が利権を求めて何が悪い」


 二人そろってあれなる珍獣はと笑い出したのでサルマン師はすっかり不機嫌になった。


「おぬしらじつは本当に仲が良いのではないか……?」


 謁見の間に漂う雰囲気がなごやかになった頃、思案に暮れていたシュテルが大きなため息をついた。大きな落胆を張り付けた表情が語るのは敗北だ。


「ルーデットめを始末する好機であったが仕方ない。兵を退く、これでいいんだな?」

「ええ、わたくしはね」

「なにぃ?」


「シュテル殿下!」


 往くならば今だろう。

 謁見の間も扉からカトリーエイルが出てきた。ラストが脱獄していたのだ、予想はできたはずだ、だが様々に気を取られていたシュテルは本当にその存在に気づけていなかった。いや気づいていても同じだ。本来の身分ならばともかく亡命者如き身分の者がこの場で何ができる。五大国を代表する大使が集うこの場で、何もできるはずはない。

 そうした考えがシュテルの動揺を一瞬で抑え込んだ。


「なにかな?」

「あたしにも埋め合わせ、いただけません?」


 最高に愛らしいウインクをしておねだりされたシュテルは……

 もうどうにでもなれと屈した。


 がっくりと肩を落とすシュテルは身をもって同調圧力の怖さを実感した。

 まだまだ若い気でいるシュテル団長四十一歳にとって今後も長い付き合いになる十代の大使二人からサルマン師のような老害扱いを受けるのは、利権の一つ二つを手放すよりも怖いようだ。





 一方、謁見の間から逃れた俺は襲撃を受けていた。


 太陽宮の尖塔上に剣撃の火花が散る!

 ギィンと打ち合わせた剣が敵の技量を圧倒的強者と伝えてきた。勝てないならば逃げの一手が定石だが簡単に逃がしてくれる相手ではなかった。


「僕の脚本のイレギュラーはお前だね?」


 鎧も帯びず艶やかなブルーの軍服のニヤケ面のチャラ男。

 優しげな顔立ちをしているが恐ろしく研ぎ澄まされた目をしたチャラ男。

 湾曲した殺人ナイフを中腰に構える男は、俺では勝利し得ない強者だ。


「ひやひやしたが概ね脚本通りに進んだ。だがお前のようなイレギュラーの存在は今後の脅威に成り得る、この場で排除させてもらう!」


 小刻みに繰り出される殺人ナイフが捌き切れない。

 俺のミスリルソードを潜り抜けた刃がステルスコートを裂いていく。最悪だ、今日まで無傷で済ませて来れたのに!


 透明化はしている。なのに敵はこちらの位置を何らかの方法で把握している。

 見えていないはずだ。事実敵の目はこちらを向いていない時がある、だが気配を感知するように正確にこちらを狙ってくる。


「殺せたと何度かは思ったんだがね、姿の見えない敵がこれほど厄介だとは思わなかった」

「あんたの方が厄介だよ」


 と言っても聴こえないか。

 いったい何者なんだこの男は?


 フェスタの軍服を着ている以上沿海州のアサシンとは思えないがシターラの扱いはいつかのハゲより格段に上だ。


 逆手に持ったシターラで顎を跳ね上げにきたので胸を突きにいく。最短距離で心臓へと走ったミスリルソードが空を切った! 嘘だろ、消えやがった!?


 背後に走った悪寒だけを根拠に飛び込み前転で尖塔の屋根から落ちて、すぐ下の部屋の窓を蹴破ってのダイナミック入室。弁償しないけどごめんね。


 そのまま室内を通って太陽宮殿に逃げようとしたら足元から殺気が走った。全力でバク転すると、俺の足元に生まれていた不自然な夜色の液体から敵が出てきやがった。


 本当に何者なんですかねぇ……


「これもかわすのかい……? 高位の機眼だけじゃ説明できないな、危機察知も併用してるのか。さすがはレザードの装具持ちだね」


 なんだと!?


 好奇心には勝てず透明化を解くと、敵がニヤリと笑いやがった。狙いどおりに動いてやるのは悔しいけど、だって気になるもん!


「姿を見せたのはおしゃべりに応じるって解釈でいいのかな? 僕も同じレザードの装具持ちと戦うのは初めてだから歓迎さ」

「情報交換したい感じ?」


 いいよ? 全然ウエルカムだよ?


「君はそれをどこで手に入れたんだい?」


 はい、アウトー。絶対それ聞いたら戦闘に戻るよね。


 ステルスコートは殺して奪う。レザードの遺跡の場所だけ知りたいって感じでしょ? 超性能な魔法具の眠るレザードの遺跡の情報は使用者なら絶対欲しがるもんね。


「質問の形式は俺が決める。お前のレザードの魔法具はなんだ?」

「この靴さ。僕はジャンプシューズって呼んでる。効果は見せたとおり一定範囲内ならどこでも移動可能なのさ」


 厄介な魔法具だな、俺も欲しいぜ。

 最悪なのは殺して奪うよりも殺される可能性が高すぎる点だな。


「もちろん君の装具についても聴けるんだろうね?」

「ステルスコート先生は透明人間になれるのさ。も一つ質問だがどうして俺の位置を掴めた?」

「レザードの装具は互いに共鳴する習性がある、って今さっき気づいたんだ。おおまかな位置がわかる程度だけどね」


 嘘じゃなさそうだな、こいつがジャンプして出てくる地点が俺にも何となくわかったし。

 あの夜色の液体はおそらく魔法具を持つ者同士にしか見えない予兆なのだ。


「最後の質問だ、お前はそれをどこで手に入れた?」

「ジャンステップの密林だね」


 はい知らねー。つーか絶対嘘だな。俺なら絶対にしゃべらない。


「俺は沿海州のエンリケパヤッパ島だ。特産物はカニ」

「カニ、うまいよな?」

「ああ、特に蒸し焼きがいいね」


 互いに互いの価値を計り切った感あるな。

 些末な情報なら与えてもいい。だが重要な情報は秘匿する。だから殺す。どうせしゃべらないから殺す。

 この一点のみにおいて俺らは妥協できる。殺し合いだけが俺らに残された最後のコミュニケーションだ。


 殺す。手順はもう決めた。これで勝てないなら死んでやる。


「では殺し合おっか♪」

「そうだね」


 透明化してダッシュで窓から飛び出し、尖塔の壁を王宮に向けてダッシュ!

 落下速度をプラスしてのダッシュだが、あの敵にはジャンプシューズがある。だがジャンプシューズでなければ追いつけない。だからあいつは絶対に使う。俺にはそれが手に取るようにわかる。


 レザードの装具。この恐ろしく強大なアイテムを手に入れた物は、必ずそのちからに溺れるからだ。


 集中しろ。

 レザードの気配を感知しろ。

 前方二十メーター先、球形の太陽宮殿の壁に夜色の液体がコポコポと溢れ出した。


 俺は背中に背負ったミスリルの大戦斧を握りしめ、夜色の液体めがけて叩きつけた!

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