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潜入、太陽宮殿!

 十二月九日、二十二時。


「姉御事件です! カトリの姉御!」


 アーガイルがマンションの扉をめっちゃドンドン叩いてる。

 めっちゃドンドン叩いてる。やがてお隣のおばさんが迷惑そうにでてきた。


「カトリちゃんならお昼に出かけたよ」

「ちぃっ、間が悪い奴だな。仕方ねえ、他の奴当たるか!」


 飛翔するアーガイルが職人街の一角にある鍛冶屋の扉をライダーキックで蹴破る。


「ギドー、ちょいと手伝え!」

「クソが!」

「お前のクランに召集をかけろ!」

「クソがクソが! クソがぁぁぁ!」

「…………」


 おっさんドワーフが一心不乱にハンマーで斧を作ってる。

 集中するあまりアーガイルの声も届いていないようだ。


 弟子の小僧に話を聞くと愛斧をカツアゲされたので復讐のために新しい武器を作ってるらしい。ここ数日はずっとこんな感じで不眠不休で鍛造しているとか。


「話を聞け!」


 ガン!


 注意をこちらに向けるために頭を殴ると……そのまま倒れ込んでしまった。

 ドワーフとかいう頑健な種族がこれくらいで倒れるはずがないが、目を回してやがる。


「ちょうど丸五日でしたし、どうやら限界みたいですね」


 冷静なドワーフの弟子が親方を担いで二階のベッドに連れていった。

 残されたアーガイルはしばらく呆然としていたが、すぐにしゃっきりした。


「クソが! だがレグルスなら!」


 下層街でもちょっといい感じの集合住宅の扉の前には『ただいま外出中』の札が掛けられた。


 続いて四件目も留守だった。

 五件目は探さないでくださいの張り紙付きだった。

 六件目は引っ越ししてて普通のおっさんが出てきた……

 王都中お祭り騒ぎの会議初日だからお宅訪問してもね。がっくりと肩を落としたアーガイルが「まだまだ」とか言い出す前に、俺は透明化を解いて声をかけた。


「……全然気づかなかった、いつから俺をつけてた?」

「カトリたんのおうちの前から」

「ストーカーなのか?(ぼそっ)」


 本気のトーンで聞くのやめい。

 ちょっと気になって行っただけじゃい。本当だぞ、未練がましくまた顔が見たくなったとかそんなんじゃないからな、俺にやましいところなどないぞ。


「キョドキョドするんじゃねえよ、わかりやすい奴だな。それよかお前シシリーと仲良かったよな? 手を貸す気あるか?」


 そうそう事件ってのが気になってつけてたんだ。

 へへ、必死な面してるのが面白かったからじゃないぜ。


「シシリーがさらわれた」


 えぇぇ……

 以前もユイちゃんがさらわれて闇オークションに売られてたけどこの町誘拐多すぎやしませんかね?


「まさかお前みたいなコミカル担当からガチのニュースが飛び出すとは夢にも思わなかったぜ。犯人の居場所わかる?」

「そこまでは掴んでねえ。つかこっちが掴んでることくっちゃべるから気づいた事があれば話してくれ」


 無精髭と渋い顔立ちのやさぐれ魔導師アーガイル君が二分で説明してくれたぜ。

 ディスペル使う厄介な魔導師だからギルドで何回か吊るしたが、有能の香りしてるな! 見た目ハードボイルド探偵だし。


 要約するとチャラ男がシシリーを誘拐したわけだ。メッセ見た感じルーデット卿の旧友っぽいからカトリたんやトライデントを狙うならわかるけど、シシリー狙う意味がわからねえぜ。


「どうだ、何かわかったか?」

「さっぱりだぜ。とりあえずフェスタのお偉いさんのケツにぶちこんで白状させようぜ」

「スプーン掲げて凄む奴初めてみたぜ……」


 人は俺をケツにスプーン刺す悪魔と呼ぶ。


「フェスタのお偉いさんとなるとリスグラ港に停泊する軍艦と王宮の二ヵ所。どちらも警備は厳重だが、いけるのか?」

「俺に不可能はねえ」


 俺達はカトリたんもさらわれてるかもしれないなんて話はしなかった。

 あの化け物をさらえる人類が存在するなんてこれっぽっちも想像できない。相手が美少年なら喜んでついてくかもしれないけどね。その場合危険なのは美少年の方なんだ……


「まずは近い方だ、王宮から落とすぞ!」

「頼もしい奴だぜ。行くか!」


 アーガイル君がすげえスピードで空中都市へと飛んでいった。

 マジかよ、抱えていってもらおうと思ったのに。下層街を飛び回る奴なら追跡できても空中都市までは時間かかるぞ……


 しばらくするとアーガイル君が戻ってきた。


「飛べないのか?」

「うん」

「さっそく不可能が出てきてるじゃねーか……」


 頭抱え込むのやめてもらえる?

 リリウス君はともかくステルスコートさんは有能だよ?


 アーガイル君とかいう空飛ぶ馬を手に入れた俺は透明化譲渡しながら空中都市上空を飛ぶ。


 約二十キロメーター超の浮遊する岩塊『空中都市』、サン・イルスローゼの王宮は岩塊の中心部、つまり内部にあるらしい。初耳!


「進入路は二つ。黄金騎士団本部の敷地内にある正門っつーか大きな穴だが、そいつと施設内にある小さな通用口だ。どちらも夜は魔法的・物理的に閉ざされている上に中隊規模の警備が張り付いてるぞ」


 眼下の騎士団本部では、怪しげに発光するシャッター床の近くに大勢の騎士が整列している。

 夜勤なのにだらけてる奴がいねえとはさすが超大国だぜ。


「このまま正門に突入して!」

「厚さ二メーターのミスリルの金属壁につっこめってか、自殺と変わらねえぞ!」

「アーガイル君は俺を信じろ」


 俺はステルスコート先生を信じる。

 積み重ねてきた信頼と実績! ステルスコート先生は本気で魔力を注ぎ込めば一瞬だけ壁や扉を透過できちまうんだ。原理は謎!


「頼もしいな!」


 アーガイル君とともにシャッター床につっこむ。

 シャッターの向こうは近未来を思わせるツルツルした材質に囲まれた通路だ。壁材がうっすら青く光ってるけどこれミスリルが含まれてるね。


 通路をしばらく飛んでいるとやがて大きな空洞に出た。


 ちょっと言葉が出てこねえぜ。

 壁材が眩いばかりに輝く巨大な大空洞の真ん中にウニみたいな浮遊物が浮かんでいる。飛翔魔法で近づいていくとやがてそれが巨大建造物であるとハッキリした。


 ウニのトゲみたいに突き出すのは尖塔なのだ。無数の尖塔の窓からは生活光が零れ、真ん中の球体からも明かりや人声が漏れている。デ〇スターというかデスウニーだな。


「驚いたろ、これが太陽宮殿だ」

「球体の中心部から発生させた魔法的な重力力場であの巨大王宮を支えているのか、説明はできそうだがそもそも魔法的重力が謎すぎるな」


 アーガイル先生頼むぜ?


「知的好奇心はまた今度にしろ。今はシシリーだ」


 正論すぎるぜ、あの美しい悪女より大切な知識など存在しねえ。


 尖塔の一つを選んで屋根に降りる。地面からすれば逆さになっているはずなのに何の違和感もなく足元から重力を感じる。

 魔法大国の不思議技術と比べて俺の頭は無力すぎる。


「とりあえず手分けしてフェスタの要人を探すか?」

「俺から離れたら透明化できなくなるけど問題ないか?」

「お前さんが後で俺を助けに来てくれるなら問題はなさそうだ」


 つまり問題あり。

 ハードボイルド探偵ふうの青年と手を繋ぎながら王宮デートとか誰も得しねえよ!?


 まずは無数に屹立する尖塔から捜索する。さらわれた美少女はだいたい高いところに閉じ込められているからだ。ここ天地の概念ないけど。


 一つ捜索を終えては屋根ジャンプでお隣へ。三つほど捜索を終えたところでやべー奴発見! 俺ら以外の不審者だ!


 真紅の美しい甲冑を纏った女がはぁはぁしながら屋根に潜み、向こうの尖塔を覗いてるぜ。超大国の王宮ちょっと防御力弱くないですかね?


「あら?」


 不審者がこっち向いた、と思ったら気のせいでキョロキョロしてる。

 俺には感じ取れないが、不審者を捕まえに来た騎士がどこかに潜伏してるのかな?


「あらあら、あなた何をなされているの? 出てきておはなしいたしません?」


 そう言って出ていくアホ見たことないよ。

 さてはお馬鹿さんだな?


「つかまえてもいいの?」


 女の全身からドス黒いオーラが漏れ出し、そいつが巨大な腕の形になって―――


「アーガイル君逃げろ!」

「こいつはやべえな!」


 巨大な腕が俺らが潜む屋根を圧し潰すみたいに降ってくる。俺は飛び出しに成功してお隣の屋根に移れたが、アーガイル君が捕まってるぜ。魔導師って基本的にフィジカル低いんだ!


 つかこの女やべーな。無詠唱で魔力の腕を作るのも初体験だし、射出速度も尋常じゃない。それをさらに七個同時展開とかキチガイすぎる。


「逃げられねえなら倒すしかねえな」


 三代目ミスリルソードに魔力を通し、いま必殺のみねうちチャージド・ストライク!


 パシッ。


「…………」

「…………」


 渾身の斬撃を片手でかぁるく真剣白羽取りされた俺とやべー女が空中で見つめ合う。

 どうしてだろうか、ものすごくガッカリされている気がする。


「タイプじゃなかった、はぁ~~~~(クソデカため息)」

「落ち込むからそーゆーのは心の中だけにしてね」

「そうね、ごめんなさいね、あなたにはとても失礼よね……」


 謝ったんだから落胆を顔に出すのもうやめようね。いい感じの後ろ姿だと思って顔を見たら思ったよりブサイクだったみたいな凹み方はこっちも辛いんだよ?


 掴まってたアーガイル君も魔力の腕に連行されて同じ屋根に降ろされる。どうやら俺ら如きでは敵にさえなれない超レベル戦士のようだ。見た目二十歳前後だけど。


「ん~~~~不審者さん?」

「覗き魔に不審者扱いされた!?」


 へへ、不審者なのは確かだから勢いのあるつっこみで攻撃しておくぜ。

 痛い腹のある人間は責められると弁明をしようとして、攻撃性能が落ちるんだ。たまに逆ギレしてくる奴いるけど。つまり今の俺だ。


「ちがうのちがうの、わたくしはただ気になっている殿方を遠くから見守って……」

「うんうんそうだね」

「お嬢さん、それは覗きっていうんですよ」


 やべー女が困り果てている。自覚症状ないやべー女らしいね。


「そお? でもでもこういうのって殿方は嬉しいのではなくて? 一途な少女ってとても人気があるってアルマから聞いたのだけど」

「一途な少女はお昼にやる奴だよ、夜にやったら変態のストーカーだよ」

「そもそもお嬢さんが迫れば嫌という男はおらんでしょう。どんとぶつかってごらんなさい」


 アーガイル君さりげなく紳士的な助言するよね。女性経験値十人は越えてないとできない奴だね。


 やべー女がアーガイル君をじぃっと見つめる。

 やがてクソデカため息を零した。マジかよアーガイル君イケメンではあるんだけどな。


「ちなみにどの辺がダメでした?」

「不潔そう、色々だらしなさそう」


 女性側の意見はマジ精神破壊魔法だぜ。俺から見たらけっこうカッコいいアーガイル君がワンツーで粉砕され、苦しげに胸を押さえてやがる。


「それはそれとして僕たちどうして不審者してるの? なにか事情があるならはなしてごらんなさい、お姉さん暇だから手伝ってあげるわよ」

「暇潰し?」

「だって何もすることないんですもの」


 暇で男漁り始める痴女に為すすべなく捕まったわけか……

 しかもタイプじゃないからリリースされたのか……

 顔面的にはリリース対象だけど暇だからちょっと付き合ってあげるとか、最近地味に増長していた男としてのプライドが粉々だぜ。へへ、でもこの雑な扱いも興奮するな!


 外国の大使のケツにスプーンねじ込みにきたなんて普通なら絶対にしゃべっちゃいけないテロ活動なのに俺の口は勝手にめっちゃ早口で説明していたんだ。だってさ、美人の痴女を目の前にして口を割らない男がいるか!? いねえよ!? いたらハニートラップなんて廃れてるよ!?


 へへっ、結局洗いざらいしゃべっちまったぜ。後は出方次第だな……


「ん~~~、こちらはハズレだと思うの」


 おや、協力的な発言だぞ? こいつはいける奴かな?


「その心は?」

「わたくしども外交大使はお外に出られないの。本当はね、お外のお祭りに行きたかったんだけど色々文句つけられて断られてしまったの。それはライアード艦長も同じはずだし、軍艦で待機している兵隊の仕業じゃないかしら?」


 痴女が外交大使団の一員なのは驚いたけど、有益情報ゲット。


 懐中時計を確認すると深夜回ってやがる。情報ゲットしたけど少し時間かかりすぎてるな。生命だけは保証されてる人質とはいえ時間のかけすぎは本気でまずいぜ、貞操的に。


「リスグラ港だとわかりゃ一瞬だ、飛ばすぜ!」

「全速力で頼むぜ! ……あのお姉さん?」


 急いでるんでその手離してもらえませんかね?

 今は淫乱なお姉さんのエロハプニングは必要ないですよ?


「お姉さんも一緒に連れてって♪」

「暇だから?」

「ええ」

「お嬢さん、戦闘になるかもしれませんよ?」

「それならそれで手伝ってあげるわ。それにお姉さんも行った方があとあと良い形に治まると思うの」


 俺とアーガイル君の脳裏に外交問題という巨大な文字が出現した。


 目の前の淫乱お姉さんは暇つぶしで外国大使団の護衛船舶と戦うらしい。何だかわからないけど同行は許可だ許可! この女やべー奴だけど邪悪な感じはしないしな! どこか閣下に似てるしな……


 逆らわない方がいいって本能がうーうー言っててね……

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