愛を信じない
色々あって二十層に到達した。
特筆すべき事は本当に何もない、バトラとフェイとカトリたんが無双した! 以上!
二十層へ続く階段の途中で作戦会議するぜ。
「では作戦案のある人ー?」
「「「…………」」」
お前らやる気あんの?
ピクニックに来たんじゃないよ、稼ぎに来たんだよ?
当方は活発な意見交換を求めている! 無駄な抵抗はせず、大人しく意見を出すように!
「馬鹿が。おい、作戦会議の前に一つ約束しろ」
「おっけーフェイ。約束とはなんぞい?」
「誰が何を言っても、いや金輪際この面子が何をやらかしてもスプーンを取り出すのはやめろ」
えー……
「なんだその顔は! この世の終わりみたいな面するんじゃない!」
「でも俺からスプーン取ったら個性なくなるよ? むしろスプーンが本体だよ?」
「お前の本体はお前だ! もっと自分に自信を持て!」
ガックンガックンめっちゃ揺さぶられる。
迫真すぎる。お前は意識高い系パワハラ上司かと言いたい。
「……トキムネ君はいい?」
「トキムネなら許す」
「フェイッ、てめっ、なに勝手に許可出してやがる! バトラの弟もなんでオレを目の仇にしやがるんだ!」
だってお前クソ馬鹿だもん。
イキリ方が俺そっくりで嫌い。つまり同族嫌悪だ。
「よかろう、トキムネだけに限定しろ」
「バトラ!?」
へへ、バトラのひどい裏切りで許可が出たぜ。元々トキムネ君以外スプーン使う気ねえから……
「ごめん、ハンス君にもいい?」
「リリウス君ッ、僕に何をする気!?」
「ハンス君はいずれ殺すかもしれない? 可能性が今のところ八割あるから……」
「じゃあ僕はすでに八割死んでるの!? うわーんカトリーさん助けてー!」
ハンス君がカトリたんに抱き着いた瞬間に、俺の中でハンス君死刑カウンターがカチッと一つ進んだのだった。
ってのは冗談だ、ハンス君別に悪い事してないもん。
自分に好意を持つ女性に甘えてるだけで、それがたまたま俺と同じ女性だったってだけ。
これで怒ってたら俺は本当にただの情けない嫉妬マンだ。
で、なんでまたカトリたんは嬉しそうにニヤニヤしてるんですかねぇ……
「二人の少年があたしを巡って争うとか……胸熱すぎる」
「カトリたんって可哀想なあたし大好き願望強めだよね……」
その強気のサムズアップやめよ。
あたしの事よくわかってんじゃんラブのちからだね、みたいなニヤケ面もやめよ?
「馬鹿どもは置いて作戦会議を始めるぞ」
馬鹿どもはマジ反省しろよ。
二十層の階層主、見た目が大きな百足のデッドリーエッジはタフネスに優れている。
ミスリル武器以上でしかダメージを与えられない外骨格を持ち、多少のダメージなら瞬時に回復する再生能力が厄介だ。
もちろん攻撃性能が低いわけではない。ミスリルさえ溶かす強酸を吐き、その名の由来となった百の足による鋭い斬撃も脅威だ。それにけっこう素早いらしい。
こういった諸情報はカトリたんが説明してくれた。変態だけど有能なんだ……
変態でさえなければ……
と思ってからの変態じゃなかったら高嶺の花すぎて俺相手にされない事実。
外見と戦闘力だけはパーフェクト美女だからね。
「大質量での突進攻撃だから陣形は機能しないよ。散開して個別に攻撃を加えるしかない。足の遅い後衛はそもそも十九層に逃がした方がいいかな」
「階段での待機も難しいか?」
「階段の前で噴射した毒液が上の階層まで届く奴だからね」
「回復支援は望めないか。負傷者は上の階層で待機するユイの下まで自力で向かわせるしかないな」
「戦闘が始まったら階段に逃げ込むのもよした方がいいな、あいつ逃げる奴優先で追うもん。重傷を負おうが継戦、それしかない」
俺のユイちゃんが二軍落ちみたいになっちまったぜ。
「ねえねえ、上で待機するユイを一人にするわけにもいかないでしょ。戦闘を考慮して何人割くか先に決めない?」
「高耐久の階層主相手にアタッカーは減らしたくないが、十九層のモンスターと戦える人数は必ず置かねばならない……か」
バトラがめっちゃ悩んでる。
超簡単な解決法があるけど、考えてみればステルスコートの凶悪な性能把握してるのカトリたんとフェイだけだわ。
「はいはーい! 俺がユイちゃん守りながら二十層に潜伏、負傷者がいればその都度回復、これで問題は解決だな」
「可能か?」
「デッドリーエッジ相手でも潜伏できるのは前回の攻略で確認してるよ。任せろ、ユイちゃんには傷一つつけない」
「私もアルテナの法力でみんなを守ります! リリウスとなら絶対にできます!」
お前たちそんな恋愛ドラマ見てる時の顔で俺らを見るんじゃないよ。
そして始まるデッドリーエッジ戦。
大空洞の天井に張り付いている大百足デッドリーエッジは、俺たちが二十層に踏み入った瞬間に弾丸の速度で飛来してきた!
わわっ、けっこう素早いってレベルじゃねえ!?
カトリたん基準の話かよ!
「各自散開! 最大火力を叩き込め!」
ドゴンッ!
大百足が階段めがけて超速突撃。
粉塵舞い散る中から各自バラバラに分かれて飛び出してくるが、大百足もまた狙いを定めて追ってきた。
カトリたん狙うとはお目が高い! 一番強い奴から仕留めたいんですね!
巨躯を伸ばしてカトリたんを追う大百足はマジでトンデモナイ超速度だが、カトリたんの方が倍速で速いとかカトリたん人外すぎぃ!
「ほっ!」
大百足を引き付けながらもミスリルナイフを投擲して両目を潰すカトリたん。
遠距離用に射程を伸ばした風の魔法剣で大百足の外骨格を叩き割って青い血を散乱させるバトラ。
飛び蹴りで大百足の五十節の肉体を吹き飛ばすフェイ。
矢の通る関節部へと魔法矢を打ち込むラトファとレテ。
火属性弱点なので大火球を叩き込むクラウ。
トキムネ君は逃げてないで戦おっか!
そして距離を取って戦いを見つめる俺とユイちゃんは恋人繋ぎで愛を深めている。
というのは冗談でユイちゃんは体力回復のリジェネーション・ヒーリング使ってる。ハンス君怖いのはわかるけど俺に抱き着くのやめよっか。
「おい、いるんだろリリウスお前! ちっとは働け!」
へへ、いやです。
空中に跳び上がったフェイが魔円斬なるドラゴン〇ールのパクり技を七枚降らせて大百足の体力を大きく削る。
同時に大百足がカトリたんから狙いをフェイに変更、節体を立てて空中のフェイに牙を突き立てにくる。
「所詮は虫、釣られたことさえわからんか」
フェイが繰り出した特大の魔円斬によって顔面を叩き割られる!
特大の魔円斬は大百足の顔面を割るだけに留まらず、五十節の肉体の内十二節まで破壊して大空洞の地面を破壊した。……あいつマジで化け物化してるな。
絶命していてもおかしくないダメージを負った大百足が停止した!
「好機だ、止めを刺すぞ!」
バトラの号令とともに大百足へと遠距離攻撃が殺到する。
この盛大な連続爆発、〇ンダムシード見てる気分だ。
いい感じに見えるけど……
「無理だな」
「倒せませんか?」
「フェイの与えた大ダメージがもう治りかけてやがる。派手にダメージ与えてるように見えて再生能力を下回ってるんだ」
大百足の二つに割れた頭部の肉腫から触手が伸びて繋がろうとしている……
途中までいける気がしてたけど、カトリたんのクラウ・ソラスに六発耐えた化け物だって忘れてたぜ。
カトリたんでさえスタポとマナポがぶ飲みで倒した化け物に、俺ら程度の火力じゃ無理があるんだ。
ユイちゃんと一緒にカトリたんの傍まで寄ってって透明化譲渡。
「撤退?」
この化け物状況判断は的確ですね。
なんで変態やってるの? 世界の損失だよ?
「継戦。カトリたんはクラウ・ソラス準備。ユイ、カトリたんにリジェネーション集中してくれ」
「かしこまり♪」
「はいッ!」
癒しのアルテナの黄金の輝きがダメな子一号を包み込む。
黄金に輝く変態とか……
変態の文字通りの変態火力を失った遠距離連撃では火力が足りず、大百足の両断されていた十二の節が繋がる。
チャージの三分保たないとかこいつら……
「少し足りないけど、いけるかな?」
不敵に微笑むカトリたんが普段は遣わない短杖を頭上に軽く放り投げた。
「モード・トライデント!」
そう唱えると頭上の短杖が槍に変化しやがった。
嘘だろ、この化け物そのクラスのマジックウエポン持ってたの!?
非常に強力な魔法武器の中に、特定のワードを唱えると形状変化する物があるってのはマメ知識で知ってたけど見るのは初めてだ。
柄の長さが二メーターはある三又槍か。漁業に使うわけじゃないよね?
「汝が主が命ずる! クライスラーの神槍よ、能う限りの権能にて我が怨敵を凍結せよ!」
純白の雷撃を纏った穂先を掲げてカトリたんが跳ぶ!
今にも再始動しかけている大百足の頭上に跳び上がったカトリたんが、やべー魔法武器を一閃!
その瞬間大百足を含めた周囲一帯が凍結した。
一瞬で大百足を含む周囲一帯を包む大氷が出現したぜ。こんな感じの封印魔法なんかの漫画で見たわ……
世界観が違いすぎる……
俺がちまちま練習してランプの魔法覚えようとしてるのに……
伝説の大魔法使いが命を賭して使うような大封印魔法をチャージ二分で放つとか……
「……マジか、姉御マジか……僕はあんな化け物に腹筋明け渡すのか……」
フェイが一瞬で降伏して姉御呼びになってる。
「武の極み……まさかこれほどとは……」
バトラが挫折しそう。
「クライスラーの神槍、まさかフェスタ選帝公クライスラー家秘蔵の神代の魔法具をお持ちとは……」
クラウはこんな時もメガネ君の名に恥じない解説っぷりだぜパネー……
どんな矜持がこいつを突き動かしてるんだ。フェイのつっこみよりすげえ……
「ほへー、すっごいねー……」
レテが理解を放棄してる!
美少女なのにアホの子みたいな顔になってる!
カトリたんが槍をクルンと回してどや顔してる……いつも通りだ……パネー……
「少年諸氏」
「「「は…はい」」」
「恋してもいいのよ?」
「いや……」
「そのぅ……」
「無理っす……」
フェイとハンス君と俺の心が今一つとなった。
やべー化け物に恋なんてできるかよ……
大空洞のあちこちに散っていたみんなが集まってきた。
「やばいわねー」
「ええ、これはやばいですね」
「本当にやばいな」
「やばすぎでしょ」
やばいだけで会話が成立する不思議。
全部カトリたんのせいだわ……
だってみんなカトリたんから距離置いてるもん怖いもん。
しかしマジで一撃とはなー、驚きすぎて言葉にならない。
クラウ・ソラス七発でようやく倒した化け物を一撃とはなー……
「おかしくね!?」
「だよね! 絶対恋しちゃう場面だよね!?」
ちょ―――今シリアスなトコ!
「倒したのに死体が消えないのおかしくね!? それとも凍らせてるから土になったり光になったりしないだけ!?」
みんな一斉に大きな氷に閉じ込められてる大百足へと振り返る。
それは擬死だったのだろう。窮地に陥った自然界の生物が稀にやる擬態の一種、死んだフリだ。
巨躯を振るわせて大氷をぶち破った大百足が弾丸の速度で飛び出してカトリたんに牙を突き立てにくるが俺が一歩早い。
透明化譲渡させながら横から飛びつき、捕食攻撃をかわした。
背中ビリっていったぞ! 俺大丈夫か!?
「ほっ、服だけだわ」
「リリウス君ステキ!」
大百足が暴れ出した。以前来た時と同じで標的を定めない大暴れだ。
こうも暴れられると近寄るのは危険だが―――
「たまには真面目にやりますか。ついて来れる?」
お求めは透明化ですか。普段とは真逆に冷たい目をするカトリたんに促されたら否とは言えねえぜ。
本性は冷酷なのに俺と二人の時だけ甘いお姉さんに甘々にされたい願望もあるからな!
「行こう!」
五十節の巨躯を質量爆弾みたいに振り回す大百足まで一直線で駆け抜け、跳躍!
その頭部に神槍クライスラーを突き立てる!
「権能が其の五 ≪冷凍雷撃≫ 承認せよ、我が敵の破滅を!」
結果から見ればデッドリーエッジは瀕死だったに違いない。
瀕死のまま再生すら許さない大氷の檻に閉じ込められ、マヌケな冒険者が立ち去るのに一縷の望みを懸けていたのだろう。
この巨大な虫にそのような知性があるとすればだ。
だが望みは断たれ冒険者は気づいてしまった。だから最後の賭けに出た。
頭部に突き立った神槍クライスラーから生じた一条の意思持つ雷撃は五十節すべてを貫通し、触れるすべてを絶命させるだけの凍結のちからを全開にしてデッドリーエッジを破砕していった。
神槍クライスラーから冷凍雷撃が放たれたコンマ二秒後、二十層階層主デッドリーエッジは粉微塵に砕け散った。
へ、この変態すげーよ。すげー変態だよ。
デッドリーエッジを倒した後、俺の身に押し寄せたのは圧倒的喜悦だった。……生命の危機から脱したおかげで全細胞が万歳三唱なんだ!
「リリウス君!」
「カトリたん!」
「「ベストパートナー!」」
がっちり抱き合って生を実感する。
生きているって素晴らしい! そしてこの化け物ほんとにエロい肉体してるんだよね……
「リリウス……?(重低音)」
ひぃぃぃぃいぃ! ユイちゃんが怖い奴だ!?
カトリたんを思い切り突き飛ばす。反動で俺だけ離れるかと思ったらカトリたんが普通に尻もち着いた。
か弱いフリとか遅すぎんだよ! もう恐怖刻まれてるんだよ!
「……もしかしてほんとにお疲れモード?」
「クライスラーの反動でね。マナポくれる?」
一気に五本飲み干した。強力な武器だと思ったが消費量も相当らしい。
やべー武器だけあってやべー副作用ありそう。
「副作用的なのは大丈夫?」
「魔力ゴリゴリ削られただけ、へーきよ。それとも平気じゃないお姉さんの方がお好き?」
性癖的にそっちも好き。
お強い女が弱り切ってるシチュとか最高に高ぶるけど今はちょっとね。
後ろから圧きてるし。
ニパっといつもの笑顔になったカトリたんが右手を差し出してきた。
「あたしに嫌なところあったら治すからさ、また一緒に暮らそうよ。リリウス君明るくて楽しいから、寂しいんだ」
「いや、でもさ……」
「あたしリリウス君好きなの、だから愛を信じよ?」
俺はカトリたんの手を……
「カトリたん、別に俺のこと好きじゃないよね?」
握らない。
過去は過去。今は今。
俺とカトリたんはとっくに終わっているんだ。
Name: ユイ・ファザンゼール・アルテナ
Age: 17
Appearance: 純白の乙女
Height: 154
Weight: 44
Weapon: アルテナ神の法杖(C)
Talent Skill: 未来視E 友情の輪B 体術C
Battle Skill: アルテナの秘儀(A)
Passive Skill: アルテナの信徒A 信仰心C 絶望B 研鑽B
LV: 14
ATK: 178
DEF: 121
AGL: 242
MATK: 542
RST: 653
聖七位階との話だが神殿の者は相変わらず見る目がない。私ならば四位階を与え最奥殿で祈りの日々を与えただろう。神官長バノグの愚かしさには腹立たしさしか覚えぬ。アルテナの秘儀Aまで修めながら信仰心がランクダウンしているのは絶望の発芽によるものだ。敬虔な信徒ほど苦界の汚さには耐え切れぬものだ、実に惜しい。
孤児という身分から身を立てるために腐心した結果研鑽が発芽している。あらゆる分野の習得を早める研鑽Bと体術Cの組み合わせを考慮し僧兵への転職も妙手と言えるが、アルテナの信徒は攻撃性が低いため悩み所だ。いっその事魔導を修めるのも手かもしれぬ。ラサイラ魔導学院はいつなりと彼女のために門戸を開くと確約しよう。




