冬に咲く青いバラ(終)
ありがてえ。
ブクマ増えてたり感想書いてくれてたり感謝です!
へへ、読者さんには足を向けて寝れねえぜ、今日から直立不動で眠ります! ブラジルの人は許して!
ダンス&ミュージック!
歌って踊っての楽しい大晦日を終えて迎えた元旦。誰もが寝静まった午前四時、俺は屋敷の屋根からロープを使って垂直懸垂である。
「姫初め~、姫初め~♪」
三階の部屋で寝てるお嬢様に夜這いに行くぜ。
ご安心めされよ! 可愛い寝顔を堪能するだけだ! 二次ならともかく三次元のロリに手を出す輩は―――うらやまッ、許さない! 絶対に! 許されない!
なお前世において逮捕歴がないことだけはハッキリと主張させていただきたい!
お嬢様の寝ている客間に到着。窓の下に薄い金属の板棒を差し込んでゆっくりとスライドさせる……ロック解除。
さあ侵入だ! 窓に指を差し込んで押し上げようとした時、俺の隣に誰かいるよ!?
「…………(絶句)」
「…………(絶句)」
どこかで見た覚えのあるハゲと俺が、お嬢様の眠る部屋の外で、キスできる距離で見つめ合う。
このイベント必要!?
「お前は……同業者だったのか?」
「いや、俺は通りすがりの変態だぜ」
男達の間に再び長い沈黙が落ちる。
どんな状況!? ねえこれ何が起きてるの!?
「……夜這いか? まさか新年早々?」
「今年初の男になりたい、それだけさ」
俺達は見つめ合い、ひたすらに見つめ合い、やがて友情が生まれた。
ハゲが左手で握手を求めてきた。
俺も左手で握手に応じる。
「お前の健闘を祈ろう」
「感謝する」
がっしりと握手を交わす。
その瞬間、パッとロープから手を離したハゲが腰から殺人ナイフを抜き放ってきた。抜刀から斬殺までを一つのモーションで行うとは器用な! そして気が合うな!
俺もほぼ同時にロープから手を離して鞘からミスリルソードを抜き放っている。
もしかしたら良い奴かもってミリ思ったけど、夜間にうちの屋敷に侵入しようとしてる泥棒を見逃すわけねーだろ!
シェイクハンド・ナイフ・デスマッチだ!
三階から落下しながら短剣を交錯させる。刃と刃を打ち合わせ、火花を散らしながら鍔競り合う! 腕力はほぼ互角と見た!
地面に落ちると同時に、互いにパッと後ろに跳んで距離を取る。
中腰に構えるハゲに隙はない。
やべえ、泥棒の分際でけっこうな手練れだぞ……
「食えねえガキだ、初手で殺されてくれりゃ面倒もなかったんだが」
「初対面のハゲは信用しないことにしていてな」
「しょ……まあいい」
ん? 思い出した、こいつ青の薔薇の拠点にいたハゲじゃん。ハゲのボスじゃん。
以前よりだいぶ痩せこけて人相変わってるし、指も二本欠けてるから気づかなかったぜ。
「マクローエンに逃げ込んだのか」
「おかげでこの様だ」
ハゲの右手は人差し指がなく、小指も第一関節から取れてなくなっている。凍傷だな。
真冬の連峰越えなんて地元民でもやらない。ハゲみたいな目に遭うからだ。
ハゲが俺の周りを緩やかに回り始める。
腕の振りや太ももの動きはやけにゆっくりだが足の速さそのものは競歩よりも早い。緩急と錯覚を利用したテクニカルな幻惑歩法と見た! 忍者マンガでおなじみのやつだ!
理屈では見抜いてるはずなのにハゲが分身して見える……
ハゲが増えるとか誰が得するんだよ!
「殺人舞踏『死曲』 見切れるとは思うな?」
フッ―――芸達者なハゲだがステルスコート先生は無敵だぜ?
って! ステルスコート着てくるん忘れた! 大晦日に洗って干したままだぞ!?
「舐めんな!」
素早く後ろに振り返ってミスリルソードを水平に薙ぐ―――くそ、間一髪でかわしやがった。
受けに回るとやべえ。連撃で攻め立てるぜ!
「うおおおおおおおお! い・ま・必殺の上段斬りぃぃぃぃいいい!」
と見せかけて背車刀で右手のソードを左手にスイッチ、下段から出足を狙うが殺人ナイフで斬撃の方向を変えられる。
このハゲやはり強い!
なおも連撃で攻め立てるが、中腰のままスッスッ―――と後ろに下がってカウンター狙ってきやがる。僅かな隙も見逃すまいとまばたき一つしない暗い目を、俺の速度では出し抜けない。
だが森の拠点で戦った時ほど圧倒的な技量差は感じない。真冬のマクローエン滞在の間に相当体力すり減らしたらしいな。
「だいぶ弱ってんじゃん。おうちに帰るなら見逃してやるぜ?」
「……ガキ相手に逃げるほどじゃねえさ」
「強がらないで!? おうち帰ろ! 故郷でおふくろさんが泣いてるよ!」
「帰るべき場所などない」
悲しいハゲだな。
しかしこいつのふところ遠いな! 掠りもしないぞ!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
大振りは控えて手数は多め、狙いを上下に散らして超攻撃的耐久策!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! うおおお! ゼー…ゼー……うおおおお!」
こんだけ大声で戦ってるんだから誰か気づいて!?
みんなー、リリウス君がピンチだよー! みんなの応援がリリウス君のちからになるよー。応援は物理的なものでお願いします。本当にピンチなの!
「威勢のわりにショボいのしか打ってこない……救援待ちか」
バレてるじゃん!
「そんなわけがあるか、俺は帝国騎士ファウル・マクローエンの息子だぞ。そんな卑劣なマネをするわけがない! するわけがないッ! 俺のッ、曇りなき眼に誓ってッッ!」
「暗黒みてえな目ぇ泳がせてよく言うぜ」
失敬な。
「助けなら来ねえよ」
……来るよ? 来るよね?
閣下何してるの? 出番ですよ?
「あー、くそ! こんなガキにまで舐められると心にクルぜ、このアルザイン様が何の準備もせずに仕掛けるわけねえだろ。パーティーのな、酒にちょいと仕掛けをしておいたんだ」
ハゲが殺人ナイフの鞘を掲げて、逆さにする。中からドロドロの液体が零れてきた。
「こいつは即効性の麻痺毒だが混ぜたのは遅効性、ちょうど今頃効いてくるやつさ」
「……ハゲ、俺を怒らせると死ぬよ?」
姉貴に、お嬢様に、毒を盛った奴は殺す。
思考はシンプルであればあるほどいい、その分行動が早くなる。
目的を一つに絞れ、一つに限定しろ、ハゲはたしかに格上だが俺のあらゆる攻撃に対応しなければならないハゲよりも、俺の単純化した一つなら速度で勝る!
選択肢1 ステルスコートを取りに戻る ←
「ッッ!」
背中を向けてダッシュで屋敷にダッシュでGO!
へへん、ステルスコート先生さえありゃお前なんてカスよカス!
無防備に背中を向けた俺には当然投擲具が放たれるはずなので飛び込み側転!
俺が駆け抜けるはずだった雪上に湾曲した殺人ナイフが突き立つ! え!?
「…………」
「…………」
俺はその場に立ち止まり、ハゲを見返す。
ハゲも無言で俺を見ている。
ハゲと俺が交差する時、物語が終わる!
「おい」
お前武器それしか持ってないよね?
「……しくったぜ。あー、くそっ! ツキがここまで落ちてやがんのか! やめだやめだ、閉店! 本日の営業はもうおしまいだ馬鹿野郎この野郎!」
ハゲが雪上に座り込んだ。
もうどうにでもしろ!って態度だ、へへ、一思いにザックリやっていいかい?
「完全に必殺のタイミングだったのはわかるけどさ、唯一の武器投げちゃうのは思い切りよすぎない? 勝負焦りすぎだろ」
「元気一杯なお前さんとちがって俺も年でな、足が……満足に動かねえんだよ!」
ハゲがブーツを脱ぐと凍りついた指がポロポロ四つ零れ落ちてきた。年っつーか凍傷だな。
ブリザード荒れ狂う零下五十度の連峰を越えてきたら普通こうなるよね。夏場に地元民が地図持ってても越えるのに四日かかる連峰なめんな。抜けるの二週間はかかったろ? それでも遭難してねえだけ宝くじ一等前後賞分のラッキーだからな。
「おいハゲ、投降するなら命だけは助けてやるぞ?」
「アホぬかせ、この場で死ぬか後で死ぬかの違いだろ?」
「嘆願書くらいは書いてやんよ。どうせ帰る故郷もねえんだろ、協力すれば待遇だって多少は考慮してもらえるだろ」
屋敷から押収した大量の書類にはやっぱり解読表がなかった。
こいつが協力的ならあの書類にも価値が出てくる。こいつ自身にもだ。生きてしゃべる解読表なら多少扱いもマシになるだろうぜ。
「……本気か?」
「待遇に関しちゃお前の協力次第だよ。一度死んだ気になって今度は帝国のために働いてみろよ」
ハゲがハゲ頭をボリボリやる。
だいぶ迷ったらしいが、やがて膝をパンと叩いた。
「仕方ねえ、仕方ねえな。仕方ねえから投降してやる。勝者はお前だ、投降する! 」
ハゲ陥落。
ハゲを落としても嬉しかねえよ!?
「じゃ、その場で服を脱げ」
「こっちなのか?」
右手の甲で頬をペチペチやってのゲイ疑惑。ちゃうわい。
「念のためだ。沿海州のアサシンを武装も改めずに捕縛できるか」
「疑り深いガキだぜ」
立ち上がったハゲが服を脱いでいく。パンツも脱いだので全裸だ。
PK時のディフィンダーみたいに股間隠してやがるが跳ぶ気かお前? 揺れると見えるぞ?
「捕虜ってやつかあ……尋問するのは慣れたもんだが捕まるのは初めてだ」
「すぐに慣れるさ」
「嘆願書書いてくれるんだよな!?」
打てば響くなこいつ。すぐにでもコンビ組んで新喜劇に出られるレベルだ。
波長が合うのかもな。
だからこいつはそんなに悪い奴ではないと思うんだ。生まれた国と立場と肌の色が違っただけで、その程度の違いなら仲良くなれるってのは日本人の俺はよく知っている。ハゲと仲良くする気はねえけどな!
腰に巻いていたロープの一束でハゲの両手を拘束し
ハゲの首が跳んだ。
緑光の閃光が一筋の刃となって宙を駆け抜け、ハゲの首を切り落としていった……
俺の頬に生温い血液がかかった。
俺は、俺は……差し出されたハゲの両手を取ることさえできず、放物線を描いて雪上に落下する頭部を見ていた。
ハゲは、気のいい苦笑を浮かべたまま死んでいた……
「なぜだ!」
感情が抑えきれない。
「なぜだ!」
俺はなぜ見知らぬハゲのために怒るのか。
「なぜだ!?」
こいつとはほんの少し話をして、刃を交えただけの関係なのに!
「なぜだ、説明しろ――――親父ぃ!!」
飛翔魔法で空中に浮遊する親父殿が俺とハゲを見下ろしていた。
なんで殺した!?
こいつはもう投降していたのに!
「リリウス、それは無理だ、無理なんだ」
「その無理はどこにかかった無理だ!」
工作員は拷問して処刑するしかないのか。騎士団は協力的な捕虜にも容赦はしないのか。こいつはどうせ遅かれ早かれ死ぬしかないからか!?
「彼はまだ組織を裏切っていない。組織への裏切りは、彼らにはできないんだ」
親父殿がハゲの心臓を指差す。
尾を噛む蛇ウロボロスの入れ墨の内側には細かく小さな文字がびっしりと書き込まれている。
「アサシンギルドの呪いだ。この入れ墨を刻まれた者はここに書かれたルールを逸脱した瞬間に心臓が破裂する。彼らにとって投降は潜入する手段の一つだが、その口から組織を裏切る発言は絶対にできない。なにより……」
親父殿がハゲの頭を手に取り、その顎を開いた。
下の前歯の二本の間に穴があり、中には短針が詰まっている。こいつはまだ諦めていなかった。吐出式の短針は射程が短いので俺を近寄らせる必要があった。俺は殺される寸前だった。そう言いたいんだろ親父殿……
そんな切なそうな面するなよ。理解した、理解したよ俺が甘かったんだ……
殺す度胸もないくせに剣を手にした俺が甘かったんだ。
「怒鳴っちまって悪かったよ。感謝してる、ありがとう」
「強がるなよバカタレ。こんな時くらい俺に甘えちまえ」
子供みてえに髪をぐしゃっとやられちまった。
でかい手だ。これが親父の手ってやつなんだな。まったく忌々しいほどでかいぜ。
「初めてってのはきついもんだ。女のあそこと同じでな! ガハハハハ!」
下ネタでおさめるんかーい!
俺の感動を返してください!?
「おーい、バトラ、ファウスト、お前達からは何かないのか!」
あいつらいんの!?
どこだよ、って思ったら屋敷の屋根からロープ垂らしてぶらさがってるわ。
まさかお前らも夜這いに来たのか!? そんで俺とハゲの決闘見物してたんか!?
おい、もう一本ロープあるけどあれ親父のじゃないよな!?
強者のオーラ出しながら腕組んでるけどお前ら完全に不審者だぞ?
「ま、リリウスにしてはよくやった方じゃねーの? 俺なら瞬殺したけど」
いや、お前なら五秒で負けてたよ?
「バトラに同じ。この程度の相手に苦戦している者がマクローエンを名乗るなど不愉快極まりない」
ファウストお前がそのセリフは滑稽極まりないからな?
お前アルドの投石で気絶したうえにうんこ漏らしたマクローエン最弱だからな?
「はははは、お前達は手厳しいなあ!」
親父殿がめっちゃ快活に笑って大団円の雰囲気作ったな。
水戸〇門ならここでカメラが引いて終わってるぞ。
「てゆーか酒に混入された麻痺毒設定どこいったんだ?」
「酒屋が納品した酒を毒見もせずに客に振る舞うホストがいるか」
それもそうだな。
あのハゲ見通し甘すぎじゃね? 寒さで頭までおかしくなってたの?
やがて……
東の空から朝日がのぼってきた。
ウェンドール暦800年が始まりを告げるご来光だ。
兄弟三人揃って親父の下に集まり、黄金の輝きに照らされて青白く輝くマクローエンの大地、その美しさに息を呑んだ。
「親子そろって迎える新年ってのはやはりいいもんだな!」
「「「うーん……!」」」
俺達は思った。本当なら可愛いあの子と迎えるはずだったのに野郎四人でのご来光はロマンチック欠けすぎじゃね?って思った。
でも親父殿が嬉しそうだから明確な言葉にはしない。俺達は空気の読める男子なのだ。
「ほら、お前らにもあげよう」
親父が凍りついた薔薇をくれた。
マクローエン名物の水晶花だ。これはアパム連峰でのみ採掘できる希少鉱石で、詳しい説明は省くが花の形をしたまま固まった水晶なのである。頭の良い人はなんとなく察してると思うんだ! 詳しくは化学の先生に聞くように! 俺にはわからなかったから!
「これは……」
「薔薇の形とはまた珍しい……」
「息子へのプレゼントにしてはロマンチックすぎんだろ」
「こいつを朝日に透かすとな」
透明な水晶の薔薇が朝日に輝く凍土のような青い薔薇に変化した。
わあ、こんなんときめいてしまうやろ!
親父殿が親指握り込んで、苦み走ったダンディスマイルだぜ。
「これ使っていい雰囲気になってこい」
女口説くテクに関しちゃあんたほんとすげえよ!
こんなステキアクセ貰ったらどんなお固い女もメロメロだよな!
俺とバトラとファウストの心は今一つとなり、親指をぐっと握り込んだ拳を親父殿へと掲げた。
今俺たち最高に輝いてる。
そしてみんなで円陣を組む! 兄弟間で女被ったら悲惨だからな!
「へへっ、俺ロザリアお嬢様!」
「フィローさんは俺が貰うぞ!」
「誰だよ、右目が疼くッ!の人か?」
「そうそう、あの片目隠してる子」
「私はルアート嬢を狙おうと思っている」
「ストレートに一番の高嶺の花食べに行く兄貴パネーな!」
「あー、なんだかんだで一番豪胆なのファウスト兄貴だよなー」
「俺はランスベルク家のお嬢さんだ。よし、みんな被らなかったな!」
「父上!?」
「親父殿はやめよ!?」
「母上がまたお怒りになられますよ!」
親父殿がこの中の誰よりも可憐で美しい水晶花を掲げる。
こいつ本気すぎる!
そして屋根から垂らしたロープに戻り、木戸を一斉に蹴破って思い人の待つ部屋へと侵入する!
「お嬢様、俺と一緒に朝チュンしましょう責任取らないけど!」
「フィローさん、俺はあなたのことが―――」
「永遠に枯れぬこの花が私の気持ちです!」
「お嬢さーん、大人の男性と恋しませんか!」
「「「「まる聴こえなのよー!」」」」
不埒な変態どもは、待ち構えていたお嬢さん方の拳でお星さまになりましたとさ!
一方その頃、マクローエンの屋敷の遥か上空数千メーターで閣下がニヤニヤしていた。
ニヤニヤニヤニヤ何を企んでいるのか薄気味悪いほどだ。
「あのままロザリアに手を出していれば、問答無用で帝都に連れ帰れたのだがな」
帯電する神剣アキシオンを鞘に納めた閣下が、肩を抱く女性の頬にキスをする。
彼のその瞳に劣情はない。愛情もない。執着さえもない。
だが利だけはある。彼は利害関係だけで女を抱き、女もまたそれでよかった。決して手に入らない者に触れるため、己が心を殺せるのも女という生き物が持つ強さの一つだ。
「どうやらお前に動いてもらう必要がありそうだ」
「閣下の望まれるがままに」
女は心からの愛を込めてそう囁いた。
焦がれるほどに愛する貴種が今だけは己の物……そう信じ込むかのように。
番外編第一幕はこれにて閉幕です。
次回の番外編『殺害する本能』はサン・イルスローゼでの物語を少しやってから書きますぜ。




