光の公女
前回、あれよあれよと年上の悪女の家に連れ込まれてしまった俺はお風呂タイム。
白鳥を模したガラス瓶に入った、お高そうなシャンプーで頭をわしゃわしゃ泡立てながら、久しぶりの文明の香りを楽しんでいる。
今まで散々異世界インフラをカス呼ばわりしてきたが、空中都市のインフラは現代日本とさほど変わりない。
周辺諸国が中世みたいな暮らししてんのにこの国やべえ、さすが魔法大国だぜ。
なみなみとお湯を張った浴槽で足を伸ばしてのんびりする。
「落ち着かねえ……」
俺もすっかり中世人化してて、いきなり現代みたいな暮らしに放り込まれたせいで上京してきたばかりの広島男児みたいになってるわ。キョロ充みたいになってるわ。
浴槽の縁にランタンみたいなアイテムがある。
金属網の中に真っ赤な水晶を内包するこのアイテムは水温をあげたい時に使えとのことだ。
試しにランタンを湯につけると、ランタンに接したお湯が沸騰し始めた。
理屈はわかった。つまりは水と化学反応して発熱するマグネシウムみたいな物質なのね、それを使って好きな温度にしろってことね。
「う~~~~~ん、文明の香りがする」
シシリーたんいつも良い香りしてたけどこのシャンプーだったのか、なんて思いながらのんびり入浴。
ちなみに一階にクリーニング屋のテナントが入っているらしく、脱衣場の壁にあるダストシュートみたいな穴に衣服を放り込んでおくと翌日の朝にはピカピカに洗濯されたお洋服とご対面できるらしい。パネー。
脱衣場を出ると良い香りが漂ってきた。
帰宅前に寄った向かいのレストランのケータリングが届いたらしい。
パスタの大皿とヤムー肉の煮込みシチュー、デザートはミルクアイス六種の果実のソースを添えてである。ガラス容器の中でデザートがキンキンに冷えてやがるぜ、悪魔的な視覚効果だパネー。
「パネー……」
味も当然のように極上。
上質な肉は噛めば噛むだけ濃密な味が染み出てくる。魚介たっぷりの海老クリームパスタとのコンボでいくらでも食べられる。シチューも素晴らしくパンで皿を綺麗にするみたいに完食する。
アイスもいいね。濃厚なミルクアイスはバニラビーンズがほどよく利いて単品でもうまい。六つの小皿に分けられた果実のソース付けたらもっとうまい。キウィフルーツみたいなソースが一番だった。
極上すぎる。ラタトナの夜会思い出したけど貴族御用達の星付きレストランらしいし当たり前だよね。
金額は気にしない。俺は無粋なマネはしない空気の読める男子だ。
「シシリーたんマジいい暮らししてるね」
シャンパンを傾けながら薄く微笑むシシリーたんが完全に年上の悪女です。
遊びで手を出された場違いな童貞みたいに俺なってるもん。
「リリウス君の瞳に乾杯」
「そのフレーズ気に入ったのね」
この後めちゃくちゃカトリたんの愚痴大会やった。
シシリーたんも相当溜まっていたらしい。
山ほどの愚痴が出てくるけど親友ってそういうものだよね。山ほども文句がありながら、それでも仕方ないって許せるほどの親愛があるから親友なんだ。俺そーゆー人物いないから憧れるね。
食事後、マンション付きのメイドに頼んでケータリング容器を持ってってもらうとシシリーたんが本題みたいに言うんだ。
「それじゃあ寝室にいこうか?」
「…………」
選択肢1 今夜は寝かさないよ
選択肢2 君のすべてを知りたいんだ ←
選択肢3 ダメだ、僕らはまだそんな関係じゃない
脳裏に浮かんだ選択肢から亜音速で二を選択。
一でも変わらねえじゃんフレーズの問題か?って思うかもしれないが前回もてあそばれた時にそれ言ってるんだよね……
最近なぜかモテている。
基本的に非モテの俺は領民の女子にはツバを吐かれ、屋敷の女中には無視され、道端を歩けば目を逸らされる。
最近なぜかモテている。人生に三回訪れるというモテ期なのかな?
寝室に行くと天蓋付きのクイーンサイズの寝台が俺をお出迎え。ドキドキしてきた。
シシリーたんはベッド……には行かずに横手のサイドテーブルへ。
棚を漁ってブランデーの瓶をどんと置いた。
「第二ラウンドよ!」
「つまりカトリたんへの愚痴がまだまだあると」
「おーし、今夜は寝かさないわよー!」
ロックグラスとブランデー掲げて叫ぶシシリーたんをハイライトに本日はここまで。
この後めちゃくちゃ愚痴大会を開きましたとさ。
見ず知らずの少年を家にあげるのは危険だと言われた。
気に入ってるから入れてあげると言い返してやった。
内心「生意気なことを言うのね」と思っていたし、招いた理由もそうじゃない。
好意ではなく友情、でもそれは彼への友情ではなくて、誰への友情かと尋ねられたら変態の馬鹿みたいに明るい笑顔を思い出す。
あれとは長い付き合いだし何度も絶交したけどそれでも切れない友情がある。
切っても切れない腐れ縁というやつだ。でも男女の縁なんて割合あっさり切れてしまう……
彼が去ればあいつは落ち込むだろう、自業自得だとお説教するのは簡単だけど慰める手間を考えれば簡単には済まなくなる。だから一肌脱いで縁を繋いで引き留めた。
彼もそうした裏事情には気づいているふしがある。
彼はまだ子供だけど世渡りというものを心得ている。
好意と悪意の間で揺れる利益の存在を理解し、何より自分に価値を見出していない。
自分は価値ある人間だなんて思いこめば、自己評価の高さに応じて周囲との摩擦に疲れていく。
そういった意味では彼は間違いなく苦労人だ、あの年齢で自分に何ら価値がないと悟ってしまっている。
でも正しいのかもしれない。
自らの価値をゼロとすれば世の中は割合生きやすく、低いながらも楽しめる。多くを望まない生き方はわたしと少し似ている。
幸せになりたい。でも幸せにはなれないと心のどこかで気づいていて、それなら精々楽しんでしまおうと自棄になっているんだ。
そういった意味ではわたしもカトリも彼も同じなんだ。
わたしたちは本当に何も持っていない。だから多くを諦めた。
でもカトリは違う。違うはずなのに、わたしたちと同じで諦めてる。
誰もが羨望してやまないほどの美貌と才能と高貴なる生まれを持ちながら、真に輝く宝石ではなく、宝石に似てるだけの色のついたビードロを手に入れて満足するカトリは、本当に理解に苦しむ。
欲しいなら手を伸ばせばいい。
それだけの才能があればなんだって手に入るはずなんだ。
「なんで我慢するの!」
「なんで諦めるの!」
「なんで!?」
何度も何度もケンカしてきたけど、あいつはその度に馬鹿みたいに明るい愛想笑いで誤魔化すんだ。
わたしはカトリが好きで大嫌い。わたしとは違うから。
中世の劇作家ルナールは人生は舞台だと言った。人はみんな役者で、キャストの数だけ物語があり誰もが主人公なのだと言った。
でもどんな物語の中でも端役にしかなれない哀れな女優がいることを、夢物語の中で生きてる彼にはわからなかったのね。
カトリは主役。この太陽の国の大舞台で誰よりも強い光の中で舞い踊る美しいお姫様。
光の公女の舞を舞台袖で眺めているだけの大勢の端役、それがわたし。
でもそれでいいと思っている。
光り輝くカトリを羨ましそうに見つめているだけでわたしは幸せだ。
わたしはカトリが好き、憧れも崇敬も全部カトリに捧げてきた。
わたしはカトリが大嫌い、わたしの期待を裏切り続けてきたから。
カトリーエイル・ルーデット、わたしの光の公女……
Name: シシリー
Age: 23
Appearance: 都会の高嶺の花
Height: 169
Weight: 52
Weapon: ミスリルの短剣(A)
Talent Skill: ディアンマB 魔力増大D 魅了D
Battle Skill: フレイムランス(D) etc
Passive Skill: 看破D
LV: 10
ATK: 27(同じレベル帯の一般人の平均値47)
DEF: 32(34)
AGL: 33(33)
MATK: 892(0or27)
RST: 842(12)
戦闘とは無縁の一般職であるがディアンマの加護により魔法力における数値は非常に恵まれている。多少の魔法攻撃も可能であり、不意をつけるなら高レベル帯の冒険者も即死せしめるであろう。
すでに精神失調の兆しあり。他者の思惑を高い確率で察する看破の能力が暴走の引き金となる可能性は大いに考え得る。




