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冬に咲く青いバラ(07)

 炎に包まれる森は混沌混乱の極みにある。


 火勢から逃げ惑う魔物どもを蹂躙する騎士団は侵略する剣を振りかざし、幾多の悲鳴を量産する。


 そんな騎士団の前に一匹の巨大な黒虎が現れた。

 勇ましい黒虎の魔物は威嚇するように吠え、三人の騎士も身構える。


「こいつか……?」

「見た感じただのガイアルビーストだが……」

「さほどのプレッシャーは感じないな。仕掛けてみるか―――」


 帝国では軍用魔獣として馬の代わりに広く騎乗されるガイアルビーストは、レベル二十程度の冒険者が四人で当たればギリギリ倒せるかもしれない戦闘力を持つ。


 飛び掛かるガイアルビーストと騎士が宙ですれ違い、両者着地。


 首を失ったまま着地したガイアルビーストが一瞬遅れて己が死んだことに気づき、地面に沈んだ。


「ふっつーのガイアルビーストだったな」

「マジじゃん。レウ、ちょいと閣下に伝令頼むわ」

「へへ、ソッコー行ってくるぜ!」


 森の各地ではこのような戦闘が多発していた。


 精霊獣いねーけどガイアルビーストたくさんいる! めっちゃいる!


 そうした報告が次々と挙げられている。丘上の本陣で戦況を見定めるガーランドは迷っていた。


(可能ならば捕獲したいところだが……)


 じつは軍用魔獣ガイアルビーストはたいへん高価だ。ガイアルビーストは繁殖期にあたる春頃に妊娠して半年後に一頭産む。稀に双子も生まれるが稀も稀だ。


 騎士団も騎獣専門の牧場を持ってはいるが出荷数は年50頭にも届かない。これでは騎士団の全員に行き渡るはずもない。戦場に出た騎獣は傷ついたり死んだりするからだ。


 なので帝国では慣例的に騎獣は騎士個人の財産として持ち込むようにとある。


 ちなみに民間から購入すると一頭あたり金貨30枚が最低価格だ。相場は当然流通量で変化するし、騎獣を求める冒険者や貴族が多ければ二倍三倍の価格になる年もある。


(だが精霊獣の脅威がある以上、兵どもに無用な負担をかけたくない。ここは涙を呑むしか……)


 なおも閣下の下には次々とガイアルビーストとの交戦報告があがっている。

 一頭あたり金貨30~100枚の怪物を倒したと次々報告がやってくる。


 閣下の合理的知性が人知れず悲鳴をあげていた。





 炎の森は阿鼻叫喚の坩堝である。


 火計の奥義は風にあり、風向きをきちんと操作しているから森での掃討戦ができているだけで依然火に包囲される危険はある。へへ、帰ってもいいかい?


 焼死だけは絶対に嫌なので、三人でステルス化して魔物スルー。

 森の奥へ奥へと突き進んでたら、ようやく火の気も遠い平穏な場所まで来れたぜ。


「ねえねえリリウス?」


 なんですかね?


「戦場からだいぶ離れてるけど、こっちに何かあるの?」


 何もありませんよ。だから来たんですよ?

 でも正直に白状するとファイヤー&キリングゾーンに戻るって言い出すから嘘つきますね。時にはさ、優しい嘘って必要だと思うんだ。


「ええ、この先には重要な施設が……へへ、嘘じゃないですよ? 安全で何もないセーフティーゾーンとかそんなわけないですよ? 俺をッ、信じてください!」


「リリウス君マジ嘘下手だよね」


「もー、バイアットったら。お友達を簡単に疑うなんて失礼だわ」


 お嬢様はもう少し疑いましょうね。俺変態のチンピラですよ?


 ガサガサ……!

 遠くの茂みから物音がした。


 茂みから飛び出してきたのは青いコートを着こんだ怪しい男だ。


 フードで顔をすっぽり覆ってロリの前に出てくるとか変態かな? ステルス解除!


「何者だッ!」


「それはこっちのセリフだぜ?」


 木漏れ日の森に、スプーンが妖しく煌めいた。





 泥の地面にケツにスプーンねじこまれた怪しげな男が倒れ伏している。


「…………」


 完全に気絶してるぜ、根性のねえ野郎だな。


「この人なんだと思う?」

「村の人って感じではないなあ」


 いや~な予感しかしないぜ。


 この青いコートの背中には一輪の薔薇を模した刺繍があるんだけどさ、これゲーム内で見たやつだわ。やべー組織のだわ。


 再び透明化して森の奥に進む。


 森が開けた。


「こんなところに村があるなんて……」


 そこに広がる光景は森を切り開いて作った隠れ里だ。木造の家々が立ち並び、青いコートを着た不審者どもが大慌てでバタバタ走り回っている。


 予想通りだけどビックリだね、お互いに、不運的な意味で。


「騎士団が攻めてきたぞー!」

「クソっ、どうしてバレたんだ!」

「ガイアルビーストだけでも逃がせ! 革命の火を絶やしてはならない!」


 魔物使いと思われる青コートの魔導師が森の北へと軍用魔獣の群れを誘導している。

 どうも帝国革命義勇軍『青の薔薇』の秘密基地のようですね……


「ここってアレよね?」

「ええ、帝国革命義勇軍青の薔薇の秘密施設ですね。沿海州の支援を受けて活動しているこいつらの活動領域は基本的に帝国南部であると思われがちですが、こんな北の辺境にもいるなんて驚きです」


「リリウス君マジ驚きの白々しさなんだけど?」


 やめろ俺を疑うな。俺が革命闘士ならお嬢様を連れてくるわけねーだろ。


「お嬢様を人質にして何を企んでるの?」


 ぽかん!

 疑ってくるデブの頭をお嬢様の拳がぽかんとやる。


「もー、お友達を簡単に疑っちゃダメよ。リリウスがそんなことするわけないじゃない」


「信じてくれるのは嬉しいんですけど……」

「お嬢様はもう少し人を疑おうね……」

「え、えぇぇぇ!?」


 あなたが未来で没落する原因はたぶん俺とデブを信用しすぎたせいですよ?

 俺らポンコツだよ?


「へへ、とりあえずボスの家を家探しして資料とか盗んじまいますかい?」

「いいわね! きっとおにーさまもお喜びになるわ!」

「そう言ってボスの下へと誘いこみ……」

「ええい、しつこいぞデブ! たしかに怪しさ満点だけど俺は潔白だぞ!」


 そして如何にもボスの住んでそうな大きなお屋敷に潜入するぜ。


 お屋敷一階の暖炉ではあおびょうたんの事務員っぽい奴が大慌てで書類を火にくべていたが、スプーン一本でお亡くなりになったとさ♪

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― 新着の感想 ―
[一言] 問答無用のスプーンのせいでたまご吹き出してスマホとモニターにもかかって大惨事だったよ・・・
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